エイドリアン・ニューウェイが振り返る2021年F1シーズン前半戦 / レッドブル・レーシング・ホンダ
レッドブル・レーシング・ホンダのテクニカルオフィサーを務めるF1シーンの重鎮が前半11戦を振り返った。

F1がサマーブレイクを迎えるタイミングで、エイドリアン・ニューウェイが、RB16B、シーズン前半戦、シーズン後半戦、タイトル争い、議論を呼んだポイント、テクニカルレギュレーションなどについて語った。

レッドブル・レーシング・ホンダのテクニカルオフィサーは、かすかな笑みとともにすべての質問に答えた。40年以上このポジションにいるニューウェイはすべてを知っており、包み隠すことはなかった。

シーズン前半が終わりましたが、チームは久々にタイトル争いを演じています。あなたは過去に何回も経験していますが、タイトル争いのフィーリングをあらためて教えてください。
すべてのエリアで最高のパフォーマンスを見せなければ7シーズン連続でワールドチャンピオンを手にしてきたチームを上回ることはできないが、今シーズンはそれができていると信じている。直前の2レースは、フランスとオーストリアでの3戦が最高だったがゆえに残念だったが、これはF1では状況が一瞬で変わることを示している。

チームはとても良い状態だった。オーストリアGP後は特にそうで、コンストラクターズとドライバーズの両方で十分なリードを築けていたが、それからたった2レースで、両タイトルで僅かにリードを許してしまった。自分たちが原因ではないことを踏まえると、痛みはさらに増す。しかし、これが私たちのスポーツ特有の性質と競争の激しさだ。冷静にプッシュし続ける必要がある。

過去に同じような経験をしていることが助けになると思いますか?
レッドブル・レーシングの魅力のひとつは、チームの雰囲気がいつも良いところだ。これはチームが非常に安定していることを意味している。私たちはタイトル争いを演じられるようになる前からそうだった。

2009シーズンはコンストラクターズ2位で終えたが、激しいタイトル争いを制した2010シーズンと2012シーズンの経験は非常に大きく、レジリエンス(回復力)を手にすることができた。これが今シーズン非常に役立っている。私たちは追う側の立場も追われる側の立場も知っている。これが私たちの明確なストロングポイントだ。

今シーズンのタイトル争いに加わることを想定していましたか? 開幕前からRB16Bがタイトル候補になれる感触を得ていましたか?
実際にシーズンが始まるまでは何とも言えないものだ。今シーズンについては、オフシーズンにフロアとリアの空力関係のレギュレーションに中規模の変更が加えられた。大規模ではなかったものの、マシンをある程度最適化しなければならなくなった。また、F1がCOVID-19の問題に対応するために、RB16のホモロゲーションが特殊だった。

今シーズンのマシン開発がトークンで制限された結果、私たちはギアボックス・ケーシングにトークンを使用することにしたのだが、同時にリアサスペンションのアレンジメントも変更した。なぜなら、RB16ではあまり機能していると思えなかったからだ。

これらの変更によってそれなりに前進できたと思っている。バーレーン到着時点では、空力関係のレギュレーション変更を正しく理解できている感触があった。もちろん、チェコ(セルジオ・ペレス)はRB16をドライブした経験がなかったが、マックス(・フェルスタッペン)はRB16BをRB16の進化版だとすぐに感じ取り、ポジティブなフィードバックを返していた。

テスト終了後、私たちは競争力の高いパッケージを手にできている感触を得ていたが、実際にどうなのかは蓋を開けるまで分からない。他チームのエンジンモードや燃料の量が分からないので、プレシーズンに自分たちがどの位置につけているのかを予想するのは非常に危険だ。RB16Bに競争力が備わっていると確信できたのは、バーレーンGPを迎えてからだった。このGPを制することはできなかったが、前半戦は互角の勝負を演じられた。

トークンを使用したエリアのパフォーマンスには満足していますか?
少し前の話になるが、2019シーズンのRB15から2020シーズンのRB16へ移行したとき、マシンの中に完全に理解できていないエリアがあった。風洞テストやあらゆるシミュレーションを行ったあとも、マシンの挙動が不安定だった。それで、2020シーズンの開幕戦があのような結果になってしまった。問題を解決できるようになるまではしばらく時間がかかった。

プラスだったのは - これは良くあることなのだが – そうならなければ学べなかったことを学べたことだ。上手くいっているときよりも失敗したときの方がより多くを学べる。あの経験がオフシーズンに大いに役立った。オフシーズンの開発が今の私たちに繋がった。

シーズンは折り返しを迎えましたが、レース数は前半戦(11戦)より後半戦(12戦)の方が多く予定されています。予定通り16週で12戦が開催される場合、ハードスケジュールがチームのパフォーマンスにどのような影響を与えると思いますか?
移動が増え、ホームで過ごせる時間が短くなるのでレースチームには大きな負荷がかかるだろう。また、パーツの消費という面ではファクトリーにも負荷がかかる。アクシデントの大きさから、直前2戦もファクトリーには大きな負荷がかかっている。開発については、レース数に影響を受けることはない。それよりも(来シーズンの)レギュレーションの大規模な変更とのバランスを取っていくことが難しい。

そのレギュレーション変更ですが、どの程度の大きさなのでしょうか? 過去と比較できますか?
個人的には、1982シーズン後のグラウンド・エフェクト・マシンの禁止以降最大のレギュレーション変更だと思っている。革命になる。引き継がれるのはパワーユニットだけで、これ以外はすべて変わる。ゆえに、今シーズンのマシン開発とのバランスを取っていくのが非常に難しい。

今シーズンのチームはサーキット内外でニュースになることが多いですが、あなたたちをスローダウンさせるためにライバルチームがルールの見直しを要求するような現状をどう受け止めていますか? 意識されていることを光栄に感じているのでしょうか?
上位チームがライバルチームの動向を気にするのは当然だ。彼らは下位チームの動向はほとんど心配していない。

様々な意味で、自分たちがライバルチームから細かく監視されている状況を光栄に思っている。このような状況は以前もあったが、自分たちのマシンに対してここまでの水面下の動きやロビー活動があったことは過去にはなかったと思う。おそらく、空力弾性について研究していたことで常に監視下に置かれ、レギュレーション変更に対応しなければならなかった2010シーズンと2011シーズン以来だろう。フェラーリとタイトル争いをしていたときも、ボディワークの柔軟性が問題になったことがある。

このような状況を “戦争” と喩えるのはあまり好きではないが、的を射ている。私たちはすべてのエリアをチェックして、競争力を高めていかなければならない。これはF1の性質であり、このスポーツの魅力のひとつだ。しかし、今シーズンはその戦いの頻度と激しさからひときわ目立っている。

あなたたちの知らないところで多くの疑念が生み出されているように思えますが、フレキシブルリアウイングは大きな議論になりましたね。あなたの見解を教えてください。
フレキシブルリアウイングについて問題があるというのなら、そのようなウイングを使っているのは私たちだけではなかったと言っておきたい。しかし、当然ながら、この問題を提起し始めたときのメルセデスは、アルファロメオがしていることを気にしていなかった。彼らが気にしていたのは、私たちがアドバンテージを得ているのかどうかだった。

実際には得ていなかったわけだが、パーツ変更にはコストがかかる。これが痛かった。とはいえ、この出来事は、私たちには変更に柔軟に対応できる厚さがあることを示す素晴らしい証左であり、窮地を脱して競争力を維持できる力があることを示す好例だ。

今振り返ってみて、シルバーストンでのクラッシュに対するルイスへのペナルティを見直すようにスチュワードにアピールしたのは正しかったと思いますか?
正しかったと心の底から信じている。基本的には、新しい証拠が出てくればアピールできるというルールになっている。しかし、これはかなり古いルールで、グランドスタンドに座っている誰かが撮影した映像が、別角度からの新しい証拠になる可能性を考慮して設定されたものだ。

私たちはそのようなグランドスタンドで撮影された動画の代わりに、GPS解析データを用意していた。GPS解析データはレース中に手に入るものだが、スチュワードが自力で用意することはできない。なぜなら、専門家が分析しなければ見られるものにならないからだ。スチュワードがこれを理由にしてGPSを新しい証拠として認めないと判断したことには非常に落胆した。残念だが、彼らの判断なので尊重している。

マックスは直前2レースの失意からどのように立ち直ると思いますか? あなたはF1史上最強クラスのドライバーたちと仕事をしてきましたが、マックスは彼らと比べるとどのようなドライバーなのでしょう?
マックスは他のワールドチャンピオンと同じように鋼のようなガッツを備えている。これは、困難に直面したときに強い意志で戦い続けるためには不可欠な資質だ。彼は過去を忘れて次のレースに集中できる。また、ドライビング能力は言うまでもなく素晴らしい。偉大なレーサーへと成長している。

今シーズンのマックスはミスらしいミスを犯していない。彼がビッグポイントを獲得できなかったアゼルバイジャンGP、イギリスGP、ハンガリーGPはどれも彼の責任ではなかった。しかし、彼は冷静さを保って見事に復活してくれた。マックスは状況が生み出すプレッシャーに負けるタイプではない。

いつでも気さくに話しかけられる人物で、色々なことに興味を持っている。この資質はF1ドライバーにとって非常に重要だ。F1にしか興味がなければ、プレッシャーがかかったときにF1のウエイトが重くなりすぎてしまう。そういう意味で、マックスはバランスに優れている。

これまで戦ってきたシーズンの中で、今シーズンと同じくらいサーキット外でも激しいバトルが展開されたシーズンはありましたか?
視聴率が上昇し、チームの規模が大きくなっている現在のF1はかつてよりも巨大なビジネスになっており、それゆえにメディアの偏重報道や政治的な動きも増えてきている。

これは、ディートリヒ・マテシッツ氏とレッドブル全体のエートスによるものだが、私たちのチームが優れているのは、相応しい勝利と思ってもらえるように自分たちらしく、そしてクリーンな方法で勝利を目指しているところだ。また、私たちはチーム内外を問わず常に包み隠さず話している。自分たちのエモーションを見せようとしているし、仕事におけるオープンさを誇りに思っている。私にとっては非常に風通しの良い環境だ。

今シーズンの接戦を見て、自分がF1に参加していることを誇りに思いますか?
今シーズンは素晴らしいレースをいくつか見ることができているが、ベストバトルはマックスとルイスだ。毎週最高のパフォーマンスを見せている2人は最高に素晴らしい光景を生み出している。2人が異なるマシンをドライブしていて、チームメイトではないということがその素晴らしさを一層高めている。2人のライバル関係はより大きなバトルに繋がっており、変わり続けるシーンに対して私たちとマシンがどう対応するかが勝負を決める要素になっている。

最後の質問です。大接戦のタイトル争いからサマーブレイクを迎えましたが、2週間でどのように切り替えるつもりですか?
通常は数日かけてリラックスしている。つまり、最初の1週間はとてもゆっくり過ぎていくのだが、2週間目はあっという間ということだ(笑)。いつものシーズンなら、家族と一緒にどこか暖かい場所へ向かうのだが、渡航制限や隔離期間があるので少し難しい。前半は英国で過ごし、そのあとはクロアチアで数日過ごすつもりだ。最近はウォータースキーとSUPが気に入っている。休暇はビーチで過ごすのが好きだが、ビーチに寝そべるのはあまり好きではない。何かをしていたいんだ。

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カテゴリー: F1 / レッドブル・レーシング / ホンダF1