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ホンダF1でパフォーマンスエンジニアを務める湊谷圭祐が、年間21戦すべてが異なるサーキットに合わせてF1パワーユニットでどのようにセッティング作業を行っているのかを語った。

サッカーやラグビー、野球などのスポーツでは、各チームにホームスタジアムがあり、そこで多くのイベントが開催される。しかし、F1は、シーズン中、一つの会場に原則として一度しか訪れない。

その例外と言えるのが、スペイン・バルセロナにあるカタロニア・サーキットだろう。プレシーズンテストとインシーズンテストの開催地として長年使用されてきた同サーキットは、今シーズンは合計で13日間使用される(プレシーズンテスト8日間、レースウイーク3日間、インシーズンテスト2日間)。もう一つのインシーズンテストが開催されるハンガロリンクでは5日間、通常のレースが開催されるサーキットが3日間であることを考えると、これはかなり多い数字だ。

したがって、カタロニア・サーキットは各チームにとってなじみ深い場所だと言えるだろう。しかし、それでレースに向けたパワーユニットの準備が楽になるかといえば、そんなことはない。

ホンダF1でパフォーマンスエンジニアを務める湊谷圭祐は「特定のサーキットに向けて準備を進めるとき、状況によって準備を始めるタイミングは異なります。バルセロナでのレースに向けては、前戦で使用したスペックを使うため、通常と異なる作業はほぼ発生しません」と語る。

「基本的には、レースが終わった直後に次戦に向けた準備を始めます。まずはミルトンキーンズとHRD Sakuraで、サーキットシミュレーションを行います。コースレイアウトの特性に合わせてアイテムやセッティングをテストすることで、パワーユニットから最大のパフォーマンスを引き出せるようになります。これが基本プランですね」

「新しいスペックを導入する場合には、当然、通常よりも多くの時間が必要です。現時点では、夏に新たなスペックを投入する予定で、それに向けた準備は開幕戦が終わった直後から始めています。だいたい、2~3カ月かけて準備しているのですが、多くの時間が必要なんです」

新スペックの導入に向けて、サーキットに合わせた準備を行う際には、過去の走行データが役立ちつ。ドライバーがスロットルペダルを踏んだ際の基本的な動きはどこでも同じだが、エネルギーマネジメントの調整はかなり複雑なものになっている。

「エネルギーマネジメントの最適解はコースごとに全く異なります。これについては、ほかのコースから分かることはそれほど多くありません。しかし、トルクコントロール、ブーストコントロール、イグニッションなどの基本的なエンジンセッティングに関しては、各サーキットで同じものを使用しています」

「エンジンコントロールに関して言えば、かなり多くの選択肢を試すことができます。しかし、エネルギーマネジメントはコースによって大きく異なるため、我々エンジニアにとってはそこが一番のチャレンジになりますね」

「エネルギーマネジメントに関しては、デプロイメントが大きなカギになります。予選では一周でバッテリーを限界まで使うことができるので、エネルギーを最大限使いきることを目標にセッティングします。しかし、レースではバッテリー容量を一定のレベルに保ちながら走行しなくてはなりません」

「例えば、ストレートが10本あるサーキットでレースが行われるとしましょう。ストレートの長さはそれぞれ違い、長いストレートでMGU-Kのデプロイを使用するほうが効果的なので、そこでデプロイを多く使うようにしていきます」

「シミュレーションでは、ストレートごとにどれだけのエネルギーを配分するべきかを計算し、我々が到達し得る最速のラップタイムを弾き出します。これがシミュレーション時に最初に行う作業で、パワーユニットの出力曲線とシャシーのドラッグデータをもとにしています」

「しかし、エンジニアが行う作業は、各ストレートでのパワー配分の計算だけではありません。コーナーへの進入速度が、そのコーナーを通過する際のスロットル開度にも影響を与えるからです。そしてこれは、次に来るストレートでの走行にも影響を及ぼします、このようなプロセスは結局サーキット1周を走る中で連続して起こっていくので、各サーキットごとにその特性を深く理解していく必要があります。さらに言うと、これはマシンが単独走行している際の計算でしかなく、ライバルと一緒に走行している状況では別のシミュレーションが必要になって来るんです……」

「木曜日にコースへ到着すると、まずはドライバーとレースエンジニアに、そのコースでのPU側の使用プランを説明します。エンジンコントロールに関しては、どのサーキットでも基本的には同じです。ドライバーがアクセルペダルを踏み込むのは、エンジンからさらにトルクを引き出そうとしているからです。そうすると、エンジンは求められたパワーを出そうとします。これはどのサーキットでも同じです。しかし、エネルギーマネジメントに関しては、ドライバーがフルスロットルで走っていても、状況によっては異なる場合があるんです」

「予選では、常にMGU-Kのデプロイがある状態です。しかし、レースでは、フルスロットルで走行するストレートでMGU-Kのデプロイが必要となりますが、あえてそれをカットするポイントもあります。止めるタイミングはそのときのラップタイムにもよりますが、ドライバーと無線で話してタイミングを探る必要があります。ほかのドライバーとバトルしている場合もありますからね」

「一般的に言って、長いストレートではより長くMGU-Kのデプロイを使う必要があります。そうすることで、ほかのドライバーと有利に戦えるようにするためです。したがって、ドライバーからドライバビリティー(ドライバーの操作に対するPUの反応の良し悪し)と、ライバルとの競争力に関するフィードバックをもらうことが欠かせません」

「今年に関して言えば、もう一つのチャレンジはドライバーの若さです。彼らにはF1での経験がそこまであるわけではありません。メルボルンはピエールとブレンドンにとって初めてのサーキットだったため、木曜日にフィードバックをもらうことは困難でした。でも、FP1とFP2が終わったあとには、有効なフィードバックをもらうことができました」

「こうした場合、コースに関しての知識が力を発揮します。これまでにテストで何度もカタロニア・サーキットを走行した経験を持つドライバーたちは、ここでラップタイムを記録するためにはなにが必要なのかを理解しています。しかし、いくら経験があるとはいえ、レースとテストは全くの別物です。ピエールとブレンドンのフィードバックの中には、フリー走行中にパワーユニットのセッティングがそれぞれの車両に合っていたか、また、コースのどのエリアで、MGU-Kのデプロイがどの程度必要なのかについて、ということも含まれます」

「こうしたフィードバックは、エンジニアにとって非常に助かるものです。我々にはGPSデータがあるので、マシンの速度推移がほかのライバルと比べてどのように異なるかを、見ることはできます。しかし、それでもドライバーからのフィードバックは、ほかのライバルとの違いを知るためには欠かせません」

レースが始まる前に数多くのシミュレーションを行い、ドライバーからフィードバックをもらい、STR13がコースへ出れば、大きなセッティング変更が必要ないことが本来の理想だ。

「これまでは、大きな変更の必要はありませんでした。これまでの3年間で、それぞれのサーキットについて蓄えた知識がありますからね。しかし、フランスのポール・リカール・サーキットに関しては、2016年のウエットタイヤテストで走った経験しかないので、ほかのサーキットより多くの作業が必要になるでしょう。しかし、基本的にはそこまで大きな変化は加えない予定です」

「これまでにカタロニア・サーキットで得た知識は役立ちますが、金曜日の走行プランは基本的にほかのトラックと同じです。金曜日の最優先事項は、予選とレースに向けてのマシンのベースラインを築くことです。予選に向けては、FP3で変更を行ってもう一度トライすることもできます。しかし、1時間のセッションなので、燃料を多く積んでのロングランを行うことはまずありません。なので、レースに向けて最適な戦略をFP2で確立する必要があるんです」

「もちろん、FP3が終わったあとに変更を加えることもありますが、ややリスキーですよね。できればやらないで済むことを祈っています」

過去に行った4回のプレシーズンテストで数千kmを走ったにもかかわらず、週末のスペインGPに向けての準備はほかのサーキットと同じく行われる。なぜなら、進化を遂げているのはパワーユニットだけではない。路面も同様に変化している。

「昨年のレースが終わってから、カタロニア・サーキットの路面は再舗装されています。今年のウインターテストでも、その違いは明らかでした。基本的には、タイヤのグリップ力が昨年から向上しています。ドライバーのスロットル開度が、昨年のスペインGPでの予選より大きいほどです。グリップは、エンジンの挙動にも影響がありますし、エネルギーマネジメントの設定を変更することになるでしょうね」

どのコースであろうと、レースウイークに向けたエンジニアの準備は変わらない。しかし、来週開催される2日間のテストでは、パワーユニットの開発により多くの時間を割くことができるようになる。

「先ほどお話した通り、そこまで遠くない先に新しいスペックを導入する予定です。それに関連していくつかの新しい項目を2日間のインシーズンテストで試します。トロロッソも多くのテスト項目を予定しているはずなので、どちらの優先度が高いかは、話し合う必要があるでしょうね」

このインシーズンテストの影響により、第6戦モナコGPの準備期間は通常よりも短くなってしまいる。そのため、モンテカルロに対する準備は通常よりも早いタイミングから進められている。各コースで最大のパフォーマンスを引き出すべく、エンジニアたちの作業に終わりはない。

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カテゴリー: F1 / ホンダF1