ジョン・エルカーン会長のF1ドライバー批判発言は「フェラーリでは珍しくない」

サンパウロGPでのダブルリタイア直後というタイミングも相まって大きな波紋を呼ぶ発言となったが、ビルヌーブは「ショッキングだがフェラーリでは歴史的に珍しくない」と語る。
ビルヌーブは、フェラーリというチームが抱える“独特の内部力学”を背景に、この一件を位置づけた。父ジル・ビルヌーブもスクーデリアの象徴的存在であり、その歴史を知る立場から「フェラーリは常にフェラーリを守る」という文化が今も続いていると指摘する。
「ショックだが、フェラーリではよくあること」
ビルヌーブは、過去にもプロスト、マンセル、アロンソ、ベッテルといった大物ドライバーがフェラーリ内部の衝突で苦しんだことを挙げ、「フェラーリでは繰り返されてきたパターンだ」と説明した。
「驚くべきことではない。フェラーリでは歴史的にこうしたことが何度も起きた。フェラーリはフェラーリを最優先する。ただ、今回ドライバーたちがチームに損なうような発言をしたとは思わない。これはWEC優勝の直後だったし、F1との対比のような文脈もあったはずだ」と語った。
ビルヌーブは、エルカーンの発言は“悪意”ではなく、WEC優勝の高揚感とブラジルでの惨敗が重なった結果としての“感情の爆発”という側面が強いと見る。
「ブラジルはペース不足でもドライバーの問題でもなかった。ただ運が悪く、結果が壊れただけ。だからこそ、あの発言は少し唐突に感じられた。勝利と失望が混ざり合った時に感情が大きく揺れるのはスポーツの一部だ」

“メディア時代の拡大作用”が危険性を増幅
ビルヌーブは、現代のSNS環境では上層部の発言が拡大しやすく、チームの雰囲気に悪影響を与えかねないと警鐘を鳴らす。
「今の時代、発言はすべて増幅され、過剰に分析される。チーム内が団結を呼びかけている状況で、こうした発言が外に出れば、良いエネルギーにはつながらない」
さらに、長年タイトルから遠ざかっているフェラーリの状況を踏まえ、「期待の裏返しとして、どうしても感情が荒れやすい」と現状を解説した。
「問題は、こうした内部の話が外に出ると“汚れた話”になり、ファンやメディアの反応でさらに大きくなって制御不能になる危険性があることだ。過去のプロストやマンセルの例でも見てきたように、これは非常に滑りやすい坂になる」
フェラーリが抱える“永遠のテーマ”
ビルヌーブの分析は、フェラーリが長年抱える構造的な課題を改めて示すものだ。高い期待、強烈な情熱、組織の伝統、そして時に激しすぎる内部プレッシャー――これらは成功を生む一方で、チーム内の緊張を増幅させる。
エルカーン会長の発言は大きな波紋を呼んだが、ビルヌーブは「フェラーリとはそういう場所だ」と冷静に語る。
“火の玉のような文化”と“ドライバーの士気維持”という矛盾を抱えるこのチームにおいて、今回の一件もまた歴史の一部であり続ける。
カテゴリー: F1 / スクーデリア・フェラーリ
