佐藤琢磨
佐藤琢磨は、インディカー 第3戦 ロングビーチのレース週末を振り返った。

2016ベライゾン・インディカー・シリーズの第3戦ロングビーチで佐藤琢磨が5位入賞を果たしたことは、AJフォイト・レーシングにとって素晴らしいリザルトだった。

この成績は、No.14ダラーラ・ホンダが決勝中に発揮した奇跡的ともいえるパフォーマンスを正しく反映したもの。

だが、このレースでは一度もイエローが提示されなかったうえに、佐藤琢磨は3位と4位に入ったペンスキーのふたり——エリオ・カストロネヴェスとファン-パブロ・モントーヤ——の直後でフィニッシュしたのである。さらにいえば、佐藤琢磨はホンダ・ドライバーのなかで最上位、それも2番手をかなり引き離す活躍を示した。

「ものすごく嬉しいし、チーム全員が素晴らしい仕事をしてくれました」と佐藤琢磨。

「もちろん、5位が本当に期待していた成績かといえば、そんなことはありません。けれども、プラクティスの結果やライバルたちの状況を考えれば、これは喜ぶべき成績だと思います。今回は1度もコーションにならず、リタイアもありませんでしたが、それでも僕たちはコース上で順位を上げることができました。そしてTK(トニー・カナーン)やファン-パブロとバトルして、ペンスキーやガナッシのドライバーに割って入るポジションでフィニッシュしたのですから、チームのスタッフにとっては最高の成績だったと思います」

佐藤琢磨が指摘したとおり、カリフォルニアの市街地コースでチームが示したパフォーマンスは期待とは異なるものだった。

「最初のプラクティスをトップ5で終えたのはよかったのですが、この結果をそのまま鵜呑みすることはできません」

なぜなら、インディカー・シリーズでは2016年からタイアの使い方に関する新しいレギュレーションが導入されたからで、最初のプラクティスでは各チームがそれぞれの考え方に従ってタイアを使用しているため、この結果から本当の実力を推しはかるのは容易ではないからだ。

「路面がまだグリーンであればマシンのパフォーマンスは高いようでした。さらに赤旗も出たため、予定していた2/3ほどしか走行できませんでした」

ところが2回目のプラクティスでは11番手に後退したため、エンジニアのラウル・プラドスとみっちりと打ち合わせを行い、事態の打開に努めることになった。

「ラウルはたくさんのことを解析していて、それを僕と一緒に議論しました。夕食を摂るのも忘れるくらい一生懸命、仕事をしました! その結果、新しい考え方のセットアップで予選を戦うことにしました。それはちょっとギャンブルでもあったのですが、僕たちはマシンの回頭性を向上させると同時にリアのスタビリティも改善しなければいけなかったのです」

ドライブトレインにトラブルが発生したため、土曜日午前中のプラクティスを16番手で終えた佐藤琢磨は、予選でジャンプアップを達成。Q1を突破して12台が駒を進めるQ2に出走し、8番手のタイムを残したのである。なるほど、ファイアストン・ファスト6シュートアウトには参加できなかったかもしれないが、佐藤琢磨はホンダ勢のなかでは2番手で、しかも7番グリッドを手に入れたジェイムズ・ヒンチクリフの直後につけたのである。

「Q1では、アグレシッブなセッティングを施し過ぎてしまったようで、柔らかめの新品タイアを装着していたにもかかわらず、オーバーステアが過大でした。このため安定性をもう少し高める必要がありました。この方向性は正しく、Q2ではタイムを短縮できました。ただし、Q2が行われている最中に計測器の問題が発生したため、少しトリッキーな状況となります。タイムに関する情報は誰にもわからず、コクピットのディスプレイにも何も表示されませんでした」

「通常は、ラップタイムがどれくらい速くなったか、もしくは遅くなったかが常時コクピット内に表示されるので、もっとプッシュできるのか、それともアタックを中断してタイアをセーブすべきなのかが判断できます。でも、今回はただひたすらアタックするしかなく、結果的に8番手となりました。プラクティスのことを考えれば、素晴らしい挽回だといえます」

続いてフォイト・チームはアグレッシブな予選セットアップではなく、決勝に向けたセットアップを検討することになったものの、ウォームアップではセッション中の大半で佐藤琢磨はトップのタイムを記録し、その仕上がりに大いに満足することになった。そして彼らは決勝のときを迎える。

「なんでも起きると考えられました」と佐藤琢磨。「また、ストラテジー・ミーティングを行った結果、イエローが出ない限り、2ストップで走りきるのは容易ではないことがわかりました。それでも、僕たちはできるだけ燃料をセーブして、なんとか2ストップで走りきるつもりでいました」

佐藤琢磨はスタートでヒンチクリフに襲いかかり、オープニングラップの激しいポジション争いが行われたコーナーではジョセフ・ニューガーデンの攻撃をかわすことになった。

「ヒンチとはサイド・バイ・サイドになりましたが、前が詰まっていたのでスロットルを緩めなければならず、もう少しでニューガーデンに抜かれそうになりました。ただし、2ラップ目以降は、少なくともタイアが新しい間はオーバーテイクができない状態でした。そこで誰もが燃料をセーブする走りに切り替えました。だからといってクルージングをしているわけではありません。まず、通常のブレーキングポイントの50〜100m手前でスロットルオフにします。このため、ブレーキングポイントに到達したときにはいつもよりだいぶスピードが落ちているので、ここでブレーキングのタイミングを本当にギリギリまで遅らせることになります。そして予選アタックのときとほとんど変わらないスピードでコーナーに進入し、なるべく勢いを削がない走りをしながら、使う燃料も減らさないといけないのです」

「この週末、僕たちのマシンはハンドリングもタイア・デグラデーションも良好な状態でしたが、効率よく燃料をセーブしながらラップタイムも稼ぐには、常に誰かのスリップストリームに入っている必要があります。スリップストリームから外れかかっていると感じたら、少し燃料を余計に使ってでも前のドライバーに追いつかなければいけません」

ここで9番手のライアン・ハンター-レイが遅れ始めたため、佐藤琢磨は後方からの追撃を心配する必要がなくなった。そして最初のピットストップではヒンチクリフを攻略して7番手に浮上。2回目のピットストップが近づいてくるまでに、佐藤琢磨はトップと5秒差ほどまで接近し、ウィル・パワーを仕留めて6番手となる。最後は残り20周以上を給油なしで走行することになったが、このとき、佐藤琢磨はトップのシモン・パジェノーとわずか4.7秒差となっていた。

「チームはストラテジーに関して本当に素晴らしい判断を下していました。最初のピットストップを行ったときは、まだ1周分か2周分ほどの燃料を残していましたが、隊列のなかで走っている為ペースアップはできません。そして、他のドライバーと同じタイミングでピットストップを行えば、オーバーテイクするチャンスは限りなくゼロに近づいたことでしょう。そこで僕たちは少し早めにピットインすることを決め、前方がクリーンな状態で思いっきりプッシュしました。ウィルを仕留めることができたのはこのためです。もっとも、このおかげで最後のスティントは燃料が1周分足りないことになったので、さらに燃料をセーブしなければいけませんでしたが、何よりも大切なのはコース上のポジションなのです」

残り13周で佐藤琢磨はカナーンのオーバーテイクに成功、続いてモントーヤの直後に迫った。残り4周、佐藤琢磨は4番手を賭けた勝負に挑んだが、この戦いはモントーヤがしのぎきって決着がついた。

「僕は後にぴったりとついてチャンスをうかがっていました。TKはヘアピンのターン11出口でマシンをスライドさせたので、僕はすぐにプッシュ・トゥ・パスを起動しました。あれは素晴らしい気分でした」

「僕はまだたくさんプッシュ・トゥ・パスを残していましたが、なにしろ2周目から80周目までずっと燃料をセーブしなければいけなかったので、プッシュ・トゥ・パスを使いすぎれば燃料消費で困ったことになるのは目に見えていました。つまり、得るものもあれば失うものもあったわけです。使うのであれば、大きなチャンスが手に入る正しいタイミングにしなければいけません。たとえば、前のドライバーが小さなミスを犯した、というような状況です。一度、僕はとても惜しいところまでいきました。ファン-パブロがターン11の出口で小さな失敗をしたのでプッシュ・トゥ・パスを使いましたが、彼も使って対抗してきたのです。それにしても、ペンスキーのストレートの速さはなんでしょう! 彼らはギリギリまでダウンフォースを削り、リアウィングにつけていたガーニーも本当に小さいものだったようです」

最終ラップの最終コーナーでもう1度チャンスがあったものの、佐藤琢磨はモントーヤのわずか0.0756秒差でチェッカードフラッグをかい潜った。

「僕はまだプッシュ・トゥ・パスが残っていましたが、恐らくファン-パブロは残していなかったと思います。僕は横並びになっていました。フィニッシュまであと数メートルあればあったら、僕は彼を抜かしていたでしょう。彼との差はたったの30cmだったのですから。あれは、まるでオーバルレースのフィニッシュみたいで本当に楽しかったです。そして僕はチームのことを心から誇りに思います。彼らが素晴らしいマシンを用意してくれたのです」

とはいえ、ロングビーチでゆっくりと寛いでいるわけにはいかない。月曜日にはカリフォルニアでホンダのアクティビティが行われ、その後はインディアナポリスに1日だけ戻り、直後には週末の金曜日に始まるレースに備えてアラバマのバーバー・モータースポーツパークを目指さなければならない。

「チームにとっては長旅になります」 そう語る佐藤琢磨は現在、ポイントランキングで6番手につけており、ホンダ勢のトップに立っている。

「月曜日にホンダ・パフォーマンス・デベロップメントの方々と会えるのが本当に楽しみです。いい成績を残して、皆さんにはほんの少しだけ恩返しができたんじゃないかと思っています。その後はアラバマに向かいますが、バーバーでのレースは本当に楽しみです。シーズン最初のロードコース・イベントですが、ロングビーチのときと同じようにコンペティティブなはずなので、力強く戦えることを強く期待しています」

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カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨 / インディカー