F1解説:パルクフェルメ / パルクフェルメ状態とは?
F1のレース週末を迎えたサーキットに用意される “F1マシンに触れてはいけない” 場所と関連する複雑なルールを解説する。

チェッカーフラッグはモータースポーツの枠を超えて、“終了” や “結果” のシンボルとして扱われているが、皮肉なことに、モータースポーツ、特にF1のレースがこの白黒の旗とともに終了することはまずない。

たとえば、2021シーズン第5戦モナコGPのレッドブル・レーシング・ホンダは、チェッカーフラッグが振られた瞬間を喜びとともに迎えたが、彼らの勝利が確定したのは、RB16Bにルール違反がないことを車両検査官が確認し、スチュワードが公式結果を発表したあとだ。F1マシンが パルクフェルメ に置かれている間は何も確定していないのだ。

パルクフェルメ / パルクフェルメ状態
上記は パルクフェルメ が持つ意味のひとつだ。広義において、 パルクフェルメ には2つの意味がある。ひとつは、モータースポーツの歴史とともに歩んできた “物理的な場所” という意味だ。通常、F1ではピットレーンの先端、FIAガレージに一番近い場所に用意されているが、表彰台の近く、または真下に用意されるのが理想とされている。

パルクフェルメ はFIAの技術部門と検査官たちがオペレーションを担っており、特例を除いて、ここに停車したすべてのF1マシンは彼らの管理下となる。

そして、もうひとつの意味が、 “状態” としての パルクフェルメ 、つまり パルクフェルメ状態 / パルクフェルメ下 だ。これは、“F1マシンが パルクフェルメ に置かれている” 仮定で各チームがF1マシンを管理することを意味する。

この パルクフェルメ状態 から想起されるのは、明かりの消えた夜のガレージにカバーをかけて置かれているF1マシンだろう。しかし、現実の パルクフェルメ状態 では、メカニックたちがF1マシンをいじっていたり、ドライバーが予選ラップを走っていたりする。 パルクフェルメ には様々なルールが複雑に絡み合っているのだ

パルクフェルメ状態の期間
パルクフェルメ の基本ルールは、 パルクフェルメ状態 では、各チームがF1マシンに対して行える作業範囲が非常に限定されるということだ。この状態になった時点から、F1マシンの "修理" と "準備" は許されるが、"改良" は許されなくなる。

パルクフェルメ がGPに関わってくるのは、レースウィークエンドの “本番” が始まるタイミングだ。F1マシンは、予選Q1でピットレーン出口を越えた瞬間から パルクフェルメ状態 になる。つまり、その時点のスペックで予選と決勝を戦わなければならなくなるのだ。そして、 パルクフェルメ状態 は決勝レーススタート時まで続く。尚、Q1に参加しなかったすべてのF1マシンはQ1終了時点から パルクフェルメ状態 になる。

予選Q3でチェッカーフラッグを受けたF1マシンは、それぞれのガレージに戻る代わりに パルクフェルメ に停車して車両検査を受けることになるが、各チームは緊張の時間を過ごすことになる。なぜなら、走り終わったばかりで高熱を抱えているF1マシンをただ放置するわけにはいかないからだ。

そこで、各チームのメカニック3人が パルクフェルメ の限定エリアに入り、ブレーキダクトやエアボックスへの冷却ファンの取り付けなど、様々なシャットダウン作業を行うことが許可されている。そして、このような作業が行われている間に、検査官たちがF1マシンの様々なコンポーネントの適法性をチェックしていく。

車両検査は通常検査と無作為検査で構成されている。木曜日に各チームが自主検査を行い、F1マシンがルールとレギュレーションに適合していることをFIAへ報告してあるため、FIAはその報告が正しいかどうかを無作為に確認し、プラクティス終了時点で最低6台を無作為に選出してさらに細部まで確認する。ここで選出されなかった残りのF1マシンは通常検査の対象となる。無作為に選出されたF1マシンが パルクフェルメ に停車されていない場合は、できる限り早く停車することが求められる。

予選終了後、F1マシンは複数のチェックを受けながら パルクフェルメ とガレージを往復することになり、各チームのクルーはかなり忙しい時間を過ごすことになる。限られた時間の中で、予選でほぼ限界までプッシュされたF1マシンを確認・修理しながら決勝レースに向けて準備しなければならないからだ。

土曜日にカーフュー(夜間作業禁止令)は適用されないが、予選終了から3時間半が経過したあとは、F1マシンへのすべての作業は停止しなければならない。この時点でF1マシンにはカバーがかけられ、クルーはガレージから去るか、食事を摂ってからガレージを去るのだが、事前に申請してあれば、プロモーション用途(写真撮影・TV番組出演など)に限りF1マシンをガレージから出すことが認められる可能性がある。

しかし、いずれにせよF1マシンへの作業は認められない。そして、日曜日のフォーメーションラップの5時間前になると、各チームはF1マシンへの作業を再開できるようになるのだが、 パルクフェルメ状態 は決勝スタートまで維持される。

パルクフェルメ状態でできること
パルクフェルメ状態 のチームがF1マシンに行える作業の種類は多く、スポーティングレギュレーション34.2には22項目が明記されている。主なものは次の通り。

1.エンジンの始動
2.燃料の追加・除去 / フューエルブリーザーの装着
3.ホイールの取り外し
4.エンジン点検を目的とするスパークプラグの取り外し
5.冷却・加熱装置の装着
6.電子ユニットへのアクセスとテストを目的とした充電バッテリーの装着
7.ERSエナジーストアの充電・放電
8.ブレーキシステムからの液体排出
9.エンジンオイルの排出
10.圧搾ガスの排出・追加
11.液体の排出・追加(当初と同一の液体であることが条件)

また、フロントウイングのアングルも変更できる。実は、これは パルクフェルメ状態 でF1マシンのボディワークに加えられる唯一の変更なのだが、残りのボディワークも、パーツの取り外しと清掃は許されている。これは、F1マシンのルックスを美しく保つためのルールだが、実用的でもある。
至近距離から見るF1マシンは、スタンドやテレビから見ているときとは異なり、必ずしも光り輝いているわけではない。土やラバーが様々なエリアに付着しており、それらによって見えているべきエリアが覆われているときがあるのだ。

尚、ウイングミラーやペダル、シートベルトなどドライバー用パーツの調整も許されている。ドリンクボトルの補充もOKだ。

破損・修理・交換
レギュレーションの中で最も大きな注目を集めるのが、アクシデントによる破損修理に関する項目だ。アクシデントによる破損には程度による違いがある。正直に言えば、F1マシンが傷ひとつなく予選セッションを終えることはまずない。

ラッキーなら、フロアやディフューザー、フロントウイングの下部などが少し破損する程度で済むため、グルーガンとクルー経験を使って修理することができる。

しかし、アンラッキーなら、クルーがさらに関わることになる。F1マシンが予選で大クラッシュを喫し、ひとつまたは複数のパーツを完全に修復する必要があるなら、その損傷したパーツを修理または交換(オリジナルと同じデザインで、機能・慣性・質量が近いものとの交換に限定される)できる。しかし、 パルクフェルメ状態 の他の作業と同じで、F1マシンの周辺で、指定された検査官が見守る中で進められる必要がある。

修理と交換の詳細はFIAテクニカル・デリゲートのレポートにまとめられ、決勝レーススタートの1時間前に全チームに手渡されるのだが、この報告が面白いストーリーを提供してくれるときがある。たとえば、モナコGPではシャルル・ルクレール(フェラーリ)が非常に多くの修理と交換を必要としたため、レポートが「リアウイング、右サイドフロントコーナー」など、細かい説明が省かれた雑なものになった。

そしてもちろん、ペナルティが避けられない修理と交換もある(ただし、多くの場合、それらのペナルティは パルクフェルメ のレギュレーションとは無関係)。たとえば、ギアボックスの交換は、交換前のギアボックスを6レース連続で使用していない場合はグリッド降格ペナルティが科される。また、パワーユニットやエキゾーストシステムの交換も、規定数を超えた場合はグリッド降格ペナルティが科される。

しかし、交換したパーツのスペックがオリジナルと異なっている場合は、 パルクフェルメ のレギュレーション違反として扱われ、グリッド降格ではなくピットレーンスタートが指示される。

ここでポイントになるのは、パワーユニットを旧スペックのものに交換したチームは必ず パルクフェルメ のレギュレーションに違反したと見なされるということだ。このようなパワーユニットを積めば、「オリジナルと同じデザインで、機能・慣性・質量が近いものとの交換に限定される」という修理・交換のルールに違反することになるからだ。

そのため、シーズン後半では、F1マシンが破損・故障したチームが、 パルクフェルメ のレギュレーション違反よりも軽いグリッド降格ペナルティで済まそうとするシーンが見られる。尚、 パルクフェルメ でのシャシー交換は自動的にピットレーンスタートになる。実質上、これはドライバーが予選とは異なるF1マシンでレースをスタートすることを意味する。

レギュレーションで明文化されていないパーツも、リクエストを書面で提出し、FIAテクニカルデリゲートに認められれば交換できる。しかし、現実を言えば、F1マシン20台に対してFIAテクニカルデリゲートは1名しかいないため、時間不足でリクエストが処理されない場合がある。そのため、各チームは許可が下りることを見越して、予選やレコノサンス・ラップ、フォーメーションラップ中に許可なしで変更を加えることができる。

レッドブル・レーシング・ホンダにおけるこの好例が、2020シーズン第3戦ハンガリーのマックス・フェルスタッペンだ。フェルスタッペンのRB16がレコノサンス・ラップでクラッシュしてしまったため、すぐにパーツの修理・交換が必要になったのだが、“決勝スタート前” だったためRB16はまだ パルクフェルメ状態 だった。しかも、FIAテクニカルデリゲートにリクエストを提出する時間もなかった。

そこで、チームは許可を得る前に修理作業を進め、レース終了後に事後報告することにしたのだが、万全を期して、チーフメカニックのフィル・ターナーとシニアエンジニア / カーエンジニアリングのリッチ・ウルバーソンがFIAの技術部門スタッフを手配し、その場で全作業を確認してもらった。

天候
パルクフェルメ における最大の変数要素が、天候とそれによるコンディション変化(ウェットからドライ、またはその逆)だ。レースコントロールがメッセージシステム経由で「天候変化」を通達すれば パルクフェルメ のレギュレーションが幾分緩和され、各チームはブレーキやラジエーターダクトの変更やピトー管へのカバー脱着ができるようになる。

また、より広く知られている変更としてコックピットのヘッドレストが挙げられる。F1はヘッドレストに使用できるフォーム材を3種類設定しており、それぞれが異なる温度で最大エネルギー吸収率を発揮する。

ピンクのヘッドレストは外気温15℃~30℃が最適で、30℃以上になればブルーのヘッドレストが使用される。また、ほとんど見られないが、15℃以下ではライトブルーが使用される(ほとんど見られないと記したが、2021シーズン第2戦エミリア・ロマーニャGPの金曜朝に使用された)。

尚、ヘッドレストの交換は数秒で行われる(セッション前にレースコントロールがメッセージシステムを経由でどのヘッドレストを使用すべきかを全チームに通達している)。

その他
上記以外にも、 パルクフェルメ状態 のF1マシンへの作業を指示するレギュレーション条項が用意されている。その中で最も包括的なものが「各チームはFIAテクニカルデリゲートから指示されるあらゆる作業を進めなければならない」だ。この “あらゆる作業” には、細かいコンプライアンス関連(FIAが認めないロゴの削除など)から全体的な安全対策までが含まれる可能性がある。

ポストレース・パルクフェルメ
決勝レース前までの パルクフェルメ (プリレース・パルクフェルメ)とは異なり、決勝レース後の パルクフェルメ (ポストレース・パルクフェルメ)は比較的シンプルで分かりやすい。チェッカーフラッグを受けたあと、レースを完走した(または少なくともレースの90%を走行して完走扱いとなった)F1マシンは パルクフェルメ に直行して停車する必要がある。

パルクフェルメ に停車したF1マシンは、再びFIA技術部門の管理下となり、検査官たちがチェックを進めていく。チェックを潤滑に進めるべく、チームからはメカニックたちが再び送り込まれ、検査官たちがリクエストするチェック内容に応じて、必要機材を運び込むようにガレージへ指示を出す。

世間の多くは、チェッカーフラッグと同時にレースが終了すると思っているが、実際は、スチュワードが公式結果を発表するまでレースは終了しない。通常、公式結果はチェッカーフラッグから約2時間後に発表されるが、レース中に怪しいインシデントや分析や議論が必要なシーンが確認されていた場合は、もう少し遅れることになる。いずれにせよ、 パルクフェルメ に停車されているすべてのF1マシンを検査官がチェックして、各チームに戻されるまでは発表されない。

尚、2021シーズンは、FIAにランダムに選ばれたF1マシンがさらに細かくチェックされるようになったため、当該F1マシンの パルクフェルメ状態 が遅くまで解かれないときがある。できる限り早く撤収作業を終えて家路に着きたいクルーにとってこれは理想的とは言えない。

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カテゴリー: F1 / F1マシン