佐藤琢磨 「インディカーはマシン設計に関する根本的な改正が必要」
佐藤琢磨がインディカー・シリーズで迎えた記念すべき10年目のシーズンは、開幕戦でリタイヤするという残念な滑り出しとなった。セントピーターズバーグの市街地コースで全ドライバーが最後のピットストップを終えたとき、佐藤琢磨は8番手につけていただけに、悔しさもひとしおだったといえる。
もっとも、8番手まで追い上げられたのは佐藤琢磨が見事な手腕を発揮したからだ。
予選で不運なペナルティを科せられた佐藤琢磨は20番グリッドからライバルたちを掻き分けてここまで挽回した。もしも不運がなければ、昨年に続いて在籍することになったレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング・チーム(RLLR)は佐藤琢磨とグレアムがふたり揃って上位に進出する大活躍を示していたことだろう。
佐藤琢磨にとって、RLLRに残留して参戦態勢の維持を図ったのは好ましいことだったが、2018年9月に最終戦を終えて以降の歩みは決して楽なものではなかった。
「嬉しいことではあるんですが、オフシーズンも予定が詰まっていて忙しい冬でした」と佐藤琢磨は語る。
「冬の間を通して進歩を果たしてきました。もちろん、それはどのチームにとっても同じことでしょう。けれども、僕たちはたくさんの解析を行い、2018年にウィークポイントと思われた点の強化を図りました。これはとてもいいことだと思います」
「ほとんどすべての分野に素晴らしい変更を実施しました。F1の経験もあり、インディア500では伝説的なエンジニアと呼ばれているアレン・マクドナルドを新たに迎え、グレアムが乗る15号車を担当することになりました。30号車を担当する僕のエンジニアであるエディー・ジョーンズも同じことです。アレンの加入は、僕たちの最大の弱点がスーパースピードウェイにあったことを考えれば、本当に重要なことだといえます」
「僕たちは冬のテストでこれまでと大きく異なるセットアップ・フィロソフィーを見つけ出しましたが、これには期待しています。コンペティティブになるためのすべてがうまくいっているわけではありませんが、昨年の同じ時期に比べれば準備はずっと進んでいますし、レイホール・チームでの在籍2年目となる今シーズンはいろいろな意味でとても快適です」
インディカーがフロリダの市街地を走り始めたのは金曜日のこと。その最初のセッションで佐藤琢磨は6番手となり、2回目のセッションでは12番手につけた。さらに土曜日の午前中に行なわれたセッションでは大きな進歩を見せ、30号車は3番手タイムをマークしていた。
「開幕戦を行なううえでセントピーターズバーグは理想的な土地だと思います。ファンはとても熱狂的ですし、凍えそうなくらい寒い中西部からフロリダにやってこられたのです! 通常、最初のセッションではとてもたくさんのことを試しますが、冬の間の準備を通じて僕たちはたくさんの知識を得ていました。持ち込みの段階からマシンは好調で、したがって慌ててセットアップを大幅に変更する必要はありませんでした。全セッションを通じて、僕たちはどんどん進化していったといえます」
「唯一心配だったのは柔らかいレッドタイヤを履いたときのパフォーマンスです。金曜日にはレギュレーションで許された1セットを試しましたが、ブラックよりも遅い状態でした。バランスに関する作業を行なわなければいけないのは明らかです。けれども、土曜日は3番手という好結果に終わったため、僕は大いに喜びました」
悲しいことに、その成果を予選結果に結びつけることはできなかった。佐藤琢磨は自分の予選グループで5番手につけており、第2セグメントに進出するのは確実と思われていたが、ベストラップが抹消されたため、予選グループの10番手となり、20番グリッドから決勝レースに挑むことになった。
「本当に残念でした」と佐藤琢磨は語る。
「僕たちは通常のプログラムをこなしていました。ブラック・タイヤで行なったウォームアップは7番手か8番手だったので、レッド・タイヤでの走行にも自信を持っていました。走り出すと、金曜日の午後よりもずっと感触がいいことがわかりました。ただし、バランスに関しては僕の好みとはいえません」
「レッド・タイヤはとても柔らかいため、アタックできるのはたったの1周か、うまくいって2周です。今回、2ラップ目では1ラップ目より少しだけハードに攻めました。実際、セクター1は1周目より少しだけ速くなっていました。続いてターン4でハードブレーキングを試みたところ、リアがロックアップしてヒヤッとしました。僕は「おっと、コーナーは曲がりきれるだろうけれど、リスクは冒したくない」と考え、エスケープロードに一旦入り、そこでUターンしてコースに戻ろうとしました。ところが残念なことに、僕と同じタイミングでタイムアタックをしているドライバーがいたのです。このためイエローが提示されました。そして僕は、イエローを出したことで他のドライバーのアタックを邪魔したとしてペナルティを科せられました。これはとても残念なことです。厳しいルールですが、スコット・ディクソンがコース上でスピンしたとき、彼の横を通過したドライバーはまだアウトラップだったため、ディクソンは誰のアタックも邪魔していないと判断されました」
