レッドブル・ホンダF1の最終戦での“完勝”を鵜呑みにしてはいけない理由
レッドブル・ホンダF1は、2020年の最終戦F1アブダビGPでマックス・フェルスタッペンが、ポールポジション、優勝、全ラップリードを記録する“完勝”で終えた。しかし、メルセデスF1に追いついたと考えるのは時期尚早だ。

レッドブル・ホンダF1はメルセデスと互角に称えることを期待して2020年のF1世界選手権に臨んだが、すでにプレシーズンテストでその差は明らかだった。

前年、パワー面でフェラーリの後塵を拝したメルセデスは、F1エンジンで大幅な進化を果たした。プレシーズンテストから信頼性に問題が発生したが、リスクを覚悟でパフォーマンスに焦点を当ててきた。

一方、レッドブル・ホンダF1は、新車RB16の空力面に大幅な改良を加えたが、風洞に起因するフロントウイングの問題によって大きく出遅れた。また、ホンダのF1エンジンは改善を示したものの、前年をベースにしてメルセデスほどアグレッシブにパフォーマンスに焦点を当ててなかった。その結果、エンジン面でもホンダF1上層部が“想像の2歩先を行っていた”というほどメルセデスに差をつけられた。

2020年シーズンはメルセデスの独壇場となり、11月の第13戦F1エミリア・ロマーニャGPでコンストラクターズタイトルが確定。ルイス・ハミルトンも第14戦F1トルコGPでミハエル・シューマッハの史上最多記録に並ぶ7回目のF1ワールドチャンピオンを獲得した。

その結果、メルセデスF1のチーム代表を務めるトト・ヴォルフは、10月の段階でW11の開発は“かなり前”にほぼ終了して2021年F1マシンの開発に以降していたことを明かしている。

その間、レッドブル・ホンダF1は、メルセデスとの予選と決勝での0.5秒差を少しずつ縮めていき、最終戦ではようやくシーズン初ポールポジションを獲得し、今季2勝目を挙げた。

だが、メルセデスはすでに2021年を見据えていた。2021年は今季のシャシーが持ち越されるが、ダウンフォースを10%削減することを目標としてフロア面積が縮小される。また、タイヤは耐久性を高めるために固くなり、それら両方を合わせるとほぼ1秒遅くなると予想されている。

Gazzetta dello Sport によると、メルセデスはシーズンの早い段階で2021年用のパーツのテストを開始しており、F1バーレーンGPでメルセデスはバルテリ・ボッタスのマシンに2021年のフロア変更で失われるダウンフォースを補うための空力パッケージとして傾斜したラジエーターを搭載していた。

さらにF1アブダビGPでは、2021年のタイヤに対応するために剛性を下げたフロントサスペンションを走らせていた。実際、トワイライトレースの時間帯を考えると重要なセッションとなるFP2で、メルセデスは現行タイヤでロングランを行わず、2021年用タイヤですべてのロングランを実施していた。

F1アブダビGPで、マックス・フェルスタッペンはメルセデスに0.025秒の僅差でポールポジションを獲得し、決勝では16秒差をつけてフィニッシュした。10周目にセーフティカーが入り、同じ45周をハードタイヤで走行したため、レースペースで1周あたり0.3秒の差があったことになる。

だが、メルセデスは土曜日からパワーユニットの出力を下げていた。カスタマーチームのマシンのMGU-Hに問題があったとされているが、実際には2021年のラジエーターに対応してのものだとも噂されている。メルセデス曰く0.1秒以内=10kWの出力を発揮できていれば、予選の0.26秒差は覆していた可能性がある。決勝でもそれに加えて、2020年タイヤに対応したセットアップをしていれば、そこまで差は開かなかったかもしれない。

どんな理由があるにせよ、ホンダF1が最終戦を実力で勝ったのは確かだ。また、ホンダのF1エンジンは唯一パワーユニット年間使用基数内に留まり、ペナルティを受けることはなかった。

だが、それはメルセデスがパフォーマンスを重視した開発を進めた一方で、ホンダが信頼性を重視した結果だとも言える。来年、メルセデスが信頼性の問題を持ち越すとは考えられない。ホンダは、2021年型のF1エンジンで40馬力アップを果たすとされているが、メルセデスも20馬力アップを実現していると報じられている。それが事実ならば、パワー面でホンダがメルセデスを追い越すことはない。

童話「ウサギとカメ」では、速いウサギは油断して昼寝をし、遅いカメはコツコツと歩みを進めてウサギを追い抜いた。

だが、この話はメルセデスとレッドブル・ホンダには当てはまらない。メルセデスはゴール付近で昼寝をしていたわけではなく、すでにゴールのテープを切ってマシンを乗り捨て、次のスタートラインに向けて進んでいた。レッドブル・ホンダはそこに追いついたに過ぎない。

例年、レッドブル・ホンダF1は序盤戦で出遅れ、シーズン後半に巻き返すというのが決まり文句のようになっている。だが、今季を例にすれば、後半に追いついたのは、先行するメルセデスが一足先にゴールラインを超えて、次のスタート地点にむけて進んでいたからだ。

2021年のプレシーズンテストと開幕戦で0.5秒の差がついていた場合、今季と同じストーリーが展開される可能性は高い。

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カテゴリー: F1 / レッドブル・レーシング / ホンダF1