F1スペインGP:チーム代表記者会見 - ホーナー、ブリアトーレ、イゾラ

話題は新たに導入されたフロントウイングの技術指針、週末の戦力評価、角田裕毅やガスリーらドライバーへの評価、そして2027年に向けた各チームのビジョンに及んだ。
ホーナーはマクラーレンを「今週末の本命」と評しつつも、ポイント差を詰めるための巻き返しを誓った。一方ブリアトーレは、アルピーヌの現状について「構造は整えつつあるが、まだ結果に表れていない」と冷静に語り、ピエール・ガスリーやフランコ・コラピントの評価についても慎重な姿勢を崩さなかった。会見後半にはモナコGPのレース改革やF1カレンダーの変化、若年層ファンの増加といった広範な話題が取り上げられ、F1の進化と課題があらためて浮き彫りになった。
Q:クリスチャン、まずはFP1での走行について伺います。新たなフロントウイングに関するテクニカルディレクティブが導入されましたが、ドライバーたちは何と話していましたか?マシンのセットアップはどうでしたか?
クリスチャン・ホーナー: ドライバーたちは、アンダーステアやフロントのグリップについて、いつも通りのコメントをしていた。変更自体はそこまで劇的なものではないが、それでも無視できない影響はある。各チームにとって等しく作用しているかどうかはまだ判断が難しいが、我々は全体のバランスを整える作業に取り組んでいた。今日は非常に暑く、タイヤへの負荷が大きかった。特に旧レイアウトでは、フロント左にかかるストレスが非常に高い。今回の変更がどれほどの影響を持つかを判断するには、複数のセッションを経て見極める必要があると思っている。
Q:エンジニアの皆さんは頭を悩ませていますか?この変更でマシンバランスが取りづらくなっているのでしょうか?
ホーナー: それについても、現段階では何とも言えない。ドライバーのコメントを聞く限り、通常の金曜日と大きな違いはなかった。ただ、確かにマシンは異なっており、理解すべきことは多い。おそらくロングランでもショートランでも影響は出てくるだろう。まだ初期段階だが、我々にとっては全体として小さな変化に留まっている。
Q:レッドブルはバルセロナで非常に強い成績を残しています。フェルスタッペン選手は4連勝を狙っていますが、今週末に向けての自信はいかがですか?
ホーナー: 今週末に関して言えば、マクラーレンが優勝候補だと思っている。彼らはこれまでのレースすべてで非常に強さを見せてきた。我々としては、イモラでのようなパフォーマンスを再現できれば希望がある。だが、この気温下では彼らが非常に競争力を発揮するだろう。ランドなのかオスカーなのかはわからないが、我々にとって重要なのは彼らからポイントを奪うことだ。まだ選手権は3分の1を終えたにすぎず、これから少しずつポイント差を詰めていく必要がある。
Q:バルセロナはマシンの本質的なパフォーマンスを測る指標として使われてきましたが、今でもそう感じますか?
ホーナー: そう思っている。バルセロナは高速・中速コーナーが豊富で、最近は低速が減ってきたが、シャシーの完成度が試されるサーキットだ。多様なコーナーがあり、タイヤへの負荷も大きい。日曜のレースでは、そうした要素が勝敗を分けるポイントになるだろう。
Q:フラビオさん、あなたがアルピーヌのエグゼクティブアドバイザーに就任されてから約1年が経ちますが、この期間をどうご覧になっていますか?
フラビオ・ブリアトーレ: 実際には1年経っていない。まだ10か月だ。給料明細を見ればわかる(笑)。11か月ではなく10か月だ。さて、アルピーヌで再びF1の現場に戻ってきたが、簡単な仕事ではなかった。過去4~5年にわたって、このチームは多くの変化を経験してきたからだ。しかし少しずつ、人員をまとめ、体制を整えてきている。来年にはメルセデスから新しいエンジンとギアボックスを導入する予定で、それが我々の次なる目標だ。ただ、それまでの間にも、もっと競争力を高めていかなければならない。現時点で満足できるような結果は出ていないが、時間をかける必要がある。この隣にいる“巨匠”を見ればわかるが、勝てるマシン、勝てるチームを作るには時間がかかる。私は過去にそれをやってのけた。そして、もう一度やれると信じている。
Q:2027年にはタイトル争いをしたいとおっしゃっていましたが、その目標に必要な体制はエンストンに整っているとお考えですか?
