F1は速すぎて退屈になった? オーバーテイクが消えた理由と2026年の希望

バクー・シティ・サーキットのメインストレートはF1カレンダー最長で、その距離はモンツァのほぼ2倍にあたる。全長2200メートル、最高速は時速330kmを超えるにもかかわらず、アゼルバイジャンGPでは目を見張るようなオーバーテイクはほとんどなかった。
これは2022年の技術規定が掲げた「レースをよりエキサイティングに」という目標を思えば、看過できない事実だ。
レース後、後方からの追い上げを狙ったシャルル・ルクレール、ランド・ノリス、ルイス・ハミルトンらが一様に失望を示したのも当然だろう。特にルクレールは予選でクラッシュし、フェラーリで続けてきた4戦連続ポールの記録を絶たれ、悔しさを隠せなかった。
なぜF1は“オーバーテイクできる時代”を失ったのか
FIAとリバティ・メディアが約束した「オーバーテイクの多いF1」は、なぜ4年足らずで霧散してしまったのか。その理由は、各チームが角を曲がるたびに最大限の空力ダウンフォースを追い求め続けた結果にある。
現在のマシンはフロア下の気流を利用するグラウンドエフェクトを採用しているが、各チームはその制約を超えて空力性能を押し上げ続けている。結果として、レギュレーションが意図した「接戦化」の効果は薄れ、再び空力依存の時代に戻りつつあるのだ。
テクノロジーの進化が“オーバーテイク”を奪った
マックス・フェルスタッペンがモンツァで記録した平均時速264.68kmの予選ラップは、F1史上最速だ。さらに決勝の平均速度も新記録となり、今や各サーキットでラップレコードが次々と塗り替えられている。
パワーユニットの開発がコスト削減のため凍結されているにもかかわらず、マシンとタイヤの性能は飛躍的に向上している。世界最高のエンジニアたちは風洞実験で限界を超えるソリューションを生み出し、レギュレーションが目指した「競り合えるF1」の効果を帳消しにしてしまった。
この進化の“最初の犠牲者”がオーバーテイクだ。マシンが発生させる強烈な乱流(ダーティエア)は後続車の空力を乱し、接近戦を難しくする。バクーのようにDRSで10〜15km/hの速度差を得られるストレートでさえ、前のマシンを抜くことは容易ではなかった。

2026年、新レギュレーションは状況を変えられるか
2026年、F1は近代史上最大のレギュレーション変更を迎える。マシン、エンジン、タイヤのすべてが刷新され、ハイブリッドシステムも再設計される。これにより、現在優勢なレッドブルやマクラーレンに対して、フェラーリやメルセデスが巻き返すチャンスを得る可能性もある。
しかし、その一方でトップとの差がさらに広がるリスクもある。新世代マシンは初期段階では現行車より遅くなる見込みだが、それがドライバーにとって“楽しいマシン”になるとは限らない。エイドリアン・ニューウェイを筆頭に、空力設計者たちは再びダウンフォースを取り戻すための開発競争を始めている。
結局のところ、「オーバーテイクが減る」「DRS頼みの演出」という問題は、再びF1の課題として浮上するだろう。
ドライバーたちが望む“本物のバトル”
F1が真のエンターテインメントを取り戻すためには、ドライバーたちの声に耳を傾ける必要がある。彼らが求めているのは、軽量でメカニカルグリップが高く、空力が過度に複雑でないマシン――20年前にミハエル・シューマッハやミカ・ハッキネンが操ったような、純粋に“走る楽しさ”を感じられるF1だ。
それこそが、ファンが再び胸を高鳴らせるオーバーテイクを生み出す唯一の方法かもしれない。
F1が“速さの先にある面白さ”を取り戻すために必要なのは、彼らの声を聞くこと。それだけだ。
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