F1移籍市場の主導権はフェルスタッペン ラッセルやアロンソにも波及
本来であれば、今年のF1シリーシーズンは比較的静かなものになるはずだった。今季末で契約が満了するのは、メルセデスとレーシングブルズのドライバーたちのみだ。そして例年どおり、レッドブルのセカンドシートとアルピーヌの一角は、少なくとも短期的には不透明――フランコ・コラピントの去就もその一環だ。

そのほかのドライバーたちは契約期間が2025年以降も残っている。フェラーリの2人は2026年のレギュレーション変更後も継続が決まっており、マックス・フェルスタッペンも2028年末までの契約がある。マクラーレンも現在のラインアップと長期契約を結んでいる。

フェルスタッペンの将来は依然として大きな論点
とはいえ、F1の世界ではすべてが紙の上の話で収まるとは限らない。契約が絶対的なものとは言いがたく、水面下では誰もが誰とでも話をしている。特にレギュレーション変更が控える中での不確実性を考慮すればなおさらだ。

昨年と同様に、フェルスタッペンの去就はパドックで最も議論されている話題のひとつだ。昨年、トト・ヴォルフはフェルスタッペンと話をしたことを認めており、ザントフォールトでは「2025年に移籍は現実的ではない」ということで夏の間に合意に達したと語っていた。

1年が経った現在も、フェルスタッペンはレッドブルに残る「意向」があると繰り返している。彼の契約には2028年までの条項が含まれているが、それにはいくつかの条件がある。ヘルムート・マルコによれば、そのうちの1つは、ドライバーズチャンピオンシップでの彼の順位に連動しており、その評価の時期は夏とされている。

クリスチャン・ホーナーはモントリオールで次のように語った。「ドライバーの契約にはパフォーマンス条項があり、シーズンの中で特定の時期、たいてい夏頃にいろいろなことが動き出す」

より重要なのは、契約や条項がすべてではないということだ。ホーナーは以前「紙切れだけで誰かを縛るようなことはしない」と語っており、今回のカナダでも同様の主張を繰り返した。「我々にとって重要なのはどうやって改善するかであって、紙に書かれたことではない。人生において契約書を引き合いに出すような関係は問題だと思う。重要なのはドライバーとの信頼関係だ」

ジョージ・ラッセル F1

モントリオールでのラッセルの注目発言
カナダGP週末中のジョージ・ラッセルの発言も見逃せない。メルセデスとの契約交渉について問われると、「正直なところ、あまり話し合っていない。今はもっと重要な問題、つまりクルマを速くすることに集中している。来年もF1にいることは分かっているし、メルセデスに残るのが僕の意図であり、トトもそのつもりだと思う」と答えた。

さらに興味深いのは彼の次の発言だ。「理解できるよ。マックスのような存在が常に注目の的になるのは当然だ。彼はGOAT(史上最高のひとり)だからね」

この発言の注目すべき点は、フェルスタッペンについて質問されてもいないのに彼の名前を自ら持ち出したことだ。「でも結局は、自分自身の価値を証明できるかどうかなんだ。僕はF1での7年間、そしてそれ以前のキャリアを通してそれを証明してきたつもりだ。だから心配はしていない」

数日後、彼はその言葉を裏付けるかのようにカナダGPで勝利を挙げた。「今の自分は調子がいい。将来やスペインでの出来事についていろいろ騒がれているけど、1年前だったらもっと気にしていたかもしれない。今は気にしない。自分の仕事に集中しているし、自分を信じている。チャンピオン争いをする準備はできていると感じている」

これらの発言は、関係者があらゆる可能性を視野に入れて動いていることを示唆している。フェルスタッペンだけでなく、メルセデス側もそうだ。ヴォルフは昨年、将来的にフェルスタッペンとメルセデスの「道が交わるだろう」と語っていた。ただし、メルセデスがアンドレア・キミ・アントネッリを引き留めたいのであれば、既にチームリーダー的な役割を果たしつつあるラッセルはコスト面でも理想的な選択肢となる。

2026年に勝つために何が必要なのか――とりわけ、メルセデスのパワーユニットが期待どおりの性能を発揮するなら――それがチームにとって最大の課題だ。F1のシリーシーズンはチェスのようなものであり、今年も例外ではない。ヴォルフも、フェルスタッペンも、ラッセルも、皆が駒を温存して動いている。

フェルナンド・アロンソ F1

アストンマーティンもラッセルに注目か
そうした中、オートスポーツ誌が「アストンマーティンがラッセルの獲得を検討している」と報じたことは実に理にかなっている。2026年からの新時代に向けて当然の成り行きと言える。

フェルスタッペンがメルセデスのレーダーにある中で、ラッセルが自らの選択肢を残しておくのは自然なことだ。彼はメルセデスに残る意向を明言しており、実際そうなる可能性は高いが、「来年もF1にいるのは間違いない」という発言からは、仮に何か想定外の事態が起きた場合にも備えていることがうかがえる。2025年における彼の安定した成績を考えれば、シートを失う可能性は事実上ゼロに近いが、F1の世界では常に「自分の選択肢を確保しておく」ことが賢明とされる。

それにしても、アストンマーティンの名前がここで浮上するのは興味深い。フェルナンド・アロンソには契約があり、ローレンス・ストロールの投資は基本的に息子ランスとともにF1での成功を目指したものだ。ランスが希望する限り、彼のシートは保証されている。

しかしカナダGPの週末中、アロンソがアルピーヌのホスピタリティエリアを何度も訪れていたとの噂が流れた。アルピーヌは彼が3度にわたり所属した古巣でもあり、現アドバイザーのフラビオ・ブリアトーレは彼のマネージャーでもある。

アストンマーティンのチーム代表アンディ・コーウェルは、こうした報道を気にしていない様子だった。「フェルナンドがガレージを訪れるのは構わない。彼はパドック中に知り合いがたくさんいるしね。

来年も彼はうちと契約しているし、将来的にはアンバサダーとしても関係を続けてほしい。彼と一緒に仕事ができて光栄だよ」アストンマーティンによれば、アルピーヌ訪問は単なる旧友との昼食だったとのことだ。

たとえそれがもっと踏み込んだ話だったとしても、今回の流れ全体には合致している。つまり、「この時期は誰もが誰とでも話をしている」という現実だ。

アロンソがエイドリアン・ニューウェイ設計のマシンに乗れるチャンスを見逃すとは考えにくい。アストンマーティンはホンダとのワークス契約もあり、最新の設備を備えている。アルピーヌのセカンドシートは、2026年に注目されるメルセデスPUを搭載する数少ない空席かもしれないが、アストンマーティンが新レギュレーション下での成功に向けて体制を整えている現状を見る限り、アロンソが他所へ移籍する理由は見当たらない。

結局、鍵を握るのはフェルスタッペン
つまり、ここ数週間の報道の多くは少し性急に過ぎる。実際には、選択肢をテーブルの上に並べている段階にすぎない。それこそが“シリーシーズン”序盤の本質だ。昨年と同様に、すべてはフェルスタッペンの本当の意志次第という構図だ。彼がレッドブル残留の「意向」を示しているとはいえ、状況が一変する可能性は常にある。

このシリーシーズンが本格的に動き出すか、それとも静かなままで終わるか――その分かれ道を握っているのは、やはりフェルスタッペンなのだ。

なお、マクラーレンはオスカー・ピアストリの契約を早期に更新したことで、状況を非常にうまく切り抜けている。ホーナーが「マクラーレンから1人選べるとしたらオスカー」と語った際の対応としても見事だった。F1のドライバー市場がこれから荒れるとしても、マクラーレンのメッセージは明確だ。「うちは干渉無用」――である。

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カテゴリー: F1 / F1ドライバー / フェルナンド・アロンソ / マックス・フェルスタッペン / ジョージ・ラッセル