佐藤琢磨 「次のレースが待ち遠しくて仕方ありません!」
佐藤琢磨が、2014年開幕戦セントピーターズバーグのレース週末を振り返った。
2014年のインディカー・シリーズは、佐藤琢磨にとって最高の滑り出しを見せたが、セントピーターズバーグのレース結果は7位という極めて不本意なものだった。もっとも、7位という結果に不満を抱くのは、佐藤琢磨とAJフォイト・レーシングが今季、いかに好調なまま開幕戦を迎えたかを示すものともいえる。
3位、1位、3位というポジションで3回のプラクティス・セッションを終えた佐藤琢磨は、3つのセグメントに分けて実施された予選でもすべてトップタイムをマークし、キャリア4回目、そして市街地コースでは2戦連続(前回は2013年ヒューストン)となるポールポジションを獲得した。
こうした成績を収めることができたのは、佐藤琢磨たちが冬の間に入念な準備を行なってきたからだ。「今シーズンに向けての準備は、去年に比べるとずっとよいものでした」と佐藤琢磨。
「2013年、僕とAJフォイト・レーシングの共同作業が始まったのは2月だったので、いくら短期間で効率よく仕事を進められたとはいえ、実際に準備できた内容はあくまでも最低限のものでした。ところが今シーズンは12月に作業を始めることができたので、去年よりも2ヶ月も早かったことになります。しかも、マシーン、スタッフ、チームはすべて昨シーズンと同じだから、お互いがお互いのやり方をわかっており、去年よりも圧倒的に速いペースで作業が進んでいきました。僕たちはたくさんのデータを見直し、比較テストを行なって昨年抱えていた問題の原因を突き止め、どこが長所でどこが弱点かを見極めました。僕たちは準備万端で、セントピーターズバーグに行くのが楽しみで仕方ありませんでした!」
「去年も僕たちのペースがよかったことはわかっていましたが、ファイアストンのコンパウンドは昨年とは異なるもので、それ以外にも変化したことはありました。ホンダ・エンジンは今季からツインターボとなり、ピークパワーもトルク特性も改善され、前後の重量バランスまでよくなっていたのです」
「僕たちはベストと思われるパッケージングを用意したところ、これが素晴らしいスピードを発揮してくれました。プラクティス・セッションでは3回ともトップ3に入りましたが、非常に僅差だったため、いつでも好調を維持していることはとても大切だったと思います。とにかく、とてもいいスタートでした」
その後、雨が降り始めたため、予選は3時間半にわたって延期となり、結局、土曜日の夜に実施された。
「この地域には避難勧告が出されていたので、僕たちもいつものように事を進めることはできず、少し心配になりました。もちろん、雨は心配事ではなく、むしろ大歓迎なくらいですが、雨のせいで予選そのものがキャンセルになる恐れがありました。その場合、今回のスターティンググリッドを去年のチャンピオンシップ・スタンディングの順で決めることになっていたのです。これは、僕にとってあまり都合のいいものではありません。土曜日の夜に予選を実施する判断を下したインディカー・シリーズとプロモーターには本当に感謝しています」
「予選の第1セグメントは、路面がまだかなり濡れていました。この時点ですでに接戦が繰り広げられていましたが、僕は無事第2セグメントへの進出を果たします。この頃、路面は次第に乾き始めており、レインタイアは寿命が尽きかけていました。そこで第2セグメントでは、万一赤旗が提示されたときに備えてレインタイアでタイムを記録しておき、その後、スリックに履き替えてタイムアップを図るのが理想的な作戦であると思われました。ただし、第2セグメントで走行できるのは、せいぜい6周か7周です。そこで僕は最初からスリックを装着してタイアを十分ウォームアップする作戦を選択しました。これはややリスキーな手法ですが、このときは完璧に機能し、僕はファイアストン・ファスト6のシュートアウトに参加することができました。とにかくチャレンジングでしたが、それと同時にとても満足のいく予選でもありました」
「最後のセグメントは、一部避けなければならないウェットパッチが残っていたものの、ほぼ完全にドライでした。マシーンの作業を行なっていい時間は10分間だけでしたが、その間に僕たちは大きくセッティングを変更し、結果としてとても満足のいくラップを走行することができました。自分の力を100%出し切って、最後の最後のラップでポールポジションを勝ち取れたのは最高の気分でした。それに、開幕戦でポールポジションを獲ったのは、僕のレース人生でも初めてのことだったと思います」
日曜日の朝に行われたウォームアップのリザルトをそのまま鵜呑みにすることはできない。なぜなら、予選で第1セグメントしか走っていないドライバーたちは、ここでソフト目のレッド・タイアを使わなかったため、手元には新品のレッド・タイアがまだ残っていたからだ。
「スターティンググリッドで僕の近くに並んでいるドライバーのなかでは、僕がいちばん速かった。ただし、クルマの仕上がりに完全に満足していたわけではありません。決勝までにはいくつか変更しなければいけない点もありましたが、僕たちは力強くレースを戦えるはずという信念を持っていました」
その思いはスタートで証明される。元チームメイトで、今回フロントロウからスタートしたトニー・カナーンを置き去りにした佐藤琢磨は、そのまま全力でAJフォイトのマシーンを走らせていき、オープニングラップが終わったときには2番手に浮上したライアン・ハンター=レイを0.86秒もリード。このギャップはその後も次第に広がっていき、3ストップが見込まれていたレースで最初のスティントを走り終えたとき、佐藤琢磨はライバルたちを5秒以上も引き離していたのである。
「スタートは順調に決まりました。何の問題もなくトップを守ると、そこからさらに引き離しにかかりました。僕は後続とのギャップを保ちながらタイアと燃料をセーブしました。そして20〜21周目くらいまでは順調に事は運んでいたのですが、この頃になるとタイアにデグラデーションが起き始めます。いつもであれば、それほど問題にはならないのですが、今回は開幕戦だったにもかかわらず、不思議なことにイエローが提示しないまま最初のスティントを走りきることになりました。そこでセーブできるモノはとにかく全部セーブしながら最初のピットストップまで走り続ける決断を下しました」
「僕は27周目にピットに入りました。このとき、タイアデグラデーションのせいでラップタイムは大幅に落ち込んでいました。ひょっとすると、(レースウィナーの)ウィル・パワーがそうしたように、僕たちも2〜3周ほどピットストップを早めるべきだったのかもしれません。でも、そのときはこれが最善の策だと思っていたのです」
佐藤琢磨は2スティント目と3スティント目を硬めのブラック・タイアで走行したが、最初のピットストップを終えたときはパワーの直前を走行していた。
「残念ながらタイアの空気圧が正しく設定されていなかったようです。最初はとてもドライブしにくいバランスでした。ところがウィルは完全にタイアがウォームアップされていて、僕の直後に迫っていたのです」
31周目の始め、パワーは右コーナーのターン1で佐藤琢磨をアウト側からオーバーテイク。ターン2の直前で佐藤琢磨は瞬間的に前に出たが、このときアウト側にいた佐藤琢磨に打てる手はほとんどなく、結果的にオーストラリア人ドライバーの直後につけることとなる。
「あれは楽しかったですね。僕は精一杯頑張りましたが、十分なグリップは得られませんでした。そこでスロットルを緩め、いったん彼の後に回ってからタイアが温まったところで反撃しようと思っていたのですが、そのチャンスはとうとう巡ってきませんでした。ブラック・タイアで走行した2スティント目と3スティント目を通じて、僕のペースはあまり上がりませんでしたが、同じブラック・タイアで走行したプラクティスではとても速かったので、これはとても不思議なことでした」
パワーが2回目のピットストップを行ったとき、佐藤琢磨は一時的にトップに返り咲いたが、続いて佐藤琢磨自身がピットストップを行った際にはタイア交換で小さなトラブルがあり、コースに戻ったときにはパワー、エリオ・カストロネヴェス、ハンター-レイ、マイク・コンウェイに続く5番手に後退してしまう。このオーダーは、この日最初のフルコースコーションとなるまで変わらなかったが、フィニッシュまで残り34周となっていたこの段階では、ほとんどのドライバーが予定されていた最後のピットストップを終えていた。このとき佐藤琢磨は6番手となっていたが、リスタートでの混乱――これでマルコ・アンドレッティとジャック・ホークワースが接触し、再びイエローコーションとなる――の際にシモン・パジェノーの先行を許し、さらにひとつ順位を落とすこととなった。
7番手となった佐藤琢磨は、目の前を走るカナーンに攻撃を仕掛けるかと思われたが、実際には後方から迫ってきたジャスティン・ウィルソンへの防戦に追われることとなる。
「最後のスティントはレッド・タイアで走りましたが、他のドライバーが揃ってスピードアップを果たしていたのに対し、僕はレース前半の路面がグリーンだった頃ほどのタイムを出せませんでした。ポジションを守るだけで精一杯だったのです」
「ポールポジションからスタートして7位に終わるというのは残念なことですが、もう少し広い視野で見れば、たくさんポイントを獲得できたともいえるので、今回の結果はポジティブに捉え、次戦でいい成績を残したいと思います」
シリーズ第2戦は、昨年、佐藤琢磨とAJフォイト・レーシングが待望の1勝を挙げたロングビーチで開催される。
「次のレースが待ち遠しくて仕方ありません! 僕たちには素晴らしいベースセットアップがあるので、第2戦でもコンペティティブだと思います。そしてセントピーターズバーグでの経験を活かして、力強くレースを戦うつもりです」
カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨 / インディカー
2014年のインディカー・シリーズは、佐藤琢磨にとって最高の滑り出しを見せたが、セントピーターズバーグのレース結果は7位という極めて不本意なものだった。もっとも、7位という結果に不満を抱くのは、佐藤琢磨とAJフォイト・レーシングが今季、いかに好調なまま開幕戦を迎えたかを示すものともいえる。
3位、1位、3位というポジションで3回のプラクティス・セッションを終えた佐藤琢磨は、3つのセグメントに分けて実施された予選でもすべてトップタイムをマークし、キャリア4回目、そして市街地コースでは2戦連続(前回は2013年ヒューストン)となるポールポジションを獲得した。
こうした成績を収めることができたのは、佐藤琢磨たちが冬の間に入念な準備を行なってきたからだ。「今シーズンに向けての準備は、去年に比べるとずっとよいものでした」と佐藤琢磨。
「2013年、僕とAJフォイト・レーシングの共同作業が始まったのは2月だったので、いくら短期間で効率よく仕事を進められたとはいえ、実際に準備できた内容はあくまでも最低限のものでした。ところが今シーズンは12月に作業を始めることができたので、去年よりも2ヶ月も早かったことになります。しかも、マシーン、スタッフ、チームはすべて昨シーズンと同じだから、お互いがお互いのやり方をわかっており、去年よりも圧倒的に速いペースで作業が進んでいきました。僕たちはたくさんのデータを見直し、比較テストを行なって昨年抱えていた問題の原因を突き止め、どこが長所でどこが弱点かを見極めました。僕たちは準備万端で、セントピーターズバーグに行くのが楽しみで仕方ありませんでした!」
「去年も僕たちのペースがよかったことはわかっていましたが、ファイアストンのコンパウンドは昨年とは異なるもので、それ以外にも変化したことはありました。ホンダ・エンジンは今季からツインターボとなり、ピークパワーもトルク特性も改善され、前後の重量バランスまでよくなっていたのです」
「僕たちはベストと思われるパッケージングを用意したところ、これが素晴らしいスピードを発揮してくれました。プラクティス・セッションでは3回ともトップ3に入りましたが、非常に僅差だったため、いつでも好調を維持していることはとても大切だったと思います。とにかく、とてもいいスタートでした」
その後、雨が降り始めたため、予選は3時間半にわたって延期となり、結局、土曜日の夜に実施された。
「この地域には避難勧告が出されていたので、僕たちもいつものように事を進めることはできず、少し心配になりました。もちろん、雨は心配事ではなく、むしろ大歓迎なくらいですが、雨のせいで予選そのものがキャンセルになる恐れがありました。その場合、今回のスターティンググリッドを去年のチャンピオンシップ・スタンディングの順で決めることになっていたのです。これは、僕にとってあまり都合のいいものではありません。土曜日の夜に予選を実施する判断を下したインディカー・シリーズとプロモーターには本当に感謝しています」
「予選の第1セグメントは、路面がまだかなり濡れていました。この時点ですでに接戦が繰り広げられていましたが、僕は無事第2セグメントへの進出を果たします。この頃、路面は次第に乾き始めており、レインタイアは寿命が尽きかけていました。そこで第2セグメントでは、万一赤旗が提示されたときに備えてレインタイアでタイムを記録しておき、その後、スリックに履き替えてタイムアップを図るのが理想的な作戦であると思われました。ただし、第2セグメントで走行できるのは、せいぜい6周か7周です。そこで僕は最初からスリックを装着してタイアを十分ウォームアップする作戦を選択しました。これはややリスキーな手法ですが、このときは完璧に機能し、僕はファイアストン・ファスト6のシュートアウトに参加することができました。とにかくチャレンジングでしたが、それと同時にとても満足のいく予選でもありました」
「最後のセグメントは、一部避けなければならないウェットパッチが残っていたものの、ほぼ完全にドライでした。マシーンの作業を行なっていい時間は10分間だけでしたが、その間に僕たちは大きくセッティングを変更し、結果としてとても満足のいくラップを走行することができました。自分の力を100%出し切って、最後の最後のラップでポールポジションを勝ち取れたのは最高の気分でした。それに、開幕戦でポールポジションを獲ったのは、僕のレース人生でも初めてのことだったと思います」
日曜日の朝に行われたウォームアップのリザルトをそのまま鵜呑みにすることはできない。なぜなら、予選で第1セグメントしか走っていないドライバーたちは、ここでソフト目のレッド・タイアを使わなかったため、手元には新品のレッド・タイアがまだ残っていたからだ。
「スターティンググリッドで僕の近くに並んでいるドライバーのなかでは、僕がいちばん速かった。ただし、クルマの仕上がりに完全に満足していたわけではありません。決勝までにはいくつか変更しなければいけない点もありましたが、僕たちは力強くレースを戦えるはずという信念を持っていました」
その思いはスタートで証明される。元チームメイトで、今回フロントロウからスタートしたトニー・カナーンを置き去りにした佐藤琢磨は、そのまま全力でAJフォイトのマシーンを走らせていき、オープニングラップが終わったときには2番手に浮上したライアン・ハンター=レイを0.86秒もリード。このギャップはその後も次第に広がっていき、3ストップが見込まれていたレースで最初のスティントを走り終えたとき、佐藤琢磨はライバルたちを5秒以上も引き離していたのである。
「スタートは順調に決まりました。何の問題もなくトップを守ると、そこからさらに引き離しにかかりました。僕は後続とのギャップを保ちながらタイアと燃料をセーブしました。そして20〜21周目くらいまでは順調に事は運んでいたのですが、この頃になるとタイアにデグラデーションが起き始めます。いつもであれば、それほど問題にはならないのですが、今回は開幕戦だったにもかかわらず、不思議なことにイエローが提示しないまま最初のスティントを走りきることになりました。そこでセーブできるモノはとにかく全部セーブしながら最初のピットストップまで走り続ける決断を下しました」
「僕は27周目にピットに入りました。このとき、タイアデグラデーションのせいでラップタイムは大幅に落ち込んでいました。ひょっとすると、(レースウィナーの)ウィル・パワーがそうしたように、僕たちも2〜3周ほどピットストップを早めるべきだったのかもしれません。でも、そのときはこれが最善の策だと思っていたのです」
佐藤琢磨は2スティント目と3スティント目を硬めのブラック・タイアで走行したが、最初のピットストップを終えたときはパワーの直前を走行していた。
「残念ながらタイアの空気圧が正しく設定されていなかったようです。最初はとてもドライブしにくいバランスでした。ところがウィルは完全にタイアがウォームアップされていて、僕の直後に迫っていたのです」
31周目の始め、パワーは右コーナーのターン1で佐藤琢磨をアウト側からオーバーテイク。ターン2の直前で佐藤琢磨は瞬間的に前に出たが、このときアウト側にいた佐藤琢磨に打てる手はほとんどなく、結果的にオーストラリア人ドライバーの直後につけることとなる。
「あれは楽しかったですね。僕は精一杯頑張りましたが、十分なグリップは得られませんでした。そこでスロットルを緩め、いったん彼の後に回ってからタイアが温まったところで反撃しようと思っていたのですが、そのチャンスはとうとう巡ってきませんでした。ブラック・タイアで走行した2スティント目と3スティント目を通じて、僕のペースはあまり上がりませんでしたが、同じブラック・タイアで走行したプラクティスではとても速かったので、これはとても不思議なことでした」
パワーが2回目のピットストップを行ったとき、佐藤琢磨は一時的にトップに返り咲いたが、続いて佐藤琢磨自身がピットストップを行った際にはタイア交換で小さなトラブルがあり、コースに戻ったときにはパワー、エリオ・カストロネヴェス、ハンター-レイ、マイク・コンウェイに続く5番手に後退してしまう。このオーダーは、この日最初のフルコースコーションとなるまで変わらなかったが、フィニッシュまで残り34周となっていたこの段階では、ほとんどのドライバーが予定されていた最後のピットストップを終えていた。このとき佐藤琢磨は6番手となっていたが、リスタートでの混乱――これでマルコ・アンドレッティとジャック・ホークワースが接触し、再びイエローコーションとなる――の際にシモン・パジェノーの先行を許し、さらにひとつ順位を落とすこととなった。
7番手となった佐藤琢磨は、目の前を走るカナーンに攻撃を仕掛けるかと思われたが、実際には後方から迫ってきたジャスティン・ウィルソンへの防戦に追われることとなる。
「最後のスティントはレッド・タイアで走りましたが、他のドライバーが揃ってスピードアップを果たしていたのに対し、僕はレース前半の路面がグリーンだった頃ほどのタイムを出せませんでした。ポジションを守るだけで精一杯だったのです」
「ポールポジションからスタートして7位に終わるというのは残念なことですが、もう少し広い視野で見れば、たくさんポイントを獲得できたともいえるので、今回の結果はポジティブに捉え、次戦でいい成績を残したいと思います」
シリーズ第2戦は、昨年、佐藤琢磨とAJフォイト・レーシングが待望の1勝を挙げたロングビーチで開催される。
「次のレースが待ち遠しくて仕方ありません! 僕たちには素晴らしいベースセットアップがあるので、第2戦でもコンペティティブだと思います。そしてセントピーターズバーグでの経験を活かして、力強くレースを戦うつもりです」
カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨 / インディカー