長谷川祐介 (ホンダ F1プロジェクト総責任者)
今年からホンダのF1プロジェクト総責任者に就任した長谷川祐介が、2016年F1シーズンについてインタビューに応じた。

F1プロジェクトの新しい責任者になると発表されて以降、落ち着いたと感じていますか? もしくはそうなるまでにはしばらく時間がかかりそうですか?
もう慣れました。もう少し時間がかかると思いましたが、数週間が経ち、状況は理解できました。

引き継ぎはいかがですか? 新井さんはまずあなたと密接に働いて、退任するのですか?
もちろん、そうです。新井さんは前もって多くのことを話してくれましたし、情報という観点では問題はありませんでした。しかし、サーキットでそれを実感する必要があります。彼はサポートしてくれていますし、何か理解できないことがあれば教えてくれますので、ここまでのところ問題はありません。

日本の企業文化についてもう少し説明していただきたいです。あなたのキャリアとホンダ内での歴史はどのようなものですか?
私は大量生産部門のエンジンデザインナーとしてキャリアをスタートしました。ここまでのほぼ30年間で、10年間は大量生産で過ごし、10年間をレースで、そして、10年間を環境技術やAsimoのよな非常に新しいメカ関連のテクノロジーを含めてリサーチ部門で過ごしてきました。ホンダ内でも非常にユニークなキャリアだと思っています!

それはホンダが従業員に対して会社全員を理解することを望んでいる表れでしょうか
そう思います。特にレース部門に関しては、他の会社がどうかはわかりませんが、ホンダではレースエンジニアと大量生産部門のエンジニアが共同で働き、頻繁に異動しています。なので、我々は完全に個別のチームや部門ではありません。F1界においてさえ、それは本当にユニークなことだと思います。

成功するとマクラーレンを信頼させるんはどれくらい難しいですか?
技術的な観点で言えば、ここにいるエンジニアとメカニックは非常にスキルが高いですし、技術全般の知識があります。ですが、もちろん、レーシングサーキットでの経験がない者もいます。非常に小さなことかもしれませんが、我々が知らないF1で使われている特定の名前や言語などがありますし、それについて失望するF1の人々もいますね! もちろん、それは技術開発には関係のないことです。また、我々の側では、それについて多くのプレッシャーを感じているエンジニアもいますので、彼らにはここにいることに慣れるために多くの時間が必要です。

ホンダの一員だった誰もが昨年にホンダが直面した問題を理解していますよね。その結果として今年の目標は変わりましたか? ホンダにとって再建の一年になりますか?
いいえ、まったくそんなことはありません。もちろん、我々の最終目標はチャンピオンシップを獲得することです。その目標は変わっていません。我々は計画していたいくつかのステップを果たしましたが、去年は特定のステップを定めていませんでした。今年に関しては、着実にレースポイントを獲得することが非常に現実的な目標設定かもしれません。

今年はその目標を現実化することが重要ですか? テスト中、ジェンソン・バトンは、楽観的な人々は高い目標を設定するが、達しない場合はそれを思い知らされることになるだろうと言っていました。
その通りです。目標をあまり高く設定しすぎると人々をとても失望させます。もちろん、我々は勝ってチャンピオンシップを獲りたいですが、全員がそれには時間がかかることを理解しています。なので、現実的な目標を立てることが非常に重要だと思いますし、そうでなければ、目標を達成したのかどうかも感じられないと思います。

技術的な観点では、今年のパワーユニットは昨年とは非常に異なると思いますが、どこが最大のゲインだと感じていますか?
ドライバーはすでにパフォーマンスの向上があると言っています。それは回生エネルギーのデプロイメントによるものです。信頼性も我々の最大の改善ですが、それを証明するにはより多くの時間が必要です。特にレース中にそれを証明しなければなりません。ここまでは非常に良いですし、テスト結果にもとても満足していますが、レースマイレージを証明するには十分ではありません。

もっとマイレージを重ねたいのは明らかだと思います。マイレージを重ねる方向でテストにアプローチしましたか? それとも信頼性問題が発生するかもしれないとわかりつつも、エンジンのパフォーマンスを引き出そうとしましたか?
後者です。フルパフォーマンスを使わなければ、意味はありません。そこはバランスですが、信頼性も念頭に置きながら、どれくらいのパフォーマンスを生み出せるポイントを見つけることが非常に重要です。

最大の弱点はどこですか? ホンダが今年前進させたい部分はどこですか?
我々はまだエンジンパワーには満足していません。デプロイメントと回生もです。信頼性を維持しつつ、それらのエリアを改善させたいと思っています。

プレシーズンの8日間が終わりましたが、あまりテストができないときにそれを達成するのはどれくらい難しいですか? インシーズンテストは2回ありますが、レースではテストのためにパフォーマンスを犠牲にしたくはないはずです。
とても難しいですね。ですが、もちろん、我々には日本のさくらにダイナモがあります。テストは非常に重要ですが、まずはダイナモでパフォーマンスを証明し、チェックしなければなりません。テスト後はごくわずかな機会しかないので難しいですが、エンジンパフォーマンスという観点では大きな影響はないはずです。クルマという観点では、おそらくセットアップなどを達成することの方がより難しいでしょう。

ホンダがテストにどれくらい満足しているかに言及しましたが、マクラーレンからも同じフィードバックがありましたか?
エンジンが非常に安定しているので、彼らはクルマのセットアップや空力パフォーマンスに集中できますし、それはチームにとって非常に良いことです。それについては満足しています。

ホンダとマクラーレンのエンジニア間の橋渡し役となるのがあなたの役割の鍵ですか?
もちろん、そうです。チームのタイミングにおいて何が重要かを優先させることです。そこが私の役割のひとつです。

新井さんがあなたに伝えた重要なことは何ですか? おそらく警告があったと思います。
彼は特定のことは何も言いませんでした。彼が言ったのは、ホンダ内の全てを導かなければならないということです。チームのためにも同様かもしれないと。

あなたの就任が発表された際、ホンダのF1へのコミットメントの増加も発表されました。昨年から体制はどのように変わりましたか?
本田技研工業の取締役である松本宜之が、本田技研工業のF1担当役員に就任しました。我々は本田技術研究所の側です。もちろん、去年、本田技研工業もF1には非常に関心を持っていましたし、新井さんは常に本田技研工業に報告していましたが、我々にはそのようなポジションはありませんでした。なので、そのポジションを置くことで、内部と外部で誰に責任があるかが全員に非常に明らかになりましたし、それは我々のF1へのコミットメントを示していると思います。

難しい初年度の後、会社が支えてくれているとわかることはチームに自信を与えますか?
そうですね。そう思います。

2回目のテストで走らせたアップグレードには非常に良いフィードバックがありましたね。1回目のテストで走らせたパワーユニットとどのような違いがありますか? 大きな変更でしたか?
いいえ、仕様は同じですが、内部のパーツとセッティングをいくつか変更したことが最大の違いです。1回目のテストではあまり良いセッティングを準備できていませんでしたが、2回目のテストとレースのためにそれを適用することができました。

それはメルボルンで走らせるものと同じ仕様ですか?
そうですね。まったく同じです。

開幕戦向けに新しいセッティグもありますか?
おそらくありますが、実際にはそうしたくはないです。テストで全体のセッティングとデータをフィックスさせて、そえをメルボルンに持ち込みたいです。それが好ましいですが、もちろん、必要に応じて、修正する必要があるかをチェックすることはできます。

テストで確認したポテンシャルには興奮していますか?
我々がいつも言っているように、テスト結果から見分けるのは非常に難しいです。ですが、パフォーマンスについてはあまり楽観視はしていません。我々は6〜7番手くらいでした。あまり良くはないですよね。昨年と比較すれば良いですが、それほど良くはありません。なので、そこに関しては満足していません。我々にはまだもっと大きな目標があります。

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カテゴリー: F1 / ホンダF1 / マクラーレンF1チーム