佐藤琢磨 「チームは今日の成績に相応しい奮闘をした」
佐藤琢磨が、インディカー第17戦ソノマのレース週末を振り返った。

佐藤琢磨はこれまで何度も好結果を手に入れる寸前までいきながら、彼自身にはどうにもできない理由によりそのチャンスを奪われてきた。ところがソノマでは、まったく逆の状況となった。集団の後方を走る厳しい戦いを強いられていたものが、賢明なピットストップ作戦と冷静なドライビングにより、4位でフィニッシュするという素晴らしい結果に転じたのである。これは、No.14 ABCサプライAJフォイト・レーシング・ホンダが今季獲得した最高位に相当するものだ。

とはいえ、お馴染みの「琢磨にはどうにもできない状況」さえ起きなければ、美しいカーブを描く北カリフォルニアのロードコースで佐藤琢磨は勝利をもぎとっていたことだろう。

そのようなことを示す兆候は、少なくとも土曜日にはまったく見られなかった。この日、2度のプラクティスを13番手と15番手で終えた佐藤琢磨は、予選で20番手という不本意な結果を残していたのである。

「ソノマでは2月にウィンターテストを行なっています。このときは様々なテスト・アイテムを試し、2013年のセッティングを進化させる道筋を探りました。このテストではたくさんのことを学びましたが、期待したほどの成果は挙げられませんでした。それ以来、僕たちはソノマを訪れていません。ただし、他のチームはレースの数週間前にテストを行なっています。その後、プロモーターは2デイのイベントにすることを決め、セッションがひとつ少なくなったので、もしかすると僕たちにとっては不利な状況となったかもしれません。しかも、ふたつのセッションの間にサイン会が開かれたので、データを解析する時間は本当に不足していました」

「フリープラクティス1では、僕たちはまずまずコンペティティブだと感じていました。通常、ソノマはとても滑りやすいコースですが、今回はバランスに関しては良好でした。ただし、グリップは不足気味でした。この状況はフリープラクティス2でも変わらず、ニュータイアを履いてもグリップレベルはほとんど上がりませんでした。そこで、柔らかめのレッドタイアによってフィーリングが改善されることを期待し、推測を交えながら予選に臨むこととなりました。実際、これでタイムは0.7秒ほど向上しましたが、第2セグメントに進出することはできませんでした。これは期待よりもずっと悪い結果で、本当にショックでした」

日曜日にはレース前にエンジン交換を行なうこととなり、ウォームアップを早めに切り上げなければならない事態に追い込まれていた。

「メカニックたちのウォームアップを兼ねて、通常のピットストップの練習を行いました。その後、周回を始めたのですが、計測ラップを2周終えたところでエンジンが咳き込むようになったので、ピットに戻ってこなければいけなくなりました。メカたちはECUなどの電気系部品を交換しましたが、原因を正確に突き止められなかったため、チームとホンダはエンジンを交換することを決断します。おそらくは燃料ポンプの問題と思われましたが、もしも間違っていたらこの週末を棒に振ることになります。しかも、エンジンはライフの終わりが間近に迫っていました。レースまでに残されていたのは数時間ほどだったので、それは大変な作業でした。そしてまた、まだ2周しか試していない新しいセットアップが、レースではうまくマッチしてくれることを期待するしかありませんでした」

スタートではその答えが得られなかった。前方で起きたアクシデントのため、集団の後方は大混乱に陥り、ここでダメージを負った佐藤琢磨は続くイエローコーションの際にピットストップを余儀なくされたからだ。「ソノマはとても印象的なコースで、非常に大きな高低差があります。今回は丘の頂上にあたるターン2で数台のマシーンがスピンし、これを避けるスペースはほとんど残されていませんでした。ここで破片と接触しため、左フロントタイアがパンクし、フロントウィングにもダメージを負いました。僕はピットに戻りましたが、いずれにしても集団の最後方だったことには変わりないので、それまでと同じような形でレースを再開しました」

レース序盤は佐藤琢磨にとって厳しいものだった。数周後にグリーンのままピットストップを行い、カルロス・ウエルタスがコース上で止まった結果、佐藤琢磨は17番手に浮上。これで2度目のイエローが提示され、佐藤琢磨を含む数人のドライバーがピットストップを行った。このイエローの間に佐藤琢磨は4回ピットに入り、そのたびに少しずつ燃料を補給していった。

「ブラックタイアでペースが伸び悩み、他のドライバーに追いついても抜かすことはできませんでした。そこで、コースコンディションが僕たちのセットアップ向きに変わるのを黙って待つことにしました。ここでレッドタイアを履いてもデグラデーションに苦しめられることはわかっていたので、すぐに交換しようとは思いませんでした」

