ホンダF1 特集
ホンダF1の岡田研が、ERSエンジニアとしての仕事を語った。

「私の仕事はホンダF1のなかでは通称『電気屋』と言われるものです。と言っても別に電球やTVを売ったり修理したりしているわけではありません。ただ、電流や電圧という部分に関わっているので、そこは名前の通りですね」と岡田研は Honda Racing F1 の公式サイトでコメント。

「『エンジン屋さん』は内燃機関やICEと言われる『エンジン』が専門で、ガソリンと空気を燃やし、いかに効率よくパワーを出せるかを追求していますので、彼らとは異なる領域です」

「現代F1では、私たちはハイブリッドの回生部分、高圧系ともいわれる、MGU-H/MGU-K/バッテリーなどの、ハードウェアの信頼性部分に携わっています。もう少しわかりやすく言うと、たとえば走行中にバッテリーなどに異常が発生して、周囲にいる人が感電する危険な状況になっていないかといった部分を、データを見ながら常時監視しています」

「F1マシンに使われている回生システムは、サーキットで速く走るためのパフォーマンスを引き出すことが最優先になっているので、お店で売られているハイブリッド車とはいろいろな部分が大きく異なります。我々が扱っているハイブリッドは高電圧ですし、常に開発と改善が続けられている”ワンオフ(少量生産)”の特注品です。何年もかけて開発され、安全性に確実な担保がされた量産のハイブリッド車のシステムと比較すると、F1のシステムは非常に繊細な扱いが必要で、監視体制も万全でなくてはなりません。ただ、開発陣の努力もあり、幸いにもこれまで感電などの事故は発生したことがありません。扱いは難しいのですが、特に’熱回生’と言われるMGU-Hのシステムなどは間違いなく最先端の技術で、ロジックとしても非常に優れているので、それらに携われる喜びは感じています」

約30年前のF1は?
「ちょっと込み入った話になりすぎましたが・・・ここまで読んで、ハイブリッドシステムがなかった第二期のころは何をしていたのかと思われる人もいるかもしれませんね。そのころは私もまだまだ新人の若造で、ファクトリーでの仕事がメインでした。今とは違い、怒ると鬼のように怖い先輩方が山ほどいた時代です」

「当時はハイブリッドどころか、『データ』という概念自体がほとんどありませんでした。データ戦争ともいわれる現代F1ですが、そういった領域は当時の私たち、ホンダ F1のメンバーが切り開いてきたといっても過言ではないと思っています」

「テレメトリーシステム」を生み出したホンダF1
「まず、私の新人時代から少し遡った先輩たちが『走行中のエンジンデータ』を集めることを始めたんです。初期はテープレコーダーをシートの下に入れ、走行中の水温、湯音、水圧といったエンジン屋さんが欲しいデータを電気信号に変えてテープに記録、それを走行後に回収していたんですよ。健康診断の心電図のデータをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれませんね」

「私の新人時代には、そのデータを走行中にガレージに飛ばす試みが開始されました。いまのF1の『テレメトリーシステム』の先駆けですが、この辺りは間違いなく当時のホンダが時代をリードしていたはずです」

「当時、サーキットのスタート/フィニッシュラインには、ラップトリガーという、タイムを記録する装置があり、そこを通り過ぎたときの電波を記録することで、1周のタイムを計っていました。当時の私たちは、記録したエンジンのデータをその電波に乗せて飛ばすことを思いついたんです。ですので、現在のように常時データが飛ぶのではなく、あるラップの油温や水温などの最大値、最小値といった値が、そのラップを終えたときに1度だけ飛ぶ仕組みから始まったんです。現代F1に比べるとデータの種類も数千分の1というほどで、頻度や精度も高くはなかったですが、それでも当時は非常に画期的なシステムだったんです」

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カテゴリー: F1 / ホンダF1