佐藤琢磨 インディカー
佐藤琢磨が、インディカー・シリーズ 第9戦 テキサス(決勝10日)のレース週末を公式サイトで振り返った。

テキサス・モーター・スピードウェイのレースが残り5周となったとき、2番手争いを演じていたスコット・ディクソンと接触してリタイアに追い込まれたのは佐藤琢磨にとって不運な結末だった。

だが、全長1.5マイル(約2.4km)のオーバルコースはいつものように驚くに満ちた展開を生み出し、リタイアが続出したため、佐藤琢磨は10位でフィニッシュしたと見なされた。

雨が降った影響で金曜日のプラクティスは当初予定されていた75分間から45分間へと短縮され、おかげでセットアップを煮詰める時間との戦いは変わりゆく路面コンディションのもとで繰り広げられることとなった。「テキサスのコースは見違えるように変わりました」と佐藤琢磨コメント。

「ターン1からターン2にかけてのレイアウトは完全に別物です。いまもハイバンクであることには変わりありませんが、以前に比べればバンク角は浅くなり、コース幅は広がりました。そしてコースは全面的に最舗装された結果、全体的な雰囲気も大きく変わっています。トンネルの上に位置するターン2のバンプはいままでよりずっと小さくなりましたが、第2レーンと第3レーンのグリップは格段に低下し、この段階ではまったく走れない状態でした」

「決勝と予選に向けた準備として、僕たちはたくさんの作業を行うつもりでしたが、予定していたメニューの半分も手をつけられませんでした。こんなとき、アンドレッティ・オートスポーツの4台体制はたしかに役に立ち、セッティングも進みましたが、それらをひとつにまとめる作業がまだ残されています。インディ500ではプラクティスの時間がたっぷり用意されていますが、テキサスは様子が大きく異なっていて、規模の大きなチームでさえ手探りの状態でレースに臨まなければいけません。大きな問題はなかったものの、パフォーマンスに満足できるところまではいかず、まずまず安心して走れるというレベルでした」

このセッションを6番手で終えた佐藤琢磨は、続いて予選に挑み、8番グリッドを手に入れる。

「僕の前にアタックしたチームメイトに少し助けてもらう格好となりました。とはいえ、僕たちの出走順はかなり前のほうだったと思います。アタックの直後、僕はトップに立ちましたが、続いて出走したドライバーは直ちに僕のタイムを上回り、さらに速いドライバーが続々と待ち構えていました。予選8位という結果は少し残念ですが、このような状況だったことを考えれば仕方なかったといえます。これが、もしも以前のままのテキサスだったら、スターティンググリッドのことなどまったく心配しなかったでしょうが、今年はダウンフォースを減らすとオーバーテイクが非常に難しくなると予想されたので少し気がかりでした」

予選後に行われたプラクティスで、佐藤琢磨の心配が現実のものとなる。なんと、ほとんど最下位に近いタイムに終わったのだ。もっとも、デトロイトでポールポジションを勝ち取った結果として、佐藤琢磨のピットボックスがピットレーンのいちばん前に位置していたため、常に集団をリードする形となってスリップストリームが使えなかったことも、スピードが伸び悩む一因となっていた。

「タイムのことはあまり心配していませんでした。僕たちは自信を持ってレースに挑めるようにすることに注力していました」

佐藤琢磨とチームメイトのアレクサンダー・ロッシは、オーバーテイクが困難なことを勘案し、同じアンドレッティ・オートスポーツのマルコ・アンドレッティやライアン・ハンター-レイに比べてダウンフォースが少なめのセッティングを選択した。スタート直後はこの判断が的中したようで、6番手までポジションを上げた佐藤琢磨はトリスタン・ヴォーティエと5番手争いを演じていたが、最初のスティントの終わりが近づくにつれて佐藤琢磨は勢いを失い、一時は16番手まで後退した。

「スタートは順調で、レース序盤はリズムに乗って周回を重ねました。ところが、間もなく軽いデグラデーションが始まるとともにブリスターが発生し、さらにはバランス・シフトにも見舞われました。ローダウンフォース・セッティングだったので下のレーンを走り続けるのは容易ではなく、このためスピードが伸びずにポジションを落としていきました。日が沈めば苦しい状況から脱出できることはわかっていたものの、終盤に向けてマシーンの状態は上向きになっていきました」

ほどなくロッシがアクシデントを起こし、すべてのドライバーがイエロー中にピットストップを行った。このとき、ピットレーンで大きなアクシデントが起きる。ジェイムズ・ヒンチクリフとエリオ・カストロネヴェスが接触し、弾かれたカストロネヴェスのマシーンが、いままさに発進しようとしていた佐藤琢磨のNo.26カーに向かってきたのだ。これで佐藤琢磨は周囲を囲まれ、身動きがとれなくなってしまう。

「完全にサンドイッチされてしまいました! これで僕のレースも終わったと思いましたが、幸運にもマシーンはほとんどダメージを負っていませんでした。ただし、フロントウィングは交換しなければならず、これでラップダウンになったため、その後はリードラップに戻るために追い上げなければいけませんでした」

皮肉にも、カストロネヴェスがクラッシュしたことで2度目のコーションが提示される。アンドレッティ・チームは、ほかのドライバーがイエローでピットインしている間も佐藤琢磨に周回を続けさせ、まずはリードラップに復帰させると、その後でピット作業を行った。こうして佐藤琢磨は集団の最後尾につけたが、ポジションは依然として17番手に留まっている。

