佐藤琢磨
いつのタイミングでインディカーへのシフトを決断されたのですか?アメリカで骨を埋めるつもりですか?F1に戻りたいという思いはありますか?
これまでF1で6シーズン足らず、7年間F1の世界にいまして、究極のゴールはF1のトップで、僕の夢はずっとそこにありました。もちろん、いろいろな条件・決定が重なって現在までに至っているのですが、昨年もみなさんにお伝えしたとおり、僕自身はF1復帰を望んでいました。それは事実です。ただ、昨年の早い時期にアメリカとの接触がありまして、実際にインディカーシリーズに対する僕の中での興味も上がるっていきまして、5月のインディ500に実際に訪れて、そこでほぼ全てのチームとお会いして、当然KVレーシングともそこで会って、自分の中で実際にインディカーシリーズを観て物凄くいい意味での驚きと刺激を受けました。

そこからは、正直に言ってF1とインディカー、その2つに自分の中での目標は絞ってずっと活動を続けてきました。ただ、もちろん、自分の気持だけで決定できることではないので、いろんな条件を待たなければならなくて、昨年鈴鹿に自分でパドックを訪れたことで、当然F1サイドでもほぼ全てのチームと話を続けまして、このオフに関していえば、数チームとレーシシート最終候補まで何度もいきまして。

ただ自分の中で、まだF1のシートは完璧にすべて決まったわけではないんですけども、やっぱり一番大事なことっていうのはレースなんですね。レースをやるからには、やっぱりその中で頂点を極めたい。その気持ちはレースを始めた頃から一回も変わらなかったし、それが実現できる環境っていうのはみたときに、僕の中ではもうF1にはそれはなかったんですね。残念ながらつい数週間前に最終的なチャンスが絶たれてから、自分の中では気持ちはインディカーの方に100%シフトして、KVレーシングはチームとしても、ずっとドライバーを待ち続けるというのは非常に厳しい状況だったと思うんですけど、ジミーがすっと待っててくれて、やっぱりその気持には自分の中で100%の気持ちで応えたいと思いまして、今は本当にインディカーシリーズのことしか考えていないです。

ここで新たにスタートを切れることは僕としては本当に心から嬉しい気持ちですし、ここまで応援していただいたみなさんに対してもこれ以上の感謝の気持ちはないです。それをようやく自分の走りで表現できるチャンスを得たことが、自分の中ですごく嬉しいです。

この先に関してはわかりません。もちろん、やるからにはトップを目指すので、インディカーシリーズでね、本当に初年度からどこまで行けるかわからないですけども、思いっきりレースをしたいし、それによってまた自分の道がそこで可能性が広がって、さらに切り開いていくことで、その先に見えるものが出てくるかもしれないし、そこに向かってまずは一歩一歩、新しい大地で自分の挑戦をはじめていきたいと思っています。

オーバルにはどのように適応していきますか?
ロードコース、ストリートコースに関していえば、これまで走ってきた自分の経験と大きな違いはないと思うので、すぐに順応はできると思います。ただ、オーバルレーシングに関しては、本当にドライビングスタイルからレースのアプローチなどすべて違う中で、自分がどれくらい早く環境に馴染めるかというのは自分の中でも大きなチャレンジになると思います。そういう意味でジミーのアドバイスというのは、心強いですし、ひとつずつアドバイスを聞いて、自分の中で少しずつスピードを上げていきたい。オーバルはそうですね、単独走行に関してはそんなに心配していないんですけども、レースになったときには長い時間他のドライバーたちとサイド・バイ・サイド、テール・トゥ・ノーズの戦いがずっと繰り広げられる。それはある意味、僕の中ですごく楽しみで、今までにない感じだと思うので、その中で実際、380キロで移動しながらドライバー同士の駆け引きであったり、空気を読んだり、あるいは助け合いだったり、非常にクリーンでタフなバトルを期待して走っていきたいです。

実際に交渉したのはいつぐらいだったのですか?待たせている間はどのようなコミュニケーションをとっていたのですか?
まず最初にインディ500を観ていなかったらというのは、僕自身も2008年にスーパーアグリとともにF1参戦を続けたあと、残念な形でレースの表舞台から一旦引かなければならない状況に陥ったんですが、そのときにすでにインディカーのお話をいただいてました。ただし、その時に関しては2009年のF1復帰、あるいは2008年度後半戦に向けての話も多少ありましたので、僕の中では興味はありましたけど、交渉という段階ではありませんでした。