「ウエルタスがきっかけでイエローになったとき、僕たちは初めてレッドタイアに交換することにしました。けれども、メカニックたちは右リアのホイールの内側に細かい傷があるのを見つけます。このため、何かの部品がホイールに接触している可能性が考えられました。ここでメカニックたちは問題がないことを確認してくれましたが、順位を落とさずに済みました。ただ燃料を継ぎ足して、コースに復帰しただけです」

リスタートして間もなく、接触事故に遭ったセバスチャン・サーヴェドラがコース上に立ち往生したため、再びイエローが出される。ウエルタスがきっかけとなったイエローの際にピットストップしていたドライバー――佐藤琢磨とマイク・コンウェイ――はここでストップする必要がなかっただけでなく、もう1度だけ給油すれば最後まで走り切れそうな状況だった。けれども、他のドライバーはピットインせざるを得ない。この結果、佐藤琢磨はいきなり5番手まで浮上することとなる。

このスティントで、佐藤琢磨は2番手争いを演じるトニー・カナーン、ライアン・ブリスコー、グレアム・レイホールの3人に追走していったうえ、結果的にこのレースで優勝することになるスコット・ディクソン(サーヴェドラのイエロー中にピットストップを行ったなかでは最上位を走るドライバー)を後方に留めておくことができた。「完璧な展開でした。もしも燃料を大幅にセーブすることができれば、あと1回のピットストップで走りきれることがわかっていました。しかも、前を走るドライバーたちがバトルをしていたので、結果的に僕は燃料を無駄遣いせずに済みました。“ディクシー”が後にいましたが、それでも良好な燃費で走りながらコンペティティブなラップタイムを記録できました」

間もなくブリスコーがピットに入り、その8周後にはカナーンとレイホールがこれに続いた。「ピットに入った時点で、彼らが僕に勝つチャンスはないと思いました。僕がしなければいけなかったのは、ひたすら目標とする燃費をクリアするだけでした」

同じ戦略で佐藤琢磨の前方を走るドライバーはコンウェイひとりだけだったが、彼は燃料を盛大に消費してトップに立つと、佐藤琢磨より1周早くピットストップを行った。これでトップに立った佐藤琢磨は次の周にピットイン。しかも、プッシュ・トゥ・パスが使える回数ではライバルを上回っていたのである。

ピット作業を終えてコースに復帰しようとしたまさにその瞬間、佐藤琢磨の目の前にマルコ・アンドレッティが飛び込んできた。

「あれは、とても不運な状況でした。僕はディクソンを抑えたままトップでピットに入りました。もしもすべてが順調であれば、彼の前でコースに戻れたはずです。ところが、タイア交換に少しだけ手間取った隙にマルコがやってきたため、発進できなくなってしまいました。これで僕たちは4秒を失い(本当に運が悪かった!)、ディクソン、ライアン・ハンターレイ、シモン・パジェノー、ファン-パブロ・モントーヤに先行されてしまったのです」

やがてカナーンが最後のストップを行ったことで佐藤琢磨は8番手に浮上。その3周後にはレイホールがピットインした。これと同時に佐藤琢磨はモントーヤをパスし、5番手に駒を進める。

「いいバトルでしたが、燃費を抑えることも忘れませんでした。ジョセフ・ニューガーデンもアタックを仕掛けてきましたが、やがて燃料不足に陥ってペースを落としました。モントーヤはシケインで小さなミスを犯したので、僕はこのチャンスを見逃さず、ターン9でインサイドに飛び込み、彼の前に立ちました。なかなかエキサイティングなバトルでした」

ファイナルラップに入るとき、パジェノーの直後につけていた佐藤琢磨は5番手だったが、燃料をほぼ使い果たしていたコンウェイはフィニッシュラインを目前にしてスローダウン。これで佐藤琢磨は4位フィニッシュを果たした。

「タイアデグラデーションが起きていたので、できることはすべてやらなければいけませんでした。僕は、最後の周のヘアピンでマイクがほとんど加速できないことに気づいたので、最後に残っていたプッシュ・トゥ・パスを使って彼の前に出ました。素晴らしいチームワークと完璧なレース戦略のおかげで最高の結果を得ることができました。本当に嬉しいです!」

もしも最後のピットストップで4秒をロスすることがなければ、このレースで優勝していただろうか?

「もしも勝てるチャンスがあれば、そのときはプッシュ・トゥ・パスを使っていたでしょう。最後の周で、僕はディクソンに追いついていきました……。でも、レースの世界に“タラ・レバ”は禁物です。僕が言えるのは、チームは今日の成績に相応しい奮闘をしたということで、僕はこの結果に満足しています」

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カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨 / インディカー