F1オーストリアGP展望 ピアストリ優勢のマクラーレン主導権争い激化

しかし、注目すべきはマクラーレンのピットガレージの中にもある。前戦カナダGPで同士討ちを演じたランド・ノリスとオスカー・ピアストリの関係は、表面上は落ち着いて見えても、確実にひとつの節目を迎えている。
今シーズン、最速のマシンを手にしたマクラーレンがコンストラクターズ選手権を独走する一方で、ドライバーズタイトル争いではノリスとピアストリが僅差の戦いを続けてきた。しかし、カナダでの一件を経て、そのバランスが静かに、そして確実に揺らぎ始めている。
F1公式ポッドキャスト『F1 Nation』で、元ルノーF1ドライバーのジョリオン・パーマーとF1 TV司会のローラ・ウィンターが、カナダでの接触の意味、ノリスのミスの背景にある心理や、ピアストリの安定感、マクラーレン内での力学の変化、そして今週末のオーストリアGPで再燃が期待されるフェルスタッペンとの直接対決の行方を徹底分析した。
カナダで決定的だった「ノリスの誤算」
カナダGPでのマクラーレン同士の接触は、予想されていた「火花」がついに現実になった瞬間だった。ノリスはオスカー・ピアストリを攻略しようと果敢に挑んだものの、最終的には判断を誤って自滅し、マシンのフロントウイングを破損、リタイアに追い込まれた。
パーマーは「あのインシデントに議論の余地はない。明らかにノリスのミスだった」と指摘する。「その直前までは素晴らしい走りを見せていた。7番手から4番手まで順位を上げ、ピアストリに追いつき、実際に一度はオーバーテイクを決めている。でも、あのアタックは必要なかった」
ノリスはレース直後に「自分のミスだった」と非を認めており、チーム内の関係も表面的には冷静さを保っているように見える。しかし、パーマーは「ピアストリの視点からすれば、『この男は4位を争うために接触を厭わない』というメッセージを受け取ったはず。これは見えない“戦線布告”だ」と語った。
プレッシャーに苦しむノリス、冷静さを見せるピアストリ
今季ここまで、ノリスは多くの場面で感情を露わにしてきた。ローラ・ウィンターは「彼は結果が出なかったとき、無線で苛立ちを隠せないタイプ」とし、「時にルクレールの“I'm stupid”といった自己批判と似た自己表現も見られる」とコメントした。
一方のピアストリは冷静沈着だ。カナダで4位を獲得し、ドライバーズランキングでノリスに対して22ポイント差を築いた。パーマーは「これは心理的に大きい。10ポイント差ならまだ小さな誤差だが、22ポイントとなると話が変わってくる。ピアストリは今、明らかにタイトル争いを優位に進めている」と語る。
加えて、フェルスタッペンとのレースでの振る舞いも対照的だという。「マックスは明らかにピアストリの動きには敬意を払っているが、ノリスに対してはそうではない。ピアストリの方が『レースの流儀』を心得ている」との分析も示された。
マクラーレンはチームオーダーを導入すべきか?
マクラーレンはこれまで「フリーで戦わせる」方針を貫いてきた。しかし今回の接触を受けて、チームのスタンスにも注目が集まっている。
パーマーは「クラッシュ後にアンドレア・ステラ代表が『受け入れがたい』と発言したことは、暗にノリスの責任を強調するものだった」と指摘し、「これを今後どう処理するかがチームの成長にとって重要だ」と語る。
ウィンターは「まだタイトル争いは序盤。ドライバー同士を制限する時期ではない」と強調する。「私たちファンにとって、彼らが自由にレースする姿を見られるのは非常にエキサイティング。チームは一時的な混乱を受け入れてでも、それを続けるべきだ」と述べた。
オーストリアGPで再び三つ巴の争いへ?
今週末のレッドブルリンクでは、再びフェルスタッペン対マクラーレンの構図が浮上している。昨年も同地でフェルスタッペンが圧巻の速さを見せ、Q3では2番手に0.4秒差をつける驚異的なタイムを記録していた。
しかし、今年は様子が異なる。マクラーレンが圧倒的な速さを手に入れ、メルセデスやフェラーリがやや後退気味な中、「マックス vs ピアストリ vs ノリス」の争いが本格化する可能性が高い。
一方で、フェルスタッペンは依然としてペナルティポイント「11」を保持しており、オーストリアで新たな違反があれば、イギリスGPを欠場せざるを得なくなる可能性がある。「このリスクが彼の走りを多少なりとも慎重にさせるかもしれない」とウィンターは述べた。
『F1/エフワン』映画、ついに公開
この週末はレースだけではない。待望の映画『F1/エフワン』がいよいよ劇場公開される。ニューヨークのタイムズスクエアでは、壮大なプレミアが開催され、10台のF1マシンとステージが都市の中心を彩った。
現地で司会を務めたローラ・ウィンターは「F1ドライバーはサーキット上では無敵でも、レッドカーペットの上では緊張しまくりだった」と裏話を披露。中でもオリー・ベアマンは「迷子の子羊のようだった」と笑いを誘った。
今後の焦点は?
パーマーは「このクラッシュはマクラーレンのドライバー同士にとっての分水嶺になる」と断言する。「今後、2人はお互いに“別の扱い方”をするだろう。それはすなわち、チャンピオン争いの“本当の始まり”だ」
オーストリアGPは、ノリスが自らの失地を取り戻せるかどうかの重要な一戦になる。同時に、ピアストリが安定したリードをさらに広げる可能性もある。そして、その争いの先には、フェルスタッペンという王者の存在が再び立ちはだかる。
F1のストーリーは、再び「真夏のヨーロッパラウンド」で熱を帯びてきた。
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