「ここからは懸命に順位を取り戻さなければいけませんでした。なぜなら、トラックはまだ第2レーンがつかえない状態で、グリップが改善されるにはさらに温度が下がらなければいけなかったからです。僕は少し苦しんでいましたが、この後、僕の目の前で本当にとても大きなアクシデントが起きます。きわどいところで僕はこの事故をすり抜けました。それもかなりギリギリで、右、左、右、左とかわしながら、さらに何台かのマシーンがブレーキングしてバンクの下のほうに降りてきたので、僕はコースのいちばん端まで下がっていくことにしました」

大規模なコース清掃が必要となったためレースは赤旗中断とされ、残り89周で再開されることとなる。この時点で佐藤琢磨は8番手。さらに4番手まで浮上しようとしたところで、インディカー・シリーズはタイアにブリスターが発生する危険があることから競技を一時的に中断する“コンペティション・コーション”という措置を導入した。

「そのリスタートでは、スタートポジションと同じ順位まで挽回していました。赤旗による中断が終わると、気温は下がってあたりは暗くなってきました。コンディションは元のいい状態に戻ってきましたが、僕を含めた多くのドライバーがブリスターに悩まされていたため、インディカー・シリーズは30周のレーシング走行が続いたところで全員にタイア交換を義務づけました。このためレースは大接戦となりました」

最初のコンペティション・コーションが終わると、今度はジョセフ・ニューガーデンがクラッシュ。その処理を終えてから、ようやく再スタートが切られた。ここで佐藤琢磨はサイモン・パジェノーやディクソンとバトルを演じたうえでふたりをパス、一時的に2番手となったところで2度目のコンペティション・コーションとなる。これが終わってグリーンが提示されたとき、レースは20周を残すのみとなっていた。



「最後の2スティントはエキサイティングでクレイジーで、猛烈な展開でした! ペンスキー(パジェノーと首位のウィル・パワー)はトラフィックのなかで非常に強力で、僕たちは彼らには及びませんでしたが、純粋な意味でのスピードは有していました」 このスティントの前半ではパジェノーとマックス・チルトンを仕留めて3番手に浮上したが、前を走るパワーとディクソンはサイド・バイ・サイドとなって後続の行く手を阻んでいた。ここで佐藤琢磨は一時的に勢いを失い、パジェノーやカナーンに抜かれて5番手に後退する。これが残り7周となったときのこと。佐藤琢磨はただちに反撃を開始。パジェノーとカナーンをアウトから一気に抜き去る果敢な戦いを演じ、3番手へと浮上する。さらにパワーとディクソンの直後でドラフティングに入った。

「リスタートで何人かのドライバーがアウト側からオーバーテイクするのを目にしました。どうやらその部分のグリップは悪くないようです。また、フロントから100%の走行風を受けるにはその方法しかなかったので、僕もアウトサイドに回る決心をします。けれども、ウィルとスコットは互いに前に行ったり後ろに行ったりしながら一種の壁を作っていました。彼らはずっとサイド・バイ・サイドの状態で、どこにも行き場がありません。アウト側から攻略するという作戦もあったのでしょうが、その時点のポジショニングからそうはできませんでした」

ここで佐藤琢磨は思いがけないほど急速にディクソンへと接近していく。

「スコットと僕はサイド・バイ・サイドとなりながらウィルに追い付いていきました。もしも上空からこの様子を眺めたら、スコットと僕の間にはいくぶんスペースが残されていたのかもしれませんが、実際にはすべてが猛烈な勢いで起こりました。なにしろ220mph(約352km/h)でのサイド・バイ・サイドですから。しかもコクピットからすべてを見通すことはできません。キンクの部分で左にターンしますが、ひとたびターンインを始めたら、周囲のドライバーを妨害しないためにも一定の弧を描いて走行する必要があります。このとき、僕に見えていたのはウィルのリアウィングだけでした。僕はイン側を見ようとしましたが、どこで舗装が終わっているかはわかりません。このとき、ようやくみんなが極端に接近していることに気づきました。そこでグリーン上に入らなければいけなくなったのですが、思った以上に段差が大きく、マシーンは激しくボトミングし、マシーンは右側に弾き飛ばされました。僕のミスでした。ただし、結果的にスコットを巻き込む不幸なアクシデントになったので、彼には本当に申し訳ないと思っています」

ポイントリーダーだったディクソンが9位に終わったため、佐藤琢磨はトップとわずか14点差でチャンピオン争いの3番手につけている。2番手に浮上したのはパジェノーで、カストロネヴェスは4番手に後退した。

「本当にコンペティティブなチャンピオンシップです。きっと誰にでもチャンスがあると思います。でも、こんな形でレースが終わったことは残念で仕方ありません。もしもグリーン上でマシーンが浮き上がってジャンプしたら、コントロールはできなくなります。今後、サーキット側がその原因を追及してくれることを期待しています。とはいえ、本当に残念なミスを犯してしまいました」

テキサスのレースを終えた佐藤琢磨は、インディ500での優勝を報告するために日本に帰国し、数多くのメディアから取材を受けた。この影響で、シリーズの次戦で2週間後に開催されるロードアメリカでのテストは参加を見送る形となった。

「飛行機から降りると同時にメディア・スクラムが始まります! まったく休みのない、とても忙しい日々になる見通しですが、きっとエキサイティングで楽しいと思います。チームメイトがロードアメリカのテストでいいデータを収集し、レースでは力強く戦えることを期待しています」

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カテゴリー: F1 / 佐藤琢磨