F1 空力テスト制限がリセット 2026年新レギュ対応に向け勢力図に影響も
2025年後半のF1選手権に向けて、FIAは空力テスト制限(ATR:Aerodynamic Testing Restrictions)をリセットし、新たなスライディングスケールを適用した。これは2026年に導入される抜本的な技術レギュレーション変更に向けた開発競争において、各チームの準備スピードに大きな影響を与える可能性がある。

ATRは、選手権順位に応じて各チームの空力開発量を調整する制度で、トップチームは制限され、下位チームには開発促進の猶予が与えられる。

今回のリセットは、2025年オーストリアGP直前のランキングを基準として行われた。

■今回の“勝者”と“敗者”
主な勝者:
アルピーヌ(115%):ランキング最下位に沈んだことで、最大のテスト枠を獲得。風洞時間・CFDともに全チーム最多。
アストンマーチン(105%):前半戦の不振により、前年よりも多い開発リソースを確保。ニューウェイ加入で反撃の余地あり。
ザウバー(110%):下位に甘んじた代償として、ATR上ではボーナスを得た。
キャデラック(115%):新規参戦準備チームとして、最大限のテスト権利を与えられている。

主な敗者:
ウィリアムズ(90%):今季の躍進により、前半よりも大幅に削減された最大の“減少組”。
メルセデス(75%):2位浮上による削減で風洞時間は60時間に減少。開発の効率が問われる。
マクラーレン(70%):首位キープの代償として、最も少ない開発枠に制限された。

自動車競技 F1 2025年のF1世界選手権

■マクラーレン(順位:1位)
圧倒的なパフォーマンスで首位を守るマクラーレンは、当然ながら最も厳しい制限を受ける立場にある。テスト枠は全体の70%に制限され、風洞テストは224回、CFDも1,400件に留まる。
ここまでの快進撃を支えた開発力に陰りが見える兆候はないが、2026年の新車開発では“リソース不足”が懸念材料となる。限られたデータから最大限の成果を引き出す効率性が問われる。

■メルセデス(順位:2位)
グラウンドエフェクトカー時代の苦戦から回復し、再びトップ争いに返り咲いたメルセデスは、テスト枠が75%に削減される。
前半シーズンでは68時間の風洞時間が与えられていたが、後半は60時間に減少。復調の鍵となった技術開発スピードにブレーキがかかる形だ。
2026年に向けた完全新車の準備と、今季のタイトル争いの両立が同時進行となる中で、極めて効率的な開発が求められる。

■フェラーリ(順位:3位)
開幕からアップダウンの激しいシーズンを送るフェラーリは、3位での折返しによりテスト枠は80%。
256回の風洞テストと1,600件のCFDは十分な量に思えるが、マクラーレンやメルセデスの台頭に対抗するには苦しい数字だ。
新たに技術部門を強化しつつあるフェラーリにとって、限られた開発資源で競争力を維持することが課題となる。

■レッドブル(順位:4位)
長らく頂点を維持してきたレッドブルは、ついにトップ3から陥落。とはいえ、85%のテスト枠を維持しており、依然として強力な開発体制を有している。
272回の風洞テストと1,700件のCFDを活用し、2026年に向けた新コンセプトマシンの構築に注力すると見られる。
ただし、クリスチャン・ホーナー解任後の体制再編が続く中で、開発の方向性に一貫性を保てるかがカギとなる。

■ウィリアムズ(順位:5位)
2024年の苦戦が嘘のように、2025年は中団上位に定着したウィリアムズ。だがその代償として、テスト枠は90%に引き下げられた。
特に風洞ラン数は352回から288回に減少。今季前半の飛躍を支えた開発スピードが鈍化する可能性がある。
この削減に対し、どこまで効率化と分析精度でカバーできるかが今後の分かれ目となる。

■ハース(順位:6位)
2025年は着実にポイントを積み重ねているハース。95%のテスト枠を維持しており、依然として比較的多くの開発機会がある。
今後は、2026年に向けた中長期戦略と今季中のアップグレード投入のバランスが焦点だ。大手に食らいつくには、限られた資源をどう使うかが勝負。

■レーシングブルズ(順位:7位)
ランキング7位と“中間”の位置にいるレーシングブルズは、100%の標準的な開発枠を与えられている。
チームとしては2026年の新レギュ導入に向け、他チームに遅れを取らぬよう開発速度を維持したいところ。今後はレッドブル本隊との技術連携が注目される。

■アストンマーチン(順位:8位)
エイドリアン・ニューウェイの加入で注目が集まるアストンマーチン。2025年前半は苦戦したが、ATR再設定により105%の枠を獲得。
336回の風洞テストと2100件のCFDにより、失速した今季の挽回と、2026年新車への集中という選択肢が広がった。ニューウェイの投入でどこまで“奇跡”を起こせるか。

■ザウバー(順位:9位)
来季からアウディブランドとしてF1に参戦する予定のザウバーは、9位という成績により110%の枠を手にした。
352回の風洞テスト、2200件のCFDは十分なリソースであり、新オーナー体制下での“最後のザウバー期”をどう締めくくるかが注目される。

■アルピーヌ(順位:10位)
最下位に沈んだアルピーヌだが、ATRでは最大の恩恵を受ける。115%という枠により、368回の風洞テスト、2300件のCFDが可能となる。
これを今季の立て直しに使うか、来季マシンへの集中に充てるかは今後の戦略次第。ルノー本社の意向も絡む重要な分岐点だ。

■キャデラック(参入前)
2026年からF1に参戦予定のキャデラックは、FIAから最大値の115%のテスト枠を与えられている。アルピーヌと同等の368回の風洞ラン、2300件のCFD枠を使い、ゼロからの開発を進めている。
GMの支援を受ける中で、F1の複雑な技術基盤にどれだけ早く順応できるかが今後の焦点となる。

■各チームのテスト制限一覧(2025年後半)
順位チーム名テスト倍率風洞ラン風洞時間(h)CFD件数
1マクラーレン70%224561400
2メルセデス75%240601500
3フェラーリ80%256641600
4レッドブル85%272681700
5ウィリアムズ90%288721800
6ハース95%304761900
7レーシングブルズ100%320802000
8アストンマーチン105%336842100
9ザウバー110%352882200
10アルピーヌ115%368922300
キャデラック115%368922300


2026年の新レギュレーション導入まで残り約半年。今回のATRリセットは、各チームの戦略に大きな影響を与える。果たして、恩恵を最大限に活かせるのはどのチームか──注目が集まる。

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カテゴリー: F1 / F1マシン