レッドブルF1 新代表ローラン・メキースが語る就任の舞台裏と挑戦への決意
ローラン・メキースは、スポーツ界における大役のひとつを担うことになった。F1チーム選手権で6度のタイトルを獲得しているレッドブル・レーシングの新たなチーム代表に就任したのだ。

フランス人である彼は、レッドブルの20年の歴史の中でわずか2人目のチーム代表となり、現在パフォーマンスの低迷に苦しむチームの舵取りを任された。

エンジニア出身のメキースは、アロウズ、ミナルディ、トロ・ロッソ、FIA、フェラーリ、レーシングブルズ、そして現在のレッドブルと、F1の世界で24年にわたってキャリアを積んできた。最近では、レーシングブルズにおいてCEOピーター・バイヤーと共に組織構造の刷新に取り組み、チームを中団勢の強豪へと押し上げていた。

こうした実績から、レッドブルが上層部の刷新を決断した際、"ファミリー内"から後任を探すのは自然な流れだった。そしてクリスチャン・ホーナーの後任として白羽の矢が立ったのが、メキースだった。

スパ・フランコルシャンのパドックにあるレッドブル・エナジーステーションで木曜、F1.comとの独占インタビューに応じたメキースは、翌日のFIA記者会見で世界中のメディアの前に立つことを控えながらも、リラックスした様子で穏やかな表情を見せ、自身の人生を変えることとなった"あの知らせ"をどう受け取ったかを語った。

「正直言って、みんなと同じように突然だったよ」とメキース。「たぶん僕の状況もみんなとほとんど同じだったと思う。正式発表の数時間前にオリバー(・ミンツラフ、レッドブルのコーポレート・プロジェクト&インベストメントCEO)とヘルムート(・マルコ、モータースポーツアドバイザー)から電話が来たんだ」

「もちろん驚いた。でも次の瞬間にこう思った。『待てよ、レッドブルからその役割を託されようとしてるんだぞ? こんなの、光栄以外の何ものでもない』ってね。あの“レッドブルのエネルギー”ってやつを感じたんだ。それで電話をかけ直して──そして、それからはもう歴史の一部さ」

「勝つためにここにいる」──最初に考えたのは"人"との出会い
チーム代表ともなれば、当然のことながらゆっくり眠る時間もない。その上、今のメキースは就任から2週間しか経っておらず、あふれるアイデアが頭を駆け巡り、さらに睡眠不足が続いているという。その中で真っ先に思い浮かんだのは、「人と会うこと」だったと語る。

「どう時間を使うか。それは、この素晴らしい人々に会うこと。チームのみんなに会って、お互いを知り合い、対話を始め、強みやチームの力学を理解することなんだ」

「まだたった2週間。自分が目指すレベルには到底届いていないけど、毎日人と会って、だんだん理解が深まっていく過程は、とても刺激的で素晴らしい旅なんだ」

メキースは「人」を重んじる人物だ。これまで共に仕事をした多くの人が、彼のことを知的で思慮深く、そして熱意に満ちた人間だと評価している。「チームを鼓舞できる男」。そう評される彼が会話の序盤から人の話を繰り返し口にしたのは、成功する組織を作る上で「人」の重要性を強く理解しているからに他ならない。

ローラン・メキーススパ・フランコルシャンに到着したレッドブルF1のチーム代表兼CEOローラン・メキース。

「毎日が新しい才能との出会いなんだ」と彼は言う。「チームがどう動いているかも、毎日が発見だ。共通して感じるのは、どんな角度から見ても、どんな扉を開けても、そこに“レーシング・スピリット”があるってこと」

「ここにいるみんなは、勝つためにここにいるんだ。世界最高のプロたちだっていうのが、すぐに伝わってくる。そして毎日誰かに会って、やり取りが深まっていく。ここ2週間はそんな毎日だったよ」

「アランは完璧な後任だ」──レーシングブルズへの想いと人事
レーシングブルズからの離脱は、当然ながら簡単な決断ではなかった。しかしメキースは、自らがチームに迎えたアラン・パーメインこそが、チームを託すのに最適な人物であると断言する。

「正直なところ、離れるのはつらかった。素晴らしい冒険だったからね。この1年半で数多くの改革を実現して、これからさらに勢いを増していくタイミングだった」

「でも一方で、チームは最高の人材に託されたと思っている。アランはチームのすべてを知り尽くしてるし、我々が一緒に築いてきたスピリットを体現してくれる人物だ。彼がピーターやチームと共に歩む姿は、本当に頼もしい」

アラン・パーメイン(レーシングブルズ)スパでの週末に臨むレーシングブルズの新代表アラン・パーメイン。

「勝利とタイトル、それだけが目標だ」──レッドブルを率いる覚悟
「レッドブルには、ただひとつの願いしかない。勝つこと、そしてタイトルを獲ることだ」とメキースは断言する。「ボードから現場のすべての人間まで、それが唯一の目標なんだ。チーム全体が、最良のクルマを生み出すために全力を尽くしている」

彼がその実現のために挙げたのもまた、「人」だった。

「要は、才能ある人々が力を発揮できる環境とツールを整えること。その魔法を引き出せるようにね」

2026年からは、フォードと共同開発したレッドブル独自のパワーユニットが初めて投入される。これは大きな挑戦であり、同時に機会でもある。

「レッドブルはこのスポーツで長年戦ってきた。だからこそ、短期・中期・長期で何が起きるかを熟知している。彼らは、変化と2026年レギュレーションの大波を乗り越えるための力を理解してるし、必要な“アグレッション”を全社的に注ぎ込んでくれている」

レッドブル・レーシング マックス・フェルスタッペンスパでメディア対応するマックス・フェルスタッペン。

「マックスはこのプロジェクトの中心」──フェルスタッペンと角田裕毅について
「真実は、我々はマックスに全力を尽くしているということ。だからこそ、彼に最高のクルマを提供することが我々の最優先なんだ。それがチーム全員の望みなんだよ」

「マックスはこのプロジェクトの中心だ。彼の魔法はサーキットで不可欠だし、長年チームに貢献してきたからこそ、次なる競争力を築くうえでも彼の意見が必要なんだ」

角田裕毅についてもメキースは、「スピードは確かにある」と語る。

「裕毅は速い。それは間違いない。そして、スピードというのは簡単に消えるものじゃない。状況は厳しいけど、チームは彼を全面的に支えている。今つなげるべき点をひとつずつつないでいこうとしているんだ」

「チームとの関係も非常に良好だし、近いうちに彼本来の力を発揮してくれると確信している」

メキースはこれまでのF1キャリアにおいて素晴らしい実績を残してきた。同業者たちからの評価も非常に高く、彼が持つ「人を鼓舞する力」「結果を出す手腕」「前向きな組織文化を築く能力」は広く知られている。これから挑むキャリア最大の難関において、そうした資質を最大限に生かすことが何より重要となるだろう。

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カテゴリー: F1 / レッドブル・レーシング