ダニエル・リカルド F1引退後は「自己探求の年」 レース以外の自分を模索
ダニエル・リカルドは、F1の世界から離れて「少し自己探求の年」を過ごしていると語り、「レースドライバー以外の自分が何者なのかを探している」と明かした。

リカルドは2024年シンガポールGPを最後にF1グリッドから姿を消し、通算257戦出走、3回のポールポジション、8勝、32回の表彰台、そして1300ポイント超を積み上げたキャリアに一区切りをつけた。

その後は表舞台への露出を減らし、自身が主催するカートシリーズのレースに時折顔を出す程度。HRT、トロ・ロッソ(後のアルファタウリ/RB)、レッドブル、ルノー、マクラーレンで過ごしたF1キャリアについて振り返る機会も少なかった。

母国オーストラリアで開かれたRay Whiteの「Connect」カンファレンスに登壇したリカルドは、F1を離れてからの生活や、その中で得た気づきについて語った。

「まあ、髭は剃ってないんだ。今はこの髭が自分の安心感なんだよ」と36歳になったリカルドは冗談めかして切り出した。

そして真剣な口調に変わり、「今年は少し自己探求の年だった。ずっとクレイジーなハイスピードの生活を送ってきたけど、今年は少し静けさの中に身を置いている」と続けた。

ダニエル・リカルドリカルドは昨年のシンガポールGP後にRB(現レーシングブルズ)のシートを失った

「たくさんの時間があった。ハイキングもしたし、数週間前にはアラスカにも行った。グリズリーに襲われずに済んだのはボーナスだったね」

「レースドライバー以外の自分を探そうとしている。家族や友人の大切さ、小さなことをもっと楽しめるようになった」

「ずっと強い向上心を持ってやってきたけど、それは時に自分勝手にもつながる。だから今は、もっと利他的になって、より良い聞き手になる方法を学ぼうとしている」

時間に余裕ができたことで、リカルドは自らのモータースポーツの原点にも思いを巡らせた。そして、自分が成し遂げた成功の数々が今でも信じられないと率直に語った。

「子供の頃は最高だったよ。いつも少し自分を怖がらせるようなことをやりたかったんだ」

「僕がレースを始めた理由は、周りにやっている人がほとんどいなかったからだ。それは、他のみんなよりちょっとカッコいいことをするチャンスだった」

「ただ目立ちたかっただけなんだけど、その“目立ちたい”が僕をすごくいい場所まで連れてきてくれた」

「時々、モナコで勝ったことなんかを思い返すと、『あれは本当に起きたことなのか?!』と思うことがある」

「レースは大好きだったけど、まさかF1に行けるとは思わなかったし、あんなキャリアを送れるなんて考えてもいなかった」

「一歩ずつ進んでいくしかない。先のことを考えすぎると、すべてがちょっと怖く見えてしまうからね」

ダニエル・リカルド F1

デビッド・クルサードが語る、リカルド低迷の理由
元グランプリ優勝者のデビッド・クルサードは、リカルドの急激なキャリア低下の主な理由は、2018年末にレッドブルを去ったことで「勝利への渇望」を失ったことにあると考えている。

「人生は進むにつれて進化していくし、うまく進化できるドライバーもいれば、成功が逆に影響してキャリアの軌道を変えてしまうドライバーもいる」とクルサードはポッドキャスト『High Performance』で語った。

「ダニエル・リカルドはその例だね。F1に現れた時は明るい将来を持つ若手で、世代最高のオーバーテイクをするドライバーの一人で、常に見ていてワクワクさせられた」

「でも突然、レッドブルを去ってからは、ルノーはまあまあ、マクラーレンでは2年間ともランドに上回られた(1勝はしたけれど)。そしてアルファタウリでもうまくいかなかった。今は幸せに引退していると思うし、裕福な身だろうけど、すべてが短期間に凝縮されすぎた印象だ」

さらにクルサードは続けた。

「人生を重ねるごとに『荷物』を背負う。貧しい人ならテスコの袋に服が数枚、裕福な人ならルイ・ヴィトンのバッグだ。違うブランドもあるけどね。でもその荷物は次のチャンスに向かうために必ず持ち運ばなきゃいけない」

「それが富や成功の荷物であれ、貧困や困難の荷物であれ、背負ったままやっていく必要がある。そして、中には手放せず、かつて最高のパフォーマンスを出せた自由な瞬間に自分を戻せない人もいる」

「人は進化する中で、その渇望を持たなくなる段階に入ることがある。マーティン・ブランドルが『速さを失うんじゃなくて、渇望を失うんだ』と言っていたが、それはボクサーにも似ている」

「おそらくすべてのボクサーは、練習か初期の試合かで一度は倒された経験があるだろう。若い時は顔を上げ、周囲を見回しても、成功への渇望が強く、その痛みに打ち勝つ」

「でも年齢を重ね、富や成功を手に入れると、倒れたときに『カウントは5か6って言った? もう少しここにいようかな』『あ、カウントアウトされた。でもお金は稼いだし、もう頭を殴られたくないな』となってしまう」

「つまり、パンチを受け続ける渇望を失ってしまうんだ」

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カテゴリー: F1 / ダニエル・リカルド