F1 トロロッソ・ホンダ
F1で“ホームレース”と言えば、ドライバーやチームの母国グランプリを思い浮かべる人が大半だ。しかし、チームの一員として働く人々にとっても、自国開催の大会はホームレースとなる。

今週末のオーストリアGPはレッドブルグループにとってのホームレースだが、トロロッソにもシュピールベルクのサーキット(現レッドブル・リンク)で長い時間を過ごした、誇り高きオーストリア人がいる。そう、チーム代表のフランツ・トストだ。

「オーストリアで、さらにはシュピールベルクで私のF1キャリアが始まったのだから、当然、特別な思い入れがあるよ」とフランツ・トストは語る。

「シュピールベルクでは、Walter Lechnerレーシングスクールのインストラクターとして、長い年月を過ごしたんだ。だから、ここに来ると、すべてが始まった原点に帰ってきたような、まさに“ホーム”にいる気持ちになるんだよ」

「サーキットもすごく特別だね。地形の起伏を利用し、自然に溶け込んだ様は素晴らしいよ。近年使用されている短いコースレイアウトも気に入っているけど、かつての高速コーナーが並ぶロングコースも知っている。とてもエキサイティングな気分でレースウイークを迎えることになるね」

「サーキットを全面改修して再びグランプリを開催できるようにしてくれた、レッドブルとその創業者のディートリッヒ・マテシッツには、本当に感謝しているんだ。全域が綺麗だから、戻ってくるのがいつも楽しみだよ」

フランツ・トストにとってシュピールベルクは、懐かしい顔ぶれに会えるだけでなく、F1チーム代表という職にたどり着くまでのルーツを振り返る場所でもある。

「昨年は、私がフォーミュラ・フォードに参戦していたころの仲間たちに会ったんだ。オーストリアのレース界は全然動きがなくて、彼らになにがあったのか尋ねたら、『みんな資金がないんだ』と言うから、『我々のときはもっとなかったじゃないか!』と言ってやったよ」

「逆立ちしてもなにも出てこないくらいだったんだよ! 恥ずかしいけれど、そんな状況だった。でも、こうやって昔の仲間に会って、モータースポーツのことを語り合えるのはうれしいものだね」

イタリアのチームを率い、日本製のパワーユニットで戦うフランツ・トストだが、やはり自身のホームグランプリではいいパフォーマンスを発揮したいと願っており、さまざまな面で施したマシンの改善が功を奏することを期待している。

「余計なプレッシャーはかからないけど、もちろん、さらなるモチベーションにはつながるよ。チームがいいパフォーマンスを見せてくれることを期待している。オーストリアには空力のアップグレードをいくつか持ち込む予定で、向上が見られると思うよ。ホンダもカナダで新しいエンジンを投入してくれたので、ストップ&ゴー型のオーストリアではその効果を発揮できるだろう。だから、今週末はいいパフォーマンスを見せられる自信があるよ」

トロロッソ・ホンダは絶え間なくパフォーマンスを追求しているが、フランツ・トストの自信は、シーズンこれまでで出せたバーレーンやモナコのような結果に基づいている。この2レースで、チームは達成できるレベルが高いことを示した。次なるチャレンジは、こうしたパフォーマンスを恒常的に発揮できるようになることだ。

「確かに、浮き沈みはある。バーレーンでは素晴らしいレースで4位を勝ち取ったし、モナコでも7位に入れた。一方で、バクー、中国、バルセロナではいいレースができなかった。シーズン残りの戦いでは、いいバランスを見つけて、少なくとも1台はQ3へ進んでポイントを取る。これが目標なんだ」

「現実的に考えれば、バーレーンでは7位だったはずだ。しかし、キミ(ライコネン選手、フェラーリ)と、レッドブルの2台が完走できなかった。普段は我々より上位にいるこの3台のリタイアによって、4位という結果が手に入ったんだ。予選でも、ピエール(ガスリー)が6番手タイムといいパフォーマンスを見せられて、ルイス(ハミルトン選手、メルセデス)がギアボックス交換ペナルティーを受けたことで5番グリッドからスタートしたが、こうやって上位集団に入ることができれば、順位も守りやすくなる」

「モナコでは、ほぼ全車が完走した中で7位という好結果を得られたから、我々はこのレベルで戦うことができるはずなんだ」

約2週間前には、2019年シーズンからホンダがレッドブルにもパワーユニットを供給することが発表された。しかし、トロロッソとホンダも、タッグを組んでまだ8戦。フランツ・トストは、ワークスパートナーとして戦ったシーズン序盤をどのように見たのだろうか。

「ホンダとは本当にいい関係でやれていて、初めから緊密に連携できている。昨年末の段階では数回しか会えなかったが、プログラムを開始してからは膝を突き合わせて話し合えている。ホンダも我々もかなりのハードワークをしてきたよ」

「昨シーズンですら、ホンダは見た目の結果ほど悪くなかったんだ。少なくとも私の目にはそれが明らかだった。だから、今年のパフォーマンスがいいのも驚きではないよ。そして、来年さらに上のレベルにいけるようにハードワークを続けている。レッドブル・レーシングとも組むようになれば、レースで勝てると私は確信している。いずれ分かると思うよ」

「ワークスパートナーになったことで、チームはすごく助けられているんだ。我々にとっては全く新たな環境が手に入ったんだよ。それまではパワーユニットと電装系の部品を受け取って、マニュファクチャラーに『はい、どうぞ。これを搭載してくださいね』と言われるだけだった」

「それが今では、ホンダとトロロッソのデザイナーが突き詰めて議論し、すべてのパーツの配置でベストなバランスを探ることができるんだ。重量配分、空力的な観点、信頼性、冷却など、さまざまな観点から検討している。本当にすばらしいし、重要な進歩だよ。ここにレッドブル・レーシングも加われば、さらに大きくパフォーマンスを向上させられると思う」

フランツ・トストの見通しが明るいのは、ホンダのこれまでの歩みが理由であるとも考えているう。現行のV6エンジンレギュレーションが導入され、最後発のマニュファクチャラーであるにもかかわらず、ホンダは参入からここまでで一番大きな進化を見せ、それが将来も続いていくと期待している。

「我々は、ほんの少しずつだけど、全体的に進歩できている。一部でなく、全体なんだ。これが、パワーユニットとシャシーを融合させる最善のかたちだと考えているよ。パワーユニットマネージメントについても、両者ともに大きく前進している。MGU-K、MGU-H、バッテリーにエンジン、それぞれの使い方を議論し、ベストなかたちで取り組めているんだ」

「もちろん、これはまだ途中経過にすぎないし、すべてのマニュファクチャラーがパフォーマンス向上を目指して懸命に取り組んでいる。特に、メルセデスは現行レギュレーションが導入される早い段階から開発に集中して、大きなアドバンテージがある。どのマニュファクチャラーもこの1年で追い付くのは難しいだろう。でも、フェラーリはそれができると示してくれたし、私はホンダにも可能だと思っているよ」

そして、カナダで投入されたアップグレードには、フランツ・トストもかなりポジティブな手応えを得たようで、「大満足だよ。彼らは『0.3秒向上できる』と見通しを話してくれて、それがそのまま実現したんだ」と喜んでいる。

シーズンが中盤に差し掛かったところで2019年のレッドブルとホンダの契約が発表され、話題の中心となった。トロロッソは影が薄くなったようにも見えるが、フランツ・トストは自分たちにもメリットがあると感じている。

「多くの相乗効果が見られるはずだよ。今季は自前のギアボックスを使用しているけど、来年はレッドブルと共通のリアエンドを採用できる。これによって資金とリソースをほかの部分に振り向けて、パフォーマンス向上に注力できるんだ。楽しみでしょうがないよ」

「ルノーエンジンのときにもこうした取り組みはあったけど、その最中にマニュファクチャラーが変更になった。エンジンが違えば、シナジーを出すのは難しいんだ。ギアボックスのフィッティングポイントや、排気のシステムなども異なるからね」

チームはワークスとして1年の経験を積んだのち、レッドブルとトロロッソ、そしてホンダの新たな取り組みが始まる。フランツ・トストは、来季をチーム史上最高のシーズンにしようと目論んでいる。創設以来12年間で、コンストラクターランキングは6位が自己ベストだった。

「トロロッソの目標は、中団最上位だ。もちろん、それはドライバーの経験値に左右されることではある。ドライバーは重要なファクターなので、来年だれが乗るかを知る必要はあるし、チームの順位もそこで予想することができる」

「すべてがうまくかみ合えば、ルノーやマクラーレンといったチームの上を行くことができるはずさ。簡単なことではないが、それは可能なんだ」

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カテゴリー: F1 / トロロッソ