ブリアトーレ: F1では夢を持つことも必要だ。この世界に身を置くならば、常に上を目指すべきだと思っている。現時点で我々のチームはまだ若く、パフォーマンスも理想からは遠い。組織の中にまだ不明瞭な部分が多く、それを整理する必要がある。本来あるべき姿にたどり着くには、2025年いっぱいは必要だと考えている。そして2026年には、少なくとも表彰台が見えるレースを展開したい。そこから2027年を迎えたとき、我々の立ち位置がどうなっているかを見定める。レッドブルや他チームのように、数年で状況が大きく変わることもある。最終的には、2027年にどんなドライバーが我々とともにあるかにも左右される。
Q:オリバー・オークス氏がチーム代表を退任して1か月が経ちました。後任探しの進捗はいかがでしょうか?
ブリアトーレ: 現在も探しているところだ。現時点で体制に変更はない。オリ―が辞任したのは個人的な理由によるもので、私としても残念に思っている。彼とは非常に良好な関係だったし、優れたチーム代表だった。我々としては、焦って誤った選択をしたくない。しっかりとした人材を見極め、適切なタイミングで発表したいと思っている。
Q:どのような資質を持つ人物を求めていますか?
(ホーナーが冗談で割り込む:安上がりな人材か?)
ブリアトーレ: (笑)そうではない。今、我々はこの役割にふさわしい人物を探している。適任者は複数いるが、我々が求めるのは、チームの一員として一緒に歩む意志を持ち、F1の現場を深く理解している人物だ。すでに何人か候補がいて、彼らはこの“新たな旅”に参加したいと考えている。我々としても、間もなく決断を下すつもりだ。
Q:マリオさん、C6コンパウンドはすでにいくつかのレースで使用されていますが、これまでのパフォーマンスについてどのように評価されていますか?
マリオ・イゾラ: チームからのフィードバックはまちまちだった。それは新しいコンパウンド、とりわけC6のようなソフト寄りのものを導入した際にはごく自然な反応だと思っている。現行のC6はC5に非常に近い性質を持っている。理想を言えば、今後は現行C5とは明確に異なる、より攻撃的な性格を持つC6を開発したい。今回のC6は、昨シーズン末の時点で「C5よりも柔らかいものが必要だ」と判断し、限られた時間の中で開発したものだ。現時点では一定の手応えを感じているが、次戦カナダでより多くのデータを得られると期待している。
Q:夏休みまでのコンパウンド選定が発表されました。選定のポイントや注目点について教えてください。
イゾラ: 初期案よりも詳細なデータが揃い、F1チームやドライバー、FIAとの協議を経て、「戦略の多様化を促すために、より攻めた選定が必要である」との共通認識が得られた。これを受けて、例えばシルバーストンでは1段階ソフト寄りのC2・C3・C4に変更した。またスパでは1段階スキップの構成、すなわちC1・C3・C4を採用することにした。これによりC1(ハード)とC3(ミディアム)の間に大きな性能差が生まれるため、2ストップを狙うならC3・C4を使い、1ストップで行くならC1・C3を選ばざるを得ない。だが後者は明確にラップタイムが劣る構成になる。戦略の幅を生み出すための試みであり、どう機能するか非常に興味深く見ている。

会場からの質疑応答
Q:フラビオさん、2025年または2026年にミック・シューマッハがアルピーヌからF1参戦する可能性はありますか?
フラビオ・ブリアトーレ: なぜ今、ミック・シューマッハの話題になるのか理解できない。今は2025年だ。何が聞きたいのか、よくわからない。
クリスチャン・ホーナー: ミック・シューマッハを契約するのか?
ブリアトーレ: ああ、そうだな。みんなそう言っている。だが、今ここで語るべき話題ではない。次の質問にしてくれ。
Q:はっきりさせておきたいのですが、ミックとの契約はあるのでしょうか?
ブリアトーレ: その件については話したくない。
Q:クリスチャンさん、フェルスタッペン選手のチームメイトはこれまで常に難しいポジションでした。角田選手は現在その役割を担っていますが、彼は今季末で契約満了となります。これまでのアイザック・ハジャーの働きぶりをどう評価していますか?今季中や2026年に起用する可能性はありますか?
ホーナー: フラビオのように答えるなら、「その件には答えたくない」と言っておこう。角田については、まだチームに馴染んでいる段階だ。彼はQ3に進出したこともあるし、ピットレーンスタートからポイントを獲得したこともある。一方で、いくつかのミスもしている。彼にはまだ成長の余地がある。決断を急ぐ必要はない。時間は我々の味方だ。
Q:フェルスタッペン選手は「自分はタイトル争いをしている気がしない」と話していました。マクラーレンの2人がポイントを分け合っている現状は、フェルスタッペン選手にとって有利と考えていますか?
ホーナー: まず重要なのは、我々がマクラーレンと接戦を保ち続けることだ。そして勝利を目指すには、彼らからポイントを奪う必要がある。イモラは我々にとって好調な週末だったが、モナコはそうではなかった。現状では、マクラーレンこそが打ち破るべきチームだ。彼らには2人の優秀なドライバーがいて、マシンも非常に競争力がある。我々は夏にかけてマシンの改良を進め、夏休みまでに反撃の流れをつかみたい。
Q:フラビオさん、アルピーヌに就任されてから10か月が経ちました。これまでの進捗に満足していますか?もし難しさがあったとすれば、何が原因ですか?
ブリアトーレ: ある程度の前進はしていると思っている。ただし、結果としてそれが目に見えて表れているとは言えない。新たにチームに加わるというのは簡単なことではない。特に、アルピーヌのように過去数年で多くの変化があったチームでは難しさが増す。我々は構造を整えてきたが、それがパフォーマンスとして現れるにはもう少し時間がかかる。
Q:フラビオさん、ピエール・ガスリーは2027年のチャンピオン争いを担えるドライバーだと思いますか?
ブリアトーレ: まずはマシンが競争力を持っていなければ、ドライバーの実力を正しく測ることはできない。バランスの取れたマシンを提供しなければ、彼がどこまでやれるのかはわからない。F1では、マシンとドライバーの相互作用が重要だ。マシンが戦えない状態では、誰であってもパフォーマンスを発揮することはできない。それはどのチームにも共通して言えることだ。
ホーナー: 正直、何の話をしているのか見失いそうだな。でも、フラビオが戻ってきてくれて嬉しいよ。君がいない間、記者会見は本当に退屈だった。
ブリアトーレ: 20年前と何も変わっていないな。変わったのは髪の色くらいだ。
ホーナー: いや、髪がなくなった人もいる。
ブリアトーレ: 我々もそうだが、マリオは相変わらずいい男だ。
Q:クリスチャンさん、角田選手はときに自信を欠いているように見えることがあります。彼に自信を持たせるためにチームとしてできることはありますか?
ホーナー: 我々にできることは、時間とサポートを与えることだ。そして、彼自身が信頼を持てるセットアップを見つけられるよう支援することだ。F1でのドライビングは、自信の有無がすべてだ。その自信を築くことができれば、彼は必ず結果を出せる。すでに彼の速さは何度も示されている。あとはそれをすべての週末で発揮できるようにするだけだ。
Q:フラビオさん、フランコ・コラピントのこれまでの走りをどう評価していますか?また、今後何戦ほど出場する予定ですか?
ブリアトーレ: フランコについて判断を下すには、まだ時期尚早だと思っている。今回のバルセロナが、彼にとって“最初の本当のF1レース”だと思っている。モナコは特別なサーキットで、予選がすべてを決める。あそこで我々は予選でミスをした。それだけだ。今回は通常のレースだ。何戦に出場するかについては、明言しないことにしている。3戦だとか5戦だとか、そういう風には決めていない。彼が良いパフォーマンスを見せれば、出場機会は続くだろう。そうでなければ、別の判断をする。2025年は2026年の準備期間だ。必要な実験はすべて行う。すべてはパフォーマンス次第だ。
Q:マリオさん、ベルギーGPでは1種類コンパウンドを飛ばす選定が行われました。まずその意図を教えてください。そして、来季モナコで同様の戦略を採る可能性はありますか?
マリオ・イゾラ: ベルギーでその選定をしたのは、C1(ハード)がC3(ミディアム)より明確に遅いことで、1ストップ戦略に対して「罰則」のような状況を作りたかったからだ。攻めるならC3・C4で2ストップ、守るならC1・C3で1ストップだが、明らかに後者は遅い。これにより戦略の多様化やオーバーテイクの可能性を高めたかった。モナコはまた事情が異なる。あそこは抜けない。2ストップ義務案は他所から出てきたものだが、私自身は悪くない試みだったと思っている。少なくとも、去年のような退屈なレースを避けるための一手だった。完璧ではなかったが、何か違うことをしようという意図はあった。
Q:フラビオさん、モナコでの2ストップ義務案についてはどうお考えですか?
ブリアトーレ: 非常に悪いアイデアだったと思っている。結局、すべてのドライバーにピットストップの“窓”を与えてしまい、前のマシンを意図的にスローダウンさせるような状況を生んだ。例えばウィリアムズのように、レース全体が抑制される形になった。
イゾラ: 2018年も同じような展開だった。
ブリアトーレ: あれで良くなることは何もなかった。2ストップ制を導入しても、レースの質は改善しなかったということだ。
Q:クリスチャンさん、2ストップ義務制は有効だったと思いますか?
ホーナー: モナコはモナコだ。去年は1周目に赤旗が出て、全員がピットを終えたあと、ただ順番に走るだけだった。今年は2つのレースが存在したような構図になった。後方のドライバーたちが隊列を意図的に遅らせてピットタイミングを狙うなど、多少の駆け引きは生まれた。ただ、根本的な問題の解決にはなっていない。小手先の対応では不十分だ。本気で変えるなら、例えばシケインの構成を変えるとか、ラスカスにスペースを作るとか、もっと大胆な改修が必要だ。最低でも「オーバーテイクの可能性」がなければならない。レース後、マックスが冗談交じりに「マリオカートみたいにバナナでも投げるしかない」と言っていたが、彼らドライバーにとっても今のモナコはフラストレーションが溜まる場だ。フィジカル的にも全く疲れていない。全力で走る場面がないんだ。モナコは華やかなイベントとして素晴らしいが、今の時代に合わせて何らかの進化が必要だと思っている。
Q:フラビオさん、今のお話にも関連しますが、モナコはF1にとって大事なイベントという側面もありますよね?
ブリアトーレ: モナコはF1にとって非常に重要なイベントだ。スポンサーや関係者、F1にお金を出しているすべての人々にとって価値がある場所だ。正直に言えば、多くの人はF1を“観る”ためではなく、“モナコにいる”ために来ている。多くのゲストは船の上にいて、グランドスタンドには行かない。それでも皆がモナコに来たがる。それがF1にとってのモナコの意味だ。ただ、レース自体は「F1の走行展示会」のようなもので、本当の勝負は土曜の予選で決まってしまう。決勝は、もはや形だけだ。
Q:マリオさん、ベルギーでのタイヤ戦略を“スキップ構成”にした理由をもう少し詳しく教えてください。他にも同様のアプローチが有効だと思われるサーキットはありますか?
イゾラ: 我々は常にシミュレーションを行っており、それぞれのサーキットにおける最適な戦略数や変化の可能性を評価している。今回、C1・C3・C4という組み合わせにしたのは、C1(ハード)が明確に遅く、C3(ミディアム)との差が戦略の“選択肢”を生み出すからだ。シルバーストンでも同じ構成を検討していたが、C1があまりに機能しすぎていて、1ストップでも楽に走れてしまう懸念があった。ベルギーの場合はそうではなく、C1が遅いため選択にリスクが伴う。こうした「不確実性」が戦略の面白さと変化を生むと考えている。
Q:フラビオさん、15年前と比べてF1カレンダーは大きく変わりました。今ではマイアミやジェッダ、ラスベガス、そして来年からはマドリードも加わります。伝統的なサーキットが減り、こうした新興都市型イベントが増えていることをどう見ていますか?
ブリアトーレ: ここ10年でF1の世界的な認知は劇的に変わったと思っている。アメリカを例に取ると、我々の時代にはフェニックスでレースをしても観客はほとんどおらず、隣で競馬が開催されていれば、そっちに人が流れてしまうような状況だった。だが今はまったく違う。F1に対するアメリカでの関心は非常に高くなり、多くの若者がF1を追いかけている。これは10年前とは比較にならない。昔はF1ファンの平均年齢が50代だったが、今は若い世代が中心になっている。若いドライバー、SNSでの発信、それらすべてがF1を次の段階に引き上げた。こうした変化はF1にとって非常に良いことだと思っている。
カテゴリー: F1 / F1スペインGP