F1サンパウロGP分析:マックス・フェルスタッペンに勝利の可能性はあった?
レッドブル・レーシングがF1サンパウロGPで下した戦略的決断は、果たして勝利を逃す要因だったのか――マーク・ヒューズがその裏側を分析する。

マックス・フェルスタッペンはQ1敗退という最悪の予選を経て、ピットレーンスタートから驚異的な追い上げを見せた。パルクフェルメを解除し、セットアップを変更すると同時にホンダ製の新パワーユニットを投入。これが功を奏し、レース中盤には首位に立つまでに至った。

レース51周目、ジャンピエロ・ランビアーゼの無線が鳴る。「言うとは思わなかったけど……君はいまレースリーダーだ」。

フェルスタッペンは短く「悪くないね」と返した。

序盤、ハードタイヤでの走行中に右リアのスローパンクチャーに見舞われたことが、結果的に幸運に転じた。早めのピットインを余儀なくされたことで、より性能の高いミディアム(C3)に交換。さらにこのタイミングで仮想セーフティカー(VSC)が出動したため、タイムロスはわずか約10秒にとどまった。

この週末、ハード(C2)は極端にペースが遅く、ソフト(C4)は初期グリップが高いものの寿命が短い。最もバランスが取れていたのはミディアムで、レース全体を通じて最適解だった。

序盤のハードスタートにより、理論上フェルスタッペンは「ミディアム2スティント」を実行可能にしていた。早期のパンクによって1本目のミディアム走行が短縮されたことで、後半にもう1セットのミディアムを履く展開に。対してランド・ノリスとキミ・アントネッリはソフトとミディアムを1スティントずつ使う構成だったため、タイヤ的にレッドブルが優位に立った。

終盤、フェルスタッペンは第2スティントのミディアムで首位を走行していたが、残り20周の時点でノリスが新品ミディアムに交換し、約8秒差で迫る状況となった。ここでピットウォールは究極の選択を迫られた――

「ステイアウトして守るか、ピットインして攻めるか」。

新品ソフトを残していたこともあり、ランビアーゼは54周目に決断。「アグレッシブに行こう」と無線で指示。フェルスタッペンはピットアウト時に4番手、首位ノリスとの差は13.5秒、残り17周だった。

新品ソフトのアドバンテージを活かし、最初の2周でノリスより1秒、0.8秒と速いペースを刻んだが、その後は差が縮まらなくなり、勝利の可能性は薄れた。それでもラッセルを抜いて3位に浮上し、フィニッシュラインではアントネッリの背後に迫った。

ブラジルグランプリ マックス・フェルスタッペン

レッドブルの判断は最善だったのか
ローラン・メキース代表はレース後にこう語った。

「我々としては勝てたとは思っていない。最終的な順位は分からないが、どこかで決断を下す必要があった。あの判断で強力な表彰台を狙うチャンスを得られたし、あと1周あればP2も見えた。だがタイヤのデグラデーションを考えると、P1は難しかったと思う」

一方、マクラーレン代表のアンドレア・ステラは次のように振り返る。

「正直、フェルスタッペンがピットに入ってくれて助かった。タイヤの摩耗は非常に激しく、最後まで走り切るのはかなりリスキーだったはずだ。新品ソフトを残していたことを考えれば、彼らの判断は理にかなっていたと思う」

結論:勝利よりも確実な表彰台
もしレッドブルがステイアウトしていれば、終盤は著しいタイヤ劣化に見舞われ、ノリスの猛追を防ぐのは難しかっただろう。
結果的に、ピットインによる攻撃的な選択は「勝利を狙う最後の一手」であり、同時に表彰台を確実にする策でもあった。

フェルスタッペンのパフォーマンスは、戦略の成否を超えて圧倒的だった。ピットレーンスタートから17台抜きで3位――このリザルトこそ、現実的に“ベスト・オブ・ザ・レスト”と呼ぶにふさわしい結果だった。

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カテゴリー: F1 / F1ブラジルGP / レッドブル・レーシング / マックス・フェルスタッペン