決勝日の朝に行われたウォームアップでは状況が改善された。RLLRのレイホールと佐藤琢磨がこのセッションで1−2のタイムを叩き出した。
「この結果は嬉しいものでしたが、これにはちょっとした秘密があります。どのドライバーにもブラック・タイヤとレッド・タイヤを使うチャンスがあるほか、秒数は限られているもののプッシュ・トゥ・パスも使用できます(エンジンのマッピングチェックのため)。このふたつを速いラップタイムのときに同時に使うのです。グレアムと僕はこれをしました。あらかじめ予定していたわけではありませんが、結果的にこのような状況となりました」
「自分たちのレースカーがとてもいいことには自信がありました。問題はレッド・タイヤのライフが極端に短いことで、最初の1ラップはとても速く、続く4周も安定したペースで走れるものの、その後は温度にもよりますが急激に性能が低下していきます。そしてこれはファイアストンがインディカーにレッド・タイヤを導入して初めてのことだと思いますが、全ドライバーがスタートでレッド・タイヤを選択したのです。このため、定石以外のレース戦略は事実上、選べなくなってしまいました!」
「レースでは少なくとも3ストップが必要になるのは間違いなく、できるだけ早くレッド・タイヤからブラックに履き替えたくなるのも明らかでした。僕の手元には新品のレッド・タイヤが2セットあって、通常、これは好ましいことですが、今回は1セットしか使いたくなりません。そして誰もが同じように考えることが予想されました」
抜群のスタートを決めた佐藤琢磨は最初の2ラップで20番手から16番手へとジャンプアップ。その後、10ラップ目に最初のピットストップが行なわれるまで、そのポジションを守りきった。コース上に立ち往生したライアン・ハンター-レイのマシンを排除するために最初のイエローが提示されると、通常とは異なる戦略を選ぶドライバーが現れたことで佐藤琢磨は14番手に浮上。リスタートではザック・ヴィーチを仕留めて13番手となった。ほどなくエド・ジョーンズとマテウス・ライストの接触をきっかけとして再びイエローが提示され、その直後に行なわれたリスタートで佐藤琢磨は9番手まで挽回。42周目に2回目のピットストップを行ない、これが一巡すると30号車はサイモン・パジェノーに続く8番手につけていた。シーズン開幕戦としては悪くない展開だった。
「すべて順調に進んでいました」と佐藤琢磨は語る。
「戦略でできることが限られていることは誰の目にも明らかでした。サイモンに続いて残り30周を迎えたところで、突然トラブルが発生しました。ターン10に向けてハードブレーキングをしながらダウンシフトを行なおうとしたところ、ギアが3速にスタックしてストップしなければいけなくなったのです。僕たちはギアボックスのコントロールユニットを交換しようとしましたが、結果は変わりませんでした。この時点では、油圧が上がらなかったので、電気系のケーブルかオイルラインにダメージを負ったのだろうと考えていました」
「マシンをガレージに引き戻して詳しく調べると、冷却気採り入れ口のひとつがタイヤのマーブルと破片で完全にブロックされており、これが原因でオーバーヒートを起こしてシステムが停止したことが判明しました。物理的に壊れたところはどこにもなかったので、本当に残念でした。このエアインテークに関しては対処できることがなく、インディカーのマシン設計に関する根本的なレギュレーションの改正が必要だと考えられます」
「その後のレースに波乱はなかったので、僕はサイモンに続く8位でフィニッシュできたはずです。けれども、自分たちがいいポジションにいることについてはポジティブに捉えていました」
インディカー・シリーズの第2戦は、F1アメリカGPと同じ、テキサス州オースティン近郊のサーキット・オブ・ジ・アメリカで開催される。佐藤琢磨がインディカーへの参戦を始めたのはサーキット・オブ・ジ・アメリカがF1カレンダーに組み込まれる以前のことだが、このコースもプリシーズン・テストのスケジュールに入っていたため、佐藤琢磨はすでにその味見を済ませている。
「素晴らしいサーキットです」と佐藤琢磨は語る。
「流れるような高速コーナーがいくつもあります。世界でもトップクラスの設備であることは間違いなく、ここでレースすることをいまから楽しみにしています。シーズンオフのテストはとても興味深いものでした。個人的には満足できませんでしたが、チームとしては多くのことを学びました。できればエキサイティングなレースを演じ、いい結果を残したいですね」
カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨 / インディカー
もっとも、8番手まで追い上げられたのは佐藤琢磨が見事な手腕を発揮したからだ。
予選で不運なペナルティを科せられた佐藤琢磨は20番グリッドからライバルたちを掻き分けてここまで挽回した。もしも不運がなければ、昨年に続いて在籍することになったレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング・チーム(RLLR)は佐藤琢磨とグレアムがふたり揃って上位に進出する大活躍を示していたことだろう。
佐藤琢磨にとって、RLLRに残留して参戦態勢の維持を図ったのは好ましいことだったが、2018年9月に最終戦を終えて以降の歩みは決して楽なものではなかった。
「嬉しいことではあるんですが、オフシーズンも予定が詰まっていて忙しい冬でした」と佐藤琢磨は語る。
「冬の間を通して進歩を果たしてきました。もちろん、それはどのチームにとっても同じことでしょう。けれども、僕たちはたくさんの解析を行い、2018年にウィークポイントと思われた点の強化を図りました。これはとてもいいことだと思います」
「ほとんどすべての分野に素晴らしい変更を実施しました。F1の経験もあり、インディア500では伝説的なエンジニアと呼ばれているアレン・マクドナルドを新たに迎え、グレアムが乗る15号車を担当することになりました。30号車を担当する僕のエンジニアであるエディー・ジョーンズも同じことです。アレンの加入は、僕たちの最大の弱点がスーパースピードウェイにあったことを考えれば、本当に重要なことだといえます」
「僕たちは冬のテストでこれまでと大きく異なるセットアップ・フィロソフィーを見つけ出しましたが、これには期待しています。コンペティティブになるためのすべてがうまくいっているわけではありませんが、昨年の同じ時期に比べれば準備はずっと進んでいますし、レイホール・チームでの在籍2年目となる今シーズンはいろいろな意味でとても快適です」
インディカーがフロリダの市街地を走り始めたのは金曜日のこと。その最初のセッションで佐藤琢磨は6番手となり、2回目のセッションでは12番手につけた。さらに土曜日の午前中に行なわれたセッションでは大きな進歩を見せ、30号車は3番手タイムをマークしていた。
「開幕戦を行なううえでセントピーターズバーグは理想的な土地だと思います。ファンはとても熱狂的ですし、凍えそうなくらい寒い中西部からフロリダにやってこられたのです! 通常、最初のセッションではとてもたくさんのことを試しますが、冬の間の準備を通じて僕たちはたくさんの知識を得ていました。持ち込みの段階からマシンは好調で、したがって慌ててセットアップを大幅に変更する必要はありませんでした。全セッションを通じて、僕たちはどんどん進化していったといえます」
「唯一心配だったのは柔らかいレッドタイヤを履いたときのパフォーマンスです。金曜日にはレギュレーションで許された1セットを試しましたが、ブラックよりも遅い状態でした。バランスに関する作業を行なわなければいけないのは明らかです。けれども、土曜日は3番手という好結果に終わったため、僕は大いに喜びました」
悲しいことに、その成果を予選結果に結びつけることはできなかった。佐藤琢磨は自分の予選グループで5番手につけており、第2セグメントに進出するのは確実と思われていたが、ベストラップが抹消されたため、予選グループの10番手となり、20番グリッドから決勝レースに挑むことになった。
「本当に残念でした」と佐藤琢磨は語る。
「僕たちは通常のプログラムをこなしていました。ブラック・タイヤで行なったウォームアップは7番手か8番手だったので、レッド・タイヤでの走行にも自信を持っていました。走り出すと、金曜日の午後よりもずっと感触がいいことがわかりました。ただし、バランスに関しては僕の好みとはいえません」
「レッド・タイヤはとても柔らかいため、アタックできるのはたったの1周か、うまくいって2周です。今回、2ラップ目では1ラップ目より少しだけハードに攻めました。実際、セクター1は1周目より少しだけ速くなっていました。続いてターン4でハードブレーキングを試みたところ、リアがロックアップしてヒヤッとしました。僕は「おっと、コーナーは曲がりきれるだろうけれど、リスクは冒したくない」と考え、エスケープロードに一旦入り、そこでUターンしてコースに戻ろうとしました。ところが残念なことに、僕と同じタイミングでタイムアタックをしているドライバーがいたのです。このためイエローが提示されました。そして僕は、イエローを出したことで他のドライバーのアタックを邪魔したとしてペナルティを科せられました。これはとても残念なことです。厳しいルールですが、スコット・ディクソンがコース上でスピンしたとき、彼の横を通過したドライバーはまだアウトラップだったため、ディクソンは誰のアタックも邪魔していないと判断されました」
決勝日の朝に行われたウォームアップでは状況が改善された。RLLRのレイホールと佐藤琢磨がこのセッションで1−2のタイムを叩き出した。
「この結果は嬉しいものでしたが、これにはちょっとした秘密があります。どのドライバーにもブラック・タイヤとレッド・タイヤを使うチャンスがあるほか、秒数は限られているもののプッシュ・トゥ・パスも使用できます(エンジンのマッピングチェックのため)。このふたつを速いラップタイムのときに同時に使うのです。グレアムと僕はこれをしました。あらかじめ予定していたわけではありませんが、結果的にこのような状況となりました」
「自分たちのレースカーがとてもいいことには自信がありました。問題はレッド・タイヤのライフが極端に短いことで、最初の1ラップはとても速く、続く4周も安定したペースで走れるものの、その後は温度にもよりますが急激に性能が低下していきます。そしてこれはファイアストンがインディカーにレッド・タイヤを導入して初めてのことだと思いますが、全ドライバーがスタートでレッド・タイヤを選択したのです。このため、定石以外のレース戦略は事実上、選べなくなってしまいました!」
「レースでは少なくとも3ストップが必要になるのは間違いなく、できるだけ早くレッド・タイヤからブラックに履き替えたくなるのも明らかでした。僕の手元には新品のレッド・タイヤが2セットあって、通常、これは好ましいことですが、今回は1セットしか使いたくなりません。そして誰もが同じように考えることが予想されました」
抜群のスタートを決めた佐藤琢磨は最初の2ラップで20番手から16番手へとジャンプアップ。その後、10ラップ目に最初のピットストップが行なわれるまで、そのポジションを守りきった。コース上に立ち往生したライアン・ハンター-レイのマシンを排除するために最初のイエローが提示されると、通常とは異なる戦略を選ぶドライバーが現れたことで佐藤琢磨は14番手に浮上。リスタートではザック・ヴィーチを仕留めて13番手となった。ほどなくエド・ジョーンズとマテウス・ライストの接触をきっかけとして再びイエローが提示され、その直後に行なわれたリスタートで佐藤琢磨は9番手まで挽回。42周目に2回目のピットストップを行ない、これが一巡すると30号車はサイモン・パジェノーに続く8番手につけていた。シーズン開幕戦としては悪くない展開だった。
「すべて順調に進んでいました」と佐藤琢磨は語る。
「戦略でできることが限られていることは誰の目にも明らかでした。サイモンに続いて残り30周を迎えたところで、突然トラブルが発生しました。ターン10に向けてハードブレーキングをしながらダウンシフトを行なおうとしたところ、ギアが3速にスタックしてストップしなければいけなくなったのです。僕たちはギアボックスのコントロールユニットを交換しようとしましたが、結果は変わりませんでした。この時点では、油圧が上がらなかったので、電気系のケーブルかオイルラインにダメージを負ったのだろうと考えていました」
「マシンをガレージに引き戻して詳しく調べると、冷却気採り入れ口のひとつがタイヤのマーブルと破片で完全にブロックされており、これが原因でオーバーヒートを起こしてシステムが停止したことが判明しました。物理的に壊れたところはどこにもなかったので、本当に残念でした。このエアインテークに関しては対処できることがなく、インディカーのマシン設計に関する根本的なレギュレーションの改正が必要だと考えられます」
「その後のレースに波乱はなかったので、僕はサイモンに続く8位でフィニッシュできたはずです。けれども、自分たちがいいポジションにいることについてはポジティブに捉えていました」
インディカー・シリーズの第2戦は、F1アメリカGPと同じ、テキサス州オースティン近郊のサーキット・オブ・ジ・アメリカで開催される。佐藤琢磨がインディカーへの参戦を始めたのはサーキット・オブ・ジ・アメリカがF1カレンダーに組み込まれる以前のことだが、このコースもプリシーズン・テストのスケジュールに入っていたため、佐藤琢磨はすでにその味見を済ませている。
「素晴らしいサーキットです」と佐藤琢磨は語る。
「流れるような高速コーナーがいくつもあります。世界でもトップクラスの設備であることは間違いなく、ここでレースすることをいまから楽しみにしています。シーズンオフのテストはとても興味深いものでした。個人的には満足できませんでしたが、チームとしては多くのことを学びました。できればエキサイティングなレースを演じ、いい結果を残したいですね」
カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨 / インディカー