F1 ホンダF1 シンガポールGP
ホンダのパワーユニットエンジニアを務めるクリス・ライトが、F1シンガポールGPが開催されるマリーナ・ベイ・ストリート・サーキットで最大限のパフォーマンスを発揮するために何に注力すべきかを語った。

新シーズンに向けてドライバーがトレーニングをする際、シンガポールGPのことを真っ先に考える。シンガポールのナイトレースで戦うために要求されるフィジカル的な要素はシーズンの中で最も高く、シンガポールGPの決勝で2時間戦える体力があるということは、他のどのグランプリでも戦えるということになる。

そして、シンガポールGPで挑戦するのはドライバーだけではない。マリーナ・ベイ・ストリート・サーキットは、パワーユニットにとっても多くの試練がある。

「気温の問題が一番重要です。ここのストレートは特に長い訳ではありません。ハイブリッドの電気エネルギーのやりくりの部分ではとても与しやすいサーキットで、エネルギーマネジメントも非常にやりやすいです」とクリス・ライトは語る。

「しかし、ECUが高度に発達しており多くの戦略的なオプションが取れる状況なので、ドライバーは短いストレート上で多くのスイッチ操作を行わなければいけなくなります。なので我々は、ドライバーが運転中に極力少ない操作ですむようにセットアップを進めます」

「したがって、私の仕事のひとつは、いかに少ないスイッチ操作で必要な変更が出来るかを考えることになります。もしドライバーに多くのスイッチ操作を指示したら、ラップタイムが遅くなったり、トラフィックの中でいいポジションにつけなくなったりする可能性があります。ドライバーはステアリング操作に集中する必要があり、このサーキットではそれが重要なのです」

「ドライバーにとってできるだけシンプルにパワーユニットを操作できるようにするのが、このサーキットでの私の重要な仕事です」

フリー走行P2や予選、決勝は日没後に行われるが、気温が20℃を下回ることは滅多になく、湿度も高いままです。そして、それらがパワーユニットにさまざまな影響を及ぼす。

「湿度、気温、気圧などの気象条件は、すべてターボのコンプレッサーの働きに影響します。外気温が高いということは、吸気の温度が高い、すなわち空気密度が低い状態です。そのような中ではエンジンに十分な量の空気を送るために、ターボのブースト圧を高めに設定しなければならないのですが、それはコンプレッサーにとっては大きな負担になります」

「コンプレッサーの他にも、イレギュラーなタイミングでの燃焼によるノッキングも発生するので、イグニションの頻度を決めるためのモニタリングは欠かせません。それはどのサーキットでも同じですが、ここでは特に吸気温度が非常に高いので、コンプレッサーをより早く回さなければいけないのです」

「パワーユニットはこのような状況にも対応できるように作られていますが、極限の状態で対応しています。もしシンガポールで余裕がある状態だとしたら、それは設計が間違っていると言えます」

高温に対処する一番単純な方法は、冷却のためにボディーワークを開けること。ダウンフォースを得るために空気抵抗を増してサーキットを走っている状態では、それが簡単な解決法だと想像できるだろう。しかし、すでに高いレベルで冷却を行っている場合、さらなる努力が必要だとライトは指摘する。

「サーキットのレイアウトにもよりますし、ここは気温が高いので冷却も簡単ではありません。ボディーワークを開けてマシンを冷却するのは簡単ですが、このサーキットでは空気抵抗を増すことはとても不利になります。なので、チームからはラップタイムを縮めるために、できるだけ抵抗を少なくして走りたいという要望を多く受けます。抵抗を増やしてもラップタイムに影響しにくいサーキットもありますが、ここは違います」

「冷却に関してどう設定するかでタイムは変わってきます。大きく車体に穴を開けるほどラップタイムは遅くなります。逆に少ししか開けなければ、ラップタイムへの影響は少なくなります。しかし、より気温が高い状況では大きく冷却口を開ける必要があり、そうするとラップタイムはより遅くなります」

「ここやマレーシアのように気温が高いサーキットでは、ボディーワークの変更による不利益を抑えるために、パワーユニットの温度の限界値を正しく把握する必要があります」

さらには、路面の状態についても考慮する必要がある。レース専用サーキットよりも市街地サーキットのほうがよりバンピーで、それによってリアタイヤがアスファルトに接触しない状態につながりるが、そういったことはテレメトリーで確認することができる。

「ここでは他よりもリミッターを使います。信頼性の問題につながる可能性はありますが、リミッターが正しく働けば問題にはなりません。リミッターを使っていると推進力が制限されるので理想的とは言えません。しかしここのバンプに対処すると、そのようなことも起こりえます」

「サーキットにバンプがないように見えても、データに異常があるようなら確認したほうがいいです。データを見て何でトルクカットが起こっているのかと疑問に思った場合、バンプによるリミッター作動が原因のことがあります」

「データから1~2個のバンプがあるのがわかっているので、他のサーキットと比べて、間違いなくここはバンピーと言えます」

マリーナ・ベイ・ストリート・サーキットはシーズンの中で最もコーナーが多いサーキット。低速コーナーの出口も多く、ドライバビリティーに影響する。ドライバビリティーがよくなければリアタイヤの寿命にもよくなく、ラップタイムの悪化にもつながる。しかし、パワーユニットエンジニアにとって、シンガポールは全てにおいて悪い訳でもない。

「ドライバーが現在サーキットのどの場所を走っているのか、パワーユニットがきちんと把握できている必要があるのですが、それはドライバーがコーナー進入時にアクセルを緩める動作によって認知可能です。ここのコーナーでは大きくスロットルを緩めなければならないので、場所を感知することが容易です。しかし、フリー走行の時にスロットルを緩めていながら、予選ではアクセルを緩めないようなサーキットでは、時に場所を認知することが難しいケースがあります。でも、ここのようなストップアンドゴー型のサーキットでは、そのようなリスクはありません」

「そういった部分ではこのサーキットはそれほど悪くありません。しかし、コーナーが多くエネルギーを使える箇所が多いために、エネルギーマネジメントは複雑です。そしてこのサーキットは短いストレートが多く配されているという特徴があります」

「通常は3か所ほどのストレートからデプロイする場所を選ぶのですが、ここでは、多くのストレートの中からドライバーの好みによってデプロイする場所を選べるのです。ただ、実際にはどちらかというと、どこでエネルギーを使用することが最も効率的にラップタイムを短縮できるかについてシミュレーションを行い、それに基づいて設定することが多いです。そしてその結果にはドライバーも満足しています」

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カテゴリー: F1 / ホンダF1