2025年ル・マン24時間レースに元F1ドライバー19人が参戦
F1パドックが次戦カナダGP開催地モントリオールへと移動する中、かつてF1で活躍した多数の顔ぶれが、6月14日(土)から15日(日)にかけて開催される2025年のル・マン24時間レースに挑もうとしている。

この有名な耐久レースでは、現役F1ドライバーの中にも過去に栄光をつかんだ者たちがいる。ニコ・ヒュルケンベルグは2015年にポルシェで優勝を果たし、フェルナンド・アロンソはトヨタの一員として2018年と2019年に連覇を達成した。

では、今年のレースに参戦する19人の元F1ドライバーたちの中から、彼らの足跡をたどる者は現れるのだろうか?以下に候補者たちを紹介する。

■ フェリペ・ナッセ/パスカル・ウェーレイン – #4 ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ
まずハイパーカークラスに登場するのは、フェリペ・ナッセとパスカル・ウェーレインという2人の元F1ドライバーを擁するチーム。彼らはニック・タンディと共にポルシェ963をドライブする。

ナッセは2015年と2016年にザウバーでF1を戦い、デビュー戦となったオーストラリアGPでいきなり5位入賞を果たした。これは彼のF1キャリア最高位であり、2016年の母国ブラジルGPでは、その年のザウバー唯一のポイントも獲得している。

一方、ウェーレインは2016年にマノーからF1デビューを果たし、オーストリアGPで10位に入りチームに唯一のポイントをもたらした。翌2017年にはザウバーに移籍し、さらに5ポイントを加えたものの、2018年にはシャルル・ルクレールにその座を譲ることとなった。

その後ウェーレインはフォーミュラEへと戦いの場を移し、2023/24シーズンにはチャンピオンを獲得。今回がル・マン初挑戦となる。

ル・マン24時間 F1 フェリペ・ナッセ/パスカル・ウェーレイン2016年当時の元F1ドライバー、ナッセとウェーレイン。彼らは今年のル・マン24時間レースでチームメイトとなる

■ 小林可夢偉/ニック・デ・フリース – #7 トヨタ・ガズーレーシング
#7トヨタ・ガズーレーシングの2人のドライバーもF1ファンにはおなじみの顔だ。小林可夢偉は2009年末にトヨタからF1デビューを果たし、その後3シーズンにわたりザウバーでレースを続けた。その中でも特筆すべきは、2012年の日本GPで母国ファンの前で3位表彰台を獲得したことだ。

2014年にはケータハムでF1に復帰したが、その後は耐久レースに専念。2021年にはル・マンで優勝し、さらに4度の2位入賞経験も持つ。

そんな小林とチームを組むのが、ニック・デ・フリースだ。彼は2022年のイタリアGPでウィリアムズの代役としてF1初出走を果たし、即座にポイントを獲得して注目を集めた。しかし2023年にアルファタウリ(当時)からフル参戦を果たすも、シーズン途中でダニエル・リカルドと交代となった。

その後は再びフォーミュラEとWECに参戦しており、今回はマイク・コンウェイと共にGR010ハイブリッドをドライブする。

ル・マン24時間 F1 小林可夢偉/ニック・デ・フリースデ・フリースと小林(写真は元チームメイトのホセ・マリア・ロペスと共に)。彼らは2024年のル・マンで2位に入賞している

■ セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー – #8 トヨタ・ガズーレーシング
小林と同様に、#8トヨタ・ガズーレーシングの2人もF1出身かつル・マン優勝経験者だ。セバスチャン・ブエミは2009年から2011年にかけてトロ・ロッソでF1を戦い、2010年の中国GPでは両フロントタイヤが同時に脱落するという奇怪なアクシデントでも話題を呼んだ。

その後は他のカテゴリーで成功を収め、2015/16年にはフォーミュラEチャンピオンを獲得。さらにル・マン24時間レースでは4勝を挙げ、これは歴代最多タイとなっている。

その記録を並ぶのがチームメイトのブレンドン・ハートレーだ。彼は2017年末にトロ・ロッソからF1デビューを果たし、2018年にはフル参戦を経験。ル・マンでは2022年に最後の勝利を挙げている。

この2人に加わるのが、現ハースF1リザーブドライバーの平川亮だ。

ル・マン24時間 F1 セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー2022年の優勝以来、再び頂点に立てるか――ブエミ、ハートレー、平川のトリオが挑む

■ ウィル・スティーブンス – #12 キャデラック・ハーツ・チームJOTA
ウィル・スティーブンスのF1キャリアは短かった。2014年の最終戦アブダビGPでケータハムからデビューし、翌2015年はマノー・マルシャでフル参戦。イギリスGPでの13位が最高成績だった。

F1を離れてからは耐久レースに転向し、2017年にはLMGTE AMクラスで、2022年にはLMP2クラスでル・マン優勝を果たしている。今年はハイパーカークラスに挑み、ノーマン・ナトーとアレックス・リンと共にキャデラックをドライブする。

ル・マン24時間 F1 ウィル・スティーブンス2015年、マノー・マルシャから参戦したスティーブンス。今ではル・マン優勝経験者のひとりだ

■ ケビン・マグヌッセン – #15 BMW MチームWRT
F1のなかでも比較的近年のレース経験を持つのがケビン・マグヌッセン。2021年にはLMP2クラスでル・マン初参戦を果たしており、今回はBMW MチームWRTの#15をドライブする。チームメイトはドリス・ヴァントールとラファエレ・マルチェッロ。

2024年シーズン限りでハースのシートを失ったマグヌッセンは、現在他カテゴリーに活動の場を移している。F1では2014年のデビュー戦(マクラーレン/オーストラリアGP)でいきなり2位に入るなど、通算185戦に出走した実績を持つ。

ル・マン24時間 F1 ケビン・マグヌッセン「F1の10年間は特権だった」――マグヌッセンが振り返るキャリア

■ ミック・シューマッハ – #36 アルピーヌ・エンデュランス・チーム
2022年にマグヌッセンがF1に復帰した際、チームメイトとなったのがミック・シューマッハだ。彼にとってF1での2シーズン目となった2022年は、数回のポイント獲得もあったが、翌2023年のシート確保には至らなかった。

2024年末にメルセデスF1のリザーブドライバーの役目を終えた後、シューマッハはWECへの専念を決意。今年はアルピーヌの一員としてフレデリック・マコヴィエッキ、ジュール・グーノンとともに参戦し、ここまで2度の表彰台を獲得している。

ル・マン24時間 F1 ミック・シューマッハ2024年にF1リザーブを離れたシューマッハは、WECに集中している

■ セバスチャン・ブルデー/ジェンソン・バトン – #38 キャデラック・ハーツ・チームJOTA
#38キャデラック・ハーツ・チームJOTAには、さらに2人の元F1ドライバーが名を連ねている。地元ル・マン出身のセバスチャン・ブルデーは、1999年の初出場以来、幾度もル・マンに挑戦してきたベテランであり、2016年にはLMGTE Proクラスで優勝も果たしている。

F1では2008年にトロ・ロッソからデビューしたが、翌2009年途中でハイメ・アルグエルスアリに交代される形でF1キャリアを終えた。

そのチームメイトは、F1でより輝かしい実績を持つ2009年ワールドチャンピオン、ジェンソン・バトンだ。17シーズンにわたりF1で活躍し、通算15勝、8回のポールポジション、50回の表彰台という記録を持つ。

バトンにとってル・マン参戦は今回が4回目であり、これまでの最高成績は2024年大会での9位。F1ワールドチャンピオンとしてル・マン優勝を果たした5人に続く6人目となれるか注目が集まる。

ル・マン24時間 F1 セバスチャン・ブルデー/ジェンソン・バトン元F1ドライバーのバトンとブルデーは、アール・バンバーとともに#38キャデラック・ハーツ・チームJOTAで参戦

■ アントニオ・ジョビナッツィ – #51 フェラーリAFコルセ
ル・マン24時間レースの勝利経験者であるアントニオ・ジョビナッツィも参戦する。彼は2017年にザウバーで2戦、2019年から2021年まではアルファロメオからF1にフル参戦。ブラジルGPでの5位がF1での最高成績となっている。

その後はフェラーリF1のリザーブドライバーを務めつつ、2023年にはフェラーリAFコルセとしてWECにフル参戦。ル・マンではその年に見事総合優勝を果たした。今年もアレッサンドロ・ピエール・グイディ、ジェームス・カラドと組んで参戦し、現在WEC選手権でも首位を走る。

ル・マン24時間 F1 アントニオ・ジョビナッツィジョビナッツィは、2023年にピエール・グイディ、カラドとともにル・マン優勝を経験している

■ ロバート・クビサ – #83 AFコルセ
ロバート・クビサのF1キャリアはまさにジェットコースターだった。2006年から2010年までに1勝を含む好成績を残すも、2011年のラリー事故で重傷を負い長期離脱。その後、2019年にウィリアムズからF1復帰を果たしたが、思うような結果は残せなかった。

それでも耐久レースでは好調で、LMP2クラスで2度のヨーロピアン・ル・マン・シリーズ王者に輝いている。今年はAFコルセからイエフェイ・イェ、フィリップ・ハンソンとともに参戦する。

ル・マン24時間 F1 ロバート・クビサロバート・クビサは波乱のF1人生を経て、耐久レースで再び輝きを放つ

■ ポール・ディ・レスタ/ジャン-エリック・ベルニュ – #93 プジョー・トタルエナジーズ
ポール・ディ・レスタは2011年から2013年までフォース・インディアでF1に参戦し、最高位は2012年と2013年の4位。2017年にはウィリアムズから1戦限りの代役出走も経験した。

F1引退後は解説者としても活躍しつつ、耐久レースに参戦。2020年にはLMP2クラスでル・マン優勝も果たしている。今年は#93プジョー・トタルエナジーズで、同じく元F1ドライバーのジャン-エリック・ベルニュとチームを組む。

ベルニュはレッドブル・ジュニア出身で2012年から2014年にかけてトロ・ロッソでF1を戦った。F1後はフォーミュラEに転向し、2度のチャンピオンに輝いた実績を持つ。ル・マンには今回が5回目の参戦となる。

ル・マン24時間 F1 ポール・ディ・レスタ/ジャン-エリック・ベルニュベルニュとディ・レスタ(2012年の写真)は、F1では別のチームで戦っていたが、現在はWECで同じチームに所属している

■ ストフェル・バンドーン – #94 プジョー・トタルエナジーズ
#94のプジョー・トタルエナジーズをドライブするのはストフェル・バンドーンだ。ベルギー出身のバンドーンは2017年にマクラーレンからF1にフル参戦し、2018年まで在籍したが、非力なマシンに苦しみ、2019年にはシートを失った。

その後はフォーミュラEに転向し、2021/22シーズンにはチャンピオンを獲得。現在はアストンマーティンF1チームのリザーブドライバーも務めている。WECではロイック・デュバルとマルテ・ヤコブセンとともに#94で参戦する。

ル・マン24時間 F1 ストフェル・バンドーンF1では苦戦したバンドーンだが、その後フォーミュラEや耐久レースで着実な実績を重ねている

■ ジャック・エイトケン – #311 キャデラック・ウィーレン
ジャック・エイトケンは、ここに挙げられた中で最も短いF1キャリアを持つドライバーかもしれない。彼は2020年のサヒールGPで、ジョージ・ラッセルがメルセデスに代役出走した際にウィリアムズから代走し、16位で完走した。

現在は3回目となるル・マン参戦に備えており、#311キャデラック・ウィーレンでは、現F1リザーブドライバーのフェリペ・ドルゴヴィッチ、フレデリック・ヴェスティとともに出場する。

ル・マン24時間 F1 ジャック・エイトケンエイトケンは2020年のF1出場後、様々なカテゴリーで活動している

■ アンドレ・ロッテラー – #18 IDECスポール
#18 IDECスポール(LMP2クラス)には、アンドレ・ロッテラーが名を連ねる。彼は2000年代初頭にジャガーF1のテストドライバーを務めていたが、F1レースデビューは2014年のベルギーGP。ケータハムから出走したものの、マシントラブルでわずか1周でリタイアとなった。

ル・マンではこれが13回目の参戦であり、これまでに3度の総合優勝経験を持つ。しかし今回初めてトップクラスではなくLMP2での出場となる。チームメイトはジェイミー・チャドウィックとマティス・ジョベール。

ル・マン24時間 F1 アンドレ・ロッテラー3度のル・マン制覇経験を持つロッテラー、今年はLMP2で挑む

■ ピエトロ・フィッティパルディ – #22 ユナイテッド・オートスポーツ
同じくLMP2に参戦するのがピエトロ・フィッティパルディ。2020年のバーレーンGPで起きたロマン・グロージャンの大事故の代役として、フィッティパルディはハースから2戦F1に出場した。

その後もアメリカのストックカーやインディカーなど多くのシリーズに参戦しており、現在もハースF1のリザーブを継続しながら、今年はユナイテッド・オートスポーツからル・マンに出場。レンガー・ヴァン・デル・ザンデ、デイヴィッド・ハイネマイヤー=ハンソンとチームを組む。

ル・マン24時間 F1 ピエトロ・フィッティパルディフィッティパルディはハースF1のリザーブとしての活動を続けつつ、耐久レースでも経験を積んでいる

■ 特別言及
LMGT3クラスに出場する元F1ドライバーはいないが、F1ドライバーの息子が参戦予定だ。ルーベンス・バリチェロの息子、エドゥアルド・バリチェロが今年ル・マン初参戦を果たす。

また、このカテゴリーではMoto GPのレジェンド、バレンティーノ・ロッシにも注目したい。彼は今年2回目のル・マン参戦となるが、F1との縁も深く、2019年にはルイス・ハミルトンとのマシンスワップを経験し、2006年にはフェラーリのテストも行っている。

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カテゴリー: F1 / ル・マン24時間レース / F1ドライバー