レッドブル・ホンダ
レッドブル・ホンダの2019年のF1世界選手権のハイライトを振り返る。

F1 2019シーズンは3月のオーストラリアGPから始まり、21レースを経て12月のアブダビGPで幕を閉じた。ルイス・ハミルトン(メルセデス)が6度目のワールドチャンピオンを獲得した2019シーズンは、史上最速ピットストップが相次いで更新された他、様々なドラマや疑惑が刻まれてきた。

ルイス・ハミルトンが11勝を挙げて6度目のタイトルを獲得した一方、僚友バルテリ・ボッタスが果敢にハミルトンの牙城に挑んだ。また、4冠王者のセバスチャン・ベッテルと若きシャルル・ルクレールを擁したフェラーリも強力なパフォーマンスを見せ、アストンマーティン・レッドブル・レーシングのマックス・フェルスタッペンはファンのハートを掴んでニュースヘッドラインを賑わせた。

成熟さと安定感と容赦のないドライビングを組み合わせたフェルスタッペンは3勝・ポールポジション2回を記録してドライバーズ選手権3位で2019シーズンを終え、打倒ハミルトンの急先鋒となった。

フェルスタッペンのチームメイトはシーズン途中でアレックス・アルボンに交代した。スクーデリア・トロ・ロッソでF1デビューシーズンを戦っていたこのルーキーは、ピエール・ガスリーと入れ替わる形でレッドブル・レーシングに昇格してシーズン後半戦を戦った。

この結果、すでに目の離せない内容となっていた2019シーズンにさらに興味深いサブストーリーが加えられ、トロ・ロッソはレッドブル・レーシングと共に1度ならず2度の表彰台を経験した。

1.雨で大荒れのドイツGPとレッドブルの地元オーストリアGPを制したフェルスタッペン
2019シーズンはルイス・ハミルトンが第8戦フランスGPまでの全レースで優勝または2位を記録したが、そこまでのハミルトンへの挑戦者は主にチームメイトのボッタスとベッテル&ルクレールのフェラーリコンビだった。

この構図に少しずつ割り込んでいったのが、アストンマーティン・レッドブル・レーシングのマックス・フェルスタッペンだった。フェルスタッペンはホンダ製パワーユニットのスピードを熟成させながら、シーズン開幕から8戦連続トップ5フィニッシュを記録し、前半から高い安定感を示した。

そして運命かの如くホームのレッドブル・リンクで迎えた第9戦オーストリアGPで、フェルスタッペンはルクレールとのスリリングな真っ向勝負を制して2018シーズン・メキシコGP以来の優勝を飾った。
その2戦後にホッケンハイムで行われた第11戦ドイツGPでもフェルスタッペンは常に変化するウェットコンディションを生き残り、ハミルトンやボッタス、ルクレールなどのライバルたちが次々と戦列を去る中で優勝した。このレースではダニール・クビアト(トロ・ロッソ)も殊勲の3位表彰台をゲットした。

2.フェルスタッペン、シルバーストンとハンガロリンクでの白熱バトル
退屈な内容に終始した第8戦フランスGP以降のシーズン中盤戦は、クラシックレースと呼べる熱戦がしばらく続いた。

伝統のシルバーストン・サーキットで開催された第10戦イギリスGPでは、前戦オーストリアに続いてフェルスタッペン vs. ルクレールのホイール・トゥ・ホイールのバトルが確認できたが、真のドラマはベッテルのフェラーリが3番手のフェルスタッペンと接触し、両マシンがグラベルへコースアウトした瞬間に生まれた。これでフェルスタッペンはリカバリードライブを強いられ、チームメイト(当時)のガスリーに次ぐ5位でチェッカーを受けた。

そしてタイト&ツイスティなハンガロリンクで盛夏に開催された第12戦ハンガリーGPでは、フェルスタッペンがF1キャリア初のポールポジションを獲得。素晴らしいスタートを決めたあとハミルトンと緊迫の優勝争いを展開した。スピードのアドバンテージはハミルトンにあったが、フェルスタッペンは周回遅れとDRSを上手く活用しながら素晴らしいガッツと巧みなドライビングでハミルトンを抑え込んだ。しかし、メルセデスのピットクルーが新品タイヤでハミルトンを送り出すと、レース終盤でのグリップアドバンテージを得たハミルトンが勝負を決めた。

ハミルトンはレース残り4周でフェルスタッペンの前に出てリードを奪って優勝したが、このハンガリーGPは新たなクラシックバトルとしてF1の歴史に書き加えられることになった。

3.ガスリーとアルボン、シーズン途中の交代劇
2019シーズン、ガスリーはスクーデリア・トロ・ロッソからアストンマーティン・レッドブル・レーシングへ昇格したが、ガスリーが新環境への適応に苦しんでいたのは明らかだった。

チームメイトのフェルスタッペンが前半戦でいくつもの表彰台を記録し、さらにはオーストリアとドイツでは優勝して打倒メルセデス急先鋒としての資質を証明する中、ガスリーの成績は伸び悩んだ。第10戦イギリスGP終了時点のガスリーのベストリザルトは4位だったが、サマーブレイク明けの第13戦ベルギーGPを前にレッドブル・レーシング首脳陣はガスリーとアルボンのシートを入れ替える決断を下し、F1パドックを驚かせた。

しかし、この交代劇は両ドライバーにとってプラスになった。ガスリーは事実上の降格に意気消沈する代わりに前年まで所属したトロ・ロッソで息を吹き返し、終盤10戦で素晴らしいペースと成熟ぶりを見せつけると第20戦ブラジルで驚きの2位表彰台を獲得。ドライバーズ選手権7位でシーズンを終えた。

一方、アルボンもブラジルではハミルトンに初表彰台を実質上奪われてしまったものの、レッドブル・レーシングデビュー戦となったベルギーGPでの5位フィニッシュをはじめ、ブラジルGP(ハミルトンに追突されて14位フィニッシュ)以外の全レースをトップ6圏内で完走し、レッドブル・レーシング首脳陣の判断が正しかったことを証明した。

4.アルボンがレッドブル・レーシングデビュー戦で見せたオーバーテイク
8月のハンガリーGP後にアルボンのレッドブル・レーシング昇格がアナウンスされ、ガスリーと交代したアルボンは聖地スパ・フランコルシャンでの第13戦ベルギーGPでデビュー戦を迎えることになった。

この英国育ちのタイ国籍ドライバーは、ホンダエンジンを搭載したRB15をノーダメージで完走させて数ポイントを持ち帰るだけの無難なレース運びでも許されたはずだが、それはアルボンの “プランA” ではなかった。

アルボンはエンジンコンポーネント交換によるグリッドペナルティで17番グリッドからのスタートとなったあと、チームメイトのフェルスタッペンのリタイアを確認しつつじわりじわりとポジションを上げていくと、34周目にソリッドで印象的なドライビングを見せる。2019シーズンにデビューしたばかりのアルボンは、トリッキーな下り坂の右カーブ、リバージュ・コーナーへの進入でダニエル・リカルド(ルノー)のアウトサイドに並びかけると、切り返しながらオーバーテイクを完遂して観客を魅了した。このコーナーでのオーバーテイクは “軽いベルギービール” と同じくらい珍しいものとして知られている。

5.レッドブル・レーシング、史上最速ピットストップを連続更新
レースの勝敗がピット作業で決まる時もある。そして、過去数十年のF1では迅速なピット作業が欠かせないものになっている。しかし、2019シーズンのアストンマーティン・レッドブル・レーシングはその水準をさらに引き上げると同時に、(良い意味で)限界を引き下げた。

7月の第10戦イギリスGP、レッドブル・レーシングのピットクルーはガスリーが乗るRB15のタイヤ交換作業を当時新記録の1.91秒で完了させたが、ミルトン・キーンズのボーイズ&ガールズにとってこの記録は十分ではなかった。第20戦ブラジルGPでフェルスタッペンが最初のピットストップを行なった際、レッドブル・レーシングのピットクルーたちはわずか1.82秒でタイヤ交換作業を完了した。レッドブル・レーシングは2019シーズンを通して最速ピットストップ記録を4回も更新した。

また、これにも飽き足らなかったレッドブル・レーシングのピットクルーたちは世界最高のピットストップ・スキルを文字通り “別世界” に持ち出し、無重力ピットストップ《ZERO-G》プロジェクトに挑戦した。

6.ドラマ満載のブラジルGP — フェルスタッペンが優勝 アルボンは表彰台目前で阻まれる
シーズン残り2戦となった第20戦ブラジルGPは灼熱のインテルラゴス・サーキット(サンパウロ)で開催された。2008シーズンや2012シーズンのタイトル決定戦、あるいはシーズン終盤の激戦を問わず、インテルラゴスでは常にドラマティックなレースが繰り広げられてきた。

2019シーズンのブラジルGPはフェラーリ2台が同士討ちを演じ、フェルスタッペンが見事なシーズン3勝目を挙げ、ガスリーがトロ・ロッソで衝撃的な表彰台フィニッシュを飾り、アルボンが残り2周で初表彰台の夢を打ち砕かれたレースとして長く記憶されることになるだろう。レース終盤でセーフティカーが導入された時点のフェルスタッペンはすでに優勝を手中に収めかけており、チームメイトのアルボンもF1キャリア初表彰台フィニッシュをほぼ確実にしていた。

しかし、ハミルトンの楽観的なオーバーテイクが接触を招き、不運なアルボンをコース外に押し出したことで彼の初表彰台の夢は潰えた。これで2番手に浮上したガスリーが最後のフィニッシュラインを目がけた加速競争でハミルトンを抑え切り、F1キャリア初表彰台をゲットした。

ハミルトンはその軽率なドライビングを問われて5秒加算ペナルティを科され、この結果マクラーレンのカルロス・サインツが初の表彰台をゲットした。しかし、歴史的となるはずだったホンダエンジン搭載車による1-2-3フィニッシュは阻まれ、ホンダは1991シーズンの日本GP以来となる1-2フィニッシュという結果で満足しなければならなかった。

このエントリーをはてなブックマークに追加

カテゴリー: F1 / レッドブル・レーシング / ホンダF1