トヨタ、ル・マン24時間レースのデビュー戦はダブルリタイア
トヨタは、激しい首位争いから、ほぼ最後尾からの追い上げまで、様々な経験をしたル・マン24時間レースを、スタートから11時間目を待たずして終えた。

TS030 HYBRIDはデビューレースにもかかわらず印象的なスタートを切り、特に#7はニコラス・ラピエールが5時間過ぎに首位を奪うなど速さを示した。

THS-R(TOYOTA HYBRID System - Racing)の威力を存分に示す活躍に沸いたチームだったが、わずか数秒後、アンソニー・デビッドソンがドライブする#8の予期せぬアクシデントによってその喜びはかき消された。

周回遅れの車両に接触された#8は、330km/h以上のトップスピードをマークするミュルサンヌストレートの終わりに位置するミュルサンヌコーナーのタイヤバリアに激しく衝突。アンソニー・デビッドソンは自力で車両から脱出したが、受けた衝撃と、背中の痛みを訴えメディカルセンターへ向かい、脊椎の一部損傷が認められたため、病院に移動した。

この負傷は全治3ヶ月と診断され、月曜日まで病院で療養することとなる。

レースはこのアクシデントでセーフティーカーが導入された。長いセーフティーカーランからグリーンフラッグが振られてレースが再開された時、#7の中嶋一貴は首位争いを展開していたが、不運にも周回遅れの車両に接触し、タイヤのパンク及びボディへのダメージを負ってしまった。

そこからチームにとって試練の時間が始まった。いくつかのトラブルに見舞われた#7の貴重な時間が奪われていく中、チームとメカニックはチェッカーフラッグを受けるために、懸命な修復作業を続けた。

しかし、スタートから10時間半を経過して、#7はエンジンの不調に見舞われ、デビューレースから離脱するという苦渋の選択を余儀なくされた。

モータースポーツの中で最もタフなレースの一つであるル・マン24時間レースで、TS030 HYBRIDのシャシーと、THS-Rのパフォーマンスの高さを証明したトヨタ・レーシングは、自信と共に、WEC(世界耐久選手権)の次戦となる第4戦シルバーストン6時間レース(8月26日決勝)に臨む。

木下美明 (トヨタ・レーシング チーム代表)
「今この瞬間の我々の気持ちは、悲しいの一言に尽きる。ただ、素晴らしいチームメイトであり、チームに力を与えてくれたアンソニー・デビッドソンが無事だったことだけは良かった。我々は、彼の一刻も早い回復を願っており、彼を勇気づけられるようなリザルトを#7で残せなかったことは、残念だ。ここに至るまでの苦労を考えると、2台共にレース前半でリタイアをせざるを得なかったのは本当に胸が痛む。しかし、後日このレースでの最初の6時間の活躍を思い返し、デビュー戦であったル・マン24時間レースで首位を走れたということを誇りに感じるだろう。このような先進的な技術を用いて、注目すべき速さを見せられたということは、我々がこれまで以上にハードにプッシュするためのモチベーションに繋がるし、残るシーズンの間に、必ずトロフィーを持ち帰りたい」

#7:(アレックス・ブルツ/ニコラス・ラピエール/中嶋一貴)
グリッド:予選5番手
1時間経過時点(ブルツ):3位(トップと44秒655差)
2時間経過時点(ブルツ/ラピエール):4位(トップと2分28秒615差)
3時間経過時点(ラピエール):2位(50周:トップと52秒281差)
4時間経過時点(ラピエール):3位(67周:トップと1分19秒629差)
5時間経過時点(ラピエール):1位(83周)
6時間経過時点(ラピエール/中嶋):2位(91周:トップと6秒368差)
7時間経過時点(中嶋):19位(98周:トップと8周差)
8時間経過時点(中嶋):46位(98周:トップと25周差)
9時間経過時点(中嶋/ブルツ):47位(110周:トップと29周差)
10時間経過時点(ブルツ):46位(126周:トップと30周差)
11時間経過時点(ブルツ):エンジントラブルによりリタイア(134周)

アレックス・ブルツ
「レースは残念な結果に終わったが、アンソニー・デビッドソンが無事だったのは嬉しい。それこそが最も重要なことだ。我々のTS030 HYBRIDは高いレベルでのパフォーマンスを示し、いくつかポジティブな面を発見出来た。それだけでなく、改良すべき点を見いだし、今回のル・マン24時間レースは今後に向けた貴重な学習の場となった。我々のライバルがそれほど速くなかったことには少し驚いたが、デビュー戦となったル・マン24時間レースで首位を走れたのは、チーム全員にとって格別な喜びだ。我々は本当に速いペースで走れることを示し、いくつかの興味深い情報も得ることが出来た」

ニコラス・ラピエール
「2台共にリタイアとなったのは残念だが、一方では、我々のパフォーマンスレベルには満足している。2台が共に上位を争ったことは非常に素晴らしい。今回はレースの前に短いテストプログラムを行っただけであり、信頼性の向上が必要なのはある程度分かっていた。しかし、プログラムはまだ始まったばかりであり、今回はデビューレースだ。我々は良い予選結果を得て、決勝レースでも良いスタートを切ることが出来た。アンソニー・デビッドソンについては私もチームメイト同様に、彼が一日も早く回復することを願っている」

中嶋一貴
「アンソニー・デビッドソンの怪我のことを聞くのは非常に辛い。チームの皆と同様、彼が一刻も早く回復することを願っている。我々の目標はチェッカーフラッグを受けることだったので、レース前半のリタイアは本当に残念だ。我々は良いスタートを切れたが、私のスティント中のセーフティカーラン終了後に、他の車両と接触してしまった。そしてその後、接触とは関係ないトラブルで時間をロスし、難しいコンディションで夜間走行をしなくてはならなかった。その上、タイヤの一本にフラットスポットが出来、大きな振動が出てしまった。また、タイヤの温度を上げるのが難しく、タイヤの性能を十分に引き出すのに苦戦した」

#8:(ステファン・サラザン/アンソニー・デビッドソン/セバスチャン・ブエミ)
グリッド:予選3番手
1時間経過時点(サラザン):4位(トップと50秒580差)
2時間経過時点(サラザン/ブエミ):5位(トップと2分42秒705差)
3時間経過時点(ブエミ):3位(50周:トップと1分9秒200差)
4時間経過時点(ブエミ):2位(67周:トップと1分16秒333差)
5時間経過時点(ブエミ/デビッドソン):4位(82周:トップと1周差)
6時間経過時点(デビッドソン):アクシデントによりリタイア(82周)

ステファン・サラザン
「まず、アンソニー・デビッドソンがあのようなアクシデントから脱出出来たことに安堵しており、彼の一日も早い回復を願っている。レースについては、TS030 HYBRIDの競争力は高く、序盤こそ慎重だったが、ペースをつかんでからは良いリズムで、2台共にトップ3で争うことが出来た。TS030 HYBRIDは、わずか数ヶ月前に走り始めたばかりであり、ル・マン24時間レースでこのレベルで戦えたことは驚くべきことだ。もちろん失望はしているが、この経験は前向きに受け止めなければならないと考えている」

セバスチャン・ブエミ
「アクシデントが起きるまで、初のル・マン挑戦としては信じられないほど上手く行った一日だった。TS030 HYBRIDは本当に速く、ライバルを脅かすに十分であった。我々は、とても強く、TS030 HYBRIDはそれを実証してくれた。我々のレースは終わってしまったが、とても強力にレースを戦える自信があった。少なくとも、高性能を発揮し、最後まで、チームの力を証明出来たはずだった。来年も帰ってきて、我々の真の力を発揮したい。チームは非常に素晴らしい仕事をしたので、残念な結果に終わったが、本来は、もっと良い結果が出るはずであった。そして、ニコラス・ラピエールがドライブしている時にレースをリードしたのだから、少なくとも我々はライバルを一時、凌いだことも事実だ。チームの皆は、このことに自信を持つべきだ。そして、アンソニー・デビッドソンが、一刻も早く復帰することを願い、これからもさらに頑張る」

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カテゴリー: F1 / トヨタ / ル・マン24時間レース / WEC (FIA世界耐久選手権)