そのあと2009年の1年間、これも僕としてはやっぱりF1にこだわってやってきたっている背景があるので、ずっとF1のチームとの交渉は続いていました。ただ、インディ500に5月に行ってから、インディカーレーシングのチームとの話し合いというのを進めていまして、その中でジミーのところは他のチームよりも非常に熱意をもって話を進めてくれた。それ以外にも実現しなかったインディカーレーシングチームもあるんですが、今回は話が違うので名前は伏せますが、いくつか素晴らしい話をいただいたっていうのがありました。

その中で、実際、僕も去年の暮れまで実名を出しながらF1チームとの交渉は続いていたのですが、その影響もあって確かに最終的なレース復帰の道を発表するまで今日まで至ってしまったんですけども、どのシリーズに参戦するにしても開幕戦から自分たちが持てる力をしっかりと出せるように準備できる期間というのを必ず確保した状態でシーズンに入りたかった。もちろん、それが1月であったらベストだったかもしれないけども、僕はこの時点で始めても決して遅くはないと思っています。そういう意味では自信をもってKVレーシングとともにブラジル・サンパウロでの開幕戦に挑めるものだと信じているので、今はそういう気持ちです。

インディへ興味をもったきっかけやアドバイスはありましたか?
まずインディのチームから強いお薦めがあって、とにかく見てくれと。そういう意味では、僕もホンダさんのサンクスデイを通してですけども、もてぎでF1マシンとインディカーでの混走でオーバルを少し走った経験がありまして、そういう意味ではもともと興味はありました。

ただ、インディカーのシリーズとして、それもインディ500という決勝日当日だけで40万人以上の人が集まる世界最大のスポーツイベントだと思うんですけど、そのイベントがどんなものかというのを肌で感じたかったし、デモ走行ではなくて、シリーズの一戦でチームが本気で走るシーンというのを見たかった。インディ500に行ったときに本当にある意味、度肝を抜かされたじゃないけども、本当に驚きました。

オーバルを走る難しさっているのは、外から観てても本当に見えるんですね。僕は1コーナーの内側からずいぶん長い間見たんですけど、全開で入るにしても、簡単な全開でなくて、本当にクルマがスライドしてる。ドライバーによっては370キロでクルマがスライドしているのを抑える。あれはドライバーから見ても本当に驚きでショックを受けました。そのあとでチームの無線を聞いたり、チームがどのように予選・プラクティスを進めていくかというエンジニアリングサイドを見せていただいて、本当に驚いて「これはすごいシリーズだな」と。そういう意味での興味というのはそこで一気に高まったと思います。

インディ500は特別な存在ですか?
インディ500という名前は子供の頃から知っているくらい有名で、シリーズ戦よりも僕らが日本で聞く名前としては大きいですよね。それは自分も同じで、インディカーシリーズより前にやっぱりインディ500を知っていたので非常に興味深いです。テレビ中継でもずっと日本でやっていたので、子供の頃から見ていた記憶がある。

ただ、今回インディカーシリーズに開幕戦から参戦できるにあたって、インディ500は確かに特別なイベントですけども、僕の中では一戦ずつしっかりと走っていって、その中のうちの一戦と考えています。特別にインディ500だけをどういう風に走ろうというのはないですね。

それよりもまず24日、25日の合同テストをどうやってチームとともに走っていくか、いかにしてクルマを自分のものにしていくか、いかにしてチーム全員を同じ方向に向いていくかというとおろにまず自分のエネルギーを割きたいし、そこから開幕戦ブラジル・サンパウロ、第2戦フロリダでの市街地コースに含めて一戦一戦にはまずは集中していきたいです。いろいろ消化したあとに、初めてくるオーバルレースが一戦あって、そのオーバルレース第2戦目がインディ500なので、そこで自分がいきなりトップ争いしていうのはまず難しいと思います。

そんなに簡単な世界ではないと自分で思っているので、もちろん、やるからには精一杯走りますけど、優勝争いを期待していますとかそういうことではないと思います。ただ、ジミーが言っていた通り、しっかりとした環境を整えて、一歩ずつ進めばそれが可能だと。それが可能であれば、インディカーシリーズの最大の魅力なので、それに向けて、最高の走りを目指してレースを走りたい。

当然、僕の中で今の時点で一番大きなイベントになるのはインディ・ジャパンです。9月にもてぎでファンの前でまた走れる日が来たことに、今これ以上の興奮はないので、まずは3月に始まるブラジルから一戦一戦をしっかりと戦って、9月のインディ・ジャパンでファンのみなさんの前でしっかりとした力を出しきれるようなレースをできるように、しっかりと勉強していきたいと思っています。

関連:佐藤琢磨、インディカー参戦を発表 - 2010年2月18日

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カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨 / インディカー