ランド・ノリス F1ワールドチャンピオン記者会見「僕は僕のやり方で勝った」
2025年F1アブダビGPで3位に入り、初のF1ワールドチャンピオンを獲得したランド・ノリス。チェッカー直後には無線で涙ぐむ声を見せるなど、想像を超える重圧と戦い抜いた末の戴冠だった。

会見の冒頭では、両親や家族、そして長年支え続けたチームへの感謝を何度も口にし、「これは僕のタイトルではなく“僕たちの”タイトルだ」と語った。

そんなノリスが、激戦のシーズンをどのように乗り越え、ザントフォールトで大差を背負いながらも逆転の後半戦を築いたのか。そして、マックス・フェルスタッペンやオスカー・ピアストリという強敵と対峙しながら、自分らしさを貫き通して世界王者に辿り着いた心境はどんなものだったのか──チャンピオン獲得直後の記者会見で語られた“本音”を完全逐語訳で届ける。

Q:とても温かい祝福を送ります。FIA F1ワールドチャンピオンのランド・ノリスです。いまの気持ちをどのように表現できますか?

笑ってしまうんだ。説明するのは難しい。言葉にするのも難しい。今はとにかくチームのみんな、エンジニアたち、母さん、父さんと時間を過ごしたいと思っている。何を言えばいいのか分からないくらいなんだ。今日僕たちが成し遂げたことには、実にたくさんのことが積み重なっている。昔、テレビでF1を見たときのこと、初めてゴーカートを見たときのこと──最後の数周で思い出していたのはまさにその記憶だった。原点に戻されたような気持ちだった。両親の犠牲がなければ、僕はここにいない。兄や姉たちが、僕が返さないのにどれだけメッセージを送ってくれたことか。本当に全部だ。今日、僕たち全員が成し遂げたことにつながるすべてのこと。そのすべてがあるからこそ、これは「僕の」ワールドチャンピオンではない。「僕たちの」チャンピオンなんだ。母さんに「ありがとう」、父さんに「ありがとう」と言えるチャンピオンだ。僕が今日という日を迎えられたのは、両親がたくさんの犠牲を払ってくれたからだ。子どもの頃に家で初めてゴーカートを運転したときから、ずっと僕が愛してきたことを続けさせてもらえた。最高の思い出だよ。そして、毎年本当に多くのことが積み重なっていく。今日、初めて本当に、両親に、家族に「ありがとう」と言える。彼らがしてきたすべてのことが報われたと感じてもらえる瞬間だと思う。もちろん、F1に来られたときや、マイアミで初優勝したときにも、それは少し感じてもらえたかもしれない。でも僕を毎日笑顔にしてくれるのは、両親を誇りに思わせること、友達を誇りに思わせること、そして今年のつらい時期を支えてくれた人たちを喜ばせることなんだ。今年の良い時期を一緒に祝ってくれた人たち。そして、ようやく僕は「言葉」だけではなく「タイトル」という形でお礼をすることができた。彼らは、僕がレースに出てパフォーマンスを発揮するのと同じくらい、このチャンピオンシップの一部なんだ。彼らはずっと僕と共に歩んできた。そして今日、僕はその全員に「ありがとう」と言うことができる。彼らを笑顔にできる。それが僕の人生で一番望んでいることなんだ。彼らが幸せで、祝えること。それを今日、僕は実現できた。

Q:週末はリラックスしていると言っていましたが、本当にそうでしたか?感情面でどれほど大変でしたか?

シーズン序盤には本当に大変な瞬間がたくさんあった。素晴らしい瞬間もあった──オーストラリアで初めて勝ったことは大きな後押しになった。でもそのあとすぐに、結果があまり良くない時期が続いたし、オスカーが素晴らしい走りをして、ずっと僕の前にいた。ときにはかなり難しい状況になった。でも最終的に、今日成し遂げたことは「1年を通した安定性」がもたらしたものだと思う。でも、難しい時期は誰もが言うように、そこから学ばなければならない。認めて、理解して、受け入れなければならない。僕はトラック上でも、そしてそれ以上にトラックの外で、一緒に働く人たちを広げていく必要があった。僕の周りには多くの人がいて──マクラーレンの人たちだけじゃない。友達、家族、コーチ、より良い考え方をできるように助けてくれる人たち、より良いパフォーマンスを引き出してくれる人たち。多くの人が、僕を落ち着かせ、プレッシャーを意識しないようにし、あるいはプレッシャーの下でもパフォーマンスを発揮できるようにしてくれた。そのおかげでシーズン後半はああいう戦いができた。

もし振り返るなら、シーズン序盤はあまり印象的だったとは言えない。確かにミスもあったし、判断が悪い時もあった。誰だって認めるだろうけど、僕もミスはした。でも、それらすべてをどうやってひっくり返し、後半をあれほどのシーズンにできたのか──それは僕が自分自身を乗り越えた証みたいなものなんだ。

シーズンの序盤、疑いもあった。でも僕は自分自身を乗り越えた。それがとても嬉しい。そして今日、この瞬間は彼らへの感謝の気持ち、彼らの努力、そして僕のために他の人たちがしてくれたすべてのことに対する「ありがとう」でもある。でも本当に落ち着いていたよ。3つ目のコーナーまではね。そこから少し震え始めた。すべての素晴らしい思い出が一気に流れ込んできて、そしてチェッカーを受けた瞬間にチームが見えた。この瞬間は一生忘れない。

Q:このチャンピオンシップを経て、自分がどのように成長していくと思いますか?

それはこれから分かっていくことだと思う。誇らしい気持ちはある。でもそれは「明日目が覚めて、みんなに勝った」と思えるからではない。ワールドチャンピオンだと言えるから誇りに思うわけじゃない。誇らしいのは、たくさんの人を幸せにできたからだ。僕のエンジニアのウィルやジャーヴもそうだ──彼らは自分の家族よりも僕の成長を見てきている。申し訳なくも思う。でも彼らが僕のパフォーマンスのために、僕たち全員のために、あれほど努力してくれたこと。その努力が少しでも報われたと感じてくれたら、それが僕を本当に幸せにしてくれるんだ。

僕は、自分がどう変わるかについては変わらないと思っている。考え方もやり方も変えない。僕は今年、自分のスタイルでチャンピオンになれたと思っている。フェアに戦おうとしたし、誠実なドライバーであろうとした。もっと攻撃的にいけた瞬間があったのか?もちろんあった。未来にはそうする必要があるかもしれない。でも今年はそれをする必要がなかった。それが僕のやりたいレースなのか?いや、僕らしくない。チャンピオンたちと比べるなら──彼らほど攻撃的だったか?ノー。大胆だったか?ノー。でも、ワールドチャンピオンになるために必要なことはやったのか?最もプレッシャーがかかる場面でパフォーマンスしたのか?ザントフォールト以降、やるべきことをやって、3〜4週末にわたって良い結果を残したのか?その通りだ。今年、僕は必要なときに結果を出した。だからこそ、タイトルを取れたんだ。もちろん、すべてから学ぶよ。モントリオールのように、恥ずかしいと思う瞬間もあった。戻れるなら戻りたい瞬間もある。でも今の僕は、シーズン序盤の僕よりもいいドライバーだ。でも誰だってそうだ。僕が戦っている相手は、4度のワールドチャンピオンのマックス、そして将来絶対にチャンピオンになるだろうオスカーなんだ。世界最高のドライバーたちと戦っている。これからも何度もそういう戦いがあるだろう。そのとき、自分が何を改善できるか、どうすればもっと安定して戦えるか、もっと学ぶ必要がある。僕は今年それを学んだし、来年タイトルを守りたいなら、今年以上に学ばないといけない。

ランド・ノリス 2025年のF1世界選手権

ザントフォールトのことを少し話していたけど、あのとき突然34ポイントも離れてしまった。それで逆にプレッシャーが軽くなり、その後の数戦で本来の力を出せるようになった、ということはあったのか?

正直に言うと、ノーだ。それでリラックスできたというわけではない。同じ車に乗っていて、素晴らしい走りをしていて、ものすごく速いと分かっている相手に34ポイントも離されたのを見て、気楽になるなんてことはない。それで自信が湧くこともない。「もう失うものはないから行くだけだ」なんて気持ちにもならなかった。それまでも全力でやっていたし、そのあとも全力でやり続けただけだ。でもトラック外でやることを増やさなければならなかった。さっき言ったように、一緒に働く人たちを増やした。シミュレーターでも、サーキットでも、もっと頑張らなければならなかった。アプローチを変えなければいけなかった。考え方も変えなければいけなかった。他のみんながやっているように。もっと深く理解しなければならなかった。もっと早く、もっと深いレベルで理解しなければならなかった。それが最後に僕に優位性をもたらした。「プレッシャーがなくなったから自由にできた」というのとは真逆だった。「やばい、同じ車に乗っていて、あのとんでもなく速いドライバーに大きく差をつけられた。もっとレベルを上げなきゃいけない」と思った。それに、外部の人たちと一緒に働くことで、自分の能力をもっと引き出すことができた。そしてその結果があの連続した好成績につながり、最終的に僕をチャンピオンにしてくれたんだ。

今年何度もマックスのことを史上最高級の存在、いわゆる“GOAT”だと評してきたよね。そんな彼を破って初タイトルを獲った今、どんな気持ち? そして1つ獲った以上、さらにタイトルを重ねられると思う?

そういう比較は本当に好きじゃない。誰が誰より上かどうかなんて、判断するのはみんなの仕事だ。僕が毎週末やっているのは、自分のベストを尽くすこと。それだけだ。でも、誰が良いとか、誰が悪いとか、どちらが良い車か、どちらが良い仕事をしているか、そういうことは自由に書いたらいい。確かに、自分でも「このレベルのパフォーマンスは他の人には出せない」と感じた瞬間はある。でもミスをしたこともある。他の人より多いときもあった。マックスのほうが僕より優れた部分もある。彼が倒せない存在だとは思わない。でも分からないよね。彼らはシーズン中盤にマシンに苦しんでいたし、後半は信じられないほど良かった。僕たちがタイトル争いをしている状況を最大限に利用した。マックスは4度のワールドチャンピオンらしい走りをしていた。そんな彼と戦い、彼を相手に自分の力を証明できたことがとても嬉しい。

でも、正直に言うと、僕のモチベーションは「誰かより上だと証明すること」ではない。だから「マックスに勝ったから嬉しい」という感覚ではない。「世界チャンピオンだ」と明日思って起きることが僕を幸せにするわけではない。それが少し笑顔にしてくれるかもしれないけど、本当の理由じゃない。母さんが喜んでいる。父さんが喜んでいる。兄弟が喜んでいる。友達が喜んでいる。それが僕を本当に幸せにすることなんだ。

シーズン前半の苦戦についてもう少し詳しく。タイトルが遠ざかっていくと感じた時期はあった? また、周囲を変え始めたのはいつ頃? それは後半になってから? それとももっと早かった?

正確にいつとは言えないけど、間違いなくザントフォールトのあたりで大きくレベルアップした。でも、その前から始まっていた。序盤、レース2、3、4、5、6あたりの悪い流れのときに、「このままじゃダメだ。もっと理解しなきゃいけない」と思い始めた。「自分はどう考えているのか。なぜこう考えるのか。なぜ予選で緊張してしまうのか。なぜこういう判断をしてしまうのか」。そういうことを理解しなければならなかった。パフォーマンスが出ない──速さはあっても、まとめきれない──そんな状況が、「週末にまた頑張るだけ」ではなく「もっと深い部分を理解する必要がある」と気付かせてくれた。それがメンタル面を深く理解することにつながり、チャンピオンシップレベルの戦いがどういうものかを理解する助けになった。序盤の苦しみが後半の強さにつながった。もし序盤の苦しみがなかったら、気付くのがもっと遅れていたかもしれない。だから早い段階の苦戦には感謝している。最後の3ヶ月のように、これまでで一番プレッシャーがかかった状況でも、逆に一番落ち着いて予選に挑むことができた。エンジニアたちと笑いながら話して、数分後にはポールを獲りに行く──そんな状態になれた。序盤の苦しみがあったからこそ、後半の力を引き出せたんだ。

クルマの外でのあなた自身の在り方についても聞きたい。自己批判を続け、感情を隠さずにいた。多くの人が「そんな性格ではチャンピオンにはなれない」と書いていたけれど、あなたはそれでも勝った。自分のやり方を貫いてチャンピオンになれたことをどう感じますか?

ありがとう。それで十分だよ。いや、本当に、それが僕が一番誇りに思うことの一つなんだ。僕は「自分らしく」、勝つことができた。他の誰かになろうとはしなかった。マックスのように攻撃的になろうとしたわけでもないし、過去のチャンピオンたちみたいに強引になったわけでもない。本当に、自分のスタイル──アンドレアが言っていた“ランダーズ・ウェイ”──そのままで勝てたことが嬉しい。確かに、みんなが期待する「別の人格」を演じることもできた。でもそれでは誇りには思えなかったはずだ。だから自分らしくいられたことが嬉しい。冷静さを保ち、自分の世界に集中し、最大限の力を発揮した。

ときどき、僕は愚かなことを言う。マックスについてもそうだし、過去にはルイスについても何か言ってしまったことがあって、すごく後悔している。クールダウンルームでの発言とか、その場の勢いで言ってしまって、言った瞬間に「なんでこんなこと言ったんだ?」ってなる。でも、僕はできる限り誠実でいたい。嘘をついたり、偽ったりしたくない。勝てると思えば「勝てる」と言うし、レッドブルが速いと思えば「速い」と言う。隠しても得はないからね。

書かれることが嫌か?嫌だよ。でも人生ってそういうものだし、受け入れる必要がある。そして、みんなそれぞれ意見を持つ権利がある。僕が嬉しいのは、僕が自分のスタイルで勝てたことだ。良い人間であり、良いチームメンバーであること。それが誇りなんだ。他の人が何を書いても構わない。真実を知っているのは、チームの中の人たちだけなんだから。

僕はその声を聞く必要はない。自分が良い仕事をしたという実感があるし、チームもそう言ってくれている。それがすべてだ。

今日のレースそのものはどれほどストレスがありましたか?渋滞もあったし、攻めなければならない場面も多かった。そして、今晩どう祝うつもり?そのグラスの中はモンスターだけ、それとももっと強いもの?

いやいや!もっと強いのを飲むよ!これが人生で一度きり──いや、一度きりじゃないことを願うけど、今日は一人でここに座っている。隣に誰もいない。ちょっと孤独だよね。

でもこの瞬間を楽しみたい。こんな経験、世界でもほんのわずかの人しかできない。僕の周りの人たちに与えた影響、その幸せが僕を嬉しくさせる。だから、祝うよ。盛大にね。友達には、すでにたくさん飲んでいてほしい。僕は彼らと一緒にパーティーしたい。だってこれは、僕自身よりも彼らのための瞬間でもあるから。

メカニックやエンジニアもそうだ。火曜日にはテストがあるけど……まあいいよ。レース中にも何度か「あ、次は角田だ」と思った場面があった。角田が僕を抑えようとして、ルイス相手にペレスがやったみたいなことを仕掛けてくる可能性があると分かっていた。チームの予測でもそういう展開があると見ていた。だから素早く対処しなければならなかった。かなり際どかった。ほんの数センチずれていたら──終わっていたかもしれない。そう思うと怖いよ。

残り3周、4周になると、縁石を踏まないようにしたんだ。ちょっとした衝撃で車の部品が外れたら終わりだから。「最終ラップでファステストラップを取りにいくべきかな?」って少し思ったけど──いや、リスクを取る価値はない。いろいろ考えながら走った。かなり思い切ったオーバーテイクもしなければならなかったし、攻めるべき場面もあった。でも今日勝ったからチャンピオンになれたわけじゃない。今年1年の安定性、そして特に最後の4か月の素晴らしいレースの積み重ねでタイトルを獲ったんだ。今日のレースは簡単にもなり得たし、もっと難しくもなり得た。でも結局、僕にとっては「ただの1レース」だった。楽しかったけど、「いつも通り」として扱おうとした。それが落ち着きを保つ助けになったと思うし、最大限の結果を出すことにつながった。

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カテゴリー: F1 / ランド・ノリス / マクラーレンF1チーム