メルセデスF1の“圧縮比トリック”はアウディとポルシェの要求が生んだ?

2026年から導入された新パワーユニットは、内燃機関と電動出力をほぼ50対50で分担する前例のないコンセプトを採用した。しかし、その結果として「スーパークリッピング」問題やエネルギーマネジメントの複雑化が発生し、シーズン開幕後も議論が続いている。
50対50の発想は自動車メーカー主導だった
シュミットによれば、現在の規則の出発点となったのはF1チームではなく各自動車メーカーの経営陣だった。
メーカー側はF1を電動化技術のショーケースとして活用したいと考え、エンジンと電動出力を同等レベルに引き上げることを強く求めたという。
シュミットは新規則について厳しい評価を下した。
「認めなければならない。この規則はひどいものだ。壊滅的な出来だ。問題が起きることは最初から見えていたのに、今になって止めようとしている」
その背景には、F1の競技的な要求よりもメーカーのマーケティング戦略が優先された側面があったと指摘している。
スーパークリッピングを生んだ政治的判断
50対50という構造を実現するため、電動出力は従来の120kWから350kWへと大幅に引き上げられた。
本来であればエネルギー回収能力も同時に拡大する必要があったが、その有力案だった前輪回生システムは採用されなかった。
シュミットは、その理由が純粋な技術論ではなく政治的な判断だったと説明する。
「解決策を見つける時間は3年あった。前輪からエネルギーを回収すればよかった。そうすればクリッピングやスーパークリッピングの話など出てこなかった」
しかし既存メーカーは、この方式によってル・マンでの経験が豊富なアウディやポルシェが大きなアドバンテージを得ることを警戒した。
その結果、前輪回生は却下され、現在の複雑なエネルギーマネジメント方式が採用されることになった。
アウディとポルシェの要求が生んだ“圧縮比問題”
一方でアウディとポルシェも譲歩したわけではなかった。
シュミットによれば、両社はターボ過給圧と圧縮比に上限を設けるよう強く主張したという。
「彼らは過給圧制限と圧縮比制限の導入を強く求めた。これもまた理解しがたい選択だった」
シュミットは、この決定が現在のメルセデス優位につながった可能性があると指摘する。
「もし制限がなければ圧縮比は以前と同じ18対1のままだっただろう。そうなればメルセデスは現在のような優位性を得られなかった」
2026年シーズン序盤からパワーユニット性能で高い評価を受けるメルセデスだが、その背景には規則の抜け道を活用した設計思想があるとの見方も存在している。
アウディ自身も苦しむ過給圧制限
シュミットはさらに、アウディが過給圧上限を5.0バールから4.8バールへ引き下げることを主導したとも明かした。
しかし皮肉なことに、そのルールが後にアウディ自身を苦しめる結果となった。
マイアミGPスプリントではガブリエル・ボルトレトのマシンが吸気圧に関する規定違反によって失格となっている。
自ら推進した規則によって自チームが処分を受けるという、象徴的な出来事だった。
2026年規則への根本的な疑問
シュミットは最後に、F1があまりにも複雑な技術議論に踏み込みすぎていることへ警鐘を鳴らした。
「スポーツはファンに楽しんでもらうものでなければならない。ほとんどのファンはメガジュールが何なのか知らない」
「そうした話を始めた時点で、F1はすでに負けている」
2026年レギュレーションは環境性能とメーカー誘致を重視した結果として誕生した。しかしシュミットの証言からは、その裏側で各メーカーの思惑が複雑に絡み合い、妥協を重ねた末に現在の制度が形作られたことが見えてくる。
そして今、その妥協の積み重ねがスーパークリッピング問題や勢力図の偏りとして表面化し始めている。今後予定される2027年以降の見直し議論では、こうした“政治主導の副作用”をどう解消するかが大きなテーマになりそうだ。
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