レッドブルF1ホーナー解任の舞台裏 株式構造の変化でタイの“後ろ盾”喪失

かつてホーナーを擁護してきたタイの大株主チャレーム・ユーヴィッディヤが、保有していた2%の株式を手放したことで、オーストリア側とタイ側の勢力が拮抗。ホーナーは最大の“後ろ盾”を失い、組織内での影響力を一気に低下させた。この構図の変化が、彼の電撃解任へとつながったとみられている。
レッドブル帝国の誕生には、チャレオ・ユーヴィッディヤとディートリッヒ・マテシッツという2人の実業家による「不動の約束」があった。両者は1987年にヨーロッパ市場で発売されたエナジードリンクを基盤に、それぞれ49%ずつを出資し、残る2%をチャレオの息子チャレーム・ユーヴィッディヤに譲渡したことで、現在のレッドブル社が形成された。
スポーツ部門の統括権限はマテシッツに委ねられたが、彼の死去(2022年)によって構図が一変。すでに父チャレオも2012年に他界していたことから、チャレームが筆頭株主としての立場を明確にし、レッドブルのF1活動にも主導権を行使するようになった。
この経緯は、2024年に持ち上がったクリスチャン・ホーナーの「不適切行為疑惑」とも密接に絡む。当時ホーナーを擁護し、オーストリア側が求めた更迭要求から守ったのは、まさにチャレーム・ユーヴィッディヤだった。
しかし2025年、状況は変化する。
今年に入ってからチャレームのF1チームへの不満が繰り返し報じられていた中、5月20日、彼は自身が保有していた2%の株式をジュネーブに本拠を置く「Fides Trustees SA」へ譲渡。受益者が誰であるかは明らかにされていない。
これにより、レッドブルGmbHの株式構成は再び「49%:49%:2%」となり、タイとオーストリアの両陣営が拮抗した状態となった。これが社内に新たな緊張関係を生み出し、7月のF1オーストリアGPにチャレームが現地入りした事実も、単なる偶然ではなかったとみられる。現地でホーナーと写真に収まる姿も確認されていたが、実際にはそこで重大な決断が下された可能性が高い。
こうして“後ろ盾”を失ったホーナーは、7月8日(火)の会議を経て、CEO兼チーム代表としての職を追われた。
ホーナーの功績と今後の行方
クリスチャン・ホーナーは、レッドブルをF1のトップチームに育て上げた立役者だ。通算6度のコンストラクターズタイトル、8度のドライバーズタイトル、124勝、12回のスプリント勝利、287回の表彰台、107回のポールポジション、100回のファステストラップという圧倒的な実績は、その存在の大きさを物語る。
彼はまだ51歳。F1において新たな挑戦をするには十分すぎるほど若い。
Sky UKによると、ホーナーは2025年末まで「ガーデニング休暇」に入る見込みで、2026年1月から他チームに加入することが可能になる。このタイミングも偶然ではなく、2026年1月にはホーナーに対する元社員によるロンドンの労働裁判所での訴訟が予定されている。金銭的和解の試みを拒否してきたとされるこの元社員に関して、英「Daily Mail」が接触した父親は「ホーナーの解任は当然。真実は明らかになる」とコメント。彼女はすでにレッドブルを離れており、その動向は近く明らかになるだろう。
英タブロイド紙による過熱報道や、法廷での展開次第では、ホーナーのF1復帰に大きな影を落とす可能性もある。
さらに私生活でも困難を抱える。数日前、ホーナーの娘オリビア(11歳)の母親であるビバリーが亡くなったばかりだ。家族として移住のタイミングではないとされており、現在の拠点ミルトンキーンズから約60kmにあるアルピーヌの本拠地エンストンは、理想的な選択肢と考えられている。
親友フラビオ・ブリアトーレが関わるアルピーヌは、いま再建途上にあるチーム。ホーナーにとっては、トト・ヴォルフのように「チームの一部オーナー」として参画するという長年の夢を実現できるチャンスかもしれない。それは、レッドブルやメルセデス、マクラーレンのようなトップチームでは不可能な選択肢だ。
カテゴリー: F1 / レッドブル・レーシング