ホンダF1 山本雅史 マネージングディレクター 『ラストレースに寄せて』
7年間、140戦にわたって走り抜けてきたホンダF1。ラストレースを前に、山本雅史マネージングディレクターが振り返った。

2015年の復帰以来、マクラーレン、スクデリア・トロロッソ、そして、レッドブル・レーシングとともに戦ってきたホンダF1の歩みは、今週末のアブダビGPで終わりを迎える。

多くの悔しさと喜びが詰まった旅路は、まるでジェットコースターのようだったが、ヤス・マリーナ・サーキットでダブルタイトルを賭けて戦えるところまで来た。

同ポイントでの最終戦という痺れる展開になったが、山本雅史マネージングディレクターはここまでの7年間を振り返り、ここに至るまでの基礎は苦しい時期を味わったからかそと語る。

「チャンピオンシップ争いができるところまで来ましたが、そのベースは、マクラーレン時代に出来上がったものです。あの時期に多くのことができるようになっていました。当時、僕らはお互いをリスペクト過ぎた部分もあり、歩みは決して速くなかった。でも、そこから多くのことを学んで、レッドブルと組むようになってからは、開発を加速させられるようになっていました」

第三者から見れば、マクラーレン時代が失敗だったと言うのは簡単だが、両者ともに成功を目指して懸命に取り組んでいたし、苦しい中であっても喜べる瞬間もあった。

「一番印象に残っているのは、2017年スペインGPの予選ですね。あれは鳥肌が立ちました。僕らにとってはその年のQ3初進出で、7番手となったフェルナンド(アロンソ)のパフォーマンスは素晴らしかったです。フェルナンドというドライバーの凄みを感じましたし、一番の思い出と言えるかもしれません」

「そして、これはいいことも悪いことも含んでいますが、MGU-Hのテクノロジーについては、本当に苦労しましたね。マクラーレン時代に学んだことは多くありますし、そこから得たものがあるという点ではいいことでもありますね。大変な苦労でしたが、たくさん勉強になりました」

マクラーレンとのパートナーシップが終わりを迎えたとき、ホンダF1はそのまま撤退するのではないかという人もいた。しかし、あくまでもF1での勝利が目的だったわけで、そのときにトロロッソというパートナーが現れ、我々にそのポテンシャルがあることを証明するきっかけを与えてくれた。

「マクラーレンからは多くの学びを得ましたが、一方で2018年からはリセットしてゼロからスタートする部分もありました。そういった面で、決してビッグチームではないトロロッソというパートナーと再スタートを切れたことはよかったと思います。その年の2戦目のバーレーンで4位と、すぐに結果が出たことは、ホンダF1にとって『僕たちはやれるんだ』というものすごい自信になりましたし、プロジェクトの背中を押してくれましたね。リスタートのタイミングも、そのパートナーも合っていたんだと思います」

「もちろん、レッドブルはとてもいいチームなので、ゆくゆくは彼らともパートナーシップを結びたいとは思っていましたが、当初からそれありきで話しを進めたわけではありません。ヘルムート(マルコ氏)からも、『レッドブルは、トロロッソとの結果を見て判断する』と言われていたので、2018年の結果というのはとても重要でした。そうしたプレッシャーの中で結果を残せて本当によかったです」


好調の兆しを見せていた2018年の中盤に、レッドブル・レーシングとのパートナーシップ提携が正式に決まり、ホンダF1とレッドブル・グループの共闘体制が整う。

「レッドブルは常に勝利を目指していますから、このパートナーシップの成立は、ある意味、自然な流れだったのかもしれません。彼らは勝利に対して貪欲ですし、ホンダF1も参戦するからには勝たなくてはいけないという、同じフィロソフィーを持っています。見ている景色は同じなので、コミュニケーションもすぐに深まっていきましたし、そうすることでお互いの信頼関係が急速に出来上がっていきましたね」

山本MDにレッドブルとの関係に自信が持てた瞬間を聞くと、コース上での結果やパフォーマンスを見るよりも、ずっと前だったとの答えがあった。

「本当に一番初めです。チームとして始動する前、ヘルムートが『じゃあ契約書にサインしよう』と言ってきたときじゃないかな。それまでに、どうやって勝てるチームを作り上げていくかを徹底的に議論してきたので、ともに同じ方向を見ていることに自信を感じていました」

「そして、僕らのパートナーシップ初戦のオーストラリアGP。ここが僕にとっては一番のハイライトになっています。初戦で表彰台獲得という結果を残せて本当にうれしかったですし、決断は間違っていなかったんだ、このチームと一緒に勝利を目指していけるな、という真の自信が実感できました」

「初勝利のオーストリアは、もともと予感があったんです。メンバーには、『今週は勝つからそのつもりで』と言っていて、マックスがフリー走行でクラッシュしましたけど、初日から初勝利を挙げたときの準備を進めていました。そういう意味では、オーストリアは何も驚かなかったですね。もちろんうれしさはありましたが、オーストラリアの表彰台は、いきなりそんな結果が出るとは思っていなかった分、すごく感動的な瞬間になりました」

初勝利の場面では、ホンダF1のメンバーが涙する姿が国際映像に捉えられる場面もあったが、F1での勝利というのは、どんな影響があったのでだろうか。

「やはり、勝利は別格ですよ」と語る山本MDだが、それも厳しい時期を乗り越え、急速に学びながら改善を進められたからだと語る。

「2017年のバーレーンがホンダF1としては一番厳しいレースでした。MGU-Hがいくつも壊れて苦戦を強いられました。そのときのことを思い出すと、今は多くを学び、常にポジティブに考えることができています。このレースを覚えていない人も多いかもしれませんけど(笑)」

「レッドブルと組み始めてからは、そこまで苦しさを感じなくなってきました。マクラーレン時代と比べれば、厳しさは格段に減りましたから。でも、2020年は少しその勢いが落ちてしまいましたね。2019年は3勝を挙げましたが、2020年はレッドブルとは2勝と、進歩することができませんでした。ただ、その間もレッドブル・レーシングとの関係は揺らぎませんでしたし、お互い信頼し合っていたので、問題はありません」

こうした経験を経て、現在の位置までたどり着いたホンダF1。ついにラストレースを迎えるわけだが、この最終戦は1つでも順位が上になったほうがチャンピオンという緊迫の一戦になった。ただ、山本MDはタイトルの有無にかかわらず、これまでのハードワークは報われると考えている。

「僕個人としては6年、ホンダF1としては7年になりますが、このプロジェクトに携われて本当によかったです。ホンダF1にとっても、ファンの皆さんにとっても、チャンピオンシップを争えるようになったというのはとてもいいことですし、最後は何としても勝ち取りたいなと思っています」


「研究開発に勤しんでくれたエンジニアを心から誇りに思いますし、全員に感謝しています。この2021年の最後まで両タイトルを争う位置にいられるというのが素晴らしいことで、マネジメントの立場から見ていても、ホンダF1がどれだけやれるのか、どれほどの力があるのかを目の当たりにできました。これには感激していますし、全員の積み重ねてきた努力に感謝しています」

そして、ホンダF1にとってのストーリーは、今週末で終わるわけではない。目の前の成功はもちろん、レッドブル・パワートレインズへ技術を引き継ぐことで、レッドブルとアルファタウリへ、最高の2022年型パワーユニットを提供するという仕事が残っている。

「最重要課題は今季のチャンピオンシップを勝ち取ることですが、来年もレッドブルがタイトルを争い、アルファタウリが上位に食い込めるようにすることも大切です。それが、ファンの皆さんも、チームも、そして私たちホンダF1にとってもハッピーにつながるので、重要ですし集中して取り組んでいかなければなりません」

山本MDが最後にメッセージを届けたいのは、チームでもドライバーでもなく、ファンの皆さんだ。

「僕ら全員が心の底からファンの皆さんへ感謝しています。厳しい時期もありましたが、それでも応援し続けてくれて、多くのパワーをもらいました。ホンダF1だけに限らず、モータースポーツというのはファンの皆さんのサポートがあってのものです。すべてのモータースポーツファンに感謝を捧げます」

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カテゴリー: F1 / ホンダF1 / レッドブル / トロロッソ / マクラーレン / F1アブダビGP / アルファタウリ