メルセデスF1圧縮比問題 FIAが16.7:1容認 PU論争が新局面
2026年F1シーズンの序盤戦で、パワーユニット規則を巡る新たな技術論争が浮上している。焦点となっているのは、内燃エンジンの「圧縮比」をどの条件で測定するのかという問題だ。

FIAとエンジンメーカーの協議の結果、2026年6月1日以降はエンジンが高温状態にある場合の測定方法が変更されることが決まり、実質的に最大16.7:1までの“測定許容値”が認められる形になる。この変更は、メルセデスのパワーユニット設計を巡る議論と深く関係していると見られている。

F1レギュレーションの圧縮比は16:1が基本
現在の2026年F1レギュレーションでは、内燃エンジンの圧縮比は「16:1」が上限と定められている。この数値は、エンジンを常温状態で測定した場合の基準であり、2026年開幕戦オーストラリアGPで検査を受けたすべてのパワーユニットはこの規則に適合していた。

しかしパドックでは、メルセデスがシリンダーヘッド内にプレチャンバー(副燃焼室)を導入したことで、実際の運転条件では圧縮比が18:1に近い値まで上昇するのではないかという疑惑が浮上している。

この数値は2025年まで許されていたレベルであり、ライバルメーカーからは強い懸念が示された。ただし、メルセデスのパワーユニットが実際にそこまで達している証拠は確認されていない。

PUAC合意でレギュレーションを修正
この問題を受け、エンジンメーカーが参加するPUAC(パワーユニット・アドバイザリー委員会)で議論が行われ、レギュレーションの該当条項である「C5.4.3」を修正することで合意が成立した。

新しい規定では、圧縮比16:1の上限は維持されるものの、測定条件が以下のように変更される。

■2026年5月31日まで
エンジンが常温状態で測定

■2026年6月1日~12月31日
常温および油温130度の状態で測定

また、運転条件下で圧縮比が16:1を超えるよう設計された機構や部品の使用は禁止されることも明記された。

高温測定では16.7:1まで許容
ただし、合意の詳細にはもうひとつ重要なポイントがある。

高温状態で圧縮比を測定する際、測定誤差を考慮した“許容範囲”が設定されており、その結果として最大16.7:1までの値が容認される可能性があるという。

ここで言う130度とはエンジンオイルの温度を指しており、実際のレースコンディションに近い状態で検査を行うことになる。

このため、メルセデスの6気筒エンジンがこの許容範囲内に収まるのか、それともシリンダーヘッドの設計変更が必要になるのかが大きな焦点となっている。

メルセデスは改修不要と主張
メルセデス側は、現在の設計のままでもレギュレーションに適合すると主張している。

一方でライバル陣営は、プレチャンバーの充填効率を調整するためにシリンダーヘッドの小さな穴を拡大するなど、何らかの改修が必要になる可能性があると見ている。

圧縮比16:1という基準は、パワーユニット規則を策定する段階でアウディやポルシェが強く要求したものでもあり、この技術的な駆け引きはメーカー間の政治問題にも発展している。

圧縮比 メルセデスAMG・ペトロナス・モータースポーツ

6月1日という日程の意味
今回の規定変更が6月1日から適用されるのは偶然ではない。

F1では24戦のシーズンで使用できるパワーユニットは3基のみと定められており、1基あたりの理論寿命は約8レースとなる。

その8戦目にあたるのが6月7日に開催されるモナコGPであり、もしメルセデスが設計変更を行う場合でも、次のエンジンである「PU2」から導入すれば通常のローテーション内で対応できる。

また、圧縮比を活用して発熱量を最大化する設計を前提に開発されたペトロナスの持続可能燃料についても、仕様変更が行われる可能性があると見られている。

ライバル勢はADUOの活用を検討
もしメルセデスのパワーユニットが性能面で優位に立つ場合、ライバルメーカーはADUO(開発追随措置)を利用して差を縮めることが可能だ。

この制度では、基準となるパワーユニットより2%以上出力が低いと認定された場合、FIAの承認を得て6気筒エンジンの改修を行うことができる。

その申請は第6戦マイアミGP以降に可能となり、承認は第12戦ベルギーGPで行われる見込みだ。実際のアップデート投入は、続くハンガリーGPからになる可能性が高い。

序盤戦での“逃げ切り”を狙うメルセデス
メルセデスは2026年F1開幕戦オーストラリアGPでワンツーフィニッシュを達成し、すでに競争力の高さを示している。

チーム代表のトト・ヴォルフはフェラーリを最大のライバルとして警戒しているが、同時にシーズン序盤でポイント差を広げることを狙っているとも見られる。

同じメルセデス製パワーユニットを搭載するマクラーレンでさえ、まだエネルギー回生の最適な管理方法を完全には理解できておらず、現時点ではワークスチームに後れを取っている状況だ。

とはいえ、マクラーレンがこの課題を解決すれば、再びメルセデスにとって大きな脅威になる可能性も高い。2026年F1シーズンの勢力図は、パワーユニットを巡る技術戦争とともに今後も大きく揺れ動くことになりそうだ。

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カテゴリー: F1 / メルセデスF1 / F1マシン / FIA(国際自動車連盟)