佐藤琢磨
佐藤琢磨が、インディ500の2週間の出来事を公式サイトで振り返った。

佐藤琢磨(アンドレッティ・オートスポーツ)は、5月28日(日)に開催された伝統のインディ500で日本人初優勝という歴史的偉業を成し遂げた。

そして、インディ500を制した瞬間、佐藤琢磨の人生は一転したといっていい。

アメリカでは、インディ500は米国4大スポーツと同じくらい人気があり、インディ500での優勝したドライバーは、その日から全米、全世界に名前が知れ渡る。

「本当に驚きです。信じられませんでした!」 と佐藤琢磨はコメント。

「僕の人生のなかでも本当に大きな意味を持つ瞬間でした。人生を変えたといってもいいでしょう。この48時間、夜は3時間か3時間半くらいしか寝ていません。おそらく50媒体くらいのインタビューをこなしたはずです」

2週間にわたって進行するインディ500。佐藤琢磨は初日から好調なスタートを切る。

「アンドレッティ・オートスポーツのパフォーマンスは本当に印象的でした。彼らがスーパースピードウェイのために用意した基本セットアップはとても感触がよく、コースを走り出した当初から驚くほどバランスは良好でした」

「エンジニアのギャレット・マザーシードは、プラクティス初日に昨年のセットアップを使うことを提案してくれました。そうすれば、これをベースにコースコンディション、温度、空気密度などにあわせて調整できるというのです。それは素晴らしいもので、結果的にわずかな調整しか必要ありませんでした」

「そして走行初日の午後4時に最初のグループランを始めました。アンドレッティ・オートスポーツのドライバー総出でトラフィックのシミュレーションを行うのです。僕にとってこれは初めての経験だったので、とても興味深いと思いました。コースを走ったのは4人 ― 僕、ライアン・ハンターレイ、マルコ・アンドレッティ、アレキサンダー・ロッシ ─ でした。というのも、ジャック・ハーヴェイはマシンに細かな問題があり、フェルナンド・アロンソは少し異なるプログラムをこなしていたからです」

「僕たちは毎日グループランを行いました。全員がタイアや燃料の量をあわせてから走り出します。このため、トラフィックが作りだす乱気流の中でマシンの強みと弱みが浮き彫りになり、この結果を踏まえてさらに速くするための努力を行います。とても洗練された手法で、僕が過去に経験したものとは大きく異なります。これまではいつも決まって、初日はシェイクダウン、2日目はエアロマップを作るために車高とウィング角の関係をチェック、3日目はトラフィック内の走行を試しますが、前を走るマシンのタイアやウィング角がわからないので、そのときのデータが正しいという保証はどこにもありません」

「僕たちは毎日午後2時と5時に、それまで自分がどんな作業をやっていても中断し、グループランに臨みました。僕たちにとっては、これがもっとも大切な準備となりました。トラフィックのなかでクルマがどんな動きをするかは極めて重要ですが、インディ500で試したことはこれまでありませんでした」

土曜日予選1日目は、インディアナポリス・モーター・スピードウェイに雷雨が直撃。だが、その後天候は回復し、結果的に全ドライバーがタイムアタックを行うことができた。出走順はクジ引きで決定。上位陣のグリッドは翌日のファスト9で決定する。ここで後半の走行となった佐藤琢磨は2番手となる。

「とてもハッピーでした。コースは急激に乾いていったので、僕たち全員がアタックできました。セッション終盤に走行したことも、僕にはラッキーでした。通常、セッション後半は温度が上がってアタックするには好ましくない状況となりますが、グリーンなコースでは後半のほうがコンディションはよくなります。また、チームメイトのあとで走行したことも僕にとってはメリットで、マシンは本当に最高の状態でした」

そして、翌日のファスト9で佐藤琢磨は4番グリッドを獲得する。

「インディ500では過去最高のアタックでした。真剣なチャレンジでファスト9にアタックできたのは、これが初めてです。それはとても濃密な時間であると同時に、少し恐くもありました。すでにダウンフォースはとても小さく、セットアップは極めてアグレッシブなものでした。最初のラップは232mph(約371.2km/h)を越えるとても速いもので、2ラップめには早くもタイアのデグラデーションが始まっており、僕はコース幅を目一杯使いました。そこで、3ラップ目ではアペックスをコーナーの奥にとりましたが、それでもターン2の出口では壁に接触しそうでした。ここは横風が強く、したがって自然と強いアンダーステアになります。コーナーに進入するたびに、僕はウェイトジャッカーとアンチロールバーを調整しました。おかげでとてもチャレンジングでした。4ラップ目にはリアタイアもデグラデーションを起こし始め、狙ったラインをトレースできずにウォールに触れてしまいます。けれども、スロットルペダルから右足を離すことなく、結果的に4番手のタイムをマークできました。フロントロウに並べればさらによかったでしょうが、2列目でも僕はハッピーでした」

予選が終わると決勝用のセッティングをさらにチューンナップすることになる。

「マシンは本当に強力でした。まだ少しテスト・アイテムが残っている状態でしたが、インディ500の決勝前にこれほどマシンに自信を抱いたのは今回が初めてでした」

そして、最終プラクティスとなる金曜日のカーブ・デイでも佐藤琢磨は2番手タイムをマークする。

「このタイムについてはちょっと説明が必要です。もしもダウンフォースが少ない状態でトウ(スリップストリーム)が使えればいい記録を出せますが、今回の僕がまさにこれでした。実際のところ、トウを使わないタイムでは7番手か8番手だったと思いますが、それでも僕は満足していました」

迎えた決勝。佐藤琢磨はあまり無理をせず、トップ争いに留まることを当面の目標とした。

「スタートは想定の範囲内で、何台かがとてもアグレッシブにターン1へと進入していきました。でも、僕はまったくリスクを犯さずに通過しました。スタート直後は6番手か7番手くらいだったと思います。僕はこんな風に戦いました。なにしろ長いレースですし、本当に大切なのは最後の50ラップに向けてマシンをチューニングしていくことです。最初の150ラップはセットアップを行い、常にマージンを保ち、マシンをいいコンディションに保つことにあります」

トップグループのオーダーはフェルナンド・アロンソ、アレキサンダー・ロッシ、佐藤琢磨、エド・カーペンター、ライアン・ハンターレイの順で、実にアンドレッティのドライバーがトップ、2番手、3番手、5番手を占めていた。

「まるで僕たちがプラクティスでやっていたグループランのようでした!」

そして、53周目。クラッシュしたジェイ・ハワードにスコット・ディクソンが接触してマシンが宙を舞うアクシデントが発生。クラッシュしたマシンを排除するために赤旗が提示される。

この作業が行われている間、3番手につけていた佐藤琢磨は・・・(後編に続く)

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カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