トヨタF1:パスカル・バセロン(F1イギリスGPプレビュー)
トヨタF1チームのシャシー部門シニア・ゼネラル・マネージャーであるパスカル・バセロンが、2009年F1第8戦 イギリスGPが開催されるシルバーストン・サーキットにむけてのTF109のパフォーマンスを語った。
シルバーストンではスピードが肝心なのでしょうか?
確かにその通りだが、シルバーストンには一種の矛盾もある。というのは、シルバーストンは優れた空力効率が求められ、平均速度が高い一方で、肝心なのはやはりそれぞれのコーナーだからだ。ほとんどが高速のコーナーだがね。だが、シルバーストンはモンツァとは違う。モンツァも高速コースだが、あそこでは長いストレートが勝負になる。従ってシルバーストンでは、最高速度が伸びれば自然にラップタイムが速くなる、というわけではない。
クルマとドライバーに対し、マゴッツ〜ベケッツの複合コーナーが特に大きな負荷となるということですが、それはどういった負荷なのですか?
ドライバーにとって技術的に難しいと言えるのがこの区間だ。その理由は、まず高速で進入し、続けてかなり高速のまま何度か進行方向を変えなければならず、しかもややカーブがキツくなっていくためだ。クルマから最大限のグリップを引き出すことが重要なのは他のあらゆるサーキットと同じだが、シルバーストンの場合、クルマの瞬間的なハンドリング特性の良さが大きな要素にもなる。それが重要になるのは、コースにこの区間があるためと言っていい。ここでは高速走行中のクルマの進行方向を変える際、ドライバーが十分な自信を持ってドライビングできることが必須条件となる。従って、この区間に渡ってクルマの操作性能をしっかりと高めるべく(セットアップ作業に)集中することになる。
この区間は、タイヤにどのような影響を及ぼすのでしょう?
タイヤの構造に対し、この区間のコーナーは非常に厳しい負荷要因になる。この区間は長く、また高速での走行を強いられるため、タイヤに非常に大きな負荷がかかる。だが、現在ではこれについてそれほど心配する必要はない。タイヤの構造に過度のストレスを与えないよう、タイヤの内圧とキャンバー角を最適に保つ必要があるだけだ。かつて複数のタイヤメーカーが競っていた時代には、今よりも限界ギリギリのレベルでタイヤを使っていたため、そうした点がかなりの懸念材料になっていた。シルバーストンの場合、タイヤ側の視点から見ると、シャシーについてと同じく、コーナリング中の(タイヤやサスペンションなどの)硬さがグリップの最大値と同じくらい重要な要素になる。
シルバーストンのような高速サーキットはTF109に適しているのでしょうか?
コースのレイアウトが我々のパッケージに合っているはずなので、我々としては強さを発揮できると考えている。今シーズンのここまでの所、ハイレベルな空力効率が求められるコースでは、非常に高い競争力を発揮してきたから、シルバーストンに関しても楽観的に考えている。我々にとってトルコGPはいつもの調子を取り戻したレースだったし、今週末もそのパフォーマンスを高め、真に競争力の高いクルマに仕上げられるはずだと考えている。
モナコGPからトルコGPまでの間に、どうやってチームはあれほど大きな進化を実現できたのでしょう?
まず言いたいのは、モナコでの結果は、コースのレイアウト特性とレース環境が組み合わさったために生じた1回限りのものだったということだ。従って、トルコで同じ問題が再発することはないと我々は自信を持っていた。ただし、シーズン序盤の自分たちのレベルを取り戻せるのかどうか、分からない部分もあった。と言うのも、スペインではスタート直後の1コーナーのアクシデントによりレースが残念なことになり、続いてモナコでのレースがあったため、判断が難しかったからだ。我々は、クルマの全体的なパフォーマンスを改善すると同時に、既に解明していたモナコでの課題に対応したパーツを開発するため、ファクトリーで多大な努力を注いだ。ほとんどのレースと同じく、トルコにも幾つか新パーツを持ち込み、クルマの主要パーツの幾つかをアップデートしたが、それらが非常に上手く機能し、お陰でよりよい進化を遂げることができた。特に満足感が大きかったのは、あのコースの低速区間で最も競争力が高かったことだ。我々はシーズンの最後まで継続的な開発を計画しており、ここまでの所、目標にしている開発ペースを維持できている。
シーズンの前半戦が終わりに近づいてきましたが、技術的な観点から見て、ここまでは予想通りだったでしょうか?
今の我々は、シーズン前のテスト結果から想定できた位置とほぼ同じ位置にいる。つまり、トップ3だ。良いスタートを切れたし、グリッド上位で戦っており、表彰台を3度獲得してコンストラクターズ選手権では3位につけている。ここまでの戦いは今後に向けてかなり期待できるもので、我々が正しい位置にいるのも間違いない。ただし、我々には更に大きな目標があり、今年はそれを実現したいと思っているので、満足はしていない。パフォーマンスに関してトップ3以内にいるとは言え、実力で優勝争いをするにはまだ僅かながら欠けているものがある。優勝こそが我々の目標であり、トップとの差を縮めるべく、我々は懸命に仕事を続けている。
TF109を全体的にみて、クルマの開発に関してトヨタが選択した方向性には満足していますか?
冬のテスト及びシーズン序盤の我々のパフォーマンスを見れば、TF109の開発の方向性は、クルマのコンセプト作りの段階から正しかったことが分かる。これまでの所、モナコGP後に幾つかの対策に取り組む必要があったとは言え、元々のコンセプトを見直す必要などなかったし、このクルマに関して根本的な問題は何もないと言える。従って、TF109の開発のやり方に関して、私は何も後悔していない。お陰でクルマの基本的な競争力は非常に高いものになった。現在のハードルはとにかく効率を高め、このパッケージから更なるパフォーマンスを引き出すことだけだ。
今回がシルバーストンで予定されている最後のイギリスGPになります。シルバーストンがF1カレンダーから外れることについては残念に思いますか?
マニクール・サーキットに愛着があるフランス人の私にとっても、シルバーストンがF1カレンダーから姿を消すのは寂しいと言わざるを得ない。と言うのも、このサーキットはモータースポーツの歴史の中で大きな役割を果たしてきたからね。シルバーストンがF1の伝統の一部であることは間違いないし、そのレイアウトはドライバーにとって本当にハードルが高く、この点に関してはスパ・フランコルシャンや鈴鹿に並ぶ。伝統のあるサーキットだけに、私も(ここがF1カレンダーから外れれば)寂しく感じるだろう。当地の天候に関してはイライラさせられることがよくあるとは言えね。私が初めてシルバーストンに足を運んだのは、15年前にツーリングカーのレースでタイヤメーカーのサポート担当として訪れた時だった。あの時は路面温度が42度だった。あの時のことはよく覚えている。その温度に対応できるスペックのタイヤを持ち合わせていなかったからね!
開催日程:2009年 F1 イギリスGP
カテゴリー: F1 / トヨタ / F1イギリスGP
シルバーストンではスピードが肝心なのでしょうか?
確かにその通りだが、シルバーストンには一種の矛盾もある。というのは、シルバーストンは優れた空力効率が求められ、平均速度が高い一方で、肝心なのはやはりそれぞれのコーナーだからだ。ほとんどが高速のコーナーだがね。だが、シルバーストンはモンツァとは違う。モンツァも高速コースだが、あそこでは長いストレートが勝負になる。従ってシルバーストンでは、最高速度が伸びれば自然にラップタイムが速くなる、というわけではない。
クルマとドライバーに対し、マゴッツ〜ベケッツの複合コーナーが特に大きな負荷となるということですが、それはどういった負荷なのですか?
ドライバーにとって技術的に難しいと言えるのがこの区間だ。その理由は、まず高速で進入し、続けてかなり高速のまま何度か進行方向を変えなければならず、しかもややカーブがキツくなっていくためだ。クルマから最大限のグリップを引き出すことが重要なのは他のあらゆるサーキットと同じだが、シルバーストンの場合、クルマの瞬間的なハンドリング特性の良さが大きな要素にもなる。それが重要になるのは、コースにこの区間があるためと言っていい。ここでは高速走行中のクルマの進行方向を変える際、ドライバーが十分な自信を持ってドライビングできることが必須条件となる。従って、この区間に渡ってクルマの操作性能をしっかりと高めるべく(セットアップ作業に)集中することになる。
この区間は、タイヤにどのような影響を及ぼすのでしょう?
タイヤの構造に対し、この区間のコーナーは非常に厳しい負荷要因になる。この区間は長く、また高速での走行を強いられるため、タイヤに非常に大きな負荷がかかる。だが、現在ではこれについてそれほど心配する必要はない。タイヤの構造に過度のストレスを与えないよう、タイヤの内圧とキャンバー角を最適に保つ必要があるだけだ。かつて複数のタイヤメーカーが競っていた時代には、今よりも限界ギリギリのレベルでタイヤを使っていたため、そうした点がかなりの懸念材料になっていた。シルバーストンの場合、タイヤ側の視点から見ると、シャシーについてと同じく、コーナリング中の(タイヤやサスペンションなどの)硬さがグリップの最大値と同じくらい重要な要素になる。
シルバーストンのような高速サーキットはTF109に適しているのでしょうか?
