F1特集:F1ドライバーのフィットネスと栄養補給
F1ドライバーたちは多忙なシーズン中にフィットネスレベルを高める時間がほとんどない。彼らはどのようにフィットネスを高めて過酷なシーズンを乗り切っているのだろうか?

人気サーチエンジンの検索窓に「Are F1 drivers(F1ドライバーは)」と入力すると、「Athletes(アスリートなのか?)」がオートコンプリートの第一候補として表示される。

正直に言えば、このような疑問が存在するのは驚きなのだが、“シートに座りながらパフォーマンスをする” スポーツとして見なされがちなF1に軽く興味を持っている程度の人にとっては、このような疑問が生まれるのはごく自然なことなのだろう。

汗だくでゴーカートセッションを楽しんだ経験がある人なら、レーシングがいかに高強度な身体運動なのかということを理解しているはずだが、そのような経験がない人は、レーシングマシンをドライブするために必要な身体エフォートの大きさに驚くだろう。

さて、このオートコンプリートの疑問への答えは「イエス」だ。F1ドライバーは間違いなくアスリートであり、F1マシンのドライブは非常に激しい身体運動だ。ブレーキングを例にとればすぐに理解できるだろう。

F1ドライバーはイモラ・サーキットの “リヴァッツァ” コーナーを抜ける際に約140kgの踏力でブレーキペダルを踏み込まなければならず、ここで開催されているエミリア・ロマーニャGPではこのコーナーを63回通過する。つまり、F1ドライバーはイモラ・サーキットを走り終わるまでに約9トン分のレッグプレスをこなしているのだ。しかも、このイタリアを代表するサーキットには他にも7カ所のブレーキングポイントが存在する。

ディスクブレーキメーカーのブレンボは、エミリア・ロマーニャGPを走るF1ドライバーの合計踏力は約60トンに達すると試算している。

もちろん、ブレーキングはF1ドライバーの身体エフォートのひとつに過ぎない。サスペンションが存在しないに等しいF1マシンのコックピットに収まって定期的に縁石に乗り上げたり、5〜6GのGフォースを受けたりしているF1ドライバーは体幹、握力、首の筋肉も酷使している。

また、コックピット内は非常に高温だ。高温多湿のコンディションなら、(エリートマラソンランナーと同じように)F1ドライバーは1レースで一気に体重を落とすことになるが、低温低湿でも、耐火性の分厚いレーシングスーツを着込み、かなりの熱を放つパワーユニットコンポーネントからわずか数cmのシートに座らなければならない。F1ドライバーには、このような環境に耐えられるフィットネスが求められるのだ。

では、F1ドライバーはどれだけフィットしていれば良いのだろうか? この質問に絶対解は存在しない。一部のF1ドライバーはフィットネスレベルを極限まで高めており、たとえば、マーク・ウェバーやジェンソン・バトンは他のスポーツの代表レベルのアスリートたちと一緒にトレーニングセッションをこなせるほどフィットしていた。

ブラッド・スケーンズは、マックス・フェルスタッペンのフィジオ(物理療法士)とフィットネスコーチだ。スケーンズは、F1の前にいくつもの他のスポーツと関わってきた経歴を持つため、F1ドライバーに必要なフィットネルレベルを相対的に評価できる。

「F1ドライバーはアスリートに近づいていると思います。たとえば、サッカーとバスケットボールは、どちらもその競技に秀でるよりも先にアスリートとして秀でる必要がありますが、F1がこのアイディアに完全に振り切ることはないでしょう。なぜなら、F1ドライバーはドライビングスキルが非常に重要だからです」

「とはいえ、F1におけるフィットネスの重要性に気付いている人は増えています。ライバルドライバーがフィットネスレベルの向上に取り組み、結果を出しているなら、自分も取り入れていく必要がありますね」

認識力
F1における “疲労” は、表彰台の上でまともに立っていられなかったり、パルクフェルメのF1マシンの横で膝を抱えてへたり込んでいたりするのと必ずしも同義ではない。このスポーツにおける “疲労” はもっと分かりづらいときがある。レース最終盤の外的要因ゼロのマシンコントロールミスやタイミングを誤ったアタックやディフェンスなどがそうだ。

しかし、これらが確認される機会は減りつつある。なぜなら、近年のF1ドライバーは非常にフィットしているからだ。しかし、フィジカルのフィットネスレベルが鋭敏さに影響を与えるときがある。F1ドライバーの疲労が変数として関わってくるF1グランプリの最終盤では、上位を走っていても、フィジカルのフィットネスレベルが低ければ集中が切れてしまう可能性が高くなる。スケーンズが話を続ける。

「フィジカルのフィットネスレベルを極限の極限まで高めても、レースでのパフォーマンスが向上するわけではありません。ですが、フィットネスレベルが低ければ、レースでのミスが増えるのは確かです」

「F1ドライバーはピットウォールやガレージとコミュニケーションを取りながら、そして時速300kmでオーバーテイクを仕掛けながら、ステアリングホイールに配置されている20個以上のボタンを操作します。ですので、トライアスリート的な強靭なフィジカルはこのようなスポーツに具体的に役立つとは言えません」

「ですが、全72周のレースが70周目に入ったタイミングで疲労を感じてしまえば、メンタルに影響が出て集中を失う可能性があります。認識力が低下し、取るべきではないリスクを取るようになってしまうのです」

ドライバーの体型
F1では時代と共にドライバーの体系が変わってきた。1950年代前半は大型で重いマシンだったため、同じように大柄の男性ドライバーたちが好まれてきたが、1960年代に入って俊敏なリアエンジンマシンが登場すると、ドライバーたちも細身になっていった。

その後、1980年代に入ると、ターボ搭載の高出力F1マシンを扱える腕力と上半身が必要になったため、F1ドライバーたちは筋骨隆々(ミラーサングラスとネックレス付き)になっていったが、超軽量のV10エンジンが搭載されるようになった1990年代と2000年代は再び小柄なF1ドライバーたちが好まれた。そしてKERSが導入されると各チームはマシンの重量制限に悩まされるようになり、F1ドライバーのサイズは最小化を迎えた。

規定重量を超過すればグリッド降格ペナルティが科されたため、F1ドライバーたちは、食事を意識したり、少な目のドリンクボトルでレースに臨んだりと、様々な方法で体重を管理するようになった。しかし、これは特に高身長のF1ドライバーの健康に有害で、また公平なレース環境を用意する必要もあったため、ドライバーとシートの合計最低重量が80kgに規定された。

この規定により、現在のF1ドライバーたちにはフィットネスを鍛える余裕が生まれているが、その余裕はあくまでもわずかで、高身長のF1ドライバーの余裕は特に少ない。マラソンランナーやMTBライダーと同じく、現在のF1ドライバーも「筋肉を付けずにフィットネスレベルを高める」という無理難題に挑んでいるのだ。筋肉は重いため、少しでもつけば体重が大きく増加してしまう。そのため、F1における “優れたフィットネス” はバランスを取ることで実現される。スケーンズが解説する。

「F1ドライバーのトレーニングはストレングスだけではありません。彼らは心臓血管系トレーニングも行う必要があります。レーススタート時やオーバーテイク時はかなりの心拍数になるので、それらに耐えられるように鍛えています。また、その他にも数多くのエリアを鍛える必要があります。心臓血管系トレーニングは、ランニングやバイクライドなど一定の負荷を長時間加えるメニューが多いですね。このようなトレーニングは減量と持久力に効果があります」

プレシーズン
F1シーズン、特に現代のF1シーズンは非常に忙しない。そのスケジュールは非常にタイトで、事実、F1ドライバーたちがフィットネストレーニングにまともに取り組める時間はほとんどない。しかし、彼らが困っているわけではない。

なぜなら、ドライビングでフィジカルがある程度維持できるからだ。しかし、シーズン中は「フィジカルレベルのさらなる向上」は期待できない。そこで、彼らは冬のオフシーズンにフィジカルトレーニングに取り組んでレベルアップを図っている。スケーンズは次のように話している。

「プレシーズンにフィジカルトレーニングの大半を終わらせます。シーズン開幕後はフィットネスレベルの維持がテーマになります。レースが毎週続くなら、その合間のハードトレーニングは避けたいところです。なぜなら、ドライバーは休息してフィジカルとメンタルをリセットし、次のレースに備える必要があるからです。ですが、プレシーズンでは、週6日のトレーニングセッションを6〜7週間続けています。通常は、2日間のセッションを2セット、1日のセッションを2セット、休息日の組み合わせで1週間を進めています」

「マックス・フェルスタッペンのフィットネストレーニングにおいては、ロックダウンは非常に有用でした。移動が減り、メディア&マーケティング関連業務も減ったので、かなり良質なプレシーズントレーニングに取り組むことができました。これまではこのようなトレーニングはできていなかったので、今シーズンのマックスは過去最高のフィットネスレベルで開幕を迎えています。彼がレーストラックで何を見せてくれるのかがとても楽しみです」

栄養補給
「フィットネスレベルの維持」は「トレーニングなし」ではない。むしろその逆だ。

シーズンが始まればドライバーたちはトレーニングよりも、移動、メディア&マーケティング関連業務、レースに追われる生活を送るようになるが、フィットネスレベルはトレーニングだけで得られるものではない。ドライバーたちがレースウィークエンドで最高のパフォーマンスを発揮するためには優れた栄養&水分補給プランが不可欠だ。

すべてのF1ドライバーに当てはまる優れた栄養&水分補給プランは存在しない。彼らの出自と体型はそれぞれ異なり、さらには移動によって振り回されるからだ。しかし、彼らの間にはいくつかの共通点も見られる。

F1ドライバーたちはモーターホームで他のチームメンバーと一緒に食事を摂っているが、彼らは専属シェフがレースウィークエンドに合わせて用意しているドライバー専用メニューを食べている場合が多い。このようなメニューには、脂質の豊富な魚類、タンパク質が豊富な鶏肉(赤身はほとんど使用されない)、炭水化物が豊富な野菜類、キヌア、ブラウンライス、大量のサラダ、ナッツ、オーツ、繊維質などが含まれている。

このような食事は栄養価を高くするために用意されているが、多少の柔軟性を持たせる必要がある。スケーンズは「メニューは適宜変更できるようになっています。体重調整が上手くいっていなかったり、長時間移動のあとで時差ボケに悩まされていたり、リカバリーの必要があったりするなら、そのような問題を解消できる食品を加えて、エナジーレベルを元に戻します。シーズンを通じて様々なメニューを用意しています」と説明している。

水分補給
もうひとつの不可欠な要素が水分補給だ。レースウィークエンドでドリンクボトルを持っていないF1ドライバーの姿を見かけるのは稀だ。彼らはドリンクボトルから水分を常時補給しており、高温多湿なコンディションではその頻度はさらに高まる。スケーンズが解説する。

「F1ドライバーは1レースで最大2.5ℓの水分を失います。これは体重3kg分に相当するので、パフォーマンスに悪影響を与えてしまいます。ですので、彼らはレースウィークエンドを通じて水分と電解質を事前補給しています。また、コックピット内でも1.5ℓのオンボードドリンクを飲んでいます。オンボードドリンクは電解質と炭水化物のミックスですね」

F1の歴史の中で、オンボードドリンクの味を褒めたドライバーはひとりもいない。しかし、彼らを本当の意味で落胆させるのは味ではなく、スタート前からオンボードドリンクが “熱いお茶” のようになってしまう高温多湿のレースコンディションだ。しかし、このようなコンディションこそ、オンボードドリンクが重要になる。なぜなら、高温多湿のレースを走るF1ドライバーは発汗だけでは体温を下げられず、しかも、汗が蒸発しないのでひたすら汗をかき続けるからだ。

これはつまり、現行F1レースカレンダーで最も過酷と言われているシンガポールGPをはじめとする高温多湿のレースコンディションでは、フィットネスレベルがパフォーマンスに大きく影響してくることを意味する。そこで、このようなレースに対応できるようにF1ドライバーたちには特別なトレーニングスケジュールが用意される。

天候対策
スケーンズは次のように説明する。「高温多湿のレースの前には同じコンディションで数多くのフィジカルトレーニングを重ねます。通常はレースの約3週間前から始まるので、シンガポールGPの場合は9月に南フランスへ向かい、暑い日中にランニングをこなします。高温になるコックピットに乗り込む準備としてはこれがベストです」

もちろん、このフランスでのトレーニングよりも3週間前にシンガポール入りする方が効果的だが、標高2,250mのメキシコの高地で1ヶ月を費やしてメキシコGPに向けて調整するというアイディアよりは遙かに現実的だ。

要するに、ビッグイベント / レースに向けて念入りに調整・準備をしていく他のスポーツのアスリートたちとは異なり、F1ドライバーたちは気候順応をする時間がほとんどなく、オフシーズンで準備したフィットネスレベルを頼りにシーズンを進める必要があり、ライバルたちも状況は同じということに慰めを見出すしかないのだ。F1は最善の準備をした者が最も苦しまなくて済むスポーツなのだ。

ここまで読めば、F1ドライバーたちの置かれている環境が非常に厳しいことが理解できるはずだ。そして他のすべてと同じで、バランスが重要になる。

パドックとジムを積極的に往復してもF1ドライバーのフィジカルとメンタルのフィットネスレベルの維持や向上に役立つわけではない。F1マシンのコックピット内で身体が極限まで疲労するため、レース後は身体を動かす環境から一度完全に離れることがフィットネスレベルの維持に役立つ。スケーンズが解説する。

「しっかりと休息してリカバリーすること、普通の生活を送ることが重要です。2021シーズンは全23戦ですので、多くの時間を家から離れて過ごすことになります。移動が多く、やるべきことも多いので、レース後にビールを少し飲んで数日休むのは悪くないアイディアです」

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カテゴリー: F1 / F1ドライバー / レッドブル / アルファタウリ