クリスチャン・ホーナー解任でレッドブルF1再建へ メキースに託された使命

フェルスタッペンは2028年までレッドブルと契約を結んでいるが、今季限りで離脱する可能性が取り沙汰されている。
メルセデスとの交渉が行われていることをジョージ・ラッセルが明かすなど、水面下ではすでに移籍への布石が打たれている。
フェルスタッペンに迫る決断の時
ホーナーの退任は、フェルスタッペンにとって長らくの「軋轢の要因」を取り除く一手となった可能性がある。彼自身はホーナーとの個人的な確執はなかったとされるが、父ヨス・フェルスタッペンはホーナーの続投に強く反対していた。2023年のスキャンダルをきっかけに「ホーナーが居座ればチームは崩壊する」と語ったこともある。
このような背景から、ホーナーの退任は少なくとも「親子揃って同じ方向を向く」ための環境を整えたことになる。あとはフェルスタッペン自身が、レッドブルの今後をどう見極めるかにかかっている。
競争力の低下が去就の最大要因
フェルスタッペンが注視しているのは何よりもマシンの競争力だ。2022年のレギュレーション導入以来、圧倒的な強さを誇っていたレッドブルは、2024年シーズン中盤以降、マクラーレンに主役の座を明け渡した。
フェルスタッペンは高速サーキットでの予選では依然として速さを見せているものの、決勝ではペース不足に苦しむ場面が目立つ。マシンのバランスは予測不能で、フェルスタッペンの無線からは「オーバーステアだ」「今度はアンダーステアだ」と混乱の様子が伺える。
この状況は、2024年マイアミGPを境に本格化した。マクラーレンが大幅なアップグレードを投入し、ランド・ノリスが初優勝を飾ったその週末が、ニューヨーイがレッドブルのピットウォールに最後に立った週末でもあった。
以降、マクラーレンは勢いを加速させ、レッドブルは技術面でも後手に回っている。さらに2026年からの新レギュレーションでは、パワーユニットの電動化比率が約50%に引き上げられ、レッドブルはフォードと共同で自社開発中だが、メルセデスの方が先行しているという見方もある。
フェルスタッペンが動くかどうかは、2026年の新時代が始まる前に「どこが最も勝てる可能性が高いか」という読み次第だ。

問われる“セカンドドライバー戦略”の再構築
レッドブルの構造的な問題は、フェルスタッペンの天才的なドライビングスタイルに最適化されたマシン開発にもある。これにより、セカンドドライバーが極端に機能しない状況が続いてきた。
角田裕毅は今季途中からセカンドに昇格したが、ペースはレーシングブルズ時代と大きく変わらず、依然としてライバルに後れを取っている。
これは、レッドブルのマシンが「一部のエリートドライバーしか限界を引き出せない設計」になっていることを示唆する。しかも、その限界性能自体も今やマクラーレンに及ばない。
フェルスタッペン一人に依存した戦略は、マシンが圧倒的であれば成り立つが、今のように他チームに追い抜かれた状況では破綻する。メキースの下で、チーム全体がより多様なドライビングスタイルにも対応できる設計思想に舵を切れるかどうかが鍵となる。
“静かなエンジニア”メキースがもたらす新しい空気
ローラン・メキースは、ホーナーとは対照的な人物だ。注目を好まず、対立を煽るタイプでもない。FIAの副レースディレクターやフェラーリ副代表など、冷静で技術的なポジションを多数経験しており、スポーツ政治よりも組織マネジメントと構造改革に長けたタイプだ。
彼が2024年からレーシングブルズのチーム代表を務めていたこともあり、レッドブル内部に精通している。今回の昇格は、グループ全体の継続性と内部昇格方針に沿った動きでもある。
人事面でもレッドブルは揺れている。長年にわたり技術陣を支えたロブ・マーシャルがマクラーレンへ、戦略責任者ウィル・コートニーもマクラーレン入りを予定している(ホーナーはこれを阻止しようとしていた)。スポーティングディレクターだったジョナサン・ウィートリーもザウバーでチーム代表に就任した。
こうした“ブレイン・ドレイン(頭脳流出)”を止め、チームの結束を取り戻すことも、メキースに課された重要な使命だ。

レッドブル再建は「静かな革命」になるか
ホーナーの在任中、チーム内にはメディア対応や内部情報の漏洩に対する過敏な空気が漂っていた。それが今回の交代によって緩和されれば、それだけでも大きな一歩だ。
だが、メキースが直面するのは「マックスをつなぎ留める」「技術陣を再結集する」「競争力を取り戻す」「セカンドドライバー戦略を再設計する」といった、極めて多岐にわたる課題だ。
彼の冷静な手腕と、チームが一丸となれる環境作りが、レッドブルの“第2章”の鍵を握ることになる。フェルスタッペンの決断もまた、その過程と結果に大きく影響を及ぼすだろう。
カテゴリー: F1 / レッドブル・レーシング