リカルド・チェカレッリ博士 (トヨタF1 チームドクター)
トヨタF1チームのチームドクターとしてグランプリに帯同するリカルド・チェカレッリ博士が、チームドクターの仕事、F1というスポーツ、そしてF1ドライバーの体調管理などを医学的に解説する。
あなたのチームでの役割は?
私はいわばチームと一緒に旅をするファミリードクターのようなもので、現場で起こるあらゆる問題に対処している。小さな“薬局”を現場に持ち込んで、チームの面々の手当をしている。彼らができるだけ早く回復して、最高の仕事をできるようにね。
症状がもっと酷い場合には、メディカルセンターあるいは(現地の)病院に行った方が良いのかどうかを私が判断している。メディカルセンターや病院には私も帯同し、適切な治療を受けているかどうかを確認している。また、彼らが日常的に自分自身の健康をちゃんと気遣っているかどうかをチェックするため、私はチームメンバーと一緒に仕事をこなしている。例えば、レース中にチームメンバーが適切に水分補給できるよう、私は特性のミネラル飲料を用意して、ガレージでそれを配っている。それは、チームの全員が自分たちの仕事をできるだけ健康な状態でこなせるようにするのが目的だ。日曜日の午後に体力を回復させようと思っても、ドライバーはもちろんのこと、チームメンバーは誰であれホテルでゆっくり過ごすことなんて不可能だからね。
あなたはドライバーに近い場所で仕事をしていますよね。F1ドライバーにはどのくらいの体力が必要なのでしょう?
F1ほど心臓に大きな負荷がかかるスポーツは、世界中のどこ探してもない。トップドライバーの心拍数は、90分間あるいはそれ以上のレースの全般にわたり、平均して180回/分を超える。これはとても大きな数字だし、これほど長時間にわたり心拍数がここまで高くなるスポーツはほかにない。更には、身体全体の筋肉もかなりの仕事をしている。Gに耐えるために首の筋肉はキツい仕事をこなさなければならないし、脚と腕にもかなりの負荷がかかり、また、身体を安定させるためには腰が強靭でなければならない。普通の人がそうした負荷の下、F1カーに乗って走ったら、2〜3周走っただけで身体が音を上げてしまうだろう。
ドライビングにおけるメンタル面については如何ですか?
筋肉への要求は重要な要素だが、脳への負荷は信じられないレベルになる。F1は、レースの最初から最後まで脳を必死で使わなければならないスポーツだ。テニスでは数秒毎に休憩があるし、ボクシングでは3分おきに休憩がある。また、射撃では常に休憩の時間がある。つまり、F1ドライバーの脳は、そういったスポーツ選手とは違う形で機能しているんだ。F1ドライバーの脳を平均的な一般人のそれと比較すると、その働き方が全く異なっている。
レースと比べて、予選ではドライバーの反応が異なるのでしょうか?
その通り。レース中のドライバーは、予選のアタックとは違う走り方をしている。予選では身体への負荷がより激しくなる。予選ではドライバーは本当に限界ぎりぎりで走っており、常に簡単にミスしてしまう状況にいる。また通常のレース中の周回よりも心拍数が50回/分も速くなる場合がある。これは、ドライバーの身体がとてつもない量の仕事をこなしていることを示しており、この状態を維持するのは数分が限度で、レース全体を通じてこれを続けるのは無理だ。
酷暑の日は、チームメンバーとドライバーにどんな影響が及ぶのでしょうか?
簡単に言えば、人は誰でも熱があるときは身体が弱まっているように感じる。これは身体が適切に機能していないためだ。クルマのエンジンがオーバーヒートすると、パフォーマンスが下がるのと同じようにね。バーレーンのように酷暑の中でドライビングあるいは仕事していて、しかも(冷房のある部屋などで)クールダウンできない場合、体温が上昇して熱があるときと同じような反応が表れる。体温が上昇するとすぐに、脳と筋肉、そして(刺激に対する)反応に影響が及ぶ。発汗というのは、身体の冷却機能であり、発汗することによって体内の水分を失う。従って過度の暑さにさらされているときは、その熱および体内の水分を失うことによって、身体が弱くなったように感じるんだ。
水分を失うとどのような状態になるのでしょう?
体重の2パーセントの水分を失うと、心理面と身体面の能力の重要な部分を失い始める。体重が60キロだとしたら、わずか1キロとすこしの汗でそうなるわけだ。ドライバーは時にはレース中に最大3キロを失うが、体重の4パーセントを失った場合、心理/身体能力の約40パーセントを失うことになる。従って、熱に対し何の対処もしないとしたら、暑い日のレースでドライバーのパフォーマンスが低下するのは普通のことなんだ。
では、それを補うために何ができるのでしょう?
いろいろと細かなことをやることだ。そういったことを全部合わせれば、かなり効果が高まる。まずは水分をたくさん補給すること、そして常に飲み物が入ったボトルを自分の側に置いておくことだ。飲み物は基本的に水だが、それに多少ミネラルを加えてもいい。2つ目は、栄養に十分気を配ること。消化しやすいシンプルな食べ物が一番いいね。最後に、ドライバーについて言えば、レース前はできる限り彼らを涼しい状態に保つことだ。たとえばヘルメットの中に氷を入れるとか、シューズを冷蔵庫に入れておくといったことなど。そうやっておけば、クルマに乗り込んだ瞬間にすでに身体がオーバーヒート気味になっている、といった状況を回避できる。
ドライバーが完全に健康な場合、そういったやり方がどのくらいドライバーのパフォーマンスに影響するのでしょう?
ドライバーへの影響はかなり微妙だし、それを確認するのは難しい。私はトヨタに加入する以前に、レース前の4日間にわたり酷い感染症にかかっていたドライバーを診たことがある。彼は体内の水分をかなり失ってしまい、日曜日にサーキットに来たときはかなり悪い状態だったが、それでも彼はレースに参加しなければならなかった。レース後、彼は“レース中はずっと酷い状態で、すぐにでも倒れそうだったけど、いいクルマだったからトップ6でフィニッシュできた”と私に話してくれた。普段から身体の状態が最高のドライバーが病気になった場合、レースではいつもよりコンマ4秒から最大でコンマ5秒くらい遅くなる可能性がある。
カテゴリー: F1 / トヨタ
あなたのチームでの役割は?
私はいわばチームと一緒に旅をするファミリードクターのようなもので、現場で起こるあらゆる問題に対処している。小さな“薬局”を現場に持ち込んで、チームの面々の手当をしている。彼らができるだけ早く回復して、最高の仕事をできるようにね。
症状がもっと酷い場合には、メディカルセンターあるいは(現地の)病院に行った方が良いのかどうかを私が判断している。メディカルセンターや病院には私も帯同し、適切な治療を受けているかどうかを確認している。また、彼らが日常的に自分自身の健康をちゃんと気遣っているかどうかをチェックするため、私はチームメンバーと一緒に仕事をこなしている。例えば、レース中にチームメンバーが適切に水分補給できるよう、私は特性のミネラル飲料を用意して、ガレージでそれを配っている。それは、チームの全員が自分たちの仕事をできるだけ健康な状態でこなせるようにするのが目的だ。日曜日の午後に体力を回復させようと思っても、ドライバーはもちろんのこと、チームメンバーは誰であれホテルでゆっくり過ごすことなんて不可能だからね。
あなたはドライバーに近い場所で仕事をしていますよね。F1ドライバーにはどのくらいの体力が必要なのでしょう?
F1ほど心臓に大きな負荷がかかるスポーツは、世界中のどこ探してもない。トップドライバーの心拍数は、90分間あるいはそれ以上のレースの全般にわたり、平均して180回/分を超える。これはとても大きな数字だし、これほど長時間にわたり心拍数がここまで高くなるスポーツはほかにない。更には、身体全体の筋肉もかなりの仕事をしている。Gに耐えるために首の筋肉はキツい仕事をこなさなければならないし、脚と腕にもかなりの負荷がかかり、また、身体を安定させるためには腰が強靭でなければならない。普通の人がそうした負荷の下、F1カーに乗って走ったら、2〜3周走っただけで身体が音を上げてしまうだろう。
ドライビングにおけるメンタル面については如何ですか?
筋肉への要求は重要な要素だが、脳への負荷は信じられないレベルになる。F1は、レースの最初から最後まで脳を必死で使わなければならないスポーツだ。テニスでは数秒毎に休憩があるし、ボクシングでは3分おきに休憩がある。また、射撃では常に休憩の時間がある。つまり、F1ドライバーの脳は、そういったスポーツ選手とは違う形で機能しているんだ。F1ドライバーの脳を平均的な一般人のそれと比較すると、その働き方が全く異なっている。
レースと比べて、予選ではドライバーの反応が異なるのでしょうか?
その通り。レース中のドライバーは、予選のアタックとは違う走り方をしている。予選では身体への負荷がより激しくなる。予選ではドライバーは本当に限界ぎりぎりで走っており、常に簡単にミスしてしまう状況にいる。また通常のレース中の周回よりも心拍数が50回/分も速くなる場合がある。これは、ドライバーの身体がとてつもない量の仕事をこなしていることを示しており、この状態を維持するのは数分が限度で、レース全体を通じてこれを続けるのは無理だ。
酷暑の日は、チームメンバーとドライバーにどんな影響が及ぶのでしょうか?
簡単に言えば、人は誰でも熱があるときは身体が弱まっているように感じる。これは身体が適切に機能していないためだ。クルマのエンジンがオーバーヒートすると、パフォーマンスが下がるのと同じようにね。バーレーンのように酷暑の中でドライビングあるいは仕事していて、しかも(冷房のある部屋などで)クールダウンできない場合、体温が上昇して熱があるときと同じような反応が表れる。体温が上昇するとすぐに、脳と筋肉、そして(刺激に対する)反応に影響が及ぶ。発汗というのは、身体の冷却機能であり、発汗することによって体内の水分を失う。従って過度の暑さにさらされているときは、その熱および体内の水分を失うことによって、身体が弱くなったように感じるんだ。
水分を失うとどのような状態になるのでしょう?
体重の2パーセントの水分を失うと、心理面と身体面の能力の重要な部分を失い始める。体重が60キロだとしたら、わずか1キロとすこしの汗でそうなるわけだ。ドライバーは時にはレース中に最大3キロを失うが、体重の4パーセントを失った場合、心理/身体能力の約40パーセントを失うことになる。従って、熱に対し何の対処もしないとしたら、暑い日のレースでドライバーのパフォーマンスが低下するのは普通のことなんだ。
では、それを補うために何ができるのでしょう?
いろいろと細かなことをやることだ。そういったことを全部合わせれば、かなり効果が高まる。まずは水分をたくさん補給すること、そして常に飲み物が入ったボトルを自分の側に置いておくことだ。飲み物は基本的に水だが、それに多少ミネラルを加えてもいい。2つ目は、栄養に十分気を配ること。消化しやすいシンプルな食べ物が一番いいね。最後に、ドライバーについて言えば、レース前はできる限り彼らを涼しい状態に保つことだ。たとえばヘルメットの中に氷を入れるとか、シューズを冷蔵庫に入れておくといったことなど。そうやっておけば、クルマに乗り込んだ瞬間にすでに身体がオーバーヒート気味になっている、といった状況を回避できる。
ドライバーが完全に健康な場合、そういったやり方がどのくらいドライバーのパフォーマンスに影響するのでしょう?
ドライバーへの影響はかなり微妙だし、それを確認するのは難しい。私はトヨタに加入する以前に、レース前の4日間にわたり酷い感染症にかかっていたドライバーを診たことがある。彼は体内の水分をかなり失ってしまい、日曜日にサーキットに来たときはかなり悪い状態だったが、それでも彼はレースに参加しなければならなかった。レース後、彼は“レース中はずっと酷い状態で、すぐにでも倒れそうだったけど、いいクルマだったからトップ6でフィニッシュできた”と私に話してくれた。普段から身体の状態が最高のドライバーが病気になった場合、レースではいつもよりコンマ4秒から最大でコンマ5秒くらい遅くなる可能性がある。
カテゴリー: F1 / トヨタ