F1 本田技研工業 バーレーングランプリ
F1パワーユニットの話題でたびたび登場する”熱”の問題。具体的にどんな影響があるのか、ホンダF1のエンジニアが解説した。

常に温かい場所を求めて年間カレンダーが組まれているF1において、気候に関する不満を聞くことはほとんどない。ただ、F1マシンのパワーユニットは非常に高温な状態で機能しているので、あまりにも暑すぎる気温は、そのパフォーマンスに影響を及ぼす場合がある。

第2戦の開催地バーレーンは、昼間の気温は30℃以上、夜になって下がっても20℃中盤。そのような環境で、パワーユニットはどうなるのだろう?

ホンダF1のチーフエンジニア中村聡は「気温が上がると水温、油温、吸気温度も上昇します。特に温度が上昇するのが、インダクション(エンジンが外気を吸入する部分)です。ここの温度が上がると、マシンのパフォーマンスや信頼性に大きな影響が出てしまいます」と説明する。

「燃焼のタイミングが悪いと、高温が原因でノッキング(異常燃焼の一種)が発生する場合があります。すると、それを防ぐためにパフォーマンスを一時的に引き下げなくてはいけません。なので、エンジニアは常に温度が上がり過ぎないように気を付けています。ノッキングはマシンにダメージを与えてしまうため、パフォーマンスと信頼性の面で大きな悪影響があります」

外気温が30℃を超えると、エンジニアはより注意深く温度をモニターするようになりる。何故なら、パワーユニットもその変化を敏感に察知するからだ。

「パワーユニットにとって最適な気温は20~21℃です。また、極端に低い気温に対しては、エンジンマッピングを行っていません。実際のレースで必要がないからですが、そういった意味で、低すぎる外気温もパフォーマンス面ではよくはありません。エンジンマッピングを行っていれば、パフォーマンスをより向上させることができると思います。温度が上昇した際に最も問題となるのが、排気管とターボです。我々はセンサーで常に温度をモニタリングしています」

パワーユニットのMGU-Hは排気ガスから生じる熱をパワーに変換するが、それでもときに排気温度が1,000℃に達する。これは、思いきりブレーキをかけて、ディスクロータが赤熱しているときと同じ温度だ。

パワーユニットは、水温が120~130℃の高温域で作動するように設計されている。冷却システムに圧力をかけているためにそのようなことが可能だが、一般的な乗用車はそういった設計になっておらず、冷却水の温度は三分の二ほどまでしか上がることがない。また、外気温からの影響を抑えると同時に、路面の衝撃からもパワーユニットを守られていなければならない。

「分かりやすく言えば、路面温度が高いということは気温も高いということを意味します。熱はパワーユニットの下から来るので、熱シールドでそれを防ぐ必要があります。多くのコンポーネントは、熱シールドで守られています。中でも特に多くの熱シールドで保護されているのが排気管で、MGU-Hとタービンによるエネルギー回生において重要な役割を担っています」

オーバーヒートは、すべてのマニュファクチャラーが真っ先に対抗策を考えなければならない問題だ。ドライバーはレース中に他のマシンの背後にとどまり続けるなと言われる。より多くのクリーンな空気を取り入れ、効率よくマシンの冷却を行うためだ。高温になり過ぎてしまった場合、まずパワーユニットにその影響が出る。

「排気温度の限界を超えた場合、燃料流量が自動的に低下します。これは安全装置の一種です。燃料が少なくなるため、マシンのパワーとスピードは低下します。排気システムがオーバーヒートを起こしてしまうと、ウェイストゲートバルブが故障したり、タービンブレードが1,000℃以上で作動し続け、タービンブレードに大ダメージを与えたりします。なので適切な温度に保つ必要があります」

前を走るマシンからの風を避けてクリーンな空気を確保することは、レース中にパワーユニットを冷却するための有効な手段だ。また、マシンがコースインする前にも高温への対策が施されている。

「走行前はパワーユニットを冷却するため、マシンの一部と冷却インレットを開きます。サイドポッド、排気ダクト、ラジエーターのサイズも冷却のために重要です。排気ダクトを開けることで、熱をより効率的に排出することができます。しかし、大きなダクトを使うと空力効率が悪くなります。なので、エンジンの冷却とパフォーマンスは常にバランスをとる必要があるのです」

このトレードオフは、空力的な影響を最小限に抑えるべく、ホンダとトロロッソが協力して行う。冷却システムはマシンの設計に組み込まれていて、空気はダクトに向かって流れるようにデザインされている。マシンがピットに戻ると、レース中のようなパワーユニットを冷やすための向かい風がない。そこでピットクルーの出番だ。

「パワーユニットを冷却するため、ピットでは、ドライアイスと送風機を使います。今シーズンは、昨年よりもっと大きな送風機を導入しました。トロロッソはいい設備を持っているので、去年よりも効率的に冷却を行えます」

走行時間を短縮しようと思えば、パワーユニットの温度は上昇する。HRDさくらでは、そんな状況でパワーユニットがどう動作するかのテストをしている。

「パワーユニットをダイナモでテストする際には、エアコンを切るなどして人工的に暑い環境を作ります。テストのデータを収集すれば、どこがパワーユニットの限界なのか分かります。ですので、実際にコンポーネントが壊れるまでダイナモで走行させることはありません」

バーレーンには、熱だけでなく砂の問題もある。バーレーン・インターナショナル・サーキットは首都マナーマから32kmほど南の砂漠地帯にあり、砂漠の砂が風でトラックに運ばれてくることがある。

「夕暮れ時に行われるのでバーレーンの温度はそこまで不安材料ではありません。問題は砂です。レース会場が砂漠地帯にあることが大きな問題になるでしょう。砂が中に入ってベアリングが壊れることもあります。砂が風で飛ばされるのを止めることはできないので、どうしようもないのです」

エアフィルターに砂が詰まるとパフォーマンス効率が下がるので、頻繁にフィルターを交換する。

「F1はラウンドごとに挑戦すべきことがあります。だからこそ我々はレースをするのです」

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カテゴリー: F1 / ホンダF1