トロロッソ・ホンダ:F1 第7戦 カナダGP 現場レポート
ホンダF1のテクニカルディレクターを務める田辺豊治が、パワーユニットをアップグレードして臨んだカナダGPを振り返った。F1カナダGPはホンダにとってトラブルやアクシデントなどもあった一方で、ポジティブな兆候を掴んだ一戦でもあった。
近年、カナダGPはニュースペックのパワーユニット投入の舞台として定着している。年間使用数の規定によるタイミング、開発の時間的なタイミング、そしてカナダGPはハイスピードでパワーユニットのパフォーマンスが大きく影響するサーキットレイアウトであるというのが主な理由。
実際今年もパワーユニットサプライヤーである4メーカーすべてがカナダでのニュースペック投入を予定していた(メルセデスは直前に延期を発表)。
ホンダもこのカナダGPに照準を合わせ、ニュースペックの投入を行った。
「主にICEのパフォーマンスを向上させた新しいパワーユニットを2台に投入します。ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットは長いストレートがあり、全開率は60%超。さらに、そのストレートの後には低速コーナーがあるため、パワーとともにドライバビリティーも重要で、パワーユニットの貢献度が高いサーキットです。そのためこのカナダGPで新たなパワーユニットを投入することが慣例になっているのだと思います」とホンダF1のテクニカルディレクターの田辺豊治は語る。
ICEとは内燃機関本体で、燃焼効率を高めるバージョンアップが主なテーマである。燃焼効率の向上は、パワーアップはもちろん、燃費やドライバビリティーにも大きく影響し、現在のパワーユニットシステムの肝となる部分だ。ライバルに追いつき、追い越すためには、このパフォーマンスを上げることが、ホンダにとっての課題であった。
初日、チャレンジングなサーキットに初めて挑む2人のドライバーは、時折りブレーキングのミスやコースオフをしながらも、ベスト10に近いポジションをそれぞれが得て、バージョンアップの効果を表していた。順調だった流れが、FP3の終盤、突如変わってしまう。ガスリーがパワーユニットの異常を訴え、アタックタイムは伸びずにセッションを終了。トラブルが発生したのだ。予選開始までは2時間しかなく、チームはパワーユニット交換を決断する。載せ替えられたパワーユニットは前戦まで使用していたスペックのもので、これならばペナルティーを科されることはない。素早い作業で予選開始には間に合ったものの、ガスリーはQ1敗退となった。ハートレーは12番手とQ3進出こそ逃したが、上々のパフォーマンスで予選を終えた。
「アップグレードの結果、パフォーマンスは上がっています。明日はいいレースができると思います」とハートレーは語った。
カナダGPは、そのコースが特徴的なだけでなく、セントローレンス川にある人工島というロケーションや毎年多くのファンが押し寄せることなどから、多くのF1関係者に愛されているグランプリだ。今年も予選後に恒例のチーム対抗のオリジナルのイカダによるレースが行われ、Red Bull Toro Rosso ホンダチームもエントリー。ホンダのエンジニアも選手として参加した。一方、この和気あいあいとしたイベントの裏では、ガスリーのパワーユニットについてシリアスなミーティングが行われていた。
「新スペックの効果は大きく、それはとてもうまく機能しているだけに、できるだけ早く新しいパワーユニットに戻したい」とピエール・ガスリーは予選後にコメントし、決勝には新たなバージョンのパワーユニットを望んだ。
次戦、ガスリーの母国フランスでのグランプリでのペナルティーを避けたいという思いもあった。田辺豊治も「ピエールが、次のフランスGPを気持ちよく迎えてもらうためにはどうすればいいかも含めて考えたいと思います」とコメント。チームは再度のパワーユニット交換を決断した。予選で使用したパワーユニットは、すでに6戦使用したパワーユニットだけに耐久性にも不安がある。そして、16番グリッドからのスタートならば、ペナルティーによるグリッドダウンのダメージもそれほど大きくないという面もあり、決断は早かった。
決勝レース、ブレンドン・ハートレーは12番手から、ピエール・ガスリーは19番手からのスタート。ハートレーはポイント獲得に意欲を燃やしてのスタートだったが、1周目にアクシデントでリタイアとなる。ガスリーが後方からのスタートで、ハートレーに入賞の期待がかかっただけに、チームにとっては残念なリタイアだった。一方、ガスリーは1周目の混乱を切り抜け、ポジションを上げてレースを戦い続けた。ポイント獲得こそ目前で逃したものの、ガスリーはマシンの、そして自身のポテンシャルをしっかり見せる戦いでフィニッシュを果たした。
レース後のピエール・ガスリーはとても明るかった。「後方グリッドからのスタートでしたが、多くのポジションアップを果たすことができました。新しいパワーユニットの調子はよさそうです。ストレートで何台かオーバーテイクできたので、今後のレースでは、さらに期待できそうです。ホンダはこのカナダGPでアップグレードを投入するために懸命に開発を続けてくれていましたし、レースでもよく機能していました」とガスリー。期せずして、新旧2つの仕様のパワーユニットをドライブしたガスリーは、新パワーユニットの効果を実感したとも付け加えていた。
そして田辺豊治は、パワーユニットにとって大きな挑戦だったカナダGPをこう締めくくった。
「今回のカナダGPはいいところと悪いところの両面があったレースでした。我々が今回から持ち込んだパワーユニットのアップデートは、パフォーマンスの向上につながっていたと考えています。一方で土曜にガスリー選手のパワーユニットに信頼性の問題が発生してしまったことは非常に残念でした。そんな中でも後方からスタートしたガスリー選手がポイント圏内まであと一歩のところまできたことは、チームにとって心強い結果です」。
ホンダは、トラブルを起こしたパワーユニットを日本へ送り返し、原因究明と対策に全力を挙げる。それとともに、今回のデータを分析し、パワーユニットのさらなるパフォーマンスアップを図る。いよいよ次戦からシーズンの天王山とも言えるヨーロッパラウンドが始まる。それは6週間に5戦という、かつてない過密スケジュールの過酷な戦いとなる。
カテゴリー: F1 / トロロッソ / ホンダF1 / F1カナダGP
近年、カナダGPはニュースペックのパワーユニット投入の舞台として定着している。年間使用数の規定によるタイミング、開発の時間的なタイミング、そしてカナダGPはハイスピードでパワーユニットのパフォーマンスが大きく影響するサーキットレイアウトであるというのが主な理由。
実際今年もパワーユニットサプライヤーである4メーカーすべてがカナダでのニュースペック投入を予定していた(メルセデスは直前に延期を発表)。
ホンダもこのカナダGPに照準を合わせ、ニュースペックの投入を行った。
「主にICEのパフォーマンスを向上させた新しいパワーユニットを2台に投入します。ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットは長いストレートがあり、全開率は60%超。さらに、そのストレートの後には低速コーナーがあるため、パワーとともにドライバビリティーも重要で、パワーユニットの貢献度が高いサーキットです。そのためこのカナダGPで新たなパワーユニットを投入することが慣例になっているのだと思います」とホンダF1のテクニカルディレクターの田辺豊治は語る。
ICEとは内燃機関本体で、燃焼効率を高めるバージョンアップが主なテーマである。燃焼効率の向上は、パワーアップはもちろん、燃費やドライバビリティーにも大きく影響し、現在のパワーユニットシステムの肝となる部分だ。ライバルに追いつき、追い越すためには、このパフォーマンスを上げることが、ホンダにとっての課題であった。
初日、チャレンジングなサーキットに初めて挑む2人のドライバーは、時折りブレーキングのミスやコースオフをしながらも、ベスト10に近いポジションをそれぞれが得て、バージョンアップの効果を表していた。順調だった流れが、FP3の終盤、突如変わってしまう。ガスリーがパワーユニットの異常を訴え、アタックタイムは伸びずにセッションを終了。トラブルが発生したのだ。予選開始までは2時間しかなく、チームはパワーユニット交換を決断する。載せ替えられたパワーユニットは前戦まで使用していたスペックのもので、これならばペナルティーを科されることはない。素早い作業で予選開始には間に合ったものの、ガスリーはQ1敗退となった。ハートレーは12番手とQ3進出こそ逃したが、上々のパフォーマンスで予選を終えた。
「アップグレードの結果、パフォーマンスは上がっています。明日はいいレースができると思います」とハートレーは語った。
カナダGPは、そのコースが特徴的なだけでなく、セントローレンス川にある人工島というロケーションや毎年多くのファンが押し寄せることなどから、多くのF1関係者に愛されているグランプリだ。今年も予選後に恒例のチーム対抗のオリジナルのイカダによるレースが行われ、Red Bull Toro Rosso ホンダチームもエントリー。ホンダのエンジニアも選手として参加した。一方、この和気あいあいとしたイベントの裏では、ガスリーのパワーユニットについてシリアスなミーティングが行われていた。
「新スペックの効果は大きく、それはとてもうまく機能しているだけに、できるだけ早く新しいパワーユニットに戻したい」とピエール・ガスリーは予選後にコメントし、決勝には新たなバージョンのパワーユニットを望んだ。
次戦、ガスリーの母国フランスでのグランプリでのペナルティーを避けたいという思いもあった。田辺豊治も「ピエールが、次のフランスGPを気持ちよく迎えてもらうためにはどうすればいいかも含めて考えたいと思います」とコメント。チームは再度のパワーユニット交換を決断した。予選で使用したパワーユニットは、すでに6戦使用したパワーユニットだけに耐久性にも不安がある。そして、16番グリッドからのスタートならば、ペナルティーによるグリッドダウンのダメージもそれほど大きくないという面もあり、決断は早かった。
決勝レース、ブレンドン・ハートレーは12番手から、ピエール・ガスリーは19番手からのスタート。ハートレーはポイント獲得に意欲を燃やしてのスタートだったが、1周目にアクシデントでリタイアとなる。ガスリーが後方からのスタートで、ハートレーに入賞の期待がかかっただけに、チームにとっては残念なリタイアだった。一方、ガスリーは1周目の混乱を切り抜け、ポジションを上げてレースを戦い続けた。ポイント獲得こそ目前で逃したものの、ガスリーはマシンの、そして自身のポテンシャルをしっかり見せる戦いでフィニッシュを果たした。
レース後のピエール・ガスリーはとても明るかった。「後方グリッドからのスタートでしたが、多くのポジションアップを果たすことができました。新しいパワーユニットの調子はよさそうです。ストレートで何台かオーバーテイクできたので、今後のレースでは、さらに期待できそうです。ホンダはこのカナダGPでアップグレードを投入するために懸命に開発を続けてくれていましたし、レースでもよく機能していました」とガスリー。期せずして、新旧2つの仕様のパワーユニットをドライブしたガスリーは、新パワーユニットの効果を実感したとも付け加えていた。
そして田辺豊治は、パワーユニットにとって大きな挑戦だったカナダGPをこう締めくくった。
「今回のカナダGPはいいところと悪いところの両面があったレースでした。我々が今回から持ち込んだパワーユニットのアップデートは、パフォーマンスの向上につながっていたと考えています。一方で土曜にガスリー選手のパワーユニットに信頼性の問題が発生してしまったことは非常に残念でした。そんな中でも後方からスタートしたガスリー選手がポイント圏内まであと一歩のところまできたことは、チームにとって心強い結果です」。
ホンダは、トラブルを起こしたパワーユニットを日本へ送り返し、原因究明と対策に全力を挙げる。それとともに、今回のデータを分析し、パワーユニットのさらなるパフォーマンスアップを図る。いよいよ次戦からシーズンの天王山とも言えるヨーロッパラウンドが始まる。それは6週間に5戦という、かつてない過密スケジュールの過酷な戦いとなる。
カテゴリー: F1 / トロロッソ / ホンダF1 / F1カナダGP