レッドブルF1の仰天戦略:現行PU供給はホンダF1&自社は次世代PU開発
レッドブルF1は最初からこの青写真を描いていたのだろうか? 凍結される現行のPU供給はホンダF1に丸投げし、自社のレッドブル・パワートレインズでは次世代PUの開発に専念。フォルクスワーゲンとの共同開発も可能な土台が整った。

ホンダが2021年でF1から撤退した後、当初の計画は、レッドブル・パワートレインズがホンダF1から知的財産権を引き継ぎ、自社でPUを製造するというものだった。

ただし、レッドブル・パワートレインズの体制が整わない2022年はホンダF1がすべての開発と製造を継続し、2023年からそのすべてを自社で行うという注釈がついていた。

しかし、レッドブルF1のモータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコは、その計画が変更され、知的財産権は引き継がず、凍結される現行PUは2025年までホンダF1が製造するものを有償で購入することを明らかにした。

当初の計画も見事だった。2022年からPUは凍結されるが、凍結は2つのフェーズで行われる。内燃エンジン、MGU-H、ターボチャージャー、燃料およびオイルの仕様は3月1日から、MGU-K、エネルギーストアおよびコントロールエレクトロニクスは9月1日から凍結される。

今シーズンからF1で使用される燃料は、5%のバイオ燃料成分を10%に増加したE10燃料に変更となる。ホンダF1は、レッドブルのためにE10燃料に開発まで進めており、おそらく9月1日に凍結されるすべてのコンポーネントの開発を仕上げることになるだろう。そして、体制が整った2023年からそれをそのまま引き継いで製造していくという計画だった。

新たな計画は、その製造を2025年までホンダに任せて2025年まで有償で購入するというもの。ヘルムート・マルコ曰く「キャリブレーションと微調整を自分で行うだけで済む」ということになる。エンジンには、レッドブル・パワートレインズのロゴが貼られるが、日本のファンは2025年までレッドブルが勝った場合に「このエンジンはHONDA製だ」と心のなかで思うことができる。

そして、“キャリブレーションと微調整”を行うのは、今年まで作業を担当していたHRD UKから転籍してきたスタッフたちだ。現場のヘッドは田辺豊治ではなくなるが、メルセデスF1エンジン部門で機械工学責任者を務めていたベン・ホジキンソンが、後任のテクニカルディレクターとしてレッドブル・パワートレインズに加入している。

さらにスポンサーという形でHONDAのロゴがレッドブルのマシンに掲載され可能性も示唆されている。実際にはPU購入代金の値引きということになるだろう。レッドブルは、ホンダF1でマネージングディレクターを務め、1月末でホンダを退社して独立し、コンサルタント会社「MASAコンサルティング・コミュニケーションズ」を設立した山本雅史と契約を結んだことが明らかになっている。以前に山本雅史はホンダのロゴがレッドブルのマシンに掲載される可能性ことを示唆しており、おそらく、レッドブルは、ホンダとのそういった金銭交渉などを山本雅史に任せることになるだろう。

今回のヘルムート・マルコの発言で、“ホンダF1が撤退せずに参戦継続”のようなニュアンスの反応があるが、実際にはホンダが自らで開発したPUを図面通りに2025年までPUを製造するに過ぎない。2026年になれば、そのPUは使えなくなり、その時点でホンダのF1との関わりは終了する。次世代PUの開発を進めない限り、F1復帰はあり得ない。

また、その製造はホンダ(本田技研工業)ではなく、HRC(ホンダ・レーシング)という別会社で請け負うという体裁をとる。F1参戦に反対した株主にも、無償で開発をしてきた部分は“撤退”し、今後は別会社が有償で製造と保守を請け負うだけという説明ができるだろう。

新たな計画では、知的財産権を引き継ぎ、2023年から自社ですべてを製造関連を行うという部分がなくなった。この決定により、レッドブル・パワートレインズは2025年まではエンジンサプライヤーという立場ではなくなり、次世代PUが導入される2026年から“ニューカマー”として新規にF1に参入するという立場になることができる。

F1に新規参入する“ニューカマー”は、ダイナモでの時間の延長などのいくつか特権が与えられる。しかも、まだ次世代PUの仕様は確定していない。レッドブル・パワートレインズはまだ稼働していないが、ミルトンキーンズの専用ユニットの増強は予定通り継続されている。ヘルムート・マルコは「プラントは5月/ 6月に完全に稼働するだろう」と語っており、次世代PUの仕様が確定する頃には完全に整っているかもしれない。

さらにホンダF1から知的財産権を取得するのをやめて自社では製造にも一切関わらないことで、他メーカーとの提携が可能になる。次世代PUに関しては、参戦が噂されるフォルクスワーゲン・グループと共同で開発することが可能となる。

フォルクスワーゲン・グループは、2026年からポルシェとアウディの両プランドをF1に参戦させ、最終的にメーカー間に仕様の違いはあるかもしれないが、PUはフォルクスワーゲンが共通で開発するとされている。

仮に噂されるポルシェとのワークス契約を結んだ場合、現行PUの開発をすべてホンダF1が行ったように、最もコストがかかる研究開発の分野はポルシェに委託することができる。レッドブル・パワートレインズはダイナモの稼働時間を提供し、うまくいけば、無償でPUの供給を受けることができるかもしれない。

おそらく、レッドブルにとっては、F1エンジンにどのバッチが貼られることになっても問題はないだろう。重要なのは競争力のあるF1エンジンだけであり、車体のサイドに「Powered By Porsche」のロゴを貼るだけでいい。コンストラクターはレッドブルであり、ポルシェは、レッドブルが勝てばF1参戦を正当化できる。まさに“Win-Win”の関係が出来上がる。

最終的にレッドブル・パワートレインズという会社の立場は実に巧妙だ。最善のシナリオは、2025年まではホンダから購入したPUをシャシーに合わせて調整しながら、2026年に向けてフォルクスワーゲンに次世代PUを開発させるペーパーカンパニーとなり、フォルクスワーゲンが参戦を取りやめた場合には、本格的な開発部隊として増強して稼働させることができる。

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カテゴリー: F1 / レッドブル・レーシング / ホンダF1 / フォルクスワーゲン