平川亮、F1アブダビGP FP1出走に5億円超支払い マクラーレン訴訟で判明
マクラーレンとインディカー王者アレックス・パロウの訴訟の中で、トヨタのWECワークスドライバーである平川亮が、2024年F1アブダビGPのフリー走行1回目(FP1)に出走するため、マクラーレンに総額350万ドル(約5億3,000万円)を支払っていたことが明らかになった。

裁判資料によって浮かび上がったこの事実は、F1チームが若手や外部ドライバーに対して走行枠を高額で販売する“新たな収益構造”を示すものであり、F1界における実力主義と資金力の関係をめぐる議論を呼んでいる。

FP1+旧型車テストを含む「350万ドルパッケージ」
訴訟記録によると、この金額には2回の「旧型車テスト(Testing of Previous Cars=TPC)」と、アブダビGPのFP1出走権が含まれていた。

平川亮はルマン24時間優勝者かつWEC王者として、2024年のアブダビで1時間のセッションを走行。フェラーリのシャルル・ルクレールから1.5秒差、チームメイトのランド・ノリスから1.3秒差の14番手で終えた。

マクラーレンは、パロウに対して約2,070万ドル(約30億円)の損害賠償を求めている。その中には、パロウのために行ったとされる「TPCテスト費用70万3,000ドル」が含まれているが、パロウ側は「平川亮の支払いが代替収益になっている」として金額の相殺を主張している。

FP1走行枠が“チームの新たな収益源”に
現在、F1チームは各マシンにつき年間2回、レギュラードライバー以外のドライバーにFP1出走を義務づけられている。

この規定が、チームにとって“収益化可能な枠”となっており、有望なドライバーやメーカーが高額を支払って実走経験を得るケースが増加している。

訴訟文書には、平川亮とトヨタが1回のTPCイベントに80万5,000ポンド(約1億5,000万円)を支払ったことも記されている。これはマクラーレンがパロウのために実施した2回分のテスト費用よりも高額だった。

平川亮 マクラーレン F1 アブダビGP

「ノリスも支払っていた」マクラーレン代表が証言
ザック・ブラウン代表は法廷で、「ランド・ノリスでさえ2019年のフルタイム昇格前はF1チームに費用を支払っていた」と証言した。

つまり、マクラーレンではジュニアやテストドライバーの段階で資金を提供する形が慣例化していたことを示唆している。

パロウ側は「マクラーレンとの契約は虚偽や誤解に基づいたもので、結果的に自分が“嘘の約束”に投資させられた」と主張。一方でマクラーレン側はこれを全面否定し、証拠隠滅(WhatsAppメッセージ削除)を指摘されるも「事実無根」と反論している。

F1の“実力主義”を揺るがす新しい構造
この裁判で浮かび上がったのは、F1の「才能主義」と「資金主義」の境界がさらに曖昧になっている現実だ。

FP1走行権がチームにとっての販売可能な“資産”になりつつあり、資金力が豊富なドライバーほど実戦経験を得やすい構図が生まれている。

とくに若手や他カテゴリからの挑戦者にとっては、資金調達がF1登竜門への必須条件となりかねない。
マクラーレンのように、テストやFP1の機会を収益化するチームが増えれば、「買えるチャンス」と「純粋な評価の場」が混在する新たな問題を招く可能性がある。

一方で、チーム側にはコスト回収・財源確保の利点がある。F1マシンの運用コストは1日で数千万単位に達するため、メーカー支援を受けたドライバーを起用することは経営上の合理的判断ともいえる。

とはいえ、今回の訴訟が示すように、金銭と契約、出走機会をめぐるトラブルはF1の倫理面でも危ういバランスを露呈した。

今後この構造が常態化すれば、“最速を競う舞台”であるF1の根幹が、静かに変質していく可能性もある。

Source: Motorsport Magazine

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カテゴリー: F1 / 平川亮 / マクラーレンF1チーム