スーパーフォーミュラの新たな存在価値:トヨタとホンダの技術の実験場
スーパーフォーミュラが発表した『SUPER FORMULA NEXT 50』。日本のモータースポーツの“振興”や話題作りに重点が置かれた記者会見だったが、興味深かったのはトヨタとホンダが将来のモビリティの実験場として活用していくという部分だ。

環境が大きなテーマとなっている世の中でモータースポーツの立ち位置は微妙だ。さらにスーパーフォーミュラは企業のプロモーションには活用されておらず、知名度や人気は、その意義を正当化するのが難しいレベルにある。

正直、今回発表された、デジタルシフトやレース以外のエンターテインメントといった“手法”で人気を拡大する覚悟をもって取り組んでい行かなければならない課題だ。だが、デジタルでの情報発信はもはや当たり前だ。「映像、音楽、データ、通信、AI、ゲーム、アニメーション等の様々な切り口からエンターテインメントの技術開発にチャレンジし、日本から世界に発信する新しいモータースポーツカルチャーの創造を目指します」としているが、F1でさえ認知が下がっている昨今、本気でファンや人気を拡大したいのであれば、まずは日本でコストを度外視してでも地上波でレースを放送するなどしない限り難しいかもしれない。

だが、より興味深いのはスーパーフォーミュラを「モビリティとエンターテインメントの技術開発の実験場」の“モビリティ”の部分だ。

ホンダがF1撤退の理由にした“カーボンニュートラル”という言葉は多角的すぎて輪郭がぼやけてしまうが、代替燃料の技術開発の実験場とする発表は非常に興味深い。

自動車業界ではカーボンニュートラル=電気自動車のような捉え方をされているが、日本全国、特に自動車が生活の足にんっている地方でインフラを整えるのは気が遠くなるほどの物事だ。また、日本最大のトヨタが電気自動車ではなく、水素エンジンを推していることもあり、ヨーロッパ諸国のように電気自動車に一元的にシフトすることはないだろう。

スーパーフォーミュラは「開発段階の技術を搭載したテストカーを走行させるなどの実証実験を繰り返すことで、現地現物での技術進化を目指します。同時にそのプロセスを逐次世の中にお見せすることで、今後の社会に必要とされるモータースポーツの在り方を探ってまいります」としている。

具体的にはスーパーフォーミュラに参戦しているホンダとトヨタがタッグを組み、パワートレーン、シャシー、タイヤ、素材、燃料等のあらゆる面で、市販車両も含めた実験場にして、将来にむけた技術開発につなげていくという。

また、e燃料やバイオ燃料といったサスティナブルな燃料、またシャシーに「バイオコンポジット」と呼ばれる植物由来の天然素材の導入に向けて2022年からテストを開始するという。

バイオ燃料やe燃料は、モータースポーツの最高峰であるF1でも今後導入されていく燃料だ。2022年にF1は90%の化石燃料と10%のエタノールの組み合わせであるE10燃料に移行する。これにより、現在の95%と比較して、化石燃料の使用量が5%減少することになる。

そして、F1は、2026年に導入が予定されている次世代エンジン用にまったく新しい再生可能燃料への切り替えに焦点を当ている。そして、それは「エンジン自体を変更することなく」標準の内燃エンジンで使用できる“ドロップイン燃料”となる。

市販車市場とは異なり、F1はこの段階で電気を使用してF1カーのパフォーマンスのレベルに合わせることができない。フォーミュラEが2038年までFIA(国際自動車連盟)と電気エンジンの25年間の独占契約を結んでいるからだ。したがって、F1は電動化から合成燃料に傾いている。

また、F1のマネージングディレクターであるロスブラウンは、水素を動力源とするマシンが2030年以降のF1の未来になる可能性があると述べている。前述のとおり、水素はトヨタが推し進めている技術だ。

電動化が進む自動車業界とは反するかもしれないが、スーパーフォーミュラが、e燃料や水素の実験場とし、トヨタとホンダだけでなく、世界的な自動車メーカーが技術を競うようなカテゴリーになれば、レース以外のエンターテインメント化に注力するよりも、よっぽど注目を集め、価値のあるカテゴリーになるはずだ。

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カテゴリー: F1 / スーパーフォーミュラ