レッドブル・ホンダF1 特集:RB16B スペシャルリバリー誕生秘話
ホンダと日本に捧げられたスペシャルリバリーはどのようにして生まれたのだろうか? コンセプト誕生から完成までの過程を振り返る。

ブルー / レッド / イエローを纏ったレッドブル・レーシング・ホンダのF1マシンは即座に判別できるインパクトを備えており、世界中で愛されている。しかし、このチームは「変化球」を好むときがある。

2021シーズンも、大成功を収めてきたレッドブル・レーシングとホンダのパートナーシップを祝福するスペシャルリバリーが、本来ならホンダとのラストホームレースを迎えていたタイミングだった第16戦トルコGPで公開された。

レッドブル・レーシングは、ニューマシン発表やプレシーズンテストなどの機会に合わせた一度限りのスペシャルリバリーを過去数回用意してきた。それらはどれもソーシャルメディアで大きな反響を呼び、ファンたちからは高評価の声やシーズンでの継続使用を求める意見が届いた。

では、このようなスペシャルリバリーは、デザイナーの製図板から生まれてから(近年はエイドリアン・ニューウェイのように製図板ですべてをデザインするわけではなく、ラップトップも使用している)実際にサーキットで披露されるまでにどのようなプロセスを経ているのだろうか?

コンセプト
通常、レッドブル・レーシングのブランドチームとペイントショップには、スペシャルリバリー実行計画の準備に数カ月が与えられる。今回のスペシャルリバリーも元々は同じスケジュールが組まれており、クリスチャン・ホーナーは日本GPに向けてRB16Bのスペシャルリバリーを用意する予定だったのだが、日本GPのキャンセルが決定したため、一旦棚上げとなった。チームは、ホンダと過ごした3シーズンとホンダの長年に渡るF1での功績を彼らのホーム、鈴鹿で称えようというコンセプトを準備していた。

その後、トルコでの代替開催が決まると、日本GPが開催されるはずだった日程の数週間前にスペシャルリバリー計画が再浮上し、コンセプトの実現へ向けてゴーサインが出された。

デザイン作業
スペシャルリバリー計画を再浮上させたクリスチャンがまず向かったのはブランドチームだった。次に、彼からコンセプトを伝えられたブランドチームのクリエイティブスタッフたちがそれを検討し、ペイントスキームのプロトタイプの準備を始めたのだが、デザイナーたちの頭に思い浮かんだのが、ホンダとのパワーユニット供給契約発表時にレッドブル・レーシングが使用したカラーイメージだった。ブランドチームのスタッフは次のように説明する。

「私たちが当時採用したのは、1950〜60年代ホンダF1のアイコニックなレーシングスーツとクラシックなリバリーでした。ピュアホワイトの下地にレッドを配して日本の国旗を表現したのです。今回も、レッドブル・レーシングの基本カラーのブルーから離れたカラーリングにトライできるチャンスでしたので、これを使うことにしました」

最初のプロトタイプが完成すると、デザイナーがペイントショップに赴き、そのデザインが実行可能かどうか問い合わせる。ペイントショップのスタッフは次のように語る。

「実現不可能なデザインは存在しません。ですが、塗装を開始する前に、まずはデザインの承認が必要になります」
デザインの承認が、ブランドチームとペイントショップの両方にとっての最初の障壁だった。クリスチャンの承認を得たあと、オーストリアにあるレッドブル本社、さらにはマシンにロゴが掲示される全パートナー企業の承認が必要になるからだ。ブランドチームのスタッフは次のように説明する。

「今回のデザインは色数を絞ったので、承認が特に難しくなる可能性がありました。確かに障壁でしたが、やりがいはありました」

下準備
ブランドチームが極めて重要なデザイン承認作業に注力する中、ペイントショップは、マシン形状のガイドになる治具(じぐ:Jig)の作成と各部パーツの塗装工程の決定に励んでいた。チームがなるべく迅速に仕事を進められるようにするためだ。

ペイントショップには、デザイン承認を得て塗装に進む前にも、マシン到着に備えて準備を整えておくという大仕事がある。ペイントショップのスタッフは次のように説明する。

「図面をざっと見て『この部分は通常のままで問題ないが、あちらの部分は駄目だ』などと判断するだけでは不十分です。F1マシンには塗装するエリアが重なっている取り外し可能なパーツがいくつも存在するので、それらが順番通りに正しく並んでいるように注意する必要があります。ですので、各パーツ用の治具を作成するのです。また、塗装用のマスキングも用意しています。すべての治具が用意できたあと、全パーツのモックアップ(実物大模型)を製作します」

通常、ペイントショップにはこの作業のために数カ月が与えられる。しかし、今回のスペシャルリバリーは早急に仕上げる必要があった。ペイントショップのスタッフは次のように語る。

「時間のかかる工程ですし、今回は大変でしたね。とてつもないチャレンジでしたが、ペイントショップのスタッフ全員が意気揚々と取り組んでいました。普段とは違った作業でしたからね。いつもとは趣が異なるカラーリングですし、素晴らしいリバリーになることは分かっていました」

ペイントショップの一部のスタッフが治具とモックアップの作成に取り組む一方、残りのスタッフたちがカラーを選定しながら、使用する塗料が従来と同じ軽量塗料かどうかの確認作業を進めていった。

塗装作業
ここまで読めば分かる通り、1レース限定のスペシャルリバリーはもちろん、F1シーズン全体を通じて使用するペイントスキームは膨大なプロセスで構成されている。しかし、常に限界をプッシュするのがレッドブル・レーシング・ホンダの基本姿勢だ。

1レース限定のスペシャルリバリーは特別新しい試みではなく、多くのライバルチームも実施している。しかし、それらのほとんどは既存のカラーリングにグラフィックやステッカーを追加しただけだ。ペイントショップのスタッフは次のように語る。

「レッドブル・レーシングではそのような方法は採用しません。私たちはマシン全体を塗り替え、徹底的なイメージチェンジを行います。ですので、サーキットで披露すると、他チームが採用してきたどのリバリーとも異なる印象を与えるのです。サーキットで目立つ鮮烈なカラーリングを常に意識しています。ガレージから出てきたときに、狙い通りのインパクトを与えられるようなものでなければなりません」

「そのため、レッドブル・レーシングではありきたりな方法を採用せず、少し冒険しています。良く見かけるようなペイントではなく、完全にユニークなものにしているのです!」

ペイントショップでの準備が整うとRB16Bが搬入され、ジグソーパズルを崩すかのようにパーツ別に分解される。そして各パーツの下地処理が行われたあと、パーツごとに塗装される。このような作業が重要な理由は、ペイントショップではマシンの再組立が行われず、個々のパーツとしてサーキットへ送り出されるからだ。

「塗装を終えたパーツがサーキットに届いたあと、チームがガレージ内で組み立てます。ですので、すべてのパーツが問題なく組み合わさるように細心の注意を払わなければなりません。もちろん、毎回きちんと組み合わさりますよ!」

難しさゆえのやりがい
ブランドチームとペイントショップにとって、一度限りのスペシャルリバリーを用意するのは大変なチャレンジだ。普通のシーズンではなく、COVIDの影響を受けたシーズンでの実施はひときわ大変だ。しかし、これは歓迎すべきチャレンジだった。ペイントショップのスタッフがその理由を次のように語る。

「すべてのF1チームの中で、レッドブル・レーシング・ホンダのリバリーが最高だと思っていますが、私たちの主な仕事は、同じリバリーを繰り返し用意することです」

「ですが、私たちは違う仕事をしたいと常々思っているのです。もちろん、このようなスペシャルリバリーを用意するためにはチーム全体で膨大な作業をこなす必要があります。ですが、だからこそ私たちはF1の世界にいるのです。困難な状況に追い込まれると燃えるのです!」

新たなカラーリングを纏ったRB16Bがトルコのトラックを走行する様子を見た誰もが驚いたが、ミルトンキーンズでは多くのスタッフが、ホンダへのトリビュートとして作り上げたものに誇らしさを感じていた。今回のスペシャルリバリー公開前、ブランドチームのあるデザイナーは次のように語っていた。

「このスペシャルリバリーがサーキットで公開されたされたときに落胆する人はまずいないはずです。ホンダのスタッフ全員が感動するでしょう」

「シーズン中にこれほど大胆なカラーリング変更を行うのはかなり久しぶりでした。自分たちで少しハードルを上げましたが、最高のルックスと内容にしたいと考えていました。本当に特別なリバリーになるでしょう。このリバリーが公開されたら、ノンアルコールビールで乾杯するつもりです」

今回のスペシャルリバリーは、関わったスタッフたちのやる気を高めた。彼らはこのような仕事に再び関わるチャンスが訪れることを楽しみにしている。デザイナーは公開後に次のように振り返っている。

「このようなスペシャルリバリーはもっと頻繁に実施するべきですね。レッドブル・レーシングのノーマルリバリーはインパクトが大きいので、そこから逸脱するのはかなり難しいはずですが、ファンは求めています。1レース限定のスペシャルリバリーは全員を興奮させます」

最後に、ペイントショップのスタッフは次のようにまとめている。

「私たち全員が自画自賛しても良いと思います。大変な作業でしたが、今回のようなプロジェクトのためにチームが一丸となれたのは素晴らしいことです」

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カテゴリー: F1 / レッドブル・レーシング / ホンダF1