F1がカタールGPで異例の“タイヤ周回制限” ピレリ対応に大きな疑問符

しかし「品質」という言葉は、今回のカタールGP週末で起きた出来事を振り返るとあまりにも不釣り合いだ。
ピレリ自身が、ロサイル・インターナショナル・サーキットで18周(100km未満)を超えると“構造的破壊の危険”を保証できないと認めたからだ。
なぜF1は予測できなかったのか
F1がロサイルで走るのは2回目だったが、事前に想定しきれない要素もあった。初開催時よりも季節が早く、高温条件。さらに路面は再舗装だけでなく大規模改修され、新設された縁石が最大の問題となった。
加えて、2回目の開催はスプリント週末で、チームはわずか1時間のプラクティスしかなく、問題の発見が遅れた。結果、F1は望まざる前例のない措置──スティント長制限の強制──に踏み切った。
スプリントは多重クラッシュによる長いセーフティカーで中断し、ピレリが判断材料とするデータが不足。チームがすでにタイヤ割り当てを消費していた点も状況を複雑にした。
最終的にピレリは18周という極端に短い上限を設定。チームはほぼ同一の3ストップ戦略に縛られた。優勝したマックス・フェルスタッペンでさえ「今週末から学ぶべきことはいくつかある」と語った。
2024年は改善されたが“兆候”は続いていた
翌年のカタールGPに向け、問題の縁石は修正され、エッジは滑らかになり、コース外走行を抑制するためにグラベルも敷設された。これにより2024年はスティント制限が不要となり、正常にレースが行われた。
しかし2024年のレース後、ピレリは使用済みタイヤを検査し、深刻な摩耗と構造疲労の兆候を確認していた。
「昨年、特に左フロントは最大摩耗レベルに達していた」とピレリは今回の声明で説明している。「高い横荷重と組み合わさり、構造疲労が進行していた。」
昨年、9名のドライバーが決勝で35周スティントを走行している。ピレリは今年、その**10周短いスティント(=最大25周)**を上限とした。
明らかに、昨年と同じ摩耗領域に近づかせたくない意図が透けて見える。

“インディゲート”再来は避けたが、なぜ1年放置した?
事前に対処することは2005年インディアナポリスの惨事を避けるためにも必要だ。しかし、当時と違い現在はタイヤのワンメイク体制であり、ピレリは競争に追われず、使用方法にも最低圧など強い規制を課せる立場だ。
それでも、問題を昨年から把握していながら、なぜ今になって“応急処置”なのか?
ピレリは過去にもシーズン中に新コンパウンドを投入した実績がある。今年も“新素材”の2025年型コンパウンドを開発している。にもかかわらず、F1はストリートレース改善目的で**“超ソフト”C6を追加する方にリソースを割いた。
耐久性向上が急務である場所で、真逆の方向性。これは明らかにスポーツよりショー演出を優先した判断**と指摘せざるを得ない。
F1は近年「好調な財務状況」を盛んにアピールしている。資金が潤沢であるなら、こうした事態は避けられたはず。実際、F1公式サイトは数時間経ってもピレリの声明を扱っていない。
“ルールの歪み”は最終手段のはずだ
今回のような土壇場でのルール変更は、本来なら最も避けるべき対応だ。
ドライバーズタイトルだけでなく、莫大な賞金がかかるコンストラクターズ争いにも影響を及ぼす可能性がある。
2021年の初開催でタイヤ破損を経験したランド・ノリスも当時こう語っていた。
「もしF1マシンでサーキットを普通に走れないなら、どうしようもない。20〜25周程度のスティントであっても、走れるべきだ。」
そしてこう続けた。
「タイヤをもっと良くすべきだ。」
しかし4年経った今も状況は改善されていない。
問われるべきは──タイヤを作る者だけでなく、サプライヤーを選び、サーキットを選定し、ルールを作る側そのものだ。
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