佐藤琢磨
佐藤琢磨が、インディカー 第11戦 フォンタナのレース週末を振り返った。

カリフォルニアのフォンタナ・スピードウェイで繰り広げられていたアイゾッド・インディカー・シリーズの500マイル・レースが残り10周、つまり20マイル(約32km)となったとき、佐藤琢磨は優勝に向けてひた走っていた。

佐藤琢磨が乗るNo.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダは、全ドライバーのなかでのファステストラップを記録したことからもわかるとおり、ほかのどのマシンよりも速く、ライバルたちをどこでも追い越すことができた。インディカーでの2勝目は目前に迫っていた。

ところが、250ラップのレースの241ラップ目に歯車が狂う。イン側のスコット・ディクソンと、アウト側のウィル・パワーに挟まれる格好となったのだ。そして佐藤琢磨とパワーはコントロールを失ってウォールに接触。この瞬間、ふたりの希望も露と消えたのである。

「本当にエキサイティングでした」と佐藤琢磨。

「僕たちには勝てるマシンがありました。しかも、周回遅れからラップバックし、猛烈に追い上げるレースでした。すんでのところで勝てそうだったのに、それは実現しませんでした」

金曜日に行われたフリープラクティスから佐藤琢磨は好調だった。

「昨年も、僕たちはコンペティティブで、予選から力強く戦うことができました。でも、今年はもちろん新しいエアロパッケージを使うことになります。そして、どの空力セッティングがベストかは誰にもわかりませんでした。テキサスのパッケージと外観はとてもよく似ていますが、ここではインディのときと同じように、リアディフューザーにサイドウォールを取り付けることが認められていましたので、ダウンフォースの量はずっと大きく、しかもリアウィングのメインプレートは大型のものを使うことができました」

「フリープラクティスでいくつかのテスト・アイテムを試したところ、いい感触を掴めましたが、それでもジェイムズ・ジェイクスがエンジンブロウをさせたために長く赤旗が提示されていたので、すべてが満足のいく展開だったわけではありません。このため、わからない部分を残したまま、僕たちは予選を迎えることとなりました。いずれにしても、強い手応えを感じるプラクティスでした。相対的にいって僕たちのマシンがコンペティティブなことは明らかでしたが、まだエアロのセットアップが最適化できているとは思えなかったのです」

佐藤琢磨は予選で9番手となる。ホンダ・ドライバーのなかでは、マルコ・アンドレッティに続く2番手のポジションだ。チームの働き振りは素晴らしく、レースに向けて自信を深めていた。けれども、この一戦は、2011年にダン・ウェルドンが命を落としたラスヴェガス以来となるパックレース——密集した戦い——になることが予想されていた。

「テキサスではダウンフォース不足だったほか、フォンタナでは、ここ数年、いつもナイトレースとして開催されており、陽が沈んで気温が下がると大きなダウンフォースが得られるようになりました。ただし、今回は日中のレースだったため、リーグは大きめのダウンフォースを認めることにしたのです。というのも、路面温度は華氏130度(およそ54℃)になると予想されていたからです。つまり、ほとんどバーベキューができるくらいの熱さで、このため急激なタイア・デグラデーションが起きると予想されました。ダウンフォースを発生できるものなら何でも使用が認められたのは、これが理由でした。そして、ほとんどのドライバーがこの方向でマシンをセッティングすると予想されていました」

この結果として、インディカー・シリーズとしては史上最高となるリードチェンジを記録。佐藤琢磨も8度、合計31周にわたってレースをリードすることとなった。

「レース序盤はペースに関してとても注意深くなっていました。テキサスでは、フロントタイアを労ればリアタイアが摩耗し、リアタイアを労ればフロントタイアが摩耗するといった状況でしたが、こうした事態だけはなんとしても避けたかったからです。そこで、ここではできるだけハンドリングをニュートラルにして、タイアに極力、負担をかけないようにしました。プラクティス中にフルスティントを試せなかったので、そうした思いをとりわけ強く抱いていたのです」

最初のピットストップをやや遅めに行った琢磨は、その直前、2周にわたってレースをリード。そして第2スティントでは首位争いを3度繰り広げ、ファン-パブロ・モントーヤやディクソンと最後の最後まで鎬を削った。「第2スティントは全力で戦い、最終的にはトップに浮上しました。ペンスキーやガナッシのドライバーと戦うのは最高の気分です。しかも、まったくスムーズに不安なく戦えました。けれども、トップに立つと燃費は悪化し、後ろに回れば燃費面では有利になります。このため、レース中のある段階では、誰もが首位に立ちたがらないという状況もありました。ただし、トップを走っているとタイアをセーブできるというメリットもあります」

「第3スティントでは、他のドライバーを先行させました。僕にとっては、5番手くらいがいちばん都合がよかったのです。必要とあらば、いつでもオーバーテイクできる自信はあったので、僕は落ち着いて、そして安心してウィングの角度やタイア空気圧の調整を行っていきました」

第4スティントでは、もはやこの手のことでは有名になったセイジ・カラムと絡んだ後遺症に悩まされることとなる。「カラムは不必要な動きを見せました。彼はトウ(スリップストリーム)に入っていましたが、トウを使えば簡単に前に出られるのに、彼はわざわざ僕の直前を横切ってフロントウィングを踏みつけ、エンドプレートにダメージを負わせたのです。しかも、症状は徐々に悪化していき、フロントのダウンフォースが大幅に減少するとともに、ウェイトジャッカーも明らかにおかしなポジションを示すほどバランスが悪化し、グリップを失うようになってしまったのです」

このため佐藤琢磨はピットに戻ると、給油、タイア交換、ノーズ交換を行ったのだが、AJフォイト・レーシングのメカニックたちが見せた早業により、これにはわずか13秒しか要しなかった。コースに戻った佐藤琢磨はパワーやトニー・カナーンとバトルを演じ、再びトップに立つと、再び接触を喫することになる。それも、カラムと!

「本当に信じられませんでした。今度は後ろから接触してきたのですが、これもまったく不必要なことです。おかげで僕は難しい事態に追い込まれました。コーション中に並んでいたチームメイトのジャック・ホークスワースに後ろに回ってもらい、ダメージの状態を確認してもらうことにしました。残念ながら彼には見えなかったようですが、ピットインすると、バンパーに亀裂が入っていることにメカニックたちが気づきます。そこでこれを交換したのですが、おかげでラップダウンになり、懸命に追い上げなければいけなくなりました。けれども、この次のスティントでも速いペースで走ることができました。僕は集団から1/4ラップほど遅れていましたが、誰よりも速かったのです。これで自信を手に入れると、ターン3やターン4をいちばん下のレーン、つまり最短距離で走り抜け、より速いラップタイムで周回できました。よほどマシンの調子がよくない限り、こういう走りはできません」

これが最後になると思われたコーションで他のドライバーたちがピットストップを行うと、佐藤琢磨はリードラップに返り咲いた。

「フォンタナは素晴らしいオーバルコースです。たとえダウンフォースの量が不足していても、いくつものレーンを選択できるからです。このため、各マシンが密集したパックレーシングはさらに盛り上がることになります。4ワイドや5ワイドはまったく常軌を逸していますが、それでも僕たちはしっかりとレースを戦うことができたのです」

悲しいことに、パワーと佐藤琢磨は241周目にウォールと接触してレースを終えることとなる。No.14のマシンはパワーとディクソンのふたりにサンドイッチされたのだ。2台の間隔は次第に狭まり、佐藤琢磨はまずディクソンと接触。この反動でパワーと絡んでしまったのだ。

「本当に残念でした。ウィルはここまでとてもクリーンなレースを演じてくれていましたし、僕たちはハードに戦いながらも、彼を信頼していました。僕のイン側にはディクソンがいました。おそらく、グリッド上でもっとも尊敬されているドライバーのひとりです。このふたりに挟まれたということは、間違いなくいいレースを戦っていることを意味しています」

「けれども、ウィルのイン側への切り込み方はかなり急だったし、ディクソンは自然と上の車線にドリフトしてきました。ものすごくタイトな状況だったのです。僕はウィルを避けようとしましたが、まるでピンボールのようになって彼と絡んでしまいました」

もしかしたら勝てたかもしれないレース、いや勝つべきだったレースがこのような結末を迎えたことは実に残念だったが、佐藤琢磨とフォイト・レーシングは2週間後にミルウォーキー・マイルで行われるレースを楽しみにしているところだ。

「言葉にできないほど残念です。でも、あれほど素晴らしいマシンに仕上げてくれたチームには心からお礼をいいたいと思います。あれはたしかにレーシングアクシデントでしたが、勝てる自信があっただけに、本当に悔しい幕切れでした」

「ホンダであろうとシボレーであろうと、ダウンフォースの量に違いはありませんでした。おかげで、ライバル勢にも追いついていくことができたし、ファステストラップもマークできました。このことからも僕たちのペースがトップクラスだったことがわかりますし、実際にこのレースではホンダのドライバーが優勝しています。つまり、パフォーマンスの点では非常に勇気づけられるレースで、実際、No.14のマシンは本当に好調でした」

「もしかするとこれほどのパフォーマンスは望めないかもしれませんが、それでもポコノのようなスーパースピードウェイでは間違いなくコンペティティブでしょう。それに、僕が大好きなミルウォーキーでもきっと好調を維持できるはずです」

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カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨 / インディカー