フェラーリF1に消えた“安全策” バスールが変えたマラネロの発想

それらは単独でチームをトップに押し上げる魔法の解決策ではない。しかし、フレデリック・バスールの下でフェラーリのマインドセットが変化していることを示している。
かつてのマラネロにあった“失敗を恐れて安全側に振る”姿勢は薄れ、あらゆる領域でラップタイムを削る文化が根づきつつある。
バスールはThe Raceの独占インタビューで、就任当初に最も驚かされたのは、恐怖や責任追及の文化そのものではなく、露出を避けるために各所で余裕を取りすぎていたことだったと語った。
「恐怖や非難の文化があったというわけではない。ただ、少し後ろ向きだったのかもしれない」
「私が加入して最初にショックを受けたのは、あらゆる項目で我々にギャップがあったことだ。それは単に、露出したくなかったからだった」
「重量を1キロ多く積む。燃料を半リットルか1リットル多く積む。サイドポッドをさらに開ける。もう一段階余裕を取る。結局、すべてを並べてみると、それはコンマ2秒だった」
「ゼロマージンにはできない。しかし、ゼロとコンマ2秒の間にはコンマ1秒がある。昨年、我々と前にいる相手との差の平均が100分の3秒だったことを考えれば、コンマ1秒がシーズンに与える影響は想像できるはずだ」
「このマインドセットについて、私は全員に、自分たちはパフォーマンスの貢献者なのだと納得させるために必死に働きかけている。ロイックのマインドセットも同じだ」
“恥ずかしがるな”というメッセージ
バスールが進めているのは、単なる攻めた空力パーツの導入ではない。重要なのは、スタッフが極端なアイデアや未検証の発想を提案できる空気を作ることだ。
「イノベーションという点では、我々は毎日、すべてを押し進めなければならない。“恥ずかしがるな”と言い続ける必要がある」
「何か提案があるなら、オープンでいればいい。何かを提案して、それが機能しなかったとしても、我々は誰かを責めることはない」
「マシンにはいくつかの例が見えているし、これから出てくるものもある。彼らには、我々が革新を促しているというマインドセットがあり、それは大きな助けになっている」
ただし、バスールは現実主義者でもある。革新そのものが目的ではなく、あくまで目標は勝つことだと強調する。
「私が言ったことを過大評価しないでほしい」
「見えるイノベーションもあれば、決して見えないイノベーションもある。見えるのは空力面だけだからだ」
「目標は革新することではない。目標は勝つことだ。イノベーションは、それが機能する場合にのみ意味がある。効果がないなら、ウイングがああいう動きをする必要はない」
「この作業とマインドセットにはかなり満足している。彼らがより自由に感じているように思うからだ」

唯一の指標はラップタイム
バスールが変えようとしているのは、部門ごとの評価軸でもある。空力部門はダウンフォース、エンジン部門は馬力という個別の指標ではなく、チーム全体の唯一のKPIはラップタイムでなければならないという考え方だ。
「レースチームとしては当たり前のように思えるかもしれないが、決して当たり前ではない。チームの唯一のKPIはラップタイムでなければならない」
「レースチームではあまりにも頻繁に、空力担当者のKPIはダウンフォース量、エンジン担当者のKPIは馬力になっている。そして彼らは重量や冷却のことを気にしない」
「私は、集団として唯一のKPIはラップタイムだというメッセージを押し出そうとしている。イノベーションも同じだ」
ロイック・セラがもたらした競争者の感覚
フェラーリが設計面で前に出るようになった背景には、2024年10月に加入したロイック・セラの存在もある。ただし、セラの到着はSF-25の基本設計に大きく関わるには遅すぎた。前任のエンリコ・カルディレが方向性を定めた後であり、セラはすでに進行中のプロジェクトに途中から加わる形だった。
バスールは、昨年序盤に中国での失格につながった車高問題によってフェラーリが「追い込まれた」と認める。その影響でセットアップは保守的になり、開発を早期に切り上げて2026年に集中する判断にもつながった。
「F1チームに加わると、数カ月は必要だ。かなり早く進んだとはいえ、最初から関わっていないプロジェクトを引き受けるのは難しい。すでに決定が下されていて、別のプロジェクトも控えている中で、そこに飛び込まなければならないからだ」
「正直に言って、状況は簡単ではなかった。しかし彼はオペレーションに焦点を当てることができた。それは我々にとって重要だったと思う」
「昨年のシーズン終盤、我々はオペレーション面で非常に良い仕事をしたことがあった。それが今年に向けた最高の準備になった」
バスールがセラについて最も評価するのは、あらゆる領域で最後のわずかなタイムを追い求める競争者としての姿勢だ。
「ロイックは、レース、現場、オペレーションにおいて大きな経験を持つ競争者だ。ミシュラン時代の経験もある」
「これは我々にとって一歩前進だと思う。悪い比較をしたいわけではない。しかし彼は本物のレーサーであり、あらゆる場所で最後の何分の一秒を追いかけている。チームにとって良い後押しになった」
開発戦争で問われる“市場投入までの速さ”
フェラーリは今季、表彰台争いには加わっているものの、まだ勝利を狙える位置には届いていない。バスールは、ここからの開発競争が非常に激しくなると見ている。
「今季は、我々にはあらゆる場所に改善の余地があるというマインドセットを持つ必要がある」
「正直、他のチームのことは分からない。しかし我々はアップグレードを投入する。昨年なら100分の数秒だったものが、今年は10分の数秒になる。私にとって比率は1対10だ」
「だから、コース上の見た目以上に重要なのは、チームの開発能力、どこを改善できるかを理解する能力、他者がどこでより良い仕事をしているのか、なぜそうできているのかを理解する能力だ。その点で非常にオープンマインドであり、開発する能力を持つことだ」
バスールは、シーズンを通じて一戦早くアップグレードを投入できることの価値も強調した。
「2〜3コンマを持ち込むたびに、それをシーズン中に1レース早く先取りできるなら、それは非常に有益だ」
「開発する能力を持つには、アイデアが必要であり、生産能力も必要だ。市場投入までの時間が鍵になる」
フェラーリに今、不足していないものがあるとすれば、それはアイデアだ。かつての安全策を積み重ねる姿勢から、コンマ1秒を削るために境界線へ踏み込む姿勢へ。バスールがマラネロから追い出したものは、失敗への過度な恐れだった。
カテゴリー: F1 / スクーデリア・フェラーリ