コースのレイアウトが我々のパッケージに合っているはずなので、我々としては強さを発揮できると考えている。今シーズンのここまでの所、ハイレベルな空力効率が求められるコースでは、非常に高い競争力を発揮してきたから、シルバーストンに関しても楽観的に考えている。我々にとってトルコGPはいつもの調子を取り戻したレースだったし、今週末もそのパフォーマンスを高め、真に競争力の高いクルマに仕上げられるはずだと考えている。
モナコGPからトルコGPまでの間に、どうやってチームはあれほど大きな進化を実現できたのでしょう?
まず言いたいのは、モナコでの結果は、コースのレイアウト特性とレース環境が組み合わさったために生じた1回限りのものだったということだ。従って、トルコで同じ問題が再発することはないと我々は自信を持っていた。ただし、シーズン序盤の自分たちのレベルを取り戻せるのかどうか、分からない部分もあった。と言うのも、スペインではスタート直後の1コーナーのアクシデントによりレースが残念なことになり、続いてモナコでのレースがあったため、判断が難しかったからだ。我々は、クルマの全体的なパフォーマンスを改善すると同時に、既に解明していたモナコでの課題に対応したパーツを開発するため、ファクトリーで多大な努力を注いだ。ほとんどのレースと同じく、トルコにも幾つか新パーツを持ち込み、クルマの主要パーツの幾つかをアップデートしたが、それらが非常に上手く機能し、お陰でよりよい進化を遂げることができた。特に満足感が大きかったのは、あのコースの低速区間で最も競争力が高かったことだ。我々はシーズンの最後まで継続的な開発を計画しており、ここまでの所、目標にしている開発ペースを維持できている。
シーズンの前半戦が終わりに近づいてきましたが、技術的な観点から見て、ここまでは予想通りだったでしょうか?
今の我々は、シーズン前のテスト結果から想定できた位置とほぼ同じ位置にいる。つまり、トップ3だ。良いスタートを切れたし、グリッド上位で戦っており、表彰台を3度獲得してコンストラクターズ選手権では3位につけている。ここまでの戦いは今後に向けてかなり期待できるもので、我々が正しい位置にいるのも間違いない。ただし、我々には更に大きな目標があり、今年はそれを実現したいと思っているので、満足はしていない。パフォーマンスに関してトップ3以内にいるとは言え、実力で優勝争いをするにはまだ僅かながら欠けているものがある。優勝こそが我々の目標であり、トップとの差を縮めるべく、我々は懸命に仕事を続けている。
TF109を全体的にみて、クルマの開発に関してトヨタが選択した方向性には満足していますか?
冬のテスト及びシーズン序盤の我々のパフォーマンスを見れば、TF109の開発の方向性は、クルマのコンセプト作りの段階から正しかったことが分かる。これまでの所、モナコGP後に幾つかの対策に取り組む必要があったとは言え、元々のコンセプトを見直す必要などなかったし、このクルマに関して根本的な問題は何もないと言える。従って、TF109の開発のやり方に関して、私は何も後悔していない。お陰でクルマの基本的な競争力は非常に高いものになった。現在のハードルはとにかく効率を高め、このパッケージから更なるパフォーマンスを引き出すことだけだ。
今回がシルバーストンで予定されている最後のイギリスGPになります。シルバーストンがF1カレンダーから外れることについては残念に思いますか?
マニクール・サーキットに愛着があるフランス人の私にとっても、シルバーストンがF1カレンダーから姿を消すのは寂しいと言わざるを得ない。と言うのも、このサーキットはモータースポーツの歴史の中で大きな役割を果たしてきたからね。シルバーストンがF1の伝統の一部であることは間違いないし、そのレイアウトはドライバーにとって本当にハードルが高く、この点に関してはスパ・フランコルシャンや鈴鹿に並ぶ。伝統のあるサーキットだけに、私も(ここがF1カレンダーから外れれば)寂しく感じるだろう。当地の天候に関してはイライラさせられることがよくあるとは言えね。私が初めてシルバーストンに足を運んだのは、15年前にツーリングカーのレースでタイヤメーカーのサポート担当として訪れた時だった。あの時は路面温度が42度だった。あの時のことはよく覚えている。その温度に対応できるスペックのタイヤを持ち合わせていなかったからね!
開催日程:2009年 F1 イギリスGP
カテゴリー: F1 / トヨタ / F1イギリスGP