ホンダF1復帰とお金の事情:新型コロナからの復興とPUコストキャップ
ホンダは2026年からF1に復帰することを発表。理由は「2026年のF1レギュレーション変更とホンダのカーボンニュートラルの方向性の合致」。だが、おそらく企業的なメッセージを額面通りに受け止めていないファンも少なくないだろう。「ホンダはF1から撤退していたの?」との声も聞かれるほどだ。
日本の自動車メーカーが、モータースポーツの最高峰に復帰したことは喜ばしいことだが、今回はあえて意地悪な方向からホンダのF1復帰を考察してみる。
2020年10月、ホンダは2021年シーズン限りでF1から撤退することを発表。持続可能な社会を実現するために「2050年カーボンニュートラルの実現」を目指すことを理由に挙げた。
だが、ホンダがF1から撤退した時期は、新型コロナウイルスのパンデミックの最盛期。F1の開幕は夏まで延期となり、F1日本GPは中止。東京オリンピックでさえ1年延期が決定していた。社会的な消費は低下し、「不要不急」の行動は避けるべきとのメッセージが発せられ、各企業の業績は低下。先行きが見えない状況となっていた。
当然、ホンダの業績も落ちた。したがって、取締役会はレッドブルとアルファタウリへの“無償”のワークスパワーユニット供給を正当化できなくなったのは想像に難しくない。
だが、その後、F1でも状況は変わった。2021年にはF1マシン開発にコストキャップが導入され、エンジン開発は凍結。シリーズ自体が持続可能な方向へシフトした。
そこでホンダはレッドブルと技術パートナーシップを締結する。レッドブルが搭載するエンジンの製造と保守を有償で請け負うことになった。つまり、出費だけだったF1活動がキャッス面で利益を生むようになった。そのおかげで、ホンダはレッドブルのマシンにロゴを復活させることができるようになった。
そして、今回のF1復帰についてホンダは「F1は、2030年のカーボンニュートラル実現を目標として掲げており、2026年以降は、100%カーボンニュートラル燃料の使用が義務付けられるとともに、最高出力の50%をエンジン、50%を電動モーターで賄う形となり、現在と比べて出力に占める電気エネルギーの比率が大幅に高められることになります」と説明。
「具体的には、2026年からエンジンの出力を抑える一方で、走行するマシンから減速時などにエネルギーを回収して電気エネルギーに変換する、エネルギー回生システム(ERS)の出力を現在の3倍に引き上げ、エンジンとモーターの最高出力が同等となるシステムとなります」
「このレギュレーション変更は、ホンダのカーボンニュートラルの方向性に合致し、その実現に向けた将来技術の開発に大きな意義を持つことから、新たに参戦を決定しました」
だが、実際にホンダがF1を撤退した時点で、F1はカーボンニュートラル実現の目標と、100%カーボンニュートラル燃料、MGU-Hの廃止、電気エネルギーの比率を高めるという2026年のF1レギュレーションの枠組みを固めていた。
さらに2023年シーズンからはパワーユニットのコストに関する財政規制も導入される。コスト上限は、2023年から2025年の期間で9,500万ドル(約131億円)、2026年以降で1億3000万ドル(約180億円)に設定される。
したがって、PUメーカーのF1参戦コストは見える化され、湯水のようにお金をつぎ込むことはなくなった。
そこで強かだったのがレッドブルだ。独自のパワーユニット部門であるレッドブル・パワートレインズを設立。おそらく、PUメーカーにコスト上限が設定されたことで、ホンダから有償でパワーユニットを購入するよりも、自社で製造して、他のスポンサーをつけた方が採算が取れると判断したのだろう。
実際、レッドブルは2026年からフォードとのパートナーシップを発表。憶測ではあるが、アメリカの大手自動車メーカーであるフォードは、ホンダがレッドブルに費やしていたお金よりも多くのお金をレッドブルに注入することになるだろう。そして、ホンダとアストンマーティンとの契約を発表したが、出費はレッドブル時代よりも安価なはずだ。
したがって、今回のホンダのF1撤退・復帰劇は、新型コロナウイルスのパンデミックによって業績が見えず、レッドブルとのパートナーシップにコストをかけることができなくなっていた撤退したが、PU開発にかけるコストに上限が設定され、業績も回復の兆しが見え、アストンマーティンと安価なパートナーシップを結ぶことができたので復帰するという金銭的な側面もあったのは確かだろう。
だが、金銭的な面は負の要素だけではない。競争の場が平準化されることで、“ホンダ製F1パワーユニット”は現在をベースにした“レッドブル・フォード”に対して再び競争力を発揮する可能性がある。
ホンダ・レーシング・コーポレーションの渡辺康治社長は、2026年のアストンマーティンF1チームとのF1復帰は完全にゼロからのスタートではないと主張する。
「現在のF1でも、レッドブルからの要請があれば、継続的にエンジンを供給していることをお伝えしたいと思います」と渡辺康治は語った。
「そのため、我々は現在開催中のF1レースでも稼働しています」
「2026年から導入される新しいレギュレーションについても、パワーユニットに関する重要なファクターの検討を継続して行ってきました。ですから、研究開発から完全に撤退したわけではありません」
「つまり、完全に撤退した前回とは違い、すでに開発に取り組んでいます」
第3期の撤退もリーマンショックが引き金だった。ホンダ第5期は、外部的な要因で業績が悪化することがなければ、長期的なコミットメントになるかもしれない。
カテゴリー: F1 / ホンダF1 / レッドブル・レーシング / アストンマーティンF1チーム
日本の自動車メーカーが、モータースポーツの最高峰に復帰したことは喜ばしいことだが、今回はあえて意地悪な方向からホンダのF1復帰を考察してみる。
2020年10月、ホンダは2021年シーズン限りでF1から撤退することを発表。持続可能な社会を実現するために「2050年カーボンニュートラルの実現」を目指すことを理由に挙げた。
だが、ホンダがF1から撤退した時期は、新型コロナウイルスのパンデミックの最盛期。F1の開幕は夏まで延期となり、F1日本GPは中止。東京オリンピックでさえ1年延期が決定していた。社会的な消費は低下し、「不要不急」の行動は避けるべきとのメッセージが発せられ、各企業の業績は低下。先行きが見えない状況となっていた。
当然、ホンダの業績も落ちた。したがって、取締役会はレッドブルとアルファタウリへの“無償”のワークスパワーユニット供給を正当化できなくなったのは想像に難しくない。
だが、その後、F1でも状況は変わった。2021年にはF1マシン開発にコストキャップが導入され、エンジン開発は凍結。シリーズ自体が持続可能な方向へシフトした。
そこでホンダはレッドブルと技術パートナーシップを締結する。レッドブルが搭載するエンジンの製造と保守を有償で請け負うことになった。つまり、出費だけだったF1活動がキャッス面で利益を生むようになった。そのおかげで、ホンダはレッドブルのマシンにロゴを復活させることができるようになった。
そして、今回のF1復帰についてホンダは「F1は、2030年のカーボンニュートラル実現を目標として掲げており、2026年以降は、100%カーボンニュートラル燃料の使用が義務付けられるとともに、最高出力の50%をエンジン、50%を電動モーターで賄う形となり、現在と比べて出力に占める電気エネルギーの比率が大幅に高められることになります」と説明。
「具体的には、2026年からエンジンの出力を抑える一方で、走行するマシンから減速時などにエネルギーを回収して電気エネルギーに変換する、エネルギー回生システム(ERS)の出力を現在の3倍に引き上げ、エンジンとモーターの最高出力が同等となるシステムとなります」
「このレギュレーション変更は、ホンダのカーボンニュートラルの方向性に合致し、その実現に向けた将来技術の開発に大きな意義を持つことから、新たに参戦を決定しました」
だが、実際にホンダがF1を撤退した時点で、F1はカーボンニュートラル実現の目標と、100%カーボンニュートラル燃料、MGU-Hの廃止、電気エネルギーの比率を高めるという2026年のF1レギュレーションの枠組みを固めていた。
さらに2023年シーズンからはパワーユニットのコストに関する財政規制も導入される。コスト上限は、2023年から2025年の期間で9,500万ドル(約131億円)、2026年以降で1億3000万ドル(約180億円)に設定される。
したがって、PUメーカーのF1参戦コストは見える化され、湯水のようにお金をつぎ込むことはなくなった。
そこで強かだったのがレッドブルだ。独自のパワーユニット部門であるレッドブル・パワートレインズを設立。おそらく、PUメーカーにコスト上限が設定されたことで、ホンダから有償でパワーユニットを購入するよりも、自社で製造して、他のスポンサーをつけた方が採算が取れると判断したのだろう。
実際、レッドブルは2026年からフォードとのパートナーシップを発表。憶測ではあるが、アメリカの大手自動車メーカーであるフォードは、ホンダがレッドブルに費やしていたお金よりも多くのお金をレッドブルに注入することになるだろう。そして、ホンダとアストンマーティンとの契約を発表したが、出費はレッドブル時代よりも安価なはずだ。
したがって、今回のホンダのF1撤退・復帰劇は、新型コロナウイルスのパンデミックによって業績が見えず、レッドブルとのパートナーシップにコストをかけることができなくなっていた撤退したが、PU開発にかけるコストに上限が設定され、業績も回復の兆しが見え、アストンマーティンと安価なパートナーシップを結ぶことができたので復帰するという金銭的な側面もあったのは確かだろう。
だが、金銭的な面は負の要素だけではない。競争の場が平準化されることで、“ホンダ製F1パワーユニット”は現在をベースにした“レッドブル・フォード”に対して再び競争力を発揮する可能性がある。
ホンダ・レーシング・コーポレーションの渡辺康治社長は、2026年のアストンマーティンF1チームとのF1復帰は完全にゼロからのスタートではないと主張する。
「現在のF1でも、レッドブルからの要請があれば、継続的にエンジンを供給していることをお伝えしたいと思います」と渡辺康治は語った。
「そのため、我々は現在開催中のF1レースでも稼働しています」
「2026年から導入される新しいレギュレーションについても、パワーユニットに関する重要なファクターの検討を継続して行ってきました。ですから、研究開発から完全に撤退したわけではありません」
「つまり、完全に撤退した前回とは違い、すでに開発に取り組んでいます」
第3期の撤退もリーマンショックが引き金だった。ホンダ第5期は、外部的な要因で業績が悪化することがなければ、長期的なコミットメントになるかもしれない。
カテゴリー: F1 / ホンダF1 / レッドブル・レーシング / アストンマーティンF1チーム