マックス・フェルスタッペンの“失うもののない”現状はマクラーレンF1に新たな緊張感
金曜の苦戦、土曜の見事なポールラップ、そして日曜の現実――F1イギリスGPは、マックス・フェルスタッペンの今季を完璧に象徴する週末となった。そして同時に、彼が今もマクラーレンにとって“別の形で”重要な存在であることを示すレースでもあった。

「ひどいレースだった」――これが日曜のレース後にフェルスタッペンが残した言葉だ。観客にとっては雨が演出した壮絶な展開だったが、フェルスタッペンにとってはシーズンを通じて繰り返される“現実”を改めて突きつけられたレースだった。

週末の幕開けとなるメディアデーから、すでに今季の縮図は始まっていた。フェルスタッペンの去就を巡る質問が再び集中し、レッドブルの不安定なパフォーマンスと重なるかたちで、将来に対する憶測がパドックの話題を支配した。

極端なセットアップが語るレッドブルの苦境
コース上での展開も、今季の流れを如実に反映していた。金曜はまたしても苦戦し、フェルスタッペンは「信じられないほど扱いにくい」とアンダーステアを訴える。RB21は非常に狭い作動ウィンドウしか持たず、気温やコース特性の影響を受けやすい。オーストリアでは暑さに苦しみ、低速コーナーでは一貫して力を発揮できない。

さらに問題なのはセットアップの狭さだ。これは前年型から続く課題だが、2025年型マシンでも大きくは改善されていない。加えて、シミュレーターと実走の乖離が大きく、金曜夜に大規模な変更を迫られるのが常態化している。結果的に、金曜から土曜にかけて最もパフォーマンスを伸ばすチームがレッドブルとなることも少なくない。

シルバーストンでは、その“飛躍”のために極端な手段が取られた。リアウイングを削ってローダウンフォース仕様を選択したことで、予選では成果が出た。だが、これは他チームとの決定的な違いを示している。フェラーリはハイダウンフォース寄り、マクラーレンは中間的な安定路線を選び、レッドブルだけがギャンブルに出なければならなかった。

かつては、たとえばスパで他チームより多くダウンフォースを積みながら、直線でも速さを失わない“贅沢な自由”があった。しかし今や、そうした余裕は消え去り、「戦える状態」に持ち込むためにはリスクを取らざるを得ない。

そしてその賭けが、今回は裏目に出た。ウェットコンディションの中でローダウンフォース仕様は不利に働き、フェルスタッペンはスピンで8ポジションを落とす。トラフィックに阻まれ、巻き返しも難しかった。

本人も冷静に現実を受け止める。「スピンがなかったとしても、速さが足りなかった。周囲と比べて自分のペースはそれが限界だった。リアウイングが助けにならなかったし、もっとダウンフォースを載せていてもマクラーレンとは戦えなかった」と認めた。

「スピンがなかったとしても、速さが足りなかった。周囲と比べて自分のペースはそれが限界だった。リアウイングが助けにならなかったし、もっとダウンフォースを載せていてもマクラーレンとは戦えなかった」

フェルスタッペンはそう振り返り、チームの現状を冷静に受け止めている。オーストリアとイギリスにかけて投入された新しいフロアについては「確かに機能している」としつつも、「それだけでは状況を一変させるには不十分」と強調する。

ヘルムート・マルコも同調するかのように、オーストリアで事実上の“白旗”を掲げたあと、イギリスでもこう語った。「まだいくつかのアップデートは用意しているが、それでどうにかなるレベルではない。マクラーレンのほうが上だし、今季中に追いつくのは非常に難しい」

天候がどうであれ、イギリスGPは改めて“純粋なレースペース”での現実を突きつけた週末だった。これは今季のレッドブルにとって、すでに何度も味わってきた感覚だ。

マックス・フェルスタッペン F1

タイトル争いには絡めずとも、マクラーレンにとっては“無視できない存在”
ランキングではすでに69ポイントのビハインド。シーズン折返し時点で、フェルスタッペンのタイトル争いは現実的に終わっている。レッドブルはスパでさらなるアップデートを予定しているが、全チームが2026年のレギュレーションに向けて開発リソースを振り分ける中で、今季を巻き返すのはほぼ不可能だ。

その中で、フェルスタッペンにできるのは「勝てるレースを確実に取ること」と「光る瞬間を見せること」だけ。シルバーストンのようなポールラップや、イモラでのピアストリへのオーバーテイクのように、印象的な走りで存在感を残していく。

それでも、彼は“タイトル争いを左右する存在”として、まだ確かな影響力を持っている。今季すでに4回のポールポジションを記録していることからも分かるように、マクラーレンの2台――ランド・ノリスとオスカー・ピアストリ――は毎戦、序盤の展開で必ずフェルスタッペンと対峙しなければならない。

そして今のフェルスタッペンには、守るべきものがない。タイトル争いから外れたことで、彼は全力で勝利だけを狙いにいける状況にある。自身もイギリスGP前に「もうタイトル争いに絡んでいない分、思いきり楽しんで戦える」と語っていたように、今の彼は“自由な立場”でマクラーレン勢にプレッシャーをかけられる存在だ。

これは2021年以前と似た構図だ。当時のフェルスタッペンは、年間を通じたタイトルではなく、1戦ごとの勝利のためにリスクを惜しまなかった。そして今、あのスタイルが再び戻ってきている。

ペナルティポイントの懸念も小さい。6月30日に2ポイントが消滅し、仮にレース出場停止となっても選手権への影響はほとんどない。コンストラクターズランキングも4位が濃厚であり、欠場がレッドブルに大きな打撃を与えることもない。

この状況は、マクラーレンの2人にとって見過ごせない。直接のライバルであるチームメイトとのポイント争いが熾烈を極める中、フェルスタッペンと激しくバトルすることが「無用なリスク」になる可能性があるのだ。

とはいえ、フェルスタッペンを警戒しすぎて自滅するわけにもいかない。あくまで2人のタイトル争いが優先であり、彼らにとっては「彼をどう扱うか」という駆け引きが新たな戦略要素として加わる。

今季のタイトルレースの主役からは外れたフェルスタッペンだが、それでもまだサーキット上の“支配者”であることに変わりはない。オレンジ(フェルスタッペン)対パパイヤ(マクラーレン)の構図は続いており、その形は徐々に変化しながら、これからの戦いに新たな緊張感をもたらしていくだろう。

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カテゴリー: F1 / マックス・フェルスタッペン / レッドブル・レーシング / マクラーレンF1チーム