ホンダF1 特集 | 高速サーキットでの戦い
ホンダF1の副テクニカルディレクターを務める本橋正充が、夏休み明けのスパ・フランコルシャン、そして、モンツァという2つの高速サーキットでの戦いについて語った。
6週間に5レースという目まぐるしい連戦のラストを飾った第12戦ハンガリーGP。夏休み前最後となったこの一戦で、トロロッソ・ホンダはガスリーが6位入賞というめざましい結果を残した。
しかし、喜びに浸っている時間はない。休みが明ければ、スパ・フランコルシャンとモンツァという、F1を象徴する2つのサーキットで行われる過酷なレースが待ち受けている。
この2つのサーキットは、年間カレンダー上で最もパワーユニットに厳しいサーキット。このような高速のトラックでは、ドライバーは走行中のほとんどの時間、アクセルペダルを踏み込み続けていなければならない。
「カレンダー上で最もパワフルなサーキットと言えるスパとモンツァでは、マシンの信頼性を高めることが非常に重要になります。スパにはロングストレート、モンツァには多くのストレートセクションがありますから」と本橋正充は語る。
「我々は特に前半戦のアゼルバイジャンでのレースを通して多くのことを学びました。ロングストレートではオーバーテイクされてしまいましたが、その原因の一つは、回生で得たパワーをサーキットのどの場所で効率的に使用するかという、エネルギーマネジメントの戦略にありました。そのため、その後のエネルギーマネジメントを改善していくにあたり、そのレースの中で得られた教訓は非常に大きなものでした。アゼルバイジャンのロングストレートはカレンダー最長で、距離だけで言えばスパを上回りますが、スパはスパでエンジンの全開率がラップを通して非常に高いので、エネルギーマネジメントも含めたパワーユニット性能がレースのキーとなります」
スパ・フランコルシャンには、ターン1にあるヘアピンコーナーのラ・スルス(La Source)からストレートエンドのレ・コーム(Les Combes)まで、20秒近くフルスロットルで走行するセクションがある。その先には難所のオー・ルージュ(Eau Rouge)、そしてラディオン(Raidillon)が控え、マシンは若干の減速を強いられる。バクーにも同じようにエンジン全開で走行するセクションが配置されているうが、中盤にスパのようなコーナーはない。
「エネルギーマネジメントは各トラックで最速のタイムを出すために最適化していきますが、同時にレース中の状況も考えなければなりません。レースの中でオーバーテイクが多いロングストレートではエネルギーマネジメントがキーとなりますが、それらのバランスを最適化することは非常に難しいんです」
スパ・フランコルシャンがシャーシ、パワーユニットの観点から見てカレンダー上で最もチャレンジングなサーキットである一方、モンツァはよりシンプルなトラックだ。しかし、だからと言って簡単というわけでは決してない。
「2つのサーキットはそれぞれ異なる特徴をもっているので、どちらがより難しいかは決め難いですね。ロングストレートでのエンジン全開走行は、燃焼室だけでなく、ドライブトレーン(エンジンで生み出した動力をタイヤに伝達する一連の機構)の温度上昇にもつながります。モンツァは典型的なストップ&ゴーのサーキットですから、マシンの信頼性をキープするのが難しいんです」
「例えば、気温が高い環境でマシンを使用する場合です。フルスロットルで走って急ブレーキをかけ、またフルスロットルでの走行を繰り返していると、冷却する時間がほとんどありません。その結果、エンジン内の温度上昇が徐々に進んでいってしまいます」
「スパのロングストレートがパワーユニットにとって過酷なのは間違いありませんが、そのあとに控える短いストレートや長いコーナーなどでエンジンを冷却することができます。このように、パワーユニットの観点から見ても2つのトラックは異なるキャラクターを持っています」
スパとモンツァの2連戦に効率的に備えるべく、チームはダイナモ上で各トラックに似たコンディションを作り出し、エンジン全開での走行時間が最新仕様のパワーユニットにどのような影響を及ぼすのかをテストしている。
「エンジン全開で走行すればするほど、パワーユニットの信頼性に影響が出ます。エンジンが高温化すれば、ノッキングが起きる可能性も高くなりますし、特にストレートの出口でうまくエンジンをコントロールできるようにしなくてはなりません。内燃機関エンジン(ICE)を損傷させてしまうことにもなりかねませんからね」
「ですから、もちろんダイナモでそうした状況を想定してのテストも行っています。テストの際には、バクーのロングストレートで収集したデータを基にしていますね。ダイナモでは、全てのサーキットを想定したシミュレーションを行うことができます。例えば、シリンダー圧によるダメージをチェックしたい場合は、ストレートで走行しているのと同じ環境をダイナモで作り出します。そうしたテスト中は、パワーユニットは高速サーキットを走行しているときと同じような音を出しています」
エンジン内の温度上昇を解決する方法としてはマシンのボディワークに穴を開け、冷却機関により多くの空気を取り入れることが挙げられる。しかしそうすることで空気抵抗を増加させてしまうため、スパのような高速サーキットでは別の解決策が必要になる。
「エネルギー回生システム(ERS)の一部であるラジエーターやヒートエクスチェンジャーは冷却に使用するのはもちろんですが、それだけでなくパワーマネジメントにも関わるコンポーネントです。ときには意図的にエネルギーの蓄積や放出の量を減少させたりしますが、それは内燃機関とERSの関係性に似ているとも言えます」
「当然ですが、ボディワークにより大きな開口部を作れば、ラップタイムに大幅な影響が出てしまいます。スパやモンツァのようなハイスピードサーキットでは特にその影響が顕著です。ですから、我々は開発の段階から高温化の回避と対処について研究を重ねてきています」
カレンダーの中で特に大きな人気を博しているスパ・フランコルシャンとモンツァ。マシン、そしてパワーユニットにとって過酷な試練が課されるこの2つのトラックで結果を残すことは、チームにとって大きな達成感を得られることを意味する。数多くのテストや準備を重ねているので、困難なこの2レースに向けても本橋は特に大きな懸念はしていないと言う。
「我々はすでに、何度も過酷なサーキットで戦ってきましたからね! ハンガリーでのエキサイティングなレース、バーレーンでの驚き、そしてエネルギーマネジメントに苦慮し、最も過酷な戦いを強いられたアゼルバイジャンなど、さまざまなレースを経験してきました。その中でエネルギーマネジメント、燃料やノッキング現象について多くのことを学ぶことができたんです。スパ、そしてモンツァに挑むにあたってすばらしいテストになっていると感じています」
先週末スパ・フランコルシャンで開催されたF1ベルギーGPでは、ピエール・ガスリーが9位入賞を果たすとともに、トップと同一周回でフィニッシュ。今週末のF1イタリアGPでも期待がかかる。
関連:2018年 F1イタリアGP テレビ放送時間&タイムスケジュール
カテゴリー: F1 / ホンダF1
6週間に5レースという目まぐるしい連戦のラストを飾った第12戦ハンガリーGP。夏休み前最後となったこの一戦で、トロロッソ・ホンダはガスリーが6位入賞というめざましい結果を残した。
しかし、喜びに浸っている時間はない。休みが明ければ、スパ・フランコルシャンとモンツァという、F1を象徴する2つのサーキットで行われる過酷なレースが待ち受けている。
この2つのサーキットは、年間カレンダー上で最もパワーユニットに厳しいサーキット。このような高速のトラックでは、ドライバーは走行中のほとんどの時間、アクセルペダルを踏み込み続けていなければならない。
「カレンダー上で最もパワフルなサーキットと言えるスパとモンツァでは、マシンの信頼性を高めることが非常に重要になります。スパにはロングストレート、モンツァには多くのストレートセクションがありますから」と本橋正充は語る。
「我々は特に前半戦のアゼルバイジャンでのレースを通して多くのことを学びました。ロングストレートではオーバーテイクされてしまいましたが、その原因の一つは、回生で得たパワーをサーキットのどの場所で効率的に使用するかという、エネルギーマネジメントの戦略にありました。そのため、その後のエネルギーマネジメントを改善していくにあたり、そのレースの中で得られた教訓は非常に大きなものでした。アゼルバイジャンのロングストレートはカレンダー最長で、距離だけで言えばスパを上回りますが、スパはスパでエンジンの全開率がラップを通して非常に高いので、エネルギーマネジメントも含めたパワーユニット性能がレースのキーとなります」
スパ・フランコルシャンには、ターン1にあるヘアピンコーナーのラ・スルス(La Source)からストレートエンドのレ・コーム(Les Combes)まで、20秒近くフルスロットルで走行するセクションがある。その先には難所のオー・ルージュ(Eau Rouge)、そしてラディオン(Raidillon)が控え、マシンは若干の減速を強いられる。バクーにも同じようにエンジン全開で走行するセクションが配置されているうが、中盤にスパのようなコーナーはない。
「エネルギーマネジメントは各トラックで最速のタイムを出すために最適化していきますが、同時にレース中の状況も考えなければなりません。レースの中でオーバーテイクが多いロングストレートではエネルギーマネジメントがキーとなりますが、それらのバランスを最適化することは非常に難しいんです」
スパ・フランコルシャンがシャーシ、パワーユニットの観点から見てカレンダー上で最もチャレンジングなサーキットである一方、モンツァはよりシンプルなトラックだ。しかし、だからと言って簡単というわけでは決してない。
「2つのサーキットはそれぞれ異なる特徴をもっているので、どちらがより難しいかは決め難いですね。ロングストレートでのエンジン全開走行は、燃焼室だけでなく、ドライブトレーン(エンジンで生み出した動力をタイヤに伝達する一連の機構)の温度上昇にもつながります。モンツァは典型的なストップ&ゴーのサーキットですから、マシンの信頼性をキープするのが難しいんです」
「例えば、気温が高い環境でマシンを使用する場合です。フルスロットルで走って急ブレーキをかけ、またフルスロットルでの走行を繰り返していると、冷却する時間がほとんどありません。その結果、エンジン内の温度上昇が徐々に進んでいってしまいます」
「スパのロングストレートがパワーユニットにとって過酷なのは間違いありませんが、そのあとに控える短いストレートや長いコーナーなどでエンジンを冷却することができます。このように、パワーユニットの観点から見ても2つのトラックは異なるキャラクターを持っています」
スパとモンツァの2連戦に効率的に備えるべく、チームはダイナモ上で各トラックに似たコンディションを作り出し、エンジン全開での走行時間が最新仕様のパワーユニットにどのような影響を及ぼすのかをテストしている。
「エンジン全開で走行すればするほど、パワーユニットの信頼性に影響が出ます。エンジンが高温化すれば、ノッキングが起きる可能性も高くなりますし、特にストレートの出口でうまくエンジンをコントロールできるようにしなくてはなりません。内燃機関エンジン(ICE)を損傷させてしまうことにもなりかねませんからね」
「ですから、もちろんダイナモでそうした状況を想定してのテストも行っています。テストの際には、バクーのロングストレートで収集したデータを基にしていますね。ダイナモでは、全てのサーキットを想定したシミュレーションを行うことができます。例えば、シリンダー圧によるダメージをチェックしたい場合は、ストレートで走行しているのと同じ環境をダイナモで作り出します。そうしたテスト中は、パワーユニットは高速サーキットを走行しているときと同じような音を出しています」
エンジン内の温度上昇を解決する方法としてはマシンのボディワークに穴を開け、冷却機関により多くの空気を取り入れることが挙げられる。しかしそうすることで空気抵抗を増加させてしまうため、スパのような高速サーキットでは別の解決策が必要になる。
「エネルギー回生システム(ERS)の一部であるラジエーターやヒートエクスチェンジャーは冷却に使用するのはもちろんですが、それだけでなくパワーマネジメントにも関わるコンポーネントです。ときには意図的にエネルギーの蓄積や放出の量を減少させたりしますが、それは内燃機関とERSの関係性に似ているとも言えます」
「当然ですが、ボディワークにより大きな開口部を作れば、ラップタイムに大幅な影響が出てしまいます。スパやモンツァのようなハイスピードサーキットでは特にその影響が顕著です。ですから、我々は開発の段階から高温化の回避と対処について研究を重ねてきています」
カレンダーの中で特に大きな人気を博しているスパ・フランコルシャンとモンツァ。マシン、そしてパワーユニットにとって過酷な試練が課されるこの2つのトラックで結果を残すことは、チームにとって大きな達成感を得られることを意味する。数多くのテストや準備を重ねているので、困難なこの2レースに向けても本橋は特に大きな懸念はしていないと言う。
「我々はすでに、何度も過酷なサーキットで戦ってきましたからね! ハンガリーでのエキサイティングなレース、バーレーンでの驚き、そしてエネルギーマネジメントに苦慮し、最も過酷な戦いを強いられたアゼルバイジャンなど、さまざまなレースを経験してきました。その中でエネルギーマネジメント、燃料やノッキング現象について多くのことを学ぶことができたんです。スパ、そしてモンツァに挑むにあたってすばらしいテストになっていると感じています」
先週末スパ・フランコルシャンで開催されたF1ベルギーGPでは、ピエール・ガスリーが9位入賞を果たすとともに、トップと同一周回でフィニッシュ。今週末のF1イタリアGPでも期待がかかる。
関連:2018年 F1イタリアGP テレビ放送時間&タイムスケジュール
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