トヨタ:ニュルブルクリンク VLN1 予選/決勝レポート
トヨタが2007年からスタートした「ニュルブルクリンクへの挑戦」も、今年で11年目となった。
「もっといいクルマ作り」の軸を支える重要な活動の1つであり、この10年で様々な変化が生まれた。中古のアルテッツァでの参戦から、LEXUS LFA、トヨタ86、そしてクロスオーバートヨタ C-HRにより参戦が行なわれた。
特にC-HRはTNGAの進化・熟成なども担っており、「極限でのテスト」がスポーツカーに限らず浸透し始めている証拠にもなった。この10年の経験や知見は、確実に市販モデルにフィードバックされているのである。
新たな1年目としてスタートとなる2017年のニュルブルクリンクへの挑戦は、「人とクルマを鍛える」原点を見つめなおし、「人を鍛える」面でも、エンジニアのリーダーに今年初めて参加する若手の茶谷を起用したほか、チーフメカニックは2007年からニュルへの挑戦に関わってきた平田が担当。メカニックは5名で、昨年無念のリタイヤ経験したメンバーで構成、2年目の成長への期待はもちろん、リベンジも掛かっている。
マシンは過去2年参戦しているLEXUS RCとなるが、その経験や反省を活かして大幅な改良を実施。初年度は“あえて”市販車のアイテムを採用してきた部分が多かったが、今年のマシンはパワートレイン、ドライブトレイン、フットワーク、軽量化、空力などに将来のスポーツカー開発のための技術蓄積を行なうためのスペシャルアイテムを投入するなど、これまで以上にエンジニアリングにも力が入っており、エンジニアの人づくりにも大きく貢献している。そういう意味では、LEXUS RCによるニュルブルクリンク挑戦「3年目の集大成」と言えるマシンと言ってもいい。とは言え、クルマづくりは全て順調だったわけではない。2016年末に行なわれた火入れ、シェイクダウン、国内テストでは様々なトラブルが発生。エンジニア・メカニックの力で解決すべき多くの課題は毎回数多く見つかった。それらを1つ1つ確実に修正・調整を行ない、国内最終テストでは2016年仕様よりも6秒速いタイムを記録。3名のドライバーからも「温度も安定」、「乗りやすい」とポジティブな意見が数多く聞かれた。
国内テストを終えたマシンは海を渡り、ドイツ・ニュルブルクリンクへ。3月25日に行なわれたニュルブルクリンク耐久シリーズ第1戦(VLN1※)へ参戦した。
ここでのミッションはニュル24時間に向けた様々なトライやデータ取り、そして実戦経験で人の動きや改善点を洗い出すこと。つまり、「クルマ」と「人」の実戦テストである。今回のドライバーは松井孝允/蒲生尚弥選手の2名での参戦。
※VLNはニュルブルクリンクで年間11回開催されている耐久レースシリーズの事で、3-4月に開催されるVLN1/VLN2には、ニュル24時間に向けたテスト/調整を兼ねて参戦を行なうチームも多く、TOYOTA GAZOO Racing も毎年エントリーを行なっている。
前日の練習走行は、クルマの状況やコースの状況を見ながらセットアップに専念。空力やサスペンション、トランスミッション、燃料マップなどを、ニュルのコースの特性に合わせて様々なセットアップをトライ。2名のドライバーの評価を反映しながらクルマを仕上げていった。
迎えた3月25日の8時半、快晴の天気の中でスタートした予選もタイムアタックが目的ではなく、前日同様にセットアップに専念。セットアップを変更する度にクルマは良い方向に仕上がっていたようで、ドライバーからは「マシンは速い上に安定して乗りやすい」と言う高い評価も。結果は8分56秒073と9分台を切るRC最速タイムを記録、更にSP3Tクラストップも獲得。クルマの仕上がりが結果になって現れてきた。
12時から行なわれた4時間の決勝レースは松井→蒲生→松井→蒲生の順番で走行。トラブルもあった国内テストとは打って変わり、ルーティン以外にピットインをする状況も発生することなく順調に周回を重ねる。その結果、スタートから1回もトップを譲ることなく4時間を走り切り、クラス優勝を獲得。しかし、大事なのはこの順位ではなく、順調に周回を重ねたことで、ニュル24時間に向けた多くのセットアップや様々なデータの収集ができたことが大きい。
マシンの仕上がりに満足する一方で、メカニックにはいくつか反省があり、コミュニケーション不足や作業後の報告、共有の漏れ、レース現場での焦りや時間の無さによる確認ミスなども見られた。しかし、チーフメカニックの平田の指摘の前に、メカニック自身も課題としてシッカリと認識しているようで、次回に向けて確実に改善が行っていくはずである。
このプロジェクトはレースに勝つ事が目的ではないものの、LEXUS RCの参戦するSP3Tクラスは強豪揃いの激戦区の1つであることから、VLN1で得られた知見やドライバーからのフィードバック、そして各々の反省を踏まえ、短い期間の中で更に乗りやすいクルマに改善と対策を実施。ニュル24時間に向けて更なるステップアップを行なう。
松井孝允
今年のVLN1は最初からクルマの限界で走ることができたので、ニュル24時間に向けてのいいスタートが切れました。国内テストでは、ニュルのコースを想定したセットに仕上げたつもりでしたが、実際にニュルを走ると準備が足りなかったように感じます。しかし、今回は数多くのメニューをこなすことができたので、乗りやすいクルマに仕上げることができました。去年悔しい想いをしましたが、今年はクルマの仕上がりを考えると、結果もシッカリついてくると信じています。
茶谷チーフエンジニア(トヨタ自動車社員)
練習走行から大きなトラブルなくレースでは優勝できましたが、それよりもニュルブルクリンクで車両としても、チームとしてもいろいろ試せた事が大きいです。長時間での車両評価、私のレース経験が共に初だったので常に緊張していましたが、これまでのチームの頑張り、成果が今回の結果で現れたと思います。しかし、我々の目標は今回のレースでのテスト結果をニュルブルクリンク24時間レースにつなげること、メンバーが得られた技術を市販車につなげる事。それを忘れてはいけません。今回のレースでは自分が任された作業でのミスがありましたがチームに助けられました。このミスもしっかり次に繋げたいです。
平田チーフメカニック(トヨタ自動車社員)
予選からのセット変更も実施する度にクルマもよくなっていますし、結果もよかったのでメカニックたちのモチベーションにも繋がっていると思います。彼らは2年目でクルマの整備や準備がシッカリできていますし、困った時に手助けもできるのですが、作業時の合図や各々のコミュニケーションが不足していることや、自分がすべきことを考えて自主的に動けていない事がまだまだ多いです。2年目のメンバーですが、成長して欲しい部分はまだまだあります。
カテゴリー: F1 / トヨタ
「もっといいクルマ作り」の軸を支える重要な活動の1つであり、この10年で様々な変化が生まれた。中古のアルテッツァでの参戦から、LEXUS LFA、トヨタ86、そしてクロスオーバートヨタ C-HRにより参戦が行なわれた。
特にC-HRはTNGAの進化・熟成なども担っており、「極限でのテスト」がスポーツカーに限らず浸透し始めている証拠にもなった。この10年の経験や知見は、確実に市販モデルにフィードバックされているのである。
新たな1年目としてスタートとなる2017年のニュルブルクリンクへの挑戦は、「人とクルマを鍛える」原点を見つめなおし、「人を鍛える」面でも、エンジニアのリーダーに今年初めて参加する若手の茶谷を起用したほか、チーフメカニックは2007年からニュルへの挑戦に関わってきた平田が担当。メカニックは5名で、昨年無念のリタイヤ経験したメンバーで構成、2年目の成長への期待はもちろん、リベンジも掛かっている。
マシンは過去2年参戦しているLEXUS RCとなるが、その経験や反省を活かして大幅な改良を実施。初年度は“あえて”市販車のアイテムを採用してきた部分が多かったが、今年のマシンはパワートレイン、ドライブトレイン、フットワーク、軽量化、空力などに将来のスポーツカー開発のための技術蓄積を行なうためのスペシャルアイテムを投入するなど、これまで以上にエンジニアリングにも力が入っており、エンジニアの人づくりにも大きく貢献している。そういう意味では、LEXUS RCによるニュルブルクリンク挑戦「3年目の集大成」と言えるマシンと言ってもいい。とは言え、クルマづくりは全て順調だったわけではない。2016年末に行なわれた火入れ、シェイクダウン、国内テストでは様々なトラブルが発生。エンジニア・メカニックの力で解決すべき多くの課題は毎回数多く見つかった。それらを1つ1つ確実に修正・調整を行ない、国内最終テストでは2016年仕様よりも6秒速いタイムを記録。3名のドライバーからも「温度も安定」、「乗りやすい」とポジティブな意見が数多く聞かれた。
国内テストを終えたマシンは海を渡り、ドイツ・ニュルブルクリンクへ。3月25日に行なわれたニュルブルクリンク耐久シリーズ第1戦(VLN1※)へ参戦した。
ここでのミッションはニュル24時間に向けた様々なトライやデータ取り、そして実戦経験で人の動きや改善点を洗い出すこと。つまり、「クルマ」と「人」の実戦テストである。今回のドライバーは松井孝允/蒲生尚弥選手の2名での参戦。
※VLNはニュルブルクリンクで年間11回開催されている耐久レースシリーズの事で、3-4月に開催されるVLN1/VLN2には、ニュル24時間に向けたテスト/調整を兼ねて参戦を行なうチームも多く、TOYOTA GAZOO Racing も毎年エントリーを行なっている。
前日の練習走行は、クルマの状況やコースの状況を見ながらセットアップに専念。空力やサスペンション、トランスミッション、燃料マップなどを、ニュルのコースの特性に合わせて様々なセットアップをトライ。2名のドライバーの評価を反映しながらクルマを仕上げていった。
迎えた3月25日の8時半、快晴の天気の中でスタートした予選もタイムアタックが目的ではなく、前日同様にセットアップに専念。セットアップを変更する度にクルマは良い方向に仕上がっていたようで、ドライバーからは「マシンは速い上に安定して乗りやすい」と言う高い評価も。結果は8分56秒073と9分台を切るRC最速タイムを記録、更にSP3Tクラストップも獲得。クルマの仕上がりが結果になって現れてきた。
12時から行なわれた4時間の決勝レースは松井→蒲生→松井→蒲生の順番で走行。トラブルもあった国内テストとは打って変わり、ルーティン以外にピットインをする状況も発生することなく順調に周回を重ねる。その結果、スタートから1回もトップを譲ることなく4時間を走り切り、クラス優勝を獲得。しかし、大事なのはこの順位ではなく、順調に周回を重ねたことで、ニュル24時間に向けた多くのセットアップや様々なデータの収集ができたことが大きい。
マシンの仕上がりに満足する一方で、メカニックにはいくつか反省があり、コミュニケーション不足や作業後の報告、共有の漏れ、レース現場での焦りや時間の無さによる確認ミスなども見られた。しかし、チーフメカニックの平田の指摘の前に、メカニック自身も課題としてシッカリと認識しているようで、次回に向けて確実に改善が行っていくはずである。
このプロジェクトはレースに勝つ事が目的ではないものの、LEXUS RCの参戦するSP3Tクラスは強豪揃いの激戦区の1つであることから、VLN1で得られた知見やドライバーからのフィードバック、そして各々の反省を踏まえ、短い期間の中で更に乗りやすいクルマに改善と対策を実施。ニュル24時間に向けて更なるステップアップを行なう。
松井孝允
今年のVLN1は最初からクルマの限界で走ることができたので、ニュル24時間に向けてのいいスタートが切れました。国内テストでは、ニュルのコースを想定したセットに仕上げたつもりでしたが、実際にニュルを走ると準備が足りなかったように感じます。しかし、今回は数多くのメニューをこなすことができたので、乗りやすいクルマに仕上げることができました。去年悔しい想いをしましたが、今年はクルマの仕上がりを考えると、結果もシッカリついてくると信じています。
茶谷チーフエンジニア(トヨタ自動車社員)
練習走行から大きなトラブルなくレースでは優勝できましたが、それよりもニュルブルクリンクで車両としても、チームとしてもいろいろ試せた事が大きいです。長時間での車両評価、私のレース経験が共に初だったので常に緊張していましたが、これまでのチームの頑張り、成果が今回の結果で現れたと思います。しかし、我々の目標は今回のレースでのテスト結果をニュルブルクリンク24時間レースにつなげること、メンバーが得られた技術を市販車につなげる事。それを忘れてはいけません。今回のレースでは自分が任された作業でのミスがありましたがチームに助けられました。このミスもしっかり次に繋げたいです。
平田チーフメカニック(トヨタ自動車社員)
予選からのセット変更も実施する度にクルマもよくなっていますし、結果もよかったのでメカニックたちのモチベーションにも繋がっていると思います。彼らは2年目でクルマの整備や準備がシッカリできていますし、困った時に手助けもできるのですが、作業時の合図や各々のコミュニケーションが不足していることや、自分がすべきことを考えて自主的に動けていない事がまだまだ多いです。2年目のメンバーですが、成長して欲しい部分はまだまだあります。
カテゴリー: F1 / トヨタ