メルセデスF1に迫る危機 ペトロナスが選んだバイオ燃料の落とし穴

FIAが2022年に決定した新規則によれば、F1エンジンは2026年以降、100%持続可能な燃料を使用する必要がある。各エンジンサプライヤーはそれぞれの燃料パートナーと共同で次世代燃料の開発を進めてきた。
たとえば、フェラーリは長年提携しているシェル(Shell)の合成燃料を採用し、レッドブル・パワートレインズはモービル(Mobil1/エクソンモービル)のe-fuelを選択した。さらに、アルピーヌとアウディはBP/カストロールから供給を受ける。一方、アストンマーティンは2026年からサウジアラムコ(Aramco)と組む予定であり、その性能には業界から高い期待が寄せられている。
そんな中、メルセデスおよびそのカスタマーチーム(マクラーレン、アストンマーティン、ウィリアムズ)に燃料を供給するペトロナスが、他の競合が選んだ合成燃料(e-fuel)ではなくバイオ燃料を採用したことが波紋を広げている。
バイオ燃料選択がもたらす懸念
バイオ燃料と合成燃料の違いは明確だ。バイオ燃料は、サトウキビやビートなどの植物性原料を元に作られ、従来の化石燃料と比べ二酸化炭素の排出を最大90%削減する。一方、合成燃料(e-fuel)は水素と空気中から回収したCO2を化学的に合成して作られる。実験室レベルのテストでは、合成燃料の方が効率と性能の面で優れているという結果が示されている。
この性能差が、F1の世界では致命的な差となる可能性がある。ペトロナスが供給するバイオ燃料は、性能面でシェルやモービルの合成燃料に劣る恐れがあるのだ。性能が劣れば出力が落ち、バッテリーへのエネルギー充電効率も低下する。燃費も悪化し、レース中のパフォーマンスが深刻な影響を受ける可能性が指摘されている。

メルセデス陣営への影響は深刻
F1チーム関係者の間では、2026年のレギュレーション導入が2014年のターボハイブリッド導入初期と同じ混乱を引き起こすのではないかと懸念されている。特に深刻なのはメルセデス陣営だ。彼らはこれまで先進的な技術開発で優位性を保ってきたが、燃料の性能が足枷となれば、これまでの地位を揺るがす可能性もある。
メルセデスは既にシミュレーションで問題を抱えている。特にモンツァのような高速サーキットでは、ストレートの途中で電力が尽き、バッテリー充電が追いつかないという問題が確認された。性能が劣るバイオ燃料では、この状況はさらに悪化することが予想される。
ペトロナスは方向転換できるか?
ペトロナスの選択はまだ最終的なものではなく、理論上は合成燃料への方向転換も可能だ。しかし、そのためには大幅な計画変更と研究開発が求められ、既に合成燃料を採用して開発を進めている競合チームに遅れを取る可能性は避けられない。
このままペトロナスがバイオ燃料の開発を継続した場合、メルセデスとその系列チームは大きなハンデを背負って2026年シーズンを迎えることになる。性能差が顕著になれば、規則導入初年度から数年間にわたり、大きな競争力の格差が生まれてしまう危険性もある。
ペトロナスの選択は、単なる燃料の問題を超えて、F1の勢力図を大きく左右する要素になるかもしれない